第31回 手で触れて見る彫刻展

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 今年も、12月22日から25日まで、藤沢市民会館で「第31回 手で触れて見る彫刻展〜緕R賀行と土曜会〜」が開催されました。私は24日に藤沢に行き、教室の皆さんの作品を鑑賞したり、自身の作品の説明をしたりしました。出展者は15名ほど、作品は全部で70点以上あったでしょうか、多彩な作品が並んでいました。
 
 私は以下の4点を出展しました。
 「ひろがる」(幅40cm、奥行30cm、高さ19cm)
 ソテツやシュロのように、多数の葉が伸びひろがっている様子をイメージしてつくりました。これらの植物は、何億年もの間生き延びてきたもので、生命力の強さを感じます。
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 「棺 T」(長さ 34cm、幅 8cm、高さ 10cm)
 舟形の棺の中に人が入っています。
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 「変転」(幅24cm、奥行14cm、高さ29cm)
 チベット仏教のマニ車を想像しながらつくってみました。手でゆっくり回して、次々変わり行く様子を感じられたらいいです。
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 「土偶 T」(幅 14cm、高さ 31cm、奥行 4cm)
 端材を使って、板状土偶を連想してつくってみました。
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 どれもちょっと変った作品だったので、どうかなと思っていましたが、それなりに好評のようでした。「変転」は多くの方が実際に手で回してみていましたし、「棺 T」は見入っているような方がいたり、端材で簡単につくってみた「土偶 T」もかわいいなどと言ってくれる方もいました。午後2時ころだったでしょうか、藤沢市長の鈴木恒夫氏が見学に来られて、なんと私の作品についても詳しく説明させていただきました。
 
 今回も仏像をはじめいろいろな作品が展示されていて、私もほぼ全部の作品について触れて回りました(視覚障害の方も数名来られていて、それぞれ熱心に時間をかけて触っていました)。以下、私にとってとくに印象深かった作品を数点紹介します。
 まず、Tさんの「暴走する牛の背に3歳の私」。Tさんは現在85歳、なんと、30年以上前の、手で触れて見る彫刻展の第1回(1991年)からの参加だそうです(そして各回についての詳細な記録もしているとか)!この作品は、母親から聞いた3歳の時の出来事をあらわしたもので、彫刻を始めた当初からいつか作品にできないかなとあたためてきたものだとか。一番前に牛(農耕牛だということで、背中の両脇には肋骨のようなのが何本も浮き出している)の背に子ども(3歳の作者)が這いつくばるようにしてしがみついています。その牛の口には綱がかかっていて、牛のだいぶ後方に立っている男の人(いとこだそうです)がぴんと張ったその綱の端を握っています。さらにその後ろで女の人(母親)が、両腕を前に出し少し顔を上に上げて「待ってえー。なんとか止めてえー」という感じで立ち、さらにその後ろに子どもの草履が落ちています。切羽詰まったような状況がよく感じられる作品でした。
 Tさんの作品では、「毛繕いする夫婦円満猿」もほほえましくてよかったです。2匹の猿が前後に並び、後ろの猿が前の猿の 首元当たりに両手指を当てていて、前の猿はいい気持ちというように脚を前に投げ出し目はつむっているようです。その他、歌舞伎の勧進帳、助六、鏡獅子のポーズの作品もありました。
 Kさんは毎年優れた仏像を出展していますが、今回私が興味を持ったのは「空也上人」。高さ30数センチ、左手に長い杖(上端は鹿の角のように3つに別れている)、右手に撞木を持ち、首からは鉦(平べったい金属の皿のようなもの)を下げ、草鞋を履き、1枚の衣をはおっています。そして口からは、直径5mm弱、高さ2cm余の細い棒のようなもの(よく触ると、くびれがあって頭部と胴部に別れている)6本が立ち並んだものが前に突出しています。この造形は、「南 無 阿 弥 陀 仏」と念仏を唱えると、それぞれの文字を発するごとに計6個の仏があらわれ出るという伝承に基いているとか。それぞれの文字・言葉がたちどころに仏になるとは、なんともすごい念仏ですね。また、「普賢菩薩騎象像」も、風格と言うか心に感じ入る作品でした。長さ40cm以上もある大きな象(脚は太く、お尻の部分がとくに堂々としていて、耳は小さい)の背に豪華な敷物が両脇に垂れるように敷かれ、その上に蓮華の台、さらにその上に結跏趺坐で合掌する普賢菩薩が騎っています。まさに、世を救うために登場といった感じです。
 馬のことにとても詳しいというTさんのレリーフ「朝練」や「家路」は、北海道帯広市の輓曳競馬(騎手と重量物を載せた鉄製の橇を曳いて2箇所の障害が設置された200mのコースを走る)に出場する馬の様子をあらわしたもの、また立体の「輓馬」は、体重1千キロもあるという馬が太い脚で踏ん張って橇を曳いている姿をあらわしてものです。参考として、サラブレッドと輓馬の蹄鉄も展示されていて、サラブレッドのものは径12cm、輓馬のものは径18cmで、脚の太さが1.5倍も違うということです。
 Mさんの「力走」や「孫 みごと跳ねる」(左脚で立ち、右脚は深く曲げて上げ、右手は下、左手は前に出している)は、足先の1点だけで固定されていて、宙に舞っている身体の様子がうまく表現されていました。Iさんの「左利き」(左手でペンを持ち、開いた大きなノートに数式や図を描いて(彫って)いる)や「ピアノのレッスン」(ピアノの鍵盤の上に左手がある)は息子さんへの思いが感じられました。Yさんの「ぼくの曼荼羅世界」は、15年間にわたって制作したという10数点のいろいろな仏像がテーブルの所定の位置に配置されていて、触りごたえがありました。また、彫刻を始めて間もないと思われるSさんの「森の木」もよかったです。1本の木の上や回りにいろいろな動物たち、モモンガ?のようなもの、ウサギ、リス、鹿や山羊などがいて、私の「住み家」シリーズと通ずるような感じがしてうれしかったです。
 
 その他にも、多くの仏像、家族の姿、自然の風景をあらわしたものなど、私も大いに楽しませてもらいました。自分の作品を展示し、また他の人たちの作品もたっぷり鑑賞できるこの展覧会、私にとってもとても貴重なものです。緕R賀行先生、土曜会の皆様、そして主催の藤沢市点字図書館の皆様、ありがとうございました。

  (2022年12月28日)