手で触れて見る彫刻展で多様な作品に出会う

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11月28日から12月1日まで藤沢市で開催されていた「第33回手で触れて見る彫刻展」に、私は11月30日午後と12月1日午前に行きました。今回も、私も含め十数名の70点以上の作品が展示されていました。
 
 まず、桒山賀行先生の作品 2点です。
 「風向」は、風向計から連想してつくった作品とのことで、直径10cm弱の円柱の上に、60cm余ほどの大きさの女の子が仰向けに乗っています。少女は両足先を上下に重ねてぴんと伸ばし、スカートを着け、お腹から胸・頭部にかけては、後ろに倒れてはならぬとばかりに、ぎゅっと引き締めたような感じで、筋肉の緊張が伝わってくるようです。この作品は今から40年以上前、先生の若いころにつくったもので、とても大きなのみ(幅5cm近くあるかも)を使っていたらしいのみ跡もありました。
 「布袋とねずみ」は、高さ20cmくらい、お腹の大きな布袋さんの右肩に口を大きく開けた小さなねずみが乗っていて、その長い尻尾が布袋さんの背中にうねえっと伸びています。布袋さんの右側には俵のような形の大きな袋(なにか宝物が入っているかも)があります。ねずみは十二支の始まり、縁起の良い年になるよう願って子年に制作したとか。
 
 以下、私がとくに興味を持った土曜会の皆さまの作品を紹介します。
 私にとって一番参考になったのは、KAさんの名品を再現した作品たちです。「縄文のビーナス」は、長野県茅野市の棚畑遺跡(縄文中期から後期前半、約5000~4000年前)からほぼ完全な形で見つかった土偶で、国宝に指定されたもの。実物は高さ27cmですが、この木彫作品ではその4分の3のサイズで再現されています。頭の上は円盤状になっていて渦巻き?のような模様があり、平たい帽子のようなのを被っているようにも思います。顔はなにか布のようなのできゅっと包み込まれたようにハート型になっていて、とがった小さな鼻や口が確認できます。胸は小さな突起が二つ、その両側に短い腕が水平に伸びています。お腹は膨らみ、とくにお尻は後ろに大きく膨らんでいて、お尻から背にかけての背面は、お尻の所で窪んだ逆ハート型になっています。妊娠した女性を強調してあらわしていますが、その造形は分かりやすくそして美しいと思いました。
続いて、「ピカソへのオマージュ」という作品はピカソの「ドラ・マールの肖像」の絵を木彫で再現したもの。横から見た顔と前から見た顔が一緒にあらわされているようで、鼻は2つになっています。(目は色だけで示しているそうで、触っては分かりませんでした。)口は、左端がぎゅっと正面に曲がっていたように思います。左向の横顔の頬に、右手の各指を上と左右に目いっぱいに広げ伸ばして当てています。キュビズムの影響もよく分かりました。また、名品というわけではありませんが、「大地に生きる」という作品は、戦前の中国東北部満州の土人形をモデルとした作品だということで、子豚が4匹、親豚が1匹、その親豚の横に寄り添うように、腰の後ろで両手を組みながら左腕を籠の柄に通して抱えている人が立っています。
 Kさんは毎年多様な仏像を中心に出展していますが、今年も印象に残る作品が数点ありました。「北鎌倉七福神」は、中がすっかり朽ち落ちて空洞になった直径50~60cmくらいはある枯れた桜の木の表面に七福神を浮彫したものです。すごい存在感でした。(七福神:日本由来の恵比須、インド由来の大黒天・毘沙門天・弁財天(女性)、中国由来の布袋・福禄寿・寿老人。小槌を持っている大黒天や琵琶を持っている弁財天などは触って分かった。)「三国志関帝立像」(関帝は関羽を神格化したもの)は、右手に青竜刀(柄が龍の頭でその開いた口から幅広の刀身が伸び、弧状に湾曲した刃が上向になっていた)を刃先を前に向けて携えていました。「楊貴妃」は、玉を持った右手を前上方に上げ、顔から胸にかけて反らすようにしながら身体をくねらせていて、なんとも艶めかしく感じました。
 その他、Hさんの「祈り」は、高さ70cmくらいある木の幹の表面にレリーフのように示されていて、中央に女の顔、その上部の後ろのほうに男の顔があり、男の両腕が伸びて女の身体を包み込むようになっています。Iさんの「風の声」は、女の子が両腕で膝を抱えるようにして座り、背をすっくと伸ばし正面をまっすぐ見ているようです。編んだ髪が頭の上で右に直角に曲がっていて、真横から強い風が吹いていることが分かります(波の音を乗せてやってくる風の心地よさをイメージして制作したとのこと)。顔をTさんの「1本のプロポーズ」は、まだつぼみのチューリップを上向きに手で持っています(人差指を茎に沿わせてまっすぐ伸ばしている)。KA(上のKAさんとは違う方)さんの「森の家族」は森に住む狼の群ということで、立ったり寝そべったり空に向って吠えたり、いろいろな姿の狼たちです。 Sさんの「森の木」は、数本の木の下に細身のなにかやさしそうな狼が立ち、少し離れた所にパン・ワイン・チーズを抱えた赤ずきんちゃんが森に向かって立っています。
 
 以下、私の出展した作品です。いずれもいくつかの材料を組み合わせてつくったものです。(最後の「植物人間 Ⅱ」以外、写真はまだです。)
●空から、空へ
 大きな鳥が、一瞬木に舞い降り、また飛び立とうとする瞬間をイメージしてつくりました。

●土器開く
 土器から、回りの空間へと切り開きひろがっていくイメージでつくりました。

●囚われの身:檻
 檻の中に閉じ込められた人です。足に釘を打たれ鎖もつけられています。

●植物人間 Ⅱ
 木の幹から伸びた4本の枝は人に変わっています。
 写真はこちら
 
 今回も、来場者はゆっくり時間をかけて鑑賞して回っておられるようでした。私は、土曜会の人たちの作品を鑑賞するとともに自分の作品についても説明していました。視覚障害の方も十数名はおられたでしょうか、中には盲ろうの方もおられて熱心に触り解説を聴いていました。土曜会に最近入り、この展覧会にも出展している方が、数年前に展示した私の「二人」の作品がきっかけになって木彫を始めたとのこと、作品にはそんな影響まであるのかとちょっと驚きました。私は土曜会の作品展に出展させていただくようになって11年、土曜会の皆さんの作品を通していろいろなことを教えられ出会いもありました。これからもできるかぎり、出展を続けたいと思っています。
 
(2024年12月4日)