金生山化石館

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 3月6日、岐阜県大垣市赤坂にある金生山化石館に行きました。
 JR総持寺から、2回乗り換え、12時過ぎに大垣駅へ、そこからはタクシーを利用、15分くらいで化石館に着きました。(実はタクシーの運転手さんがつい間違えて、化石館を通り越して、金生山の山頂付近にある寺(明星輪寺)まで行ってしまい、そこから数分戻って化石館に到着でした!)
 この博物館では、申し込めば個人でもスタッフが展示解説をしてくれることになっていて、私も事前に解説を申し込んでいました。まず金生山についての説明から始まりました。
 金生山は、東西約1km、南北約2km、高さ200m余の全山石灰岩の小さな山です。大理石も含む良質な石灰岩で、江戸時代から石灰岩の採掘が始まり、大正時代からは石灰を運び出すために、東海道本線の支線美濃赤坂線および西濃鉄道の市橋線や昼飯線が敷設されて大規模に行われました。採掘は今も続いていて、明星輪寺のある南東部を除いて山容はすっかり変わり、みじめな姿になっているようです。
 この金生山の石灰岩は、今から2億5千万年以上前、古生代末のペルム紀(Permian period。約2億9900万年前から約2億5100万年前。ペルム紀は3期に分けられ、約2億7300万年前までが前期の Cisuralian、約2億5900万年前までが中期の Guadalupian、それ以降が後期の Lopingian)に、赤道付近ないしそれよりやや南にあった海山の上のリーフと呼ばれるサンゴ礁とその内海であるラグーンが元になっているそうです。それが海洋プレートに乗って、年間5cmくらいの割合で1億年近くかけて中生代ジュラ紀に日本の元となっている大陸に付加されました。ですから、金生山の石灰岩に含まれている化石は、古生代ペルム紀の南海のサンゴ礁や浅海の生物たち、サンゴやウミユリ、貝類、フズリナなどということになります。とくにフズリナは、時代によって次々に種類が変わっていくので、逆にその時代を決める示準化石になります。
 日本付近に向って南東からやってきた石灰岩層が陸側に付加される時には、前のもの(古いもの)の上に次のもの(より新しいもの)が乗り上げ乗り越えるように堆積するので、金生山の石灰岩層は、西側から順に新しいものから古いものへ、最上部層、上部層、中部層、下部層という並びになっているそうです。もっとも新しい最上部層は、おそらくP-T境界の直前、2億5千万年余前、一番古い下部層はペルム紀中期(おそらく2億7千万年前くらい)のようです。そして、上部層と最上部層の間がG-L境界(Guadalupian-Lopingian boundary、ペルム紀の中期と後期の境界。この時にも小規模の大量絶滅が起こっている)に、最上部層と中生代の梅谷層の間がP-T境界に対応しているようです(赤坂石灰岩のヤベイナとレピドリナ - 化石館だよりなど)。
 [補足] P-T境界: Permian-Triassic boundary。約2億5,100万年前の、古生代最後のペルム紀と中生代最初の三畳紀の境目。この時期に、地球史上最大規模の生物の大量絶滅が起きた。全生物種の70%以上、とくに海生生物では95%以上もの種が絶滅したと言われる。その原因としては、地球のマグマ活動の活発化による、現在のシベリア地方での広範囲に及ぶ火山噴火や超大陸パンゲアの分裂、海中における酸素欠乏・無酸素状態の継続(P-T境界の前後2000万年くらい続いた)、さらには巨大隕石の衝突なども考えられているようだが、詳しくはまだ分かっていないようだ。いずれにしても、地球規模で環境が激変して、生物の大量絶滅があったことは確かで、それを示す証拠も世界各地で見つかっている。日本では、例えば、大垣市からそんなに遠くない犬山市の木曽川の河床で、P-T境界の付近で赤みがかったチャート層から黒っぽい珪質泥岩や有機質の泥岩の層に変わっていたり(これは海中での酸素欠乏を示す)、中国南部の各地のペルム紀末の地層に見られる酸性凝灰岩が大垣市の赤坂石灰岩でも見つかっている(これは、広域の異常な火山活動を示す)。(P/T境界プルームの冬と史上最大の生物大量絶滅事件など参照。)
 
 以下、私が実際に触った化石たちです。
 まず、フズリナ類。フズリナは、とくに古生代ペルム紀に進化・発展した有孔虫です。有孔虫は原生動物で単細胞生物ですが、フズリナは数mmから大きいものだと1cm以上もあり、また細かく分化した構造を持っていて、驚いてしまいます。(そう言えば、沖縄の「星の砂」も有孔虫=フズリナ類ですね。)私が触ったのは、ヤベイナとシュードドリオリナ。それぞれ、石灰岩に多数密集してくっついていました。ヤベイナは5mm余から1cmくらいの大きさでやや細長い形で、層状に積み重なるようにくっついていました。上部層でよく見つかっているそうです。(ちなみに、「ヤベイナ」と言う名称ですが、地質学者で古生物学者でもある矢部長克(1868〜1969年)にちなんで名付けられたものだそうです。矢部長克は、1918年に糸魚川静岡構造線を提唱している。)シュードドリオリナは、ヤベイナより小さく、3mmから5mm弱ほどの丸っぽい形で、何列も弧を描くように行儀よく並んでいました。これは、下部層と中部層によく分布しているそうです。
 次に巻貝類(腹足類)です。まず触ったのが、ベレロフォン。直径3cmくらいから10cmくらいのものまで数点触りましたが、すぐには巻貝とは思えませんでした。全体にごろんとしたボールのような形で、その球体の隣接する2箇所を切り取ってその切り取られた2面が平たくなっていて、巻いていることは分かりません。でも、小さ目の化石で、切り口の辺で1回転余巻いていると思えるものもありました。最近はベレロフォンを腹足類ではなく単板類(殻は1枚で、現生では深海に住む十種余が知られているだけ)とする考えもあるようです。次に、プレウロトマリア。7〜8cmほどの大きさで、これは5、6回は巻いていてすぐ巻貝と分かりました。「生きている化石」と呼ばれるオキナエビスの仲間とも考えられているそうです。次に、マーチソニア。直径2cm弱、高さ10cm弱くらいの円錐系で、7、8回は巻いています。先がとがっていたので、私はすぐキリガイを連想しました。この仲間では大型のものも見つかっていて、大きいものは殻高が30cmにも達するものがあるそうです。また、大きく母岩が付いていてちょっと分かりにくかったですが、ナチコプシスにも触りました。大きさは15cmくらいはあって、巻いていることは少し分かりました。これらの巻貝は、赤坂石灰岩の上部層(ペルム紀後記)のものだそうです。
 二枚貝にも触りました。アルーラ。これは、母岩に平たい殻がぺたーっと付いていて、幅5〜6cmくらい、長さ20cmくらいもあるかなり大きなものです。殻はちょっとうねった曲面になっていて、縁はきれいな曲線ではなくちょっと角角していました。シカマイアという、世界最大級と言われる大きな二枚貝の実物化石とレプリカにも触りました。実物化石は、先のややとがった辺りから途中までの、おそらく全体の3分の1ないし4分の1くらいの部分で、形は二等辺三角形のようでした。底辺は30cmくらい、斜辺は40cmくらいだったでしょうか、頂点から底辺に向って左右に分けるように溝が走っていて、その途中からもう1枚殻が重なるようになっていました。化石としては部分部分のものしか出ていなくて、それらを総合して全体の形・大きさを示した発泡スチロール製?の模型がありました。長さは120?cmくらいでしょうか、両端が細くなった1辺が20数cmくらいの三角柱の2面の中央付近を縦に端から端まで刳り落としたような形です。そして、刳り落とされていない平らな面の中央に縦に端から端まで溝があり、これが2枚の殻が合わさる所、またその反対側の2面が合わさっている所がいわゆる蝶番の所だそうです。確かに長さはとても長いですが、体積や重さでは現生のオオジャコなどのほうがだいぶ大きいと思います。
 ウミユリにも数点触りました。ウミユリはヒトデやウニなどと同じ棘皮動物ですが、触っても動物という感じはしませんでした。1点は、直径2cmくらい、厚さ1cm弱くらいのリングが何個も重なったような茎?のようなもの(私は椎骨の重なりを連想した)があり、そこから少し離れて細かい花?のようなのがあります。もう1点は、直径5cmくらいもある大きなずんぐりした茎でした。金生山では茎の直径8cmくらいもある大きなウミユリの化石も見つかっているそうです。
 最後に、オウムガイ。直径20数cm、厚さ7〜8cmはある、かなりどっしりとした感じのものでした。形はアンモナイトを連想させる、ちょっと巻いたような感じになっていました。表面には小さなぼこぼこした突起がたくさんあり、見た目ではその一部はフズリナだろうということでした。(オウムガイは、古生代前期のオルドビス紀から出てきますが、最初は巻いていないまっすぐなものが多く、直角貝としてよく知られています。ペルム紀になって、このように巻いたものが多数繁栄しますが、中生代以降激減し、現生は6種くらいです。)
 
 化石のほか、いくつか鉱物にも触りました。最初に触ったのは、赤鉄鉱。金生山と赤鉄鉱、私の中ではまったく結び付きませんでしたが、金生山には赤鉄鉱の鉱脈があり、古墳時代ころから採取されて鉄が生産され、刀も作られていたそうです。(赤鉄鉱のために金生山の土は赤っぽくなっていて、赤坂という地名はこれに由来しているらしいです。)第二次大戦中には、金生山の赤鉄鉱に軍が注目し、昭和19年から数年間採掘が行われ、ほとんど掘りつくされたそうです。私が触ったのは、15cmくらいはあるずんぐりした形のもの、持ってみましたがずっしりと重かったです。また、犬牙状方解石と針状方解石にも触りました。石灰岩の鉱物は方解石なので、これはごく自然なことに思えました。犬牙状は、1辺が2cm、高さ3cmくらいの三角錐がいくつも並んだもの、針状は、先はもうそんなに鋭くはありませんでしたが、小さな針の頭のようなものがきれいに並んでいました。
 
 今回の見学、私はもしかしたらP-T境界を知ることのできるなんらかの手掛りがあるのではとちょっと期待していましたが、直接的な手掛りには触れられませんでした。それでもとてもよい化石たちに触ることができて、とても楽しかったです。ありがとうございました。
 
(2021年3月11日)