十和田市現代美術館

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*2013年8月16日に再度同美術館を訪れ、今度はスタッフの方に常設展示と企画展を案内・解説してもらいました。当日の朝に電話して案内と解説をお願いしましたが、快く引き受けてくださいました。この文章の最後に今回新たに鑑賞した分を追加しています。
 
 8月末に、東京・岩手経由で、わずか三日間ですが、十和田市に帰省しました。暑い大阪から少しでも北に行けばちょっとは過ごしやすいかと思いきや、東京・岩手ともに暑く期待外れでしたが、27日の夜新幹線の八戸駅に到着するととても涼しくほっとしました。十和田市も確かに例年になく暑く日中は32〜33度くらいにもなっていましたが、朝晩はやはり涼しく、毎朝八十を越した早起きの母とゆっくり散歩していました。母はだいぶ腰が曲がり、続けて歩くのはしんどそうでしたが、歩くよりは仕事をしているほうがだいぶ楽だと言って、昼の陽射しの中でも畑仕事をしていました(私にはとても出来そうにありません)。
 次の日に、前から気にしていた十和田市現代美術館に妹と東京の伯父さんといっしょに行きました。人口 6万人余の地方の小都市の美術館が、開館と同時に全国的にも話題となり、今もなおその人気は続いているらしいとのこと、いったい何故なのだろうと、私のちょっと苦手な現代美術ですが、今回早速行ってみました。
 十和田市はいわゆる官庁街通りをアートゾーンとして整備する計画を立て、その中心施設として2008年4月に十和田市現代美術館が開館しました。官庁街通りは、長さ 1キロ余の広い道に桜と松の 4列の並木、両側の歩道も広くて、そこここに花壇や水の流れ、さらには馬などの様々なオブジェが配置され、憩いや散策の場としても良い所です。1986年には「日本の道・百選」(旅慣れている妹に言わせると「道・百選」どころか十分に「道・十選」に入るほど美しいとのことです)に、さらに2007年には「美しい日本の歴史的風土・準100選」に選ばれています。
 美術館の入口ではまず、「フラワー・ホース」(チェ・ジョンファ、韓国)という大きな金属製の馬のオブジェが迎えてくれます。大きくて一部しか触れないのですが、後脚で立ち、前脚は空中高く、さらに頭部は 4メートルくらいの高さになっているそうです。後脚から尾、お腹の下あたりまで触りましたが、全面が、サルビア、バラ、フヨウ、ヒマワリなど、多種多様な色鮮やかな花また花に被われています。伸び上がるような馬の形と、色彩豊かな花々、人の目を引くに十分な作品のようです。
 館の中に入ると、なんと人の多いこと、家族連れなどほとんどが県外からの観光客のようです。受付でしっかり「作品には触らないようにしてください」と言われました(こんな風に直接的に言われることはめったにありません)。たぶん一般の観光客の中にもつい作品に触ってしまう人がしばしばいるからだと思います。私も妹の説明だけで鑑賞し、あえて作品には触らないようにしましたが、ケースに入っていない作品にはほんのごく一部ですがつい触ってしまった所もあります。
 各作家・作品ごとに独立した部屋になっていて、それらが通路でつながっているようです。まず最初に入った部屋は、「スタンディング・ウーマン」(ロン・ミュエク、オーストラリア)。高さ 4メートルくらいもある大きな老女性(妹はロシア人の80歳くらいのお婆さんかな?と言っていました)の像ですが、そのあまりのリアルさにぎょっとするようです。皮膚のたるみやしわ、血管や筋肉、髪の毛の1本1本、さらに目の下のくままで、作り物とは思えないほどの人間の再現のようです(左手には結婚指輪も見えるそうです)。
 その後次々にいろいろな作家・作品の部屋を回ったのですが、順番などもう記憶がさだかでないので、以下とくに印象に残っている作品についてのみ書いてみます。
 「闇というもの」(マリール・ノイデッカー、ドイツ)。この部屋に入ると、独特の匂と空気の冷たさで、まるで異空間に入り込んだ感じ。そこには木々が林立する森が再現されていました。ちょっと木の根やその周りの土に触れてみましたが、ジオラマだと言われないと分からないほど本物ぽかったです(湿り気がないところは本物と違っていましたが)。全体にかなり暗くしてあるようで、ゆっくりと森の周りを歩いて行くと、子漏れ日のように光が差し込んでいる所があり、そこで立ち止まって森の様子を見ているようです。全体に静寂を感じさせる作品のようで、周りの人たちの声も気のせいか小さくなっているようです。私は、生きている森ではなく、そのような気配のまったくしない静寂の森・死の森をイメージしました。
 「コーズ・アンド・エフェクト」(スゥ・ドーホー、韓国)。部屋の高い天井から多数の人型(スタッフの方によれば10万体もあるとか)が連なったものが放射状に釣り下がり、それらが照明の光でシャンデリアのように輝いているようです。色合も、中心が濃い赤、周りにいくにしたがって、オレンジから透明まで変化しているとのことです。それぞれの人型は10センチ余の小さなプラスチックのような感じのもので、それらが互いに肩車をするようにつながっています。私たちはこの無数の人型の中に入り通り過ぎながら、人型とともに回りの人たちも見ることができます。タイトルの「コーズ・アンド・エフェクト」は因果、それは輪廻転生となるわけですが、人型の連なりは輪廻転生を表し、私たちもその輪の中に入っているようにも感じられます。
 中庭にはオノ・ヨーコの「三途の川」「平和の鐘」「念願の木」が。奥入瀬川周辺から拾って来たというきれいな形の玉石が敷き詰められていて、私たちもその上を歩くのですが、それが「三途の川」の作品だとのこと。その一角には、京都の大覚寺で使われていた鐘を貰い受けたという「平和の鐘」があり、実際に叩いて鳴らしてみることもできます。また、「念願の木」というのはりんごの木で、その木には来館者が各自願いを書いた短冊が下がっています(今回訪れた時には、りんごの小さな実がいくつも成っていました)。アイディアはそれなりに理解できますが、これも〈アート作品〉なのかな?とちょっと考えさせられてしまいそうでした。
 入口近くの屋外では、巨大な真っ赤な蟻のオブジェ(高さは6mあるそうです)が目を引くようです。私は足先と触角の一部にちょっと触れてみましたが、大き過ぎてあまりイメージはできませんでした。この蟻は、ハキリアリという種類で、「アッタ(aTTA)」(椿昇)という作品だとのこと。作者のコメントは「コスタリカの熱帯雨林には、有名なハキリアリ(学名:Atta sexdence)が生息している。彼らは細断した木の葉を発酵させ、その上に育つ特殊なキノコを食用とする極めて高度な農耕型社会を築いている。この作品は自然の多様性と文化の多様性を祈って製作した。」ハキリアリの特殊な生態から私たちの現代生活になにか問いかけようとしているのでしょうが……、私にはよく分かりません(それより私はこういう展示があると科学的な興味のほうが強くなります)。
 その他にも、「光の橋」(アナ・ラウラ・アラエズ、スペイン。断面が六角形の光に包まれたガラスのトンネルで、その中を行き来できる。この六角形のトンネルは脊柱を模したとのこと)、「メモリー・イン・ザ・ミラー」(キム・チャンギョム、韓国。水槽の中の魚や鏡に映る人物など、時間とともに変化し消え去ったりして、実像と虚像の境が分からなくなるような作品だとのこと)、「ザンプランド」(栗林隆。ザンプランドはドイツ語で湿地帯のこと。アザラシが覗き見ている天井裏を別の所から来館者が覗くというしかけになっていて、周りの人たちの反応が面白い)、「フライングマン・アンド・ハンター」(森北伸。建物の間の狭い空間に2体の人型の彫刻が浮かんでいるとのこと)等等いろいろ面白い作品があるようですが、ほとんど触ったりすることもなくわずか1時間くらい回って解説してもらっただけでしたので、私が言葉で書けるのはこのくらいです。
 
 視覚中心ではありますが、それにしても十和田市現代美術館は人気に違わずなかなか面白い所だと思いました。それは、作品ごとに独立した部屋になっていてそれぞれ個性ある作品に相応しい展示環境になっていること、またなによりも普通の見え方とは異なった見え方・見方を体験できる場になっているからでしょう。視覚だけでなく、触覚や聴覚・嗅覚などをも刺激し驚かすような多感覚的な展示になっていればなお良いとは思いますが。もう一度行ってもっと時間をかけて回ってみたい美術館です。
 
◆2013年8月16日見学の追加分
●常設展示
 「オン・クラウズ(エア - ポート- シティ)」(トマス・サラセーノ、アルゼンチン)。はしごがあって、それを数段上ると、回りには多数の直径60〜70cmくらいの風船が積み重なった空間の中に入り込みます。体をちょっとあずけてみるとふわふわした感じ。座っても良いかなと思いましたが、安全のためにそれはちょっとしないでくださいとのことでした。空や雲の中での浮遊感を表わした作品のようです。体感的にはとても面白い作品でした。
 「ロケーション(5)」(ハンス・オプ・デ・ビーク、ベルギー)。暗いレストランかカフェのようです。椅子とテーブルもあって、実際に椅子に座ってみました。そうすると、窓ガラスの向こうに、どこまでも続く高速道路の夜景のような像が見えるそうです。実際には高速道路の奥行きは11mしかないのに、だそうです。それは、何本もある街頭のようなものが、一番手前のは高さ4mなのに、どんどん小さくなっていって、一番向こうのは40cmしかないとのこと、つまり遠近法をうまく利用して、視覚の錯覚を起こさせて不思議な感覚をあたえているからのようです。
 
●企画展
 十和田市現代美術館開館5周年記念展として、この4月末から9月初旬まで、「flowers(フラワーズ)」が開催されていて、それをざっと案内してもらいました(展示は美術館内だけでなく、街中でも行われているとのことです)。
 展示会場に入ると、あちこちに、木彫の小さめのやせ犬が。触ってみると、胸から腰の辺にかけて、本当にやせ細った犬です。感触は、木の幹や枝のようなざらざらした感じ。そして、表面は黒いとのことですが、それぞれの犬にはいくつも色々な花がくっつけられています。藤森八十郎の作だとのこと、このやせ犬を101匹も制作したとか。
 その他、いろんな花の絵や写真などが多数(こちらがメインの展示なのでしょうが)ありましたが、ざっと会場を回っただけでした。会場の真ん中あたりには、草間彌生さん(美術館外のアートゾーンのあちこちにも草間さんの作品がある)の鮮やかないろんな色の水玉模様の花(「真夜中に咲く花」)もありました。
 
(2010年9月24日、2013年8月21日追加)