地質標本館とつくば実験植物園

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 9月12日、例によって往復とも夜行の高速バスを利用してつくば市に行き、午前に国立科学博物館筑波研究資料センター 筑波実験植物園、午後は産業技術総合研究所地質標本館を見学しました。
 以前から地質標本館には一度行ってみたいと思っていて、今回連絡して解説もしてほしいとお願いしてみたところ、12日土曜日の午後に専門の研究者の案内で見学できることになりました。視覚障害者への対応はこれまでとくに考えていなかったとのことなので、そのためにかえってこのような特別の待遇を受けられたかもしれませんが、視覚障害者対応についてもアドバイスしてほしいということで、先方の積極的な姿勢をつよく感じました。
 で、せっかくですので近くのミュージアムにも行ってみようかと調べてみると、つくば市にはいろいろな研究器官とともに、つくばエキスポセンター、地図と測量の科学館、高エネルギー加速器研究機構、筑波宇宙センター、サイエンススクエア つくば、つくば実験植物園など、面白そうな自然系のミュージアムがたくさんありました。その中で、つくば実験植物園では土曜日と日曜日はボランティアによる園内の案内をしているということで、そこにも行くことにしました。
 
◆産業技術総合研究所 地質標本館
 タクシーで地質標本館に到着すると、すでに玄関前で研究員のAさんが出迎えてくれました。そして早速奥外の展示について案内してくださいました。
 生きている化石と呼ばれるメタセコイアの木が2本あり、その間に幅が優に1メートル以上はあるメタセコイアの化石が根のほうを上にしておいてあります。周囲の幹の部分には少し木の感触もあり化石だということが分かりますが、上面は全面石炭化しています。すべすべした感触からかなり良質の石炭だと思われ、直方体が板状に積み重なったようになっていて、薄く剥げたりもします。
 また、玄関近くには、1辺が40cmくらいある柱状節理でできた6角柱状の玄武岩が横たえてありました。その他にも、高さ50〜60cmくらいもあるような煙水晶が多数入口近くにあったりして、入館する前からわくわくしてきます。
 玄関を入るとすぐに、他の研究員や事務の方々にも紹介され、岩石や鉱物・火山などはAさん、化石などはTさんと、それぞれ専門の研究員の案内で見学することになりました。
 実際は点示室ごとに見て回ったのですが、すでに順番をはっきりとは覚えていませんので、私なりにジャンルごとにまとめて紹介してみます。
 
●地形模型
 まず、直径2mくらいあるような大地球儀です。実際に触れられたのは、アフリカ南部から、マダガスカル、インド、東南アジア、オーストラリアにかけての、赤道付近から下の部分です。陸部分だけでなく海部分も立体的に表わされています。海岸線はよく注意すれば分かり、それに続く大陸棚は回りよりすべすべしていて、大陸棚が広がっていることがよく分かります。海底は思った以上に起伏があり、海溝が大陸の周辺に連なっていること、オーストラリアとニューギニアはほぼ大陸棚でつながっていることなどが分かりました。インドの北にあるヒマラヤ山脈は、ようやく手が届くかどうかくらいの位置だったのですが、椅子を用意してくれてそれに上がって触りました。そうして触ってみると、ヒマラヤ山脈の南側はすぐ低地になっているのに、山脈の北から東側にかけてはかなり高度の高い大地がずっと広がっていることが分かります。
 次に、これは直接触れられはしませんでしたが、日本列島周辺の震源分布の展示はよくイメージできました。まず、高さ10mくらいあるホールの天井が地表に、私たちのいる床が地下千kmくらいの深さに見立てられます。天井に日本列島の地図とその付近で起こったマグニチュード6以上の震源が描かれ、震源の深さに応じて棒が下に下がり、棒の先にはマグニチュードの大きさに応じて球が付いているようです。また、とくに大きな被害をもたらした地震には特別に赤いランプのようなのが点いています(震源が浅くマグニチュードが大きい地震で、約20箇所くらい)。これでたぶん、理科の教科書で説明されているような、太平洋側から日本海側に向かって震源が深くなっていっている様子が見てよく分かるのでしょう。
 とても大きな日本列島地質立体模型もありましたが、これには触れられませんでした。ただし、中央構造線などについての音声解説は聞くことはできました。
 関東地方の地質模型には触れられましたが、これは陸の部分だけが立体的になっているものでした。
 太平洋の海底地形模型は素晴しいものでした。私が実際に触ったのは、ニュージーランド周辺からオーストラリア南岸付近まででしたが、海底には縦横の溝がほぼ等間隔に刻まれ、1cm四方ほどの網の目のような模様になっています。溝の一部は小さな海嶺と思われる三角形の頂点にあり、その頂点が北に向かうほど西に段々にずれて行っているのがよく分かります。横ずれ断層あるいはトランスフォーム断層の様子が示されているようです。また、遠洋では網の目状の溝ははっきりしているのですが、陸に近付くにつれて堆積物のためでしょうか次第に平坦になっているようです。これほど海底の様子がはっきり分かるのは、垂直方向にかなり拡大しているからでしょう。この海底地形模型は、日本列島周辺など、その他の場所もぜひもう一度じっくり見てみたいものです。
 
●化石
 まず、おなじみのアンモナイトです。初めに数種類触りましたが、とくに印象に残っているのは肋が発達して回りがぼこぼこと出っ張っているものです。
 次に、時代順にアンモナイトの化石に触れました。初めにオウム貝の化石に触れましたが、これは私が知っている現在のオウム貝よりもだいぶ厚くずんぐりしていて感じはかなり違います。それから、アンモナイトの表面に表われる縫合線が単純なものから複雑なものへと変っていく様子を、マンティコセラス(古生代デボン紀、アンモナイトが出現したころ)、セラティテス(中生代三畳紀)、キッチニテス(中生代白亜紀。模様が菊の葉に似ているので菊石と呼ばれる)の3つで説明してもらいました。縫合線は触ってはあまり分からないのですが、縫合線が複雑になることで、隔壁で多くの小室に分かれている殻全体を丈夫にし、かなりの水圧に耐えられるようにしているとのことです。
 さらに、異常巻アンモナイトの1つであるポリプチコセラス(中生代白亜紀)にも触れました。これは、真っ直ぐ伸びてはUターンすることを繰返して折りたたんだように巻いているものでした。
 
 植物の化石は触って分かりにくい物が多いのですが、今回はかなり分かりやすい物に触れました。
 まず、グロソプテリスという、2億6千万年前(古生代二畳紀=ペルム紀)のシダ状の植物です。細長い形の葉のようで、触った感じは細かいざらざらです。これは、大陸移動説の証拠の一つとされている(現在は離れた別々の大陸で見つかっている)そうです。
 次に、古生代石炭紀のレピドデンドロン(鱗木)です。小さな穴のようなのが多数触って分かります。その小さな穴の回りは曲線になっていて、見た目は鱗のように見え、「鱗木」と呼ばれているようです。高さ40mにもなり、大森林を形成していたそうです。
 その他、名前は忘れましたが、触った感じがシダの葉そっくりのものや、クリの葉のような化石にも触れました。
 
 その他にも、ファコップスなど数種類の三葉虫、ラコレピスという形が触ってはっきり分かる1億年前の魚の化石、ビカリアや小形のビカリエラ、恐竜の胃石・糞・卵の化石、カルカロドントサウルス(恐竜)やカルカロドンメガロドン(巨大サメ)の歯の化石、タカハシホタテ(ホタテ貝に似ているがふくらみがとても大きい)などにも触れました。
 地学の教科書でよく出てくるフズリナや有孔虫にも今回触れることができました。フズリナは単細胞で触っても分からないだろうと思っていましたが、石の中のフズリナはポツポツとした小さな突起として分かりましたし、単独でも5mm弱の細長い形(Fusulinaには紡錘形という意味があるとのこと)がよく分かりました。有孔虫は化石としては分かりませんでしたが、1500倍に拡大した20cm余の模型を触ることができました。一見飛行機を連想させるようなきれいな形で、あちこちに孔が空き、羽を思わせる突起も出ていました。
 
●岩石と鉱物
 岩石や鉱物も多数見て、記憶も印象も不鮮明になってしまっているのですが、とくに印象深かったものを記します。
 まず、38億年前の片麻岩、岐阜県で発見された上麻生(かみあそう)礫岩という日本最古の岩石(礫岩そのものは1億5千万年前くらいのもので、その中の花崗質片麻岩が20億年前とされる)がありました。この礫岩は、確かに触って礫が確認できるものでしたが、他の礫岩では3、4cmくらいもある礫が入っているのもありました。その他、古い岩石としては、宮城県雄勝のペルム紀の泥岩(平板で、硯に使われるそうです)やデボン紀の斑糲岩などもありました。
 新しい岩石としては、1914年の桜島の大噴火(大隅半島と陸続きになる)で流れ出した大正溶岩の安山岩、1986年の伊豆大島三原山の噴火(一時全島民避難となった)で出来た玄武岩がありました。これらは触ってとくに特徴を見分けられはしませんでしたが、やはり地球のダイナミックな活動を感じさせます。
 その他、紡錘形の火山岩、溶結凝灰岩、流紋岩、花崗岩(結晶の粒の細かいものから粗粒のものまで、触って少し区別がついた)、砂岩、泥岩、蛇紋岩、チャート、片麻岩(熱と圧力で変成。割れ口は縞状の層)、結晶片岩(どちらかといえば圧力で変成。割れ口は薄い板状)、ホルンフェルス(主に熱で変成。硬くて緻密)など、いろいろな岩石に触れました。
 とくに素晴しいと思ったのは、ペグマタイトです。1つは、煙水晶の大きな結晶が多数並んでいるもの、もう1つは、水晶、六角板状の薄く剥がれそうな白雲母、1辺が10cm近くもあるようなカリ長石(一部双晶になっていると思われる部分もあった)が多数並んでいるものでした。後者のペグマタイトはその素晴しさに何度も触り直していました。
 また、いずれも結晶片岩中に、偏菱24面体の柘榴石、六角柱状の燐灰石、細い六角柱状のエメラルドの結晶が多数入った標本も見事でした。エメラルドの結晶は、その形からアクアマリンかあるいはベリルかなと思ったのですが、エメラルドと聞いてびっくりしました。もう一つびっくりしたのは、太さ7、8cm、長さ20cm近くある大きなトパーズの結晶で、回りには黒水晶がいくつか付いている標本です。これだけ大きなトパーズは触ったことはありませんでした。トパーズの結晶の形は、水晶の6角錐状の頭の部分を少し切り取ったような形で、太い柱面の部分には水平に線がはしっていました(劈開の方向を表わしているのでしょうか)。
 最後に、1辺が5cmくらいの同じ大きさの立方体に切り出した各種の石を、重さ順に持ってみる体験をしました。軽いほうから順に
流紋岩(0.9。あちこちに小さな空隙があった)、砂岩(2.3)、花崗岩(2.7)、玄武岩(3)、橄欖岩(3.3)、黒鉱(4.7
です(括弧内は密度)。重い物ほど下に行くという自然の摂理から、花崗岩の大陸地殻、玄武岩の海洋地殻、橄欖岩のマントルという地球の層構造を体感したような気がしました(ついでに中心部の鉄もあれば良かったと思いました)。なお、黒鉱のような、回りの軽い岩石に比べて重い鉱床を採掘するのは、重さのバランスがくずれやすく落盤事故が起こりやすいという話にも納得しました。
 
 *地質標本館の今後の視覚障害者対応については、ボランティアなど人による対応を重視してほしいこと、展示物の周囲にできるだけスペースをつくって全方向から触れられるようにしてほしいことなど、要望を伝えました。地質標本館側としては、スタッフのガイドのもと一部の大型地形模型に触れられるようにし、また視覚障害者の学習プログラムについても検討するとのことです。
 
 
◆国立科学博物館筑波研究資料センター 筑波実験植物園
 つくば実験植物園でまず私が興味を持ったのは、熱帯から冷温帯まで、世界の多くの生態区が再現されているらしいことです。再現されているのは、常緑広葉樹林、温帯性針葉樹林、暖温帯落葉広葉樹林、冷温帯落葉広葉樹林、低木林(低地性・高地性)、砂礫地植物(山地性・海岸性)、山地草原(低地性・高原性)、岩礫地植物(山地性・海岸性)、水生植物、さらに温室では、サバンナ、熱帯雨林、水生植物(淡水・マングローブ)です。もしかするとこれらの生態区の特徴についてうまく理解できるかもしれないと思って行きました。
 しかし、実際にはこの希望は適いませんでした。やはり実際に触れられるのは葉が中心で、樹形や樹冠についてはまったく体感できませんし、園内を歩いていても各区の境界がはっきりせず(当然だと思いますが、本来の区とは別の区で生育している植物もしばしばあるようです)、また2時間くらいの時間ではボランティアによるガイドと解説で全区画を丁寧に回るのは無理でした。結局、ふつうの植物観察と同じように葉や実を中心に触ることになりました。
 以下、ボランティアのKさんの案内で実際に触れた葉などを中心に、Kさんの植物の名前の由来についての話なども加えながら簡単に紹介します。
 
・メタセコイア、セコイア、スギ、ヒマラヤスギ: いずれも針葉樹だが、メタセコイアは落葉針葉樹。セコイアの樹皮は厚くて綿のようにやわらかかった。ヒマラヤスギの実が落ちたあとの松かさにも触る。
・コナラのハイイロチョッキリによって切られた葉付きの実: ハイイロチョッキリは、コナラの実(いわゆるドングリ。2cmくらいの細長い形)の殻斗に隠れた部分(そこは果皮がやわらかい)に穴を空けて卵を産み、その後枝ごと切り落してしまう。地面にはあちこちその切り落された葉と実の付いた枝が落ちていた。
・シラカシの葉と実: 5枚くらいの葉の付け根の当たりに実がある。葉は、コナラよりも硬めでつるつるしていて、常緑のようだ。実はコナラより小さく丸め。
・メンデルのブドウ、ニュートンのリンゴ: 名前だけは聞いたことはありましたが、触ったのは初めてでした。いずれも栽培は難しそうです。
・キバナアキギリ: 茎が四格形。葉の形が桐に似ているのでこのような名が付けられたそうだが、シソ科の植物。シソ科は茎が四格だとのこと。茎が1辺2cmくらいの四角形のシカクヒマワリにも触りました。
・ムクノキ: 板根だとのことで、確かに根は3つくらいに裂けて広がっていました。(なお、熱帯の温室に入る手前には、名前は忘れましたが、熱帯の木の大きく広がった板根の模型が展示されていました。)
・コバギボウシ: 細長いかための花が茎にそって上から下に多数垂れ下がるように並んでいました。全体をなでるように触ると心地よかったです。形が橋の欄干の擬宝珠に似ているところから名付けられたとのこと。
・カツラ: 葉は円形でやわらかい。遠くからでも甘い匂がしました。
・カクレミノ: 葉が大きく、中央部と左右の3つに分かれていて、バランスのよい形に思いました。名前は、葉の形が隠れ蓑に似ている、ないしはこの木の下で蓑代りに雨宿りしたことに由来するそうです。
・イヌツガ(これは茨城・栃木付近の呼び方で、一般にはコメツガと呼ばれるようです): 針葉で、2cmくらいの細い葉がきれいに斜めに並んでいます。針葉ですが、葉はやわらかそうな感じで、触って心地よかったです。
・コクサギ:葉の付き方が独特で、茎の左右に交互に付くのではなく、左に2枚続いて付き、次に右に2枚続いて付くというふうになっています(コクサギ型葉序と呼ばれ、サルスベリも同ような葉の付き方だそうです)。
・ミツバカエデ(ミツデカエデ)、ウチワカエデ: ミツバカエデは切れ込みが葉の付け根近くまで深いのにたいして、ウチワカエデは切れ込みが浅く全体に葉が大きいです。
・メグスリノキ: ミツバカエデと同じように、葉が3つに分かれています。名前は、樹皮を煎じた汁を目薬として使っていたことからだそうです。
・ガマズミ: 葉の両面に毛があり、触り心地がよかったです。ガマズミの「ガマ」はこの木を鎌(かま)の柄に用いたことから、「ズミ」は染めものに用いたことからきているらしいです。
・ナンバンギセル: 花の先が細くきゅっと曲がっていて、たしかにキセルのような形だと思いました。偶然ですが、ラジオを聞いていたらナンバンギセルの花言葉は「物思い」だとのこと、形からなるほどと納得しました。ナンバンギセルは葉緑素を持たないため、他の植物の根に寄生しているそうです。
・ウツボカズラ:硬くて長く伸びた葉の先が袋状になって下に垂れ下がっています。袋は10cmくらいのものから20cm以上もある長いものまであり、上はすぼまっていて中から出てきにくいようになっています。中に指を入れると、つるつるしていて、半分くらいまでは水がたまっていました。大きい袋には水もたっぷり入ってかなり重いようです。
 
 その他、ホオノキの葉やクルクマの葉(これは細長い葉で、正確な観察ではないかもしれませんが、葉脈が表側に出ていたように思います)をはじめ、いろいろな葉や花や実に触って記憶がぼやけてしまいました。Kさんの解説は面白くて聞き飽きるようなことはありませんでしたが、途中からは雨が振り出しかなり急いで温室のほうに行って、ついでだということでほぼすべての部屋を回ることになり、ひとつひとつを丁寧に触ってみることはできない感じになってしまいました。
 たっぷり約2時間、Kさんと園内を回り、12時に植物園のロビーに戻ってくると、ボランティア数名が和やかな雰囲気で活動しており、私のためにポポーの果実を用意してくれていました。ポポーは私はまったく知らなかったのですが、食べてみるととても甘くてちょっと独特の匂もありました。中には大きな細長い種が数個入っていて、それは記念に持ち帰りました。その他にも、園内で落ちていた新鮮な葉や実を少し拾って持ち帰り、葉は自然乾燥させて標本にしてあります。
 
 これまで私は植物にはそんなに興味はなく、時々葉や花に触れるくらいですが、できることなら、方法を工夫して、木全体、林全体、植物群落の姿などについてもしっかりしたイメージをもてるようになりたいと思っています。
 
(2009年9月30日)