地図は面白い!

上に戻る


 
 10月20日午前、大阪市視覚障害者福祉協会主催の「見えない・見えにくい人の触って聞いて見る地図展」に行きました。この企画は、10月19日と20日の両日、難波御堂筋ホール7・8階で開催された「日本ライトハウス展〜全国ロービジョンフェア 2019」に合わせて、10月20日のみ同ホールの8階会議室8Bで開催されたものです。
 7階で受付を済ませた後、早速8階に向かい、ボランティアのYさんの案内で見て回りました。この会場も込み合っていましたし、すべてを十分に触ってはいませんが、私がとくに面白いと思ったことを中心に以下に書きます。
 
●各都道府県の地図のピースをつなぎ合わせた日本地図
 大きな紙が日本地図の形に切り込まれていて、その中に47都道府県が配置されています。縮尺がいくらか確認し忘れましたが、たぶん100万分の1くらいでしょうか(鹿児島県は長さ10cmくらいあった)。各都道府県は、日本地図からはずしてそれぞれ形を確かめたり、大きさを比較できます。私が触ったのは、沖縄県、鹿児島県、愛媛県くらいでしたが、とてもよくできていました。また、それぞれの都道府県には直径2cmほどのシールが張ってあって、それを音声ペンでタッチすると、聖火リレーの通過市町村名、日程、見どころなどを音声で聴けるとのことでしたが、私が触っていた時は、故障しているらしく使えませんでした。
 
●近畿地方の一部の地形図
 西は明石付近から淡路島、大阪湾や大阪平野を経て、東は琵琶湖南部から奈良県付近までの、東西100km、南北80kmの、10万分の1の地形図です(地形図の大きさは、横1m、縦80cm。1kmが1cmになる)。六甲山など山地は、100mごとに1mmほどの紙が張り重ねられています。川は細い溝になっていて、触ってたどることができます。
 この地形図を製作したのは、秋元宏さんという方。吹田地学会前会長で、84歳の高齢にもかかわらず、各地でこの地形図を使って、例えば地質と地震災害などについてお話をされているようです。今回も午前11時から30分ほどこの地形図について、また台風19号との関連で、度重なる洪水についてなどお話されました(込み合った会場でマイクもなしでお話されたので、たぶんごく近くにいる人にしか聞こえなかったと思いますし、秋元さんも何度も言い直したりしていて、たいへんそうでした)。
 この地質図で私が良いなあと思ったのは、地層の違いが手触りで分かることです。縄文海進(6千年前)以降に形成された沖積層は、するうっとした手触り、2万年前前後の氷河期にできた段丘(台地)は、さらさらした手触り、30万〜300万年前ころの基盤になっている地層(岩盤)は、ちょっとざらざらした手触りです。沖積層は、大阪平和をはじめ海岸地帯に広く分布しています。段丘(台地)は、沖積層の間や回りにあちこち分布しています。基盤の岩盤は、明石付近、西宮付近(それに大阪の南付近?)など所々に露出しています。秋元さんによれば、大阪湾でも2千mほどの海底下ではこの地層になっているそうです。また、六甲山などの山地は、地震のたびに活断層が動いて高くなってきたとのこと。私も、住んでいる茨木しの辺を確認し、近くを流れている安威川を上流からたどり、神崎川に合流していることを確かめたりしました。
 私がちょっと残念に思ったのは、この地形図で触って分かるように表現されているのは、地上にあらわれている表面だけで、垂直方向の地層の重なりは分からないということです。実は、この地形図は高さ10cmほどの箱型になっていて、その側面には地層の断面がちゃんと描かれているとのこと、これを触って分かるようにしてほしいとお願いしました。
 秋元さんのお話で印象に残ったのは、今台風19号であちこちで洪水が起っているが、多くの人は川の流れによってできた沖積地に住んでいるので、大漁の雨が降れは洪水が起こるのは、いわば当たり前のこと。大阪でも明治時代までは、繰り返し淀川の氾濫・洪水に悩まされてきた。とくに明治18(1885)年の6月から7月初めには降り続く大雨で淀川の堤防があちこちで破れ、大阪市の大半が浸水してしまったとのこと。これを受けて、大阪市内を流れていた淀川の水を都島区毛馬で分流して、直接真っすぐ海に流すための新淀川を開削、これによって大規模な洪水から免れるようになったそうです。(江戸時代にもそれまで淀川に流れ込んでいた大和川を付け替えて直接海に流れるようにするなど、古くからいろいろな洪水対策が行われてきた。)
 
●宇宙関連の触図
 これは、どこかの大学の先生がアメリカから持ち帰った資料だとのことです。おそらくサーモフォーム(真空製型器)の原理で製作したのでしょう、しっかりした樹脂製の用紙にレリーフのようにくっきりと浮き出していて、触ってとても分かりやすかったです。以下、思いつくまま私の触ったものを書きます。
 月の表面:直径30cm余の円盤状で、小さな凹凸が多数ある。スルウと平らな面がかなり広がっていて、ここは月の海の部分(黒く見えていて、以前玄武岩質の溶岩に覆われていた所)。ぼこぼこしている所(高地)の中に数箇所円いクレーターもある。
 オールトの雲:中央に直径2cmほどの海王星の軌道があります。それを中心に半径20cm弱の円周状に5cm弱の幅でリング状にいろいろな大きさの点が散らばっています。このリング状の点点がオールトの雲で、英文の説明には、これは実際のサイズではありません、と書いてありました(オールトの雲はもっとはるか遠くにあるということ)。太陽から海王星までの距離は約30天文単位。オールトの雲は、その距離の千倍くらい(約1光年)は遠くに球核状にひろがる太陽系の最外部で、主に氷でできた数兆個とも言われる小天体が散在していると想定されている。1950年にオランダのヤン・ヘンドリック・オールトが長周期彗星の軌道を計算して、一部の長周期彗星はきわめて遠い、ほぼ同じ距離の所から来ており、その辺に彗星の供給源が存在するはずだと考えた。これが「オールトの雲」と呼ばれるようになった。なお、短周期彗星の供給源として、エッジワース・カイパーベルト(海王星の軌道の外側、太陽から50天文単位あたりにリング状に分布する小惑星群)が考えられている。
 太陽系の図:これはよく触ったことのある、太陽を中心に水星から冥王星の軌道を示したもの。
 火星とその衛星の大きさ:火星は直径6〜7cmほど、衛星のフォボスは2mmくらい、デイモスは1mmくらい。火星の衛星がどんなに小さいかをあらわそうとしているようですが、これも、実際は火星の直径は約6800kmなのに対し、フォボスは約25km、デイモスは15kmと、火星の数百分の1の大きさ。この小さな2衛星は、火星の引力にとらえられた小惑星である可能性が高いという。
 日食の仕組: 太陽・月・地球が 1直線に並び、太陽からの光が全部月に遮られて地表面の一部がその影の中に入っていることを示している図。
 2017年8月21日にアメリカで観測された日食: 各州境が示されたアメリカの地図があり、その上に皆既日食が観測された地域が細長い帯状に示されている。皆既日食の帯は、アメリカ太平洋岸の北部オレゴン州から、アイダホ州、ワイオミング州、モンタナ州、アイオワ州、カンザス州、ネブラスカ州、ミズーリ州、イリノイ州、ケンタッキー州、テネシー州、ジョージア州、ノースカロライナ州、大西洋岸のサウスカロライナ州まで、アメリカ大陸を西北西から東南東へ斜めにまっすぐ、14州を横断している。帯の幅は2cmほど(たぶん100kmくらい)。(アメリカの州境の図を久しぶりに触って、それが一部経緯線を思わせるほど直線的なことに気付く。)また、この地図の下には、日食の形が時間とともに、部分食→皆既食→部分食へと変っていくことを示す図もあった。
  *このアメリカの皆既日食については、2017年8月末に、常磐大学の中村先生がオレゴン州コーバリスにて撮影した写真の立体コピー図版を送ってもらって触りました。太陽の形の変化だけでなく、ダイヤモンドリング、コロナの広がりやその磁力線が伸びていることも分かりました。またコロナの写真にはレグルスも映っていました。
 彗星のコマとそこから噴き出しているガス:彗星の頭の部分が核で、彗星が太陽に近付いて行くと核からガスが蒸発して光って見える。それがコマ(coma)。全体は長さ10cm余のずんぐりしたちょっとでこぼこした形で、その中央付近の窪んだ所から、幅2〜3cmくらい、長さ10cmくらいで何かが吹き出しているような図。
 彗星の尾: 直径10cm弱の核から、右上に向って塵の尾(dust tail)が、左上に向ってプラズマの尾(plasma tail)が、それぞれ長さ30cmくらい、幅5cm余くらいで、斜めにほぼまっすぐ伸びている。これら2本の尾は、太陽からの放射圧と太陽風により、太陽と反対側の方向に伸びている。
 
●画像聴覚化システム
 この装置は、株式会社 画像聴覚化研究所の黒田昌弘さんという方が開発中のものです。黒田さんは、長らくブリヂストンで航空機用タイヤの開発に従事、2001年にブリヂストン美術館に移籍して同美術館のISO9001の認証取得の仕事に関わります。その中で黒田さんは、絵画作品が〈健常者のために展示〉されており、さらに全盲の視覚障害者がそういう美術館を訪れるという現実を知り、どのようにして視覚障害者の期待に応えてゆけばよいかを考えます。黒田さんは、「むかしラジオドラマを聴いて景色などを思い浮かべた」のと同様に、画像を音情報に替えて示すことができればと考え、画像聴覚化の研究と開発を続けています。すでに多くのメニューが用意されていますが、私が当日体験したのは次の 2つです。
 初めに体験したのは、パソコンの画像を音に変換するソフト「OTDS(オトダス)」です。ヘッドホンを両耳に着け、画面に出ている輪郭線を音の変化でたどります。左右(水平)の違いは、実際に両耳に聞こえてくる音量の違いで、上下(垂直)方向の違いは、音の高低(上のほうほど高く、下のほうほど低い)の違いであらわされます。ピピピという連続音が、左から右に動き、同時に音の高さが初めは次第に高くなり、それから少しずつ低くなって行きます。だいたい円の輪郭線をたどっているようです。見えない子どもたちはなれると、この音の変化で漢字の書き順をたどることができるそうです。
 次に、このシステムを使って絵画鑑賞です。宮良瑛子さんという沖縄在住の画家の「自画像 二男をおんぶして」という絵を触図と音情報(触っている所に何が描かれているか、および作品解説と作家へのインタビュー)で鑑賞してみました。画面に出ている絵の触図を触ると、ポイントごとに触っている場所がどこかを例えば「左の目」とか声で知らせます。また、作品の制作年や大きさ、何がどんな風に描かれているかなど作品解説があり、さらには、この絵について作家本人へのインタビューも聞えてきます(出品の期日がせまっているのに、まだ1歳くらいの二男がなかなか寝てくれない、それで仕方なくおんぶして、その自分の姿を描くことになったというようなお話しだった)。この場合は作家さんが存命でインタビューできたわけですが、亡くなっている場合は学芸員が作品の背景や制作にこめた作家の気持などをできれば解説するようにしたいとのことでした。このような手法を多くの美術館で取り入れるのには実際にはいろいろ問題はありそうですが、現在休館中のブリヂストン美術館は、来年1月アーティゾン美術館としてオープンの予定、どんな展示方法になっているのか、楽しみです。 この他にも、阪急やJRの路線図とともに各駅での電車の発車音や社内放送、宇宙関連では星座の位置をたどるなど、いろいろ用意されていましたが、残念ながら時間切れになってしまいました。

(2019年11月3日)