狼と少年の物語

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1.幸せに暮らすアイヌの家族がいた。ある日、幼子を連れて、川に鮭を獲りに行った。そばで遊んでいた幼子は、両親の気づかぬ間に、川の流れにさらわれてしまった。
作品説明 エンジュ 高さ27.0p×巾76.5p×奥行43.0p  制作年2016年
 長方形の平らな板の上に次のような浮彫が施されている。川のほとりに男が立ち、手にはヤスをもって鮭を獲ろうとしている。そのそばには女が座り、獲物の鮭を膝の上に乗せてエラに縄を通している。傍らには赤ん坊がハイハイをしている。赤ちゃんの視線の先にはカエルがいる。川には木船が一艘うかんでいる。川には鮭が泳いでいる。
 
2.幼子は本流ではなく支流に流されて行き、さいわいにも岩にひっかかった。「アイヌの子を助けよう」と、狼の夫婦が、上流と下流から駆け寄った。
作品説明 ウォールナット 20.0×84.0×34.8  2016年
 赤ん坊が岩に引っかかっている。左右から狼が駆け寄っている。
 
3.狼は子供を川から救い上げ、山の巣穴に連れ帰った。
作品説明 ウォールナット 手前の狼23.5×42.0×21.5 奥の狼22.0×41.6×19.7  2016年
 直径約40センチの円形の土台の上に、狼が2頭。一頭は赤ん坊を咥えている。もう一頭は首をわずかに赤ん坊のほうに向け、赤ん坊を見つめている。
 
4.父と母は、我が子を必死に捜して、流れの強い本流を下って行った。
作品説明 エンジュ 23.5×64.0×40.0  2016年制作
 父と母は木舟に乗って幼子を探している。舳先近くには母が前方を見つめながら座り、船尾では父が長い竿で船をこいでいる。
 
5.その先に滝があることを知りながら子の姿を捜し求めて舟を進めた。滝つぼに落ちる父と母。子の名を呼ぶ声がいつまでも響く。
作品説明 舟 エンジュ 13.3×59.0×11.5   滝 クス 90.0×120.0×65.0  2016年制作
 瀧がとうとうと流れている。滝の上から父と母が乗った船が滝つぼに向かって今にも落ちそうになっている。父は両手で母の手をつかんでいる。母は腹ばいになって父の手にしがみついている。
 
6.アイヌの子を助けた母狼は、自分の子と同じように、体をなめ、乳を与えた。
作品説明 エンジュ 17.0×38.0×29.0 2016年制作
 母狼が寝そべって子供の狼に乳を与えている。前足で連れ帰った人間の子供を支え、体を舐めてやっている。
 
7.狼の穴は深く掘られていて冬でも暖かく、人間の子もすくすくと育った。
作品説明 エンジュ 13.7×49.7×31.0  2016年制作
 母狼は寝そべり、連れ帰った人間の子供に乳を与えている。
 
8.少年の遊び相手は、狼の姉。行動するときは、いつも一緒だ。
作品説明
 左の作品 ウォールナット 28.0×44.5×24.0  2016年制作
  子供は3歳くらいに成長した。姉狼と縄を引っ張り合って遊んでいる。子供は立って両手で縄を持ち、姉狼はその縄の端を咥えている。
 右の作品 ニレの埋もれ木 17.0×49.0×17.0 2016年制作
 姉狼が寝ている。子供はその後ろ側に坐って姉狼の尻尾をつかみ、起こそうとしている。
 
9.母狼は、育ち盛りの子供たちにやわらかい肉を食べさせるため、兎や鮭を獲る。子は、肉や魚を食べ、毛皮を身にまとい、大きくなった。
作品説明      
 左の作品 クルミ 23.0×32.5×15.0  2016年制作
  母狼が狩りで捕まえたウサギを加えて歩いている。
 右の作品 ニレの埋もれ木 17.0×49.0×17.0  2016年制作
  母狼が川で魚を捕まえようとしている。川面には鮭が半身を水面上に出しており、それをめがけて母狼がとびかかろうとしている。
 
10.ある日、姉狼が助けを呼びに来た。「父ちゃんが撃たれた」
作品説明 クルミ 20.0×35.5×12.5 2016年制作
 姉狼が全速力で走っている。まるで空中を飛んでいるように見える。
 
11.父狼がニワトリ小屋を襲って、鉄砲で撃たれたのだ。「お前は人間の子だ。いつかは、人の里にっ戻らなければならない。人間の食べ物の味も知るべきだ」少年は涙ながらに言った。「俺は狼だ。人間の世界には戻らない。狼の父ちゃんが俺の父ちゃんだ」父狼は、少年の腕のなかで亡くなった。
作品説明 クルミ 26.5×61.0×44.5 2016年制作
撃たれた父狼が腹ばいになって倒れている。左側には、少年に食べさせようとしてつかまえたニワトリが横たわっている。少年が座って父狼の頭を支え、顔を見つめている。
 
12.家畜を襲うという理由で、多くの狼が駆逐されていった。両耳を提出すると奨金を受け取れるので、猟師はこぞって狼を撃ち、毒入りの肉が森に撒かれた。狼は絶滅寸前にあった。
作品説明 ウォールナット 22.2×46.5×24.0 2016年制作
 狼が四つん這いになって息絶えている。傍らには木が生えていて鉄砲が立てかけてある。人間たちに切り取られた狼の耳が数珠つなぎにされて木の枝に掛けられている。
 
13.狼たちの悲しみの遠吠えが、あちらこちらから夜空にこだまする。
作品説明 ニレの埋もれ木 31.5×43.8×20.5 2017年
 一頭の狼が空を見上げて遠吠えをしている。
 
14.少年が姉狼と山で狩りをしていると、立派な髭をたくわえたエカシに会った。おそるおそる近づくと、エカシが、少年に語り始めた。「お前は、私の息子であるトミカラプの子だ。息子は、お前を探して、滝に落ちて亡くなった」人間の言葉はわからないはずなのに不思議と少年には、エカシの言葉が理解できた。コタンに戻るように説得するエカシに少年は言った。俺の父と母は狼。絶対に人の里には帰らないと。
作品説明
エカシと少年 クルミ 21.5×62.7×30.0 2017年
 狼 ウォールナット 9.0×27.0×8.0 2017年
 62.7×30.0の板の上に、右側にエカシが座り、その前に、少年と姉狼が向かい合っている。クルミの部分(板とエカシと少年)は薄茶色で狼の素材ウォールナットは深い茶色である。
 
15.年老いた母狼が、息を引き取った。17才になった少年は、父親と同様に母狼の亡骸を川に流し、埋葬した。本当の両親が舟で命を落としたのと同じ川だ。
作品説明 ニレの埋もれ木 57.5×66.5×42.0 2017年
 直径およそ30センチの切り株状の円柱の上に、少年、母狼、姉狼が彫刻されている。少年は死んだ母狼を両手を腹の下に入れて抱き上げて立っている。姉狼が悲しそうに泣いているように見える。
 
16.そして少年は、山の巣穴を後にして、最後の狼となった姉狼とともにカムイミンタラへと旅立った。
作品説明 ニレの埋もれ木 33.5×52.0×28.0
 姉狼が先に立ち、その後ろを右手に杖を持って少年が歩いている。雪道に足が埋もれ、雪の上に足跡が残っている。少年は額に紐を当てて背中に荷物を背負っている。
 
17.その日以来、狼になった少年の姿も狼の姿も、見た者はいない。 もし彼がエカシの後を継いでいたら、さぞ立派な青年になっていただろう。
作品説明 ニレの埋もれ木 50.0×48.0×26.8 2017年
 左側にエカシが両足を踏ん張って立っている。髭をたくわえ髪は長い。右手には身長よりも頭2つくらい高い棒を持ち、その先端にはイナウが付けてある。右側には狼が一頭、正面を向いて立っている。