京都近美のさわりかたツアー

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 8月10、11日、京都国立近代美術館オープンデー「美術のみかた、みせかた、さわりかた」が行われました。プログラムは多彩で(詳細は)、私は8月10日の13:00〜14:30の「美術のさわりかたツアーA」、15:00〜16:00の「美術のみせかたツアー」、16:00〜17:30の「こども映画館@MoMAK『キートンの大列車追跡』」に参加しました。以下、初めに参加した「美術のさわりかたツアー」を中心に紹介します。
 参加者は20人くらい、2階の展示場に行って、まず副館長よりこのツアーについての説明がありました。学芸員は主に作品の点検のために触ることがあるそうです。触って分かる傷やゆがみがあったり、また軽くたたくことで異音から異常を見つけたりするそうです。ゆっくり、やさしく触って、美術品をじっくりあじわってくださいとのことでした。
 4グループに別れ、各グループに専門のスタッフが付いて作品鑑賞です。各グループには視覚障害の人が1人くらいおり、その他は見える人たちです。広い展示会場に、10点余の作品がゆったりと展示されていました。360度どこからでも触れるスペースがあって、よかったです。各グループそれぞれに空いている展示台を回るといった感じのようでした。1時間余の鑑賞でしたが、ゆっくり回りの人たちと感想なども話しながら触って回ったので、展示作品すべてを鑑賞はできないのがふつうのようです。私たちのグループは、次の10点を回りました。なお、金属の作品については、手袋を着けて触りました。
 
ピーター・ボックス「埴輪」 直径60cmくらい、高さ1mくらいの大きな陶の作品。重さも120kgもあり、1300度の高温で焼いているとか。表面は全体にざらざらした手触り(釉薬は塗っていない)。全体の形は、お椀を伏せたようなのを4段重ねて、その上に径が20cm弱くらいの煙突のような円筒をくっつけた形。伏せた各お椀の縁がぎざぎざしており、またお椀の一部に大きな割れ目があったりして、中は空洞になっている。ずっしりとした、上にのびるようなエネルギーを感じる作品だった。
近藤悠三「染付梅花大飾皿」 直径120cmくらい、高さ10cmくらいの大皿。表面がとてもつるつるしていて、磁器だが、金属のような手触り。磁器を感じさせないほど厚塗りしてあると思う。表面には梅の花が描かれている。よく触ってみると、中心から外に向って輪を連ねて作っているだろうことが分かる。
 [近藤悠三:1902〜1985年。陶芸家、京都生。河井寛次郎・浜田庄司・富本憲吉らに師事。染付磁器を中心に作陶。1977年染付で人間国宝。]
鈴木治「馬」 全体の形はh字形で、単純な抽象作品。触った感じは、表面が全面錆びついた薄い金属のような感じだが、これも磁器だとのこと。高さ80cm近く、前後幅50cmくらい、横幅20cm弱。2本足がある50cmほどの台の前のほうにさらにびみょうにゆがんだ角柱(顔の部分?)が上に伸びている。十分に馬を連想させる。
 [鈴木治:1926〜2001年。陶芸家、京都生。1948年、八木一夫・山田光ら京都の若手陶芸家と前衛陶芸集団走泥社を結成。用途や機能など実用にとらわれないオブジェ=彫刻のような作品を制作。]
宮永理吉「海」 とても幾何学的な作品で、今回のさわりかたツアーでもっとも気に入った作品。各辺が20cmほどの立方体で、8つの角のうちの1つが少し3角錐状に切り取られていて、その面を下にして斜め45度に立っている。互いに3辺で隣接する3面はそれぞれ面がゆるやかに窪み、残りの隣接する3面はそれぞれゆるやかにふくらんでいる。各面には全面に、何十本も平行に、ちょっとぎざぎざした波を思わせるような曲線が浮き出している。表面は全体に釉薬でとてもつるつるして滑りがよく、金属的な光沢を感じるほどだった。
 [宮永理吉(三代宮永東山):1934〜。京都・伏見に窯を持つ青磁の名手の家に生まれる。 彫刻家を志して京都・ニューヨークで学んだ後、土素材にこだわった作品を作るようになり、主にオブジェとしての焼き物を発表。]
バーバラ・ヘップワース「春」 これは金属製の作品。直径70cmくらいの球体を、両側面から中央に向って斜めに大きく刳り貫いたような形。そして、両側面の円の縁の4方向から中央に向ってそれぞれ12本くらいの糸が一部交差するように張られている。全体にきれいな軟かいフォルムとともに、糸の交差などで繊細な空間も感じる。
 [バーバラ・ヘップワース(Barbara Hepworth):1903〜1975年。イギリスの女性彫刻家。ヘンリー・ムーアとともに、20世紀のイギリスの抽象彫刻の代表者。]
柳原睦夫「ラスター彩」 花瓶を連想させる焼物。高さ50cm弱、径20cm余で、表面はつるつるしている(ラスターなので、たぶんきらきら光っているかも)。一番下は6角形の星形の薄い台で、その上に向い合うように、内側が窪んだ半球が2つあって、その間から上に花瓶が伸びている。花瓶の下のほうは少しふくらんでいて、つるつるの表面には縦縞のような筋が触って分かる。中央部はやや窪み、その上が大きく球状にふくらみ、口の部分は径が10cmほどにすぼまって、そこに8個の切れ込みがある。
 [柳原睦夫:1934〜。高知出身、京都美大卒。1966年ワシントン大学講師として招聘、計3回アメリカに滞在。1984〜2006年、大阪芸術大学教授]
田尻慎吉「一重結び No.1」 直径7cmくらい、高さはたぶん3m近くある金属(アルミニウム)の作品。金属の円柱が真っすぐ上に伸び、160cmほどの高さでぐるうっと1回結び目をつくり、そのまままた真っすぐ上に伸びている。田尻にはこのような結び目のある作品が多いとのこと。
 [田尻慎吉:1923〜2009年。ロサンゼルス生まれの日系アメリカ人で、晩年にオランダ国籍を得る。彫刻のほか、写真や絵画などでも作品を発表。]
森陶岳「三石甕」 直径1m、高さ110cmくらいの大きな甕(以前に触ったことのある須恵器の大甕を思い出した)。厚みも2〜3cmくらいあるようだ。表面は全体にざらざらしていて、硬い感じ、小さな石のようなのも触って分る。側面には所々少しゆがんだ所があるので、もしかして手で作ったのかもと思ったら、轆轤を使って輪を重ねて作ったとのこと、たぶん重さのためにゆがんだのだろう。
 [森陶岳:1937〜。備前市伊部窯元六姓(代々窯元の家系)に生まれる。桃山時代の古備前に魅せられて、古備前が焼成された大窯を企画、46mの相生大窯、牛窓町寒風に53mの大窯、さらに2008年には全長85m・幅6m・高さ3mの寒風新大窯を完成、この大窯で五石甕(高さ1.65m、径1.4m)も焼成。107日間焚き続け、常温まで冷ますのに3ヵ月かかったという。]
岡部嶺男「総織部大鉢」 直径50cm余、高さ30cmくらいの大きな鉢。表面はつるつるだが、繰り返しのゆるやかな凹凸から、中央から縁に向って輪を連ねてつくっていることが分かる(25、6段くらいあるようだ)。色は青緑色だとのこと。
 [岡部嶺男:1919〜1990年。瀬戸市生。愛知県窯学校(現瀬戸窯業高校)に学ぶ。織部・志野を中心に制作。]
鈴木昭男「空間へのオマージュ」 直径40cm、厚さ6cmほどのセメント製の円盤の表面の両端に耳の形(二重の反円のような形)が浮き出している。この円盤が数枚立ち並んでいて(本来の展示では40枚くらい?)、それが次々とぶつかって倒れて行って、大きな音を出すようになっている。
 [鈴木昭男:1941〜。平壌生。音や空間などをテーマに、世界各地で展覧会をしている。]
 
 私の率直な感想は、美術館(とくにこの美術館)にある作品はやはり良いなあ、実際にそれらの作品を触って実感できてよかったなあ、ということです。たぶんこれらの作品を触ることなく言葉による説明だけで鑑賞したならば、だいぶ印象は異なっていただろうし、分かり方の程度、実感の深さが異なっていたでしょう。鑑賞後の皆さんの意見の中には、このような触る鑑賞を1回限りにせず、できれば常設にしてほしいとの声もありました。
 
 次の「美術のみせかたツアー」では、実際に展示会場に行って、作品をどこからどのようにして搬入するのか、どのようにして証明するのか、また展示台の高さをどうするのかなど、実際に展示物の前に行って具体的に説明してもらいました。ふだんはあまり気にしていないことをあれこれ知ることができて、けっこう面白かったです。
 最後の「こども映画館@MoMAK『キートンの大列車追跡』」は、1926年制作の、活弁付きの無声映画で楽しみにしていましたが、ストーリーよりも登場人物のコミカルなしぐさや動きが中心で、そのおかしみが分からず、ちょっと残念でした(ストーリーはある程度分かった)。ただ、当時は南北戦争が終わって約60年、そのころの南部の人たちが北軍の人たちをどう見ていたかがあらわれているようで、それは面白かったです。
 
(2018年8月20日)