触欲から触力へ:表現者・鑑賞者の立場から

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 8月21日、近畿視情協(近畿視覚障害者情報サービス研究協議会:近畿地区の視覚障害者情報提供施設である点字図書館と公共図書館からなる組織)の点字製作委員会主催で、表記のタイトルで講演会の講師をしました。場所は日本ライトハウス情報文化センター4階会議室、参加者は20人くらいでした。
 まず初めに30分近く、私の木彫作品5点を皆さんにゆっくり見て触ってもらいました。その後1時間ほど話し、その後皆さんからの感想や質問などに応じました。以下に、当日配布したレジメに一部加筆して掲載します。
 
◆ミニ作品展
●なつかしのバック宙 (2018年5月 高さ21cm、幅15cm、奥行21cm)
 若い時に、トランポリンでバック宙をした時のイメージを思い出して作ってみました。今飛ぼうとしているところです。マットではまったくできませんでしたが、トランポリンで繰り返し練習して初めて1回転できたときの感覚は今も覚えています。
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●花トロフィー (2014年 直径10cm、高さ28cm)
 チューリップの花をよく触って作ったものです。花弁は内側と外側に3枚ずつ、おしべは6本、めしべは先が3つに別れています。花びらに囲まれた空間は、ふわっと暖かみを感じることがありました。茎を持って掲げてみてください。
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●手ひらく (2016年10月) (幅16cm、高さ21cm、奥行11cm)
 花瓶に、花が開くようにきれいに手が開いた形をイメージして作りました。なかなかきれいという訳にはいきません。もう少し指が開いたほうがよさそうです。安心して座れる椅子にもなりそうです。
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●生きているアンモナイト (2018年7月 長さ23cm、幅13cm、厚さ4.5cm)
 アンモナイトと言えば、化石で残っている部分だけを思いますが、目や口や足もあったはず。生きている姿を想像しながら作ってみました。
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●航(わたる) (2015年6月 30×15×7cm)
 大洋や天空をわたる船をイメージして作りました。船首の鳥(タカ?)と両舷の魚(サメ)に導かれ、人がその導きに身を任せて天を仰いでいます。
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◆はじめに:自己紹介
●小さいころ
 何が何だか分からず、とにかく触っていた。危険だったり、壊したりも多かった。
 (例:柱時計の「カチ カチ カチ カチ」という音にひかれて、時計の中がどうなっているか調べようとして、壊してしまう。
    父が作ったひよこを飼育するケージがどうなっているかを知りたくて、中に入ってしまい、壊してしまう。)
 *そりをつくろうとした:6歳のころ、のこぎりを使い、トタンをはさみで切ってそりの底に釘で打ち付ける。 → 目的をもって触り、手を動かす
 
●盲学校時代
 触る教材はそんなになかった(小学校4年の時、初めて触地図に触れる。6年?の算数の教科書にあったバケツの図にびっくり!)
 中学の美術(あるいは技術家庭?)の授業 (校外に粘土を取りに行って、泥人形のようなのを作る。先生が点線で描いた輪郭線をなぞって、絵を描いてみる。)
 
●その後
 若いころは主にデパートでいろいろな物に触らせてもらった。古道具屋や骨董屋などにも行くこともあった。20年ほど前からは、美術館や博物館によく行くようになった。
 また、自然の中にも多くのさわりがいのある物がある。例えば、植物、石(とくに鉱物の結晶)、貝、化石など(生きている動物は、触って観察するのは難しい)。 → 自然の中のふしぎ、美
 
 
◆何のために触るか
 触りたいからとにかく触る、というのも、きっかけとしては良い。
 しかし、触ろうとしても触れない物、危険な物、いくら触っても何だかよく分からない物も多い。
  (直接触れられないものの例として、炎がある。しかし、例えば、大きな焚火の側で紙をかざしてみると、下のほうでは内側に吸い込まれるようになびき、上のほうでは上向きになびく。炎が、下のほうで空気を取り込み、上に向って空気を動かしていることが分かる。 → 炎を空気の循環として体験)
 それにもかかわらず、なぜ触ろうとするのか、触りたいのか?
 私の場合は、次の2つが目的になっている。
●触ることで、よりよく知ることができるのではないか:論理的・概念的な面
●触ることで、新たなおどろき、すごさ、うつくしさといったものを体感できるのではないか:感性的な面
 
 
◆触ることでひろがるイメージの世界
 イメージすること(≒ここでは頭の中に像を思い浮かべること)は、潜在的には、見える・見えないに関係なく、すべての人たちが持っている力。
 
●イメージする力を引き出すには、それなりのトレーニングと経験が必要
 イメージは初めはぼんやりとしたもの。そのままでは表現するのは難しい。イメージをよりはっきりさせて、概念化したり具体的な像にするには、論理的な思考や具体物との照合が必要。見えない人の場合は、できれば実際に物に触って体感することが必要。
 特に、3次元を論理的にイメージする力がつくのは、10歳以降(小学高学年から中学)ではないか。私の場合、中学の数学で、空間の位置を座表で表現する方法を学んだのがよかった。また、実際に自然の物に触れたり、デパートや博物館などに出かけていろいろな物に触ったりすることで、言葉で得た知識も、より明確な、実感のあるイメージとすることができた。
 
 
◆イメージを表現する
 物に実際に触りながら、その触覚印象をそのまま忠実に作品にするのは、私にはほとんど困難。
 物に触り、その形や印象・特徴などを頭の中に入れて全体的に組み立て(この段階で自分なりにかなり抽象化している)、それを可能な範囲で作品にしている。
 
 
◆視覚印象と触覚印象の違い
 視覚では遠い所にある物は小さく見えるが、触覚では物の大きさや形は距離に関係ない。
 視覚では見る方向によって形が変化するが、触覚ではあまり変化しない。
 視覚ではしばしば1方向から見える面だけに注目するが、触覚ではふつう全方向から触り、ときには内部や内側の面まで触って、全体を把握しようとする。
 
 *見えた経験のない人の作品には、これらの触覚的な見方が当然反映しているはず。ただし、見た経験がなくても、視覚的な見方は理解できるので、作品に視覚的な見方を取り入れることも可能。
 
 
◆触って理解する力をつけるには
・ゆっくり時間をかけて、考えながら、繰り返し触る
・初めから説明してもらうのではなく、まずできるだけ自分だけで触って、全体の形や特徴を自分なりにとらえるようにする(そうすることで、触った時の直接的な感動を味わえることもある)。その後で、説明を聞いてもう 1度触って確かめてみる。
 
・手指の動かし方のコントロール
・触る物と自分の位置関係
・部分をつなげて全体へと組み上げる
・基準になったり、手がかりになる場所や特徴を見つける
・全体と部分の関係を何度も往復して、全体像を得るようにする
 
 
◆木彫を始めたきっかけ
(「イメージを形に―清里高原で木彫展を開催―」 『月刊 視覚障害』No.362 2018年7月号)
●きっかけはペンギン
●どうやって彫っているの?
●皆さんに観てもらって作品になる
 
*会場からの質問の中に、点字触読の苦手意識をなくすには、というのがありました。
 これについては、まず推測読みを勧めます。1字1字正確に読めなくても、その文字の前後の文字から推測し、また、前後の単語や文脈から、その単語を推測して読んでいくことを勧めます。(このような推測読みには、それまでの読書経験や日本語にたいするセンスが大きく影響する)。触読では、1字1字正確に読むこととともに、それを読んで自分なりに意味を取れるようになることが大切。読む速度が遅くても、またしばしば間違えても、自分なりに意味を取って読み進めれば良い。(技術的には、手指をゆっくり水平に動かしていくこと、および両手読みができるとなお良い。)手
 また、点字で本を読むまでは行かなくても、例えば自分の名前や日常使っている物に付けるラベルなどを自分で読み書きできるようになれば、点字にたいする苦手意識はだいぶなくなるようだ。
 
(2018年9月10日)