「観測知にふれるハンズオン・ギャラリー」に参加しました

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 10月20日の午後、名古屋大学博物館で行われた「観測知にふれるハンズオン・ギャラリー」に参加しました。
 この企画は名古屋大学博物館と東京大学総合研究博物館の連携企画で、すでに7月から8月にかけて東京大学研究総合博物館で行われ、10月から12月にかけて名古屋大学博物館で行われているものです。私は名古屋大学博物館のHPで知りました。
 企画のタイトルの「観測知にふれるハンズオン・ギャラリー」ではどんなことをするのかよく分かりませんでしたが、案内文には「学術標本を「観察」「計測」「認知」するのは科学の基本プロセスで、フィールドで得られた標本・試料を研究する上で、観察と計測はまずはじめにとりかかる基本的かつ重要な作業です。東京大学と名古屋大学の若手研究者が、2つの大学博物館の標本を集めて「観測知」を理解するための体験ギャラリーを用意しました。」とあり、たぶんいろんな標本を観察し測ったりするのだろう、そしてたぶんその時には標本にも触れられるだろうと思い、申し込んでみました。
 私が参加した10月20日はこの企画の第1回目で、午前と午後に同じ内容で行われ、私は午後の部(2時から4時まで)に参加しました。参加者は子供たちもふくめて10人余で少なかったですが、私にとってはすばらしい体験になりました。11月17日に第2回目、12月15日に第3回目が行われることになっていて、できればどちらかにでも申し込んでみようと思っています。
 ハンズオン・ギャラリーは、次の3つのテーマで、それぞれ専門の研究者の担当で行われました。以下、順番に私が体験したことを書いてみます。
 
●「石の観測知 岩石からみる石器文化」 (解説:門脇誠二)
 考古学専攻をしている方の担当で、私たちが触った岩石や石器の多くも、出身地である北海道で本人が拾い集めた物だとか。
 内容としては、石器の種類とその材料となる岩石を、見たり触ったりして考えてみるというものでした。
 まず導入として、土器の破片が示されます。その土器には縄目の文様がはっきり触っても確認できます。これは縄文土器で、それが使われていた時代の3種類の石器とその岩石が順に紹介されました。
 第1は、ナイフあるいは鏃のように縁が鋭い石器です。全体に薄くて、表面はかなりつるつるしています。この石器の材料は泥岩だということです。そして、門脇さんが実際に左手に10cmほどもある大きな泥岩を持ち、右手に持った石(手触りは砂岩のようでしたが、安山岩だそうです)で左手の泥岩の端のほうを叩きます。そうすると、いくつも泥岩の破片ができて、その破片の縁は鋭くなっています。この破片を紙に押し当てるようにして引いてみると、紙が切れました。これはいわば打製石器と言えるでしょう。
 この泥岩の薄片を、皆さんは顕微鏡で100倍に拡大して見ていました。とても細かな粒子から成っていることが見て分かるようです。私は製作途中の小さな鏃とかなり大きな鏃に触ってみました。小さな鏃は縁はきれいに磨かれているようですが、まだ左右対称にはなっていませんでした。表面には何本も細かい斜目の筋のようなのが触って分かりました。大きな鏃のほうは、長さ10cm、幅3〜4cmほどもあるもので、表面の形はゆるやかに窪んだ曲面(貝殻状?)が何個も並んでいるようでした。まだ製作の初期段階なのでしょう。
 今回触った泥岩は、泥岩の中でもかなり硬いほうだと思います。私は以前緑色頁岩を磨いて鏃を作る体験をしたことがありますが、それよりも少し硬いのかなあと感じました。
 次に触ったのは、幅20cm余、長さ30cmくらいはある、台のような大きな石の塊です。上面はほぼ平たくなっています。この石塊は同じようなのが2つ置かれていて、触った感じは全体としてはざらざらした感じですが、片方の上面がざらついているのにたいし、もう片方のは上面の回りはざらついていますが真中に行くほどざらつきがなくなってつるつるになり、さらに真中は少しゆるやかに窪んでいます。この大きな台のような石の上には、手で握るのにちょうど良いような石が乗っていました。これは、栗など木の実を叩いて磨り潰したりする石器です。片方の台はまだ使われていない物、もう片方は長い間使われて磨り減った所のある物のようです。実際に、まだ使われていないほうの台を使って、参加者が代わる代わる栗を石で叩いて磨り潰してみました。
 この石器の材料は安山岩だということです。皆さんは顕微鏡でこの薄片を見ていました。大きいのから小さい物までいろんな大きさの粒が見えているようです(大きいのは1mmくらいはあるようです)。私は、初めこの石に触った時、そのざらざらした感じから砂岩だろうと思いましたが、よく触ってみると確かに所々粒の大きなのも触って分かります。粒が不揃いのほうが、磨り潰すとき引っ掛かりができてかえって良いとのことです。安山岩は火成岩の一種で、そんなに珍しくなくてどこにでもあるような石のようです。
 最後は、とても硬そうで面がすべすべした石器です。形は、私が小さいころによく触り何度かは使ったことのある「ちょうな」(手斧)とほぼ同じで、大きさは一回り小さい物でした。木を縦方向に切り付けるための一種の斧で、刃先は手前だけが斜めになっていて、木に向う面は真っ直ぐになっています(木を横に切るふつうの石斧では、刃先は両面が斜めになっている)。
 この石器の材料は緑色岩と呼ばれるもので、すべすべしたかなり硬そうな石です。薄片の顕微鏡観察では、とても細かい粒と、ぼんやりとですが細い針のようなもの(アクチノ閃石?)が見えているようです。この石は、海底で噴出した溶岩が起源で、それが変成作用を受けてできてきた岩石のようです。これはどこにでもあるような石ではなく、北海道では日高地方に産し、それが石器の材料として各地に運ばれて使われたようです。
 
●「魚の観測知 数と形でみわける魚の種類」 (解説:黒木真理)
 ここでは、本物の魚の標本に触ることができ、そして丁寧に触察できました。
 内容としては、魚の種類、とくに似た魚の種類の違いを長さを測ったり数を数えたりすることで調べてみるということです。形や大きさや色といった見た目の特徴は、同じ種類でも個体差もありますし、また若い時と成長した時とでも違うので、確実な手がかりとはならないこともあるようです。
 標本として、各人の前に水に入った同じような形の魚が2匹あります。この標本は、まずホルマリン漬けにし、その後エタノールに漬けてホルマリンをエタノールに置換し、それを水に戻したものだということで、わずかに生臭いような気がするだけでほとんど臭いはありませんでした。
 この2つの魚について、それぞれの体長(口先から尾鰭の付け根までの長さ)、頭部の長さ(口先から頭部の後ろの線までの長さ)を測り、背鰭の棘の数、背鰭の軟条の数、臀鰭の棘の数、臀鰭の軟条の数を数えます。長さは私は手でおおよそを測り、補助の方がノギスデ測りました(私は手指を使った計測に慣れているので、ノギスとの誤差は5mm程度でした)。鰭の棘のほうは硬くてなんとか数えられたと思いますが、軟条のほうは1本1本を最初のうちは区別しにくかったですし、また数が増えてくると指ではどこまで数えたかが分かりにくかったりして、あまり正格な数ではないはずです。
 2つの魚をA・Bとすると、私の場合は次のようになりました(補助の学生?が記録しておいてくれていたものです)。
  体長(cm) 頭部(cm) 背鰭棘 背鰭軟条 臀鰭棘 臀鰭軟条
A 18.5   6.0    11   8     3    10
B 16.5   5.2    10   10    3    9
 数のほうは正確ではないのであまり参考にならないとは思いますが、Aはマダイ、Bはチダイだということです。触った感じでも形や大きさはだいたい似ています(チダイのほうがちょっと小さいかんじ)。長さについては、各部の長さよりも、それらの比のほうが大切なのかもしれません。数では、尻鰭の軟条の数の違がマダイとチダイの区別に役立つらしいです。見た目での識別のマークとしては、マダイの尾鰭の回りは黒く縁取られているらしいです。触った感じでは、マダイでは尾鰭が上下にすうっと斜めに伸びているのにたいし、チダイではすうっと水平に伸びているような感じになっていましたが、それは種類の違いというよりも個体差だろうということでした。それから、胸鰭の長さがチダイのほうがかなり長いように感じました(チダイの胸鰭は6cmくらい、マダイの胸鰭は5cmくらいだったように思います。体長との比で比べるとかなりの違いのように思います)。
 私にとっては、計測するとともに、本物の魚を丁寧に触察できたのがとても良かったです。胸鰭や腹鰭はきれいに閉じていて、ふつうに泳いでいる時はこれが普通なのだと思いました(魚の剥製は何度も触ったことがありますが、多くの場合、分かりやすくするためでしょう、胸鰭や腹鰭は少し開いた状態です)。また、閉じていて触っては分かりにくい鰓も、少し開いてもらって触ってみました。縦に長く、かなり大きく開くのですね。魚の振動などを感じる器官だという側線も、触ってゆるやかにカーブしているちょっと浮き出した硬い線として確認できました(側線上の鱗の数もしばしば種類識別のマークになるそうです)。
 もう1つ、水に入った本物のシシャモの標本と、からからに乾燥したカラフトシシャモがありました。私たちがふつう食べているのはカラフトシシャモで、本当のシシャモは高くてなかなか口に入らないようです。本当のシシャモと代用のシシャモの違いを計測によって区別してみようということらしく、体長と吻長(口先から目までの長さ)を測ってみました。数字を控えていなかったのでよく分かりませんが、吻長の違い、ないし吻長と体長の比が識別のマークになるようです。
 タイなど生の魚にもちょっとは触ったことはありますが、ふつうの生活ではこんなに丁寧に触ってみることはできません。また、ただ触るだけではなく、いろいろな所の長さを測ったり数を数えたりして、見た目の特徴だけではなく、数値でもって確実な分類の手がかりを得ようとするやり方も新鮮に感じました。
 
●「機能の観測知 動物の筋骨格系の運動適応をはかる」 (解説:藤原慎一)
 ここでは、ニホンザル、カンガルー、カモシカなど、いろいろな動物の前肢を中心とした骨格標本に触りました。
 内容としては、骨格が関節によってどのように動くのか、また、骨のどの位置に筋が着くかによってその働きがどのようになるのかを、長さを測ったりバネ計りで力を測ったりして調べるというものです。
 まず、各自にいろいろな動物の肩甲骨と上腕骨が配られます。私はカンガルーの骨でした。薄い皿のような三角形の1つの角が反球状に窪んでいて、そこに上腕骨頭の丸い部分が入ります。それで、上腕骨はいろいろな方向に自由に動くことができます。次に、上腕骨のもう一方の関節である肘関節に、前腕の尺骨(内側で太い骨)と橈骨(外側で細い骨)をはめてみます。前腕骨は一方向にしか動かないことが分かります。前腕は確かに回転させていろいろな方向に動かすことはできますが、その時は上腕骨が肩関節で回転しているのでそういう動きができていることになります。
 次に、前肢の伸筋(前腕を伸ばす。上腕三頭筋に相当)と屈筋(前腕を曲げる。橈側手根屈筋に相当)を糸で代用した模型が配られます。伸筋の糸は、上腕骨の先と尺骨の肘からちょっと飛び出した部分(肘頭)を繋いでいます。屈筋の糸は、上腕骨の下のほうの内側と尺骨の先を繋いでいます。伸筋も屈筋も、肘関節を回転の中心として梃子のように働き、前腕骨を動かします。そこで、伸筋については、肘関節から上腕骨の先までの長さおよび肘関節から尺骨の肘頭までの長さ、屈筋については、肘関節から尺骨の先までの長さおよび肘関節から上腕骨の内側の屈筋が着いている所までの長さを測ります。
 私は、ニホンザルとカモシカについてこれらの数値を測りましたが、つい測ることに無中になっていて、数値を記録するのを忘れていました。今よく覚えているのは、カモシカの肘頭はとても飛び出ていて、肘関節からの長さは4cm前後もあったように思います。
 それから、前腕の先に重り(袋に入った粘土の塊のようなもので、はっきりはしませんが50グラムくらいだと思います)を付け、伸筋または屈筋を示す糸の先にバネ計りを付けてそれぞれ引っ張ってみます(伸筋の場合は前腕が伸び、屈筋の場合は前腕が曲がる)。この数値もちゃんとメモしていませんが、だいたいは記憶していて、ニホンザルでは伸筋が500g、屈筋が450gくらい、カモシカは伸筋が200〜250g、屈筋は1kg近くでした(力が小さくて動くほど、筋の働きが強いことになる)。ニホンザルとカモシカを比べてみると、ニホンザルは屈筋が強く、カモシカは伸筋がとても強いということになります。ニホンザルは腕を曲げる力が強くて木登りなどが上手、カモシカは力強く走ることができるということでしょうか。(なお、伸筋または屈筋についての上の長さの比と、バネ計りで引っ張った力と前腕の先に付けた重りの比とは同じになっているはずです。)
 前肢以外にも、2、3の頭蓋骨にも触れてみました。そこで私にとって大発見だったのは、下顎骨が一つになっているのはニホンザルくらいで、カモシカなど多くの動物では左右に分かれていることでした。これまでにも何度も動物の頭蓋骨の模型には触ったことはありますが、私の触察の至らなさなのか、またはばらばらにならないように左右の下顎骨をくっつけた模型だったためなのか、そういうことには気付いていませんでした。でも考えてみると、左右の下顎骨が別々になっていて自由に動くのは草食動物などにとっては便利なことのようです。
 もう一つ驚いたのは、モグラの腕です。腕の骨はとても小さくてよく確認することはできませんでしたが、モグラは伸筋も屈筋もとても強いということです。そして、腕に比べて手の骨がとても大きかったです。幅は腕の5、6倍もありそうで、こんなに大きな手で土を掘り進んでいるのだと感心しました。その他にも、アナグマ、タヌキ、ワニなどの骨もあって、もっとよく観察したかったのですが、残念ながら時間になってしまいました。
 
 今回の企画はハンズオンということでしたが、一般の人たち対象で、私がどれだけ参加し楽しむことができるかちょっと心配しながら行ってみました。でも、これまで経験したいろいろなワークショップの中でも特に楽しみまた学ぶことの多いワークショップでした。補助してくれる学生?が側にいてくれて助かりましたし、何よりも各ギャラリーを担当された方々が私の参加をそんなに嫌がらず、かえって歓迎しているようにも思われました。
 このような企画に参加しての反省点としては、いろいろな測定結果をしっかり点字でもメモすること、またできれば自分でも測ることのできる物差しのようなのも持参することです。今度はそのような準備もして参加してみたいと思っています。この企画のスタッフの皆様、本当にありがとうございました。
 
(2012年10月22日)