3月5日に大阪市立東洋陶磁美術館の「カラフルアートワークショップ・さわってみよう東洋陶磁」に参加しました。東洋陶磁美術館は来年春まで改修工事のため休館中で、ワークショップは大阪市立自然史博物館で行われました。午前と午後の2回あり、私は11時からの部に参加しました。参加者はわずか4人(そのうち見えない人は2人)、ゆったりと十分に楽しませてもらいました。(午後の部には見えない人が4人参加するとか。)
名品2点につき、高精細のデジタルデータに基いて製作された3D作品とともに、実際に陶で原品と極めて似せてつくった作品もあり、専門家のハカセの話をうかがいまた参加者の話も聴きながら、いろいろと発見?もあるワークショップでした。
●加彩婦女俑
初めに触ったのは、「加彩婦女俑」という大きな人形のようなもので、3Dではなく陶の作品です。(「加彩」は彩色したの意、「俑」は中国で墓に副葬品として納めた人形のこと。ちなみに中国では、俑ばかりでなく、死者が生前親しんでいた生活用具や動物、時には建物などを模した陶製や青銅製の品物が墓に納められた。これらは一括して明器と呼ばれる。)
8世紀の唐の時代の作品だそうです。高さ50cmくらい、下の直径は20cmくらいだったでしょうか、人形としてはどっしりした感じがしました。髪を高く結い、耳の両脇に髪の束がまるで分厚い羽?のように広がっています(頭の上には右側から左に向って長い溝がありますが、これは簪の跡だとのこと)。顔は小さめでややふっくらした感じでかわいいです。両肘を内側斜め上に曲げて胸の前で両手を軽く握っています。右手の親指と人差指は伸ばしていてその間がくぼみになっていますが、そこには小鳥が乗っていたかもということで、その小鳥を見るかのように顎を引いて顔を傾けているようにも思います。肩から下は全体にゆったりとした衣服をまとっているようで、縦に襞が何本も流れ、ほとんど足先まで包んでいます(右の足先は衣から出ていて、靴の先が上に向き花文様のようになっている)。両腕辺の衣の襞は幾本も斜めに並んでいてきれいです。所々に朱が残っていますが、実物はおそらく口から頬にかけてかなり広く朱で染められるなどはでな感じだったろうということです。7世紀の陶の初めころは細身の女性が好まれたようですが、8世紀の盛唐期にはこのようなやや豊満な女性に変っていったようです(俑をはじめ明器は、当時の人たちの日常の生活を知る手掛かりになるのだろう)。
この陶の作品は、(銅鐸などのように)まず型を作りそれに粘土を入れてつくったとのことで、2つの型のつなぎ目はほんの少しですが分かりました。(日本の土偶や埴環のつくり方とは大きく違う。同じ俑をある程度大量生産したのだろうか?)また底は開いていて、中は空洞になっています。
次に、この俑の高精細のデジタルデータから作った3Dを触りました。全体にするうっとしたような同じような手触りで、そのためでしょうか、なにかスリムな感じがします(陶の作品では表面の一部にざらついた所もあった)。耳の両横に広がっている髪で幅を確かめてみると、実際にわずかに3Dのほうが狭い感じがしました(もちろん手で測っているので正確ではない)。陶の作品と3Dで、触覚ではかなり違う感じがするとは面白いものです。(帰り際には陶の作品で全面に釉薬をほどこしたものにも触りましたが、これは全体につるつるで触感はとてもよかった。)
●油滴天目茶碗
「天目」は黒い釉薬のかかった茶碗で、その黒釉の地に銀などいろいろに輝く点々が見えていて、それが油滴のようだということで「油滴天目」と呼ばれるそうです。宋の時代に福建省の建窯で生産されたもので、鎌倉時代から室町時代にかけて中国に渡った禅僧によってもたらされ、豊臣秀次、次いで西本願寺などに伝えられていたものだとか。ハカセによれば、建窯では、一度に13万個もの天目を焼き、そのうち半分くらいは不良品として捨てられ、このような国宝級の油滴天目は百万個に1個くらいあらわれる稀有なものだそうです。なぜ国宝級なのか私には十分には分かりませんが、黒地に時には虹のような輝きが見えるとのこと。これは、茶碗そのものの色ではなく、釉薬中の多数の小さな鉱物の結晶により光の当て方や見る角度で生じてくるいわゆる構造色なのでしょう。また、このような油滴天目は今は中国には存在せず、日本に伝えられたこの品は世界的に例のないものだということです。
初めに高精細のデジタルデータにより製作された品を触りました。高さ7〜8cmくらい、直径10cm余の、スタイルのよいごくふつうの茶碗といった感じです。上縁はかなり薄くなっていて、その内側には細かい波のような模様があり、さらにその下の内面には縦ないしやや斜めに細い線が密に多数走っています。ハカセによれば、この縦ないし斜めの線は、表面のガラス質になっている釉薬の層の中に生じた油滴模様の細かい凹凸で、実物の表面は滑らかになっているとのこと。すなわち、高精細の3Dにより、ガラス質の内部の実際には触ることのできない細かい油滴模様を触っていることになります。また、実物では上縁は純金の輪で覆われているとのこと、どんな口当たりなのでしょうか。外側の表面を底のほうに向けて触っていくと、高台より少し上で急に窪んでいて、ここまで釉薬がかかりその下は地のままのようです。底の糸尻の内側の面にはなにか記号のようなのが彫られていました。
次に、釉薬をかけていない陶の地のままの品に触りました。全体にどこも同じようなするうっとした感じで、なにか土っぽい感じもして私の好みでした(当然釉薬で厚くなっている部分は分からない)。その次に、釉薬もかけた陶の品にも触りました。3Dの品にあった内面の縦ないし斜めの線はほとんど感じられず滑らかで、また高台の上までかかっている厚い釉薬の部分とその下の釉薬のかかっていない部分の差がよく分かります。
最後に、驚きの体験!抹茶を点ててもらい、先ほどの釉薬のかかった茶碗で喫しました。とても美味しく、ゆっくりぜいたくな時間でした。抹茶は今は中国では見られませんが、もともとは宋の時代に中国で始まったもの(そのころの抹茶は白く、この黒釉の茶碗に白の茶という組み合わせだったそうです)で、それを禅僧が日本に伝え発展したものだそうです。
今回の、普通では触ることのできない名品に触れるというワークショップ、デジタルデータによって再現したものだけでなく、実際に陶で再現した品にも触れたのがよかったです。正確な形はデジタルデータによるものが一番よいかも知れませんが、陶器の場合は形とともに手触りや質感がとても重要なので、形中心の3Dの品だけでは不十分なようです。また、細かいことですが、デジタルデータによる品と陶の品でどのような違いがあるのかも確かめられたのもよかったです。国宝級など名品と呼ばれる場合、多くの場合は形や色合いなど視覚的な面で評価されていると思いますが、触覚ではどんなものが名品となるのか、そんなことを参加者の皆さんでわいわい触りながら考えてみるようなワークショップもよいかも知れません。
(2023年3月9日)