8月15、16日、清里に行き、桒山賀行先生の彫刻ギャラリー GAKOU で開催されている「桒山賀行と土曜会」展を見学し、また16日午前には土曜会のメンバーのTさんによる篆刻のワークショップに参加しました。
彫刻ギャラリー GAKOU は、毎年4月から8月までの主に第1土・日曜に開館して展覧会をしていますが、今年はコロナの影響で開催が延期され、6月から10月まで開いています。今年は「桒山賀行と土曜会」ということで、桒山先生の作品とともに、先生の主催している土曜会のメンバーの作品が各 1点ずつ展示されています。私も「生まれ出る:身とぬけがら」を展示させてもらいました。これは、新たに身を産み出すイメージで、一方は、身を裂きやつして、ぬけがらになり、他方は、大きく成長して新たな身となり、さらに上に飛び上がろうとするようなイメージで彫ってみました。
身とぬけがらが一緒になっている全体の写真
少しずつ回して、2つに別れてゆく途中の写真
2つに別れたところ。左が大きく成長した身、右がぬけがら
土曜会の方々の作品は、これまでの土曜会展で触れたことのある作品が多かったです。新作でとくに面白かったのは、Tさんの「桃から生まれた桃太郎」。手前中央に、10cm余の長さのまな板の上に、直径5cm余の 2つに割れかけた桃が乗り、その割れかけた桃の間から高さ10cm余の桃太郎が立ち上がっています。向って左後ろにおばあさん、向って右後ろにおじいさんが、これを見て、驚いた様子で座りこんでいます。(おばあさんは、「あれまあ!」という感じで、両手を前に出し手首を上に直角に曲げて手のひらを前に向けている。おじいさんは、びっくりして腰をぬかしそうになって、両手をお尻の後ろについて身体を支えている。)物語の1シーンがまるで目に浮かぶようです。
全部を触ってはいませんが、土曜会の皆さんの作品でその他とくに印象に残っているものとしては、金剛力士像(左手は肘をぎゅっと曲げ左横顔の辺りで強く握り、右手は斜め下に伸ばして手のひらを後ろ向きにしてぎゅっと下に押すようにしていて、とても力を感じる)、持国天(二匹の邪鬼の頭を踏みつけている)、吉祥天などの仏の姿や、家族の人物像などがありました。
桒山先生の作品は、これまでにも何度か触れたことがあるものが多かったです。新しい作品では、「とんがり帽子」のシリーズが 2点ありました。構図は以前の「とんがり帽子」とだいたい同じですが、岡の上に通じる山道が細くうねうねとし、岡の上には細くとがった円錐形の塔が 1軒だけあります(以前の作品では、岡の上には 3軒並んでいてその中央が高い塔になっていた)。タイトルはよく分かりませんが、飛天を表わした作品もありました。枯れたような木の上に、背を反らした伏臥のような姿で表現されています。顔を反らして地上を見つめ、両腕を前(下)に伸ばして掌を内向きに重ねて大きな輪のようにしその上に蓮の花を乗せ、さらに、首の上で帯のようなもの(羽衣?)が光輪のように輪になっていて、それが両脇の下を通って体の両側を斜め後上に流れるように長く伸びています。
また、以前にも触ったことのある作品では、外に置かれていた「海辺」シリーズ2点がとくに印象に残っています(粘土に小さな石をたくさん交ぜて焼いたもので、そのざらざらした手触りから、さびれた海辺、ちょっと荒れたような磯の感じが伝わってくる)。
篆刻については、私はまったく予備知識もなく参加しました(篆刻とどの程度関係があるかどうか分かりませんが、数年前に、東近江市の観峰館という所で唐の時代などの書家の文字を刻んだ大きな石碑に触ったり、金沢21世紀美術館に行った時に開催されていた中国人の書家の文字の展覧会を見学したことなどあります)。参加者は 7人くらいだったでしょうか、各テーブルに 1人ずつ、ばらばらに座ります。
まず印材や彫る道具を触らせてもらいました。印材は、大きさの異なる3種の中から選ぶようになっていて、私は2.5cm四方くらいの一番大きなものを選びました。彫る道具(印刀とか鉄筆と言うらしい)には、刃先の幅が6、7mmくらいのものと1.5cmくらいのものがあって、私は細いほうを選びました。印刀の刃先は彫刻刀ほど鋭くはありません。印刀を斜めに握って、主に刃先の角を使って削り彫るようです。印材は、中国福建省の寿山が産地だということですが、詳しくはよく分かりません。彫ってみた感じは、滑石よりもやや堅く、彫って出る粒は滑石のそれよりもやや大きめのような気がしました。
ふつうは、まず印面全体に赤を塗り、その上に刻したい字を黒で書く(修正したい時は、書いた黒の字の上に赤を塗って、書き直す)のですが、私にはこの作業は難しいので、直接印材に、思っている字を印刀で書き彫ります。私は、自分の名前の「原」を書くことにしました。印面全体のどの辺に文字のパーツをどういう風に配置するかを考え、また、左右反対の鏡文字で書かなければならないので、それも間違わないように考えます(皆さんには、実際に鏡が用意されていて、鏡に映った文字を印面に書くこともできるようになっていた)。私の場合は、とにかくやり直しはきかないので、こうと決めたら一心にそれを目指してするしかありません。一番困ったのは、実際に印面を削っている刃先の角を、彫っている最中は直接触れることはできないということです。刃の厚さは5mmほどあり、刃先はその中央にあるので、刃を握りながら刃先はだいたいこの辺になっているのだろうと想像しながら彫りました。彫り進む時は、それまでに彫った跡が触ってはっきり分からないと困るので、かなり深く大きく彫りました。なんとも言えない、勢いのあるものになったようです。
印面の「原」とその印影の「原」の写真はこちら印面の「原」は鏡文字に彫られていて、その印影を白い紙に朱で押している。
黒の紙に金色の印影の写真はこちら上中央が「原」、下の2つは「猫」と「猫じゃらし」で、これは一緒に参加した家族のもの。
文字を彫る時の参考になるようにということでしょう、篆書の字典も用意されていましたが、皆さんそれにはあまりとらわれず、自由に刻していたようです。名前を彫ったり、中には旧字体の「魚」という字(魚座の形に似ているそうです)を彫った方もいて、触らせてもらったりしました(字そのものは、細かくて触ってはよく分からなかった)。
今回の篆刻体験、とにかくやり直しがきかず、いったんやり始めたらただひたすら最後までやりぬくしかないので、とても緊張し、心を集中しました。 1時間弱ほどですが、久しぶりに一心不乱に集中できる体験でした。
(2020年8月28日)