エーデルを使った触図作製の勉強会
10月中旬から12月にかけて、職場のスタッフやボランティアの協力を得て、隔週で表記の勉強会を行いました。定員は15名としていましたが、申し込みが多く参加者は25名になりました。
以下に、勉強会の時に配布した資料を、一部修正・追加して公開します。
目次
第1回: オリエンテーション、見える子と見えない子の違い、触図の触り方
第2回: 各種の触図の作成方法とその特性、および触図作製上の一般的注意
第3回: エーデルを使った作図法の目安
第4回: 図の注や説明文の作り方
第4〜5回: 課題図の検討
オリエンテーション、見える子と見えない子の違い、触図の触り方
●勉強会の目的
通常校に通っている盲児のための教科書の図について、触知の特徴やエーデルの限界をわきまえたうえで、いかにして分かりやすい触図(およびその説明文)を作製できるかを学び合う。
●対象
エーデルを少しでも使ったことがあり、教科書等の点訳をしている人ないしこれからしようとしている人
●場所
盲人情報文化センター会議室1
◆勉強会の趣旨
点訳ボランティアが触図を作成する方法として、立体コピーとエーデルがよく使われる。
(立体コピーについては、私は図の分かりやすさなどについてはコメントできても、図の作成方法についてはほとんどなにも分かっていない。立体コピーについても、だれか適当な方を中心に勉強会のようなのをやってほしい。)
エーデルについては、2つの評価があるようだ。
@無料で、手軽に図を描けてとても便利 (外国にはこんな便利なソフトは今はないようだ)
Aエーデルの図は(とくに盲学校用の点字教科書の図と比べると)分かりにくい。安易に図を描き過ぎているのでは?
この勉強会では、だれでも手軽に描けるというエーデルの利点を生かして、触知の特徴やエーデルの限界を意識しつつ、触ってできるだけ分かりやすい図を描く方法について、皆さんの経験やノウハウをできるだけ取り入れて学んでゆきたい。
1 はじめに: 見える場合と見えない場合の違い(子供を中心に)
1.1 環境の違い、発達の違い
見える場合、ごく幼いころから、親や回りの人たちの豊かな表情を伴ったはたらきかけをはじめ、テレビ、絵本、ビデオなど、多くの視覚情報に接し、それとともに見る能力もごく自然に向上する。適切な時期(感受性期・敏感期)に適切な刺激を与えることが大切(注)。
(注)視機能の発達では、 1歳半くらいがもっとも感受性が高く、 8歳くらいまで続くとされる。この期間内に適切な視覚刺激を受けないと正常な視機能が得られないことになる(例えば、ぼやけた像ばかり見ていると弱視になることがある)。なお、聴覚について、絶対音感や言語発達については 5歳くらいが臨界期だとする研究もある。しかし、視覚以外の諸感覚についてははっきりしたことはあまり分かっていないようだ。もちろん、人間の脳は極めて可塑性が高く、臨界期を過ぎてからでも実際に学習は可能であることが多い。
これにたいし、見えない子供の場合は、新生児期を過ぎると(注)、普通の状態では発達段階に応じた触覚的な刺激・情報が与えられることが少なくなり、そのため触知能力が未発達のままになることがある。(見えない人たち=触知能力が優れているとは言えない。)
(注)新生児・乳児期では、見える・見えないにかかわらず、親との直接接触などを通じ、皮膚感覚をふくむ体性感覚が重要である。
こうして、見える子の視知覚は小学校低学年ころまでには、遠近感などもふくめ十分発達しているが、見えない子の場合は、小学低学年ころでは触知覚はまだ未熟で、両者の図の読み取り能力や理解力には大きなギャップがある。見えない子どもたちは、その後多くの適切な触察経験を積むことで、中学牲くらいになってようやく触知能力がかなり発達し、触図の理解力も着いてくる。
小学校の教科書でもかなり複雑な図が出てくるが、その意味を十分理解できるかどうかは別にして、見える子どもたちはたいして抵抗なく図を見ているようだ。見えない子の場合は、触知覚の基礎をふまえて、低学年ほどできるだけ簡略化し、特定の、もっとも伝えたいと思われる意味だけが伝わるように作図したほうが良い。
1.2 視覚と触覚
●視覚の特徴
・遠隔的
・全体的
・空間的
・分解能が高い
・モダリティ:明暗、色、形、遠近感、質感など
●触覚の特徴
・直接接触
1ミリでも離れていればまったく分からない。指先が実際に触れている所しか分からない、というのが基本。
・部分的
触っている所しか分からない。そのため、見落としが多い。点字では、行頭が空いていて行末に数文字書かれているような場合。図では、メインの図部分から離れて右下などに小さく描かれている場合。
・継時的
指を連続的に動かすことで、各部分の情報を頭の中でつなぎ合わせ、全体イメージに近づくことができる。触知覚では、この指の動かし方がポイントになる。
・分解能が低い(注1)
触覚の2点弁別閾は、まったくの静止状態では 2ミリくらいだが、指を微妙にゆっくり動かしている状態では 1ミリくらいになる(注2)。触図では、 2ミリ以下の細かい変化を正確に読み取るのは難しい。
(注1)視覚の2点弁別閾は、 1.0の視力で30cm離れた場合で 0.1mm。さらに、視覚ではルーペ・顕微鏡・望遠鏡といった分解能を高めるための道具があるが、触覚についてはそのような物は今のところ無い。
(注2)触覚は高さの違いにはかなり敏感で、0.1ミリ以下の凹凸の差でも十分識別できる。高さの識別については、視覚とあまり遜色ないようだ。
・モダリティ:形、高さ、テクスチャ、温度など
視覚用の図で用いられている様々の表現法の中で、触覚用の図である程度生かせるのは形や高さやテクスチャに限られる(エーデルの図では形が中心になる)。触覚では例えば温度の違いも重要な手がかりになる(例えば熱帯から寒帯までの地域の違いを温度の違いで表すとか)が、それは技術的には極めて難しい。
以上のような視覚と触覚との違いからも分かるように、視覚では、図が全体としてうまく描けていれば細かい部分の乱れなどはたいして気にならないようだが、触知では、触図の各部分が丁寧に描かれ十分読み取り可能なことが、分かりやすい触図のための前提となる(部分を疎かにしないこと!)。
1.3 触知の仕方
触覚では、まずは直接触れている小部分のみについてしか知ることができない。それから、手・指を順番に動かして行って、各小部分についての情報を順番に(記憶にとどめつつ)つなぎ合せ、全体について頭の中でイメージをつくり上げていく。(またこれとは逆の方向で、大まかな全体イメージから各小部分を見直してゆき、より確実な全体像をつかんで行く。しばしば、部分から全体、全体から部分への往復を繰り返すことになる。)
すなわち、触知のためには、@触覚の鋭敏さだけでなく、A手の動かし方、B頭の中で全体のイメージを組み立てる能力が、より重要である。
そして、とくに見えない子の場合、Aの手の動かし方とBの全体イメージの組み立て方について修練が必要になる。(注1)(注2)
(注1)見える子の場合、手のスムーズな動かし方もふくめ、触覚は目との協応によって育っていく。見えない子の場合、目の助けが得られないため、手のスムーズな動かし方(例えば手を水平に動かすなど)や全体をイメージする力が発達しにくい。そのため、手の動かし方など触知能力を高めるためのプログラムが必要になる。
(注2)見えない場合でも、積極的に行動する子供の場合は、試行錯誤するうちに手のスムーズな動かし方などを経験的にある程度身に付けることもできる。また最近は、幼児期から点字をふくめ見えない子どものための特別な教育の場もあるし、「テルミ」など優れた触覚教材もある。
【参考図】視覚では一つのまとまった図ないし互いに関連した図として容易に理解できるが、触覚ではばらばらの図として見られがちな例。
例1 台形の各辺の一部が途切れている
例2 菱形の各頂点に点がある
例3 水平に移動すれば一つの長方形になる
例4 回転図形
【関連図】大陸が別れて移動することによってできた大西洋 (南米の東岸とアフリカの西岸のように、離れた部分の比較は触知ではかなり難しい)
【補足】図の大きさについて: 触図化する場合できるだけ大きく拡大したほうが良いとは一概には言えない。単純で空白部の多い図は、大きく描くと全体の形や配置がかえって把えにくくなるので、例えば手のひら以下の大きさにしたほうが良い。
2 触図をどんな風に触るか
[以下は、数年前私もふくめ数人の点字使用者(いずれも成人)に聞き取り調査をしたときの結果も参考にしてまとめたものです。]
触察では、手の動かし方、手の動きのコントロールの仕方がとても大切。普通は、手を左から右、上から下に動かすことが多い。
2.1 上下方向の確認
視覚ではどういう方向で見るかは多くの場合瞬時に判断できると思う。
触図では、触る方向を決めるのに数秒から10秒くらいかかることがある(とくに図だけを渡された場合)。
点字が書いてあれば、点字の読める方向が正しい方向だと分かる。ときには、上や北を示す矢印なども有効なことがある(とくに、地図などで東西南北からずれて斜めに描かれている場合など)。
点字の本の中の図では、図のタイトルの後やページ行に
(横書き)
などと書くのがもっとも確実。
2.2 可能ならば図の全体像を予想してみる
図のタイトル、あるいは図の前の文章から、おおよそどんな図なのか予想できることがある。この予想がだいたい当たれば、かなり高率よく図を理解できる。
(しかしときには、予想が図の細かい部分の見落としや誤解につながることもある。)
2.3 両手を使う
点字の触読では、主に人差指の指先が使われるが、平面的に広がっている図を効率よく触知するには、両手を使い、かつ指先だけでなく、必要に応じて掌全体も使う。
掌全体を使うことで、ごく大ざっぱではあるが全体の大きさや形を短時間に知ることができる。
ただし、手の部位によって触覚の鋭敏さが異なる(指先がもっとも鋭敏で、指のそれ以外の部分や手掌はかなり鈍い)し、また、手全体を乗せただけでは、指と指の間、掌の中央部などは、まったく図に触れていない。
このような、両手全体を使った触知の弱点を補うには、手指の系統立った運動が必要。
2.4 手がかりの発見
手指を系統的に動かすためにも、図中の何らかの特徴・手がかりを把えることが大切(部分的な特徴・手がかりでよい)。
手がかりの例: 上下・左右のどちらに広がっているか、全体として円っぽいか角張っているか、対称的になっているか、基準となるような線や形があるか、幾つかのまとまりに分かれているか
2.5 手指の動かし方の例
ごく一般的な場合:
@図全体をざっと触っておおよその形、特徴などの情報を得たうえで、それと関連づけながら各部分の情報を得るようにする
A基準となる点を決めて、その基準点に一方の手の指を置き、他の手の指でそれとの位置関係を把握しながら他の地点の部分の情報を得、それらをつなぎ合せまた各部分の関係を考慮しつつ、全体の形や特徴を把握する
左右対称な図の場合:
B互いに対応する部分にそれぞれの手指を置き、両手指を同時に水平または垂直にスキャンするように動かして、面的に漏れなく情報を得るようにする
左右・上下の図・部分を比較する場合:
C対応する線を各手の指で同時にゆっくりたどり、共通点・相異点を把握する。または、まず1つの図・部分に集中してその特徴を記憶し、それと比較しつつ他の図・部分の特徴を調べる
各種の触図の作成方法とその特性、および触図作製上の一般的注意
1 触図の作成方法とその特性
1.1 いろいろな触素材を貼り付けて作成する方法
紐、布、木材、ゴム、種々の材質の紙・サンドペーパーなどを、台紙など土台となるものに貼り付けて触図を作成する。ルレットで点線を入れたり、製図用テープで線を示したり、タックペーバーなどで点字の書き込みを貼り込んでも良い。
●長所
線や面、花や動物など、図の構成要素ごとに素材を変えることで、それぞれの素材の触感の違いで極めて明瞭に図の構成要素を識別できる。
幼児など、触経験の少ない者にも楽しんでもらえる。
●短所
まったくの手作業で時間がかかる。
複製もかなり難しい。
形の細かい表現にはあまり適していない。
1.2 点図による方法
点字用紙に点で打ち出す方法。点字と類似の触感なので、触読者には慣れている。
@亜鉛板を使ったエンボス製版
点字教科書などの点字出版で用いられている。
●長所
点の大小、点の高さ、点の間隔などをほぼ自由に調整できる。
点以外の、短い線をつなげた破線、三角印や十字形なども使うことができる。
紙面の裏に出した点を使うことにより、図の表現力が増す。
1枚の原版から大量に複製できる。
●短所
原版の製作には、熟練した職人的な技術が必要。
多様な表現は可能だが、それだけそれを読み取る触知力も必要になる。
(例: 『USJスタジオ』
Aエーデルなどの点図描画ソフトを使って点字プリンタで出力する方法
点図描画ソフトとしては現在エーデル(EDEL)、 BES、点図くんがある。ソフトが無料で、自由に曲線が描け、図の打ち出しに点字プリンタとしてかなり普及しているESA721を使えるため、エーデルがもっとも広く使われている。以下は主にエーデルの場合である。
●長所
少しソフトの操作に慣れれば、だれでも画面上で簡単に触図を作製できる。また、修正や作り直しも簡単。
データを共有すればどこででも複製できる。
裏面用のデータを作製することにより、裏に出した点も使える。
●短所
点以外の表現ができない。
点の大きさが大・中・小の3つに限られる。(大と中の点は判別しにくいことが多い。
点の高さが調節できない。
斜めの線や複雑な曲線では、点間隔が一定しなかったり、段差が付くようにずれて滑らかにたどれないことがある。
画面上ではきれいに描けていても、プリンタで打ち出してみると細かくずれて乱れていることがよくある。また、プリンタが誤動作することもあり得るので、その都度うまく打ち出されているかどうかを確認することが必要。
複製は簡単にできるが、打ち出すプリンタが違えば、また使用する用紙の厚さが違えば、細かい部分では差異が生じる。
エーデルで書かれた点字は多少読みにくい感じがする。
※ BESでは、グラフィック機能を使って、四角、円、放物線などやそれらを組み合せて、簡単な数学的図を作成できる。点字データと共通のファイルに入れられるが、グラフィック中の点字も本来の点字行にしか書けない。
点図くんはソフトとしてはもっとも優れているようだが、有料であり、またその機能をフルに表現するには特別のプロッターが必要なこともあって(最近はESA721も使えるようになった)、あまり普及していないようだ。私は点図くんによる触図をほとんど触ったことがない。
1.3 立体コピー
原図を、まず発泡剤を塗ったカプセルペーパーにコピーし、それを立体コピー現像機にかけて熱処理し、原図の黒い部分が発砲することで浮き出させる方法。
●長所
原図は手描きでも、また一般の描画ソフトを使って描いても良い。原図さえできれば、拡大や縮小もふくめ、簡単に作成できる。(KGSより発売されている立体コピー作成機ピアフでは A3判まで利用できる。)
触感は軟らかめでよい。
点図では点が基本だが、立体コピーは線や面を使った表現に優れている。
工夫すれば、盛り上げの高さの違いをある程度調整できる。
複製も簡単。ただし、仕上がりにはむらがあることがある。
●短所
浮き出しの濃さは加熱温度に左右され(温度が高いほど濃くなる)、温度調節しなければならない。
小さな点や細い線はぼやけてしまい、原図の通り浮き出すとは限らない。
点字パターンを直接浮き出させることはできるが、そのさいは発泡による膨張を考慮して、点の大きさはやや小さめに、点間隔はわずかに広めにしたほうが触読しやすい(注)。
(注)立体コピー用の点字フォントがインターネット上で公開されている。たとえば、日本ライトハウス点字情報技術センターの墨点字フォントの「点字線なし」が適している。
複雑な輪郭をクリアに表しにくい。
長期間の保存には向かない。
(例: 『人体の構造と機能 解剖・生理』の図譜版、絵本「グリとグラ』)
1.4 サーモフォーム
元々は点字の複写装置としてアメリカで開発されたもの。原版の上にプラスティック製のシートを被せて熱処理し、シートを軟化させた上でコンプレッサーで下から空気を抜いて原版とシートを密着させることにより、原版の凹凸を極めて正確にコピーする方法。
●長所
5mmくらいの高さまで、原版の凹凸をかなり正確に表せる。
凹部もふくめ、数段の高さの違いを立体的に表現できる
(サーモフォームの地図では、川や湖を凹で表すことが多い。この場合は、裏から触れば凸の線や面としてしっかり触知でき、また別の手で表からも同時に触れば、表に凸で示されている地形等との位置関係もよく分かる。)
交差している線の上下関係も分かる(文字の書き順も、線の上下関係から判断できることがある)。
線や面の縁部の細密な形を明瞭に表現できる。
触って判別しやすい各種の面記号を使える。
●短所
シートが堅めで吸湿性がないためだと思うが、長い時間触っていると疲れる。
熱に弱い。
原版作成にも、複製するにも、かなりの手間と時間・熟練を要する。
※サーモフォームは現在、原版作成の難しさなどのためだと思うが、ほとんど使われなくなってきた。しかし、触図作成法としては今でももっとも表現力が大きく、地図や臓器など複雑で正確さを求められるような触図には、サーモフォームの利用を期待する。
※最近、サーモフォームと同じような原理で、数センチの立体表現が可能なイギリス製の「Vacuum Former」が、ジェイ・ティー・アールから発売されている。
(例: 『指で読む世界地図帳』、『東京電車の乗り方』の図版)
1.5 発泡印刷
シルクスクリーン原版を作り、発泡剤を混入した特殊なインクでシルクスクリーン印刷をする。印刷した用紙を加熱すると、インクが発泡して盛り上がる。
●長所
大量部数の印刷ができる。
点字と併用して美しい印刷物ができる。
ある程度細密な表現が可能。
紙は軟らかめで、手触りは良い。
●短所
印刷にばらつきが生じることがある。
盛り上がりの高さは低めで、点図ほどには線や面の輪郭がクリアではない(とくに長い時間が経った場合)
(例: 『初等地図帳』、絵本『てるみ』)
1.6 紫外線硬化樹脂(UV)インクによる方法
紫外線を照射するとその樹脂が瞬時に硬化してしまう特殊な光硬化樹脂を原料としたインクを用いて、印刷部分を凸状に盛り上げる。最近印刷技術が進歩し、一般にもかなり使われるようになっている。
●長所
大量部数の印刷に適している。
透明なインクを使えば、普通の印刷面の上に重ねて印刷して、見える人と見えない人が共用できるいわゆるユニバーサルな印刷物が提供できる。
●短所
広い面では、盛り上がりの高さにむらができることがある。
細密な表現にはあまり向かない。
(例: 絵本『ゾウさんのハナのおはなし』、『新版 100億年を翔ける宇宙--さわるカラーグラビア--』
【補足】見えない人が文字や簡単な図を描く道具として、レーズライターがある。これを触図作製のために使うこともできる。ただし、線は1種類に限られまた保存しておくのに適しておらず、教科書等の触図用としては不向きである。
[レーズライター: シリコンゴムなど弾力性に富む下敷き(盤)の上に、塩化ビニル製の特殊な用紙を乗せ、その用紙の上でボールペンなどで線を描くとその部分が浮き上がってくる。表面作図器ともいう。]
※1以上の内、点訳ボランティアが普通に使いやすいのは立体コピーとエーデルなどの点図ソフト。ごく大ざっぱに言って、触知覚の初期段階・低学年では、輪郭線中心の点図よりも、面的な表現に優れた立体コピーのほうが適している場合がある。
※2エーデルや立体コピーで作製した触図に、さらに手作業でルレットや製図用テープで線を加えたり加点器で点を加えたりすることで、より分りやすい触図に仕上がることもある。
2 触図作製上の一般的注意
2.1 図の処理の仕方
原図をどのように処理するかについては、次のような場合が考えられる。
@触図化する
A触図と表または説明文
(触図だけでは表現しきれない事柄、触図の中に書ききれない事項を、表形式または説明文で示す)
B表形式または説明文だけ
C省略する
この勉強会では、上の@とAの場合が中心になる。
2.2 図を省略したり、説明文や表形式に置き換えても良い場合
@原本の(文章による)説明だけで図の内容が十分表されていると判断できる場合
A原本の本文の説明文中に、点訳者が図から読み取れる必要な情報を簡単な文章にして付け加えることで、図の内容が十分理解できる場合
B折れ線グラフ、円グラフ、棒グラフ、帯グラフなどで、原図に詳しい数値が記入されている場合は、数値のみを表形式に置き換えても良い。
【補足】数値を省いたグラフと表形式の両方で示しても良い。グラフは表形式よりも変化の様子や違いを短時間で明瞭に知ることができるので、とくに教科書点訳では表形式とともにグラフも付したほうが望ましい。
※グラフ中に数値が記されていない場合、一般の点訳書では概数を読み取って表形式で示す方法も取られるが、教科書の点訳では、できるだけ数値の読み取りは避け、そのままグラフ化するほうが望ましい。(原典や別資料で正確な数値が調べられるならば、表形式とグラフで示しても良い。)
C原図を触図化しても読み取りが極めて困難だと思われる場合は、図で伝えたい内容について文章化しても良い。
【補足】このような場合でも、図の概形や触って識別できそうな部分だけを触図化し、その他の詳しい内容については文章(表形式でも良い)で説明しても良い。
D類似の内容を示す図や写真が数枚あった場合、その中で触図化しやすくかつ意味が伝わりやすい物だけを触図化し、他は省略しても良い。
E写真や挿絵などで、原本の内容の理解のためにさして重要でないと思われる場合
(写真や挿絵に添えられている言葉はできるだけ点訳したほうが良い。)
※これらの場合でも、触図を描くことにより、本文の複雑な説明が分かりやすくなったり、変化の様子が把えやすくなったり、比較が容易になったりすることもある。実際に図を描くかどうかは、原本での図の役割や目的、利用者の目的などを勘案して判断するしかない。
例1図: 「火山の形の違いと噴火や噴出物の様子」 (三原山と雲仙普賢岳につき、火山の形・噴火・噴出物の様子を示す写真計6枚。すべて簡単な説明文に置き換える)
例2図: 「人の目とカメラ」 (人の目とカメラだけを触図化し、人の目とカメラの各部分の対応関係については表形式で示している。)
2.3 本文と図の区別の仕方
図版について、本文とは別に図版だけをまとめて別冊にする方法と、本文の中に差し込んで行って通しページにして1冊にまとめる方法がある。
本文と図を1冊にまとめる場合、本文と図の部分を区別するために、図全体を枠囲みなどにするのが望ましい。
ただし、図全体が1ページ(または数ページ)にうまく収まっていて、本文と図が完全に別ページになっている場合は、枠囲みなどは無くても良い。
なお、図の下に枠囲み閉じが来る場合、図と枠閉じの間に1行程度空白部を入れたほうが良い(そのために枠閉じが図のページに入らないならば、枠閉じは次のページの先頭に入れる。)
※算数の教科書などで、図に番号やタイトルが無く単純な図が主の場合は、本文と図の区別は行空けにしても良い。(この場合、図の下に本文が 1、2行入る場合は、本文の見落としを避けるため、その本文は次のページに回したほうが良い。)
2.4 図の注について
注はできるだけ実際の図の前にまとめる。
順序は、原本の注、点訳者の注(必要に応じて、図の位置や見方、図の概略、図で省略した部分や大幅に手を加えた所など)、略記や凡例等。
(出典については、原図で図の下に書かれている場合、触図でもとくに位置を変えずにそのまま図の下に書いても良い。)
原本の注と点訳者の注を分けずにうまく組み合せたほうが分かりやすくなることもある。
※とくに図の見方や概略をうまく説明できれば、読み手はそれに従って図を見ることができるので、安心して効率よく図を理解できる。
【例示】 3つの円の大部分が重なった図
半径6cmの3つの円を、各円の中心が1辺2cmの正3角形の頂点に位置するように描く。
この図は、視覚では3つの円から成っていることは容易に分かるだろうが、触覚では、交差が多くその度ごとにどの方向にたどって行くか迷うため、3つの円の組み合せという図全体の構成を理解するのはなかなか難しい。3つの円の線種を相異なるものにすれば、触覚による理解はかなり改善はされる。しかしそれに加えて、図の初めに注として「図は大きな3つの円から成っていて、大部分が重なっている」というような説明文を入れ、あらかじめ図の概略を示し図の見方を方向付けるほうが、触覚による理解をはるかに容易にする。
※図の注や説明文と図本体とが見開きの配置になっていると、図全体としてとても見やすくなる。
2.5 略記・凡例
一般の略記は点字2マス以上が良い。
略記としては、実際の言葉の語頭の文字など、記憶・想起しやすいものが望ましい。(安易にアルファベット順や数字順の略記を多用しないほうが良い。)
図記号による凡例はできるだけ少なく(4、5種程度まで)。
(一般に、図記号による凡例よりも、それを示す文字ないしその略記を使用したほうが望ましい。)
【補足】
1. 電話やトイレやエレベータや色々な建物などを示す図記号はできるだけ種類を限定し、円、四角、三角、菱形、×印などごく単純な形のものを使うほうが良い。また、これらの簡単な図記号と「デ」「ト」「エ」といった略記号をセットで使うと効果的である。
2. 教科書点訳では、天気図、回路図中の記号はほぼ原図の記号の形のまま触図化している。また、一部の地図記号や各種のマークなどについても触察可能な範囲でできるだけ原図の記号の形に似せて触図化したほうが良い場合もある(記号の形そのものが試験問題になったりする)。
●略記の説明の仕方について
@数が少ない時(10個以内)は、図で触るであろう順番(上から下、左から右)に
A数が多い時は、五十音順やアルファベット順に
B略記の種類をいくつかに分類し、その小分類ごとに説明する (そのほうが、理解しやすいし、記憶にも残りやすい)
2.6図中での文字の書き込み
図中における略記等の文字の位置は、図記号の上ないし左側が原則 (余裕のない時は、下あるいは右側でも良い。
図の線や点と文字との間には、最低1点以上の空白部を設ける。
文字によって、図の輪郭線を切断するようなことはできるだけ避ける。
2.7 引出線について
図の内側にある物を指し示すための引出線はできるだけ使わないほうが良い。( 生物関係の図では使わざるを得ないこともある。)
引出線を使う場合は、
@図本体の線と引出線の線種を変える、あるいは
A引出線と図本体の線が交差する所では、引出線を優先させる
といった配慮が必要。
図の外側部分にある物については、引出線は使いやすい。
範囲を示す引出線は有効
例3図: 「花のつくり」(アブラナとツツジ) (引出線を使わずに描いている。)
※図中の特定の部分を示す方法としては、引出線以外に次の方法がある。
・図中では図記号だけで示し、その図記号を凡例で示す。
・点訳者注の中で、図中の他の特定された部分を基準にして、具体的に右上とか左下とか(地図中なら北東とか南西とか)、そこからの方向で示す
・示したい特定の部分の上に直接それを示す文字(略記でも良い)を書く
【参考】図中での位置を特定したい場合、普通は「図の中央」「図の右下」などと記している。地図などで図版がa4サイズ以上の場合は、図版の横を A, B, C, ... 、縦を 1、2、3、 ・・・ などと区分し、その組み合わせで図中の各領域を示す方法もある。
2.8 裏に出した点や線の利用
点図では、裏に出した点を使用できる。
裏に出した点や線は、表からは触って微かに分かる程度。
裏に出した点はある程度広い範囲の面(地図では海など)を示すのに使える。
裏に出した線は、グラフの方眼、地図の緯線・経線、その他補助的な線などに使っても良い(物の輪郭などには不適切)。
図の凡例で裏に出した点・線について示したい時は、「裏に出した点でうめた部分は○○を示す」というように、図記号ではなく、言葉による説明にしたほうが望ましい。
※サーモフォームの図では、川や湖などを凹の線や面で表すことができる。
2.9 1つの図で描き切れない場合
原図では1つの図を、触図では、
@全体図と、その中の一部の拡大図 (この場合、拡大部分の名称とともに、それが全体図でどの位置にあるかをも説明したほうが良い場合もある。)
A上から見た図と断面図など、異なった方向から見た図 (この場合は2つの図をできるだけ1ページに収めたほうが良い)
Bエネルギーの流れと物質の循環、地勢図と行政図といったように、視点別に分けた図
C各部分ごとに分割した図
のように、数個の図に分けたほうが良い場合も多い。
その場合は、図をどのように分割し配置してあるのかを点訳者注ではっきり説明しなければならない。また、図を見る順番や見方についても説明したほうが良い場合もある。
【参考】1つの原図を、触図では縦書きの2枚の連続した図として示したい場合は、見開きの形式、または折り込み式にすると使いやすい。(1枚目と2枚目の切れ目に注意。見開きの場合は、 1cmくらい共通な部分を設けても良い。)
例3図: 「花のつくり」(アブラナとツツジ) (ともに雌しべを取り出し、詳しく図示している。)
例4図: 「ホトケノザ」と「クガイソウ」 (葉の付き方がよく分かるように、ともに上から見た図と横から見た図のセットで示している。)
例5図: 「日本列島の主な火山分布」 (「主な火山の分布」と「代表的な火山」の2枚に分けて図示している。)
例6図: 「植物のなかま分け」 (連続した2枚の図を折り込み式にしている。左ページには表が挿入されている。)
2.10 図中の省略や補足
とくに理科・数学的な図では、その図が何をもっとも伝えたいのかをよく吟味し、その伝えたい意味に即して、図の一部を省略したり、加工したり、強調したり、補助線を引いたり、さらに図中に補足的な言葉を入れたりすることも必要。
※この場合、本文をよく読んで図の伝えたい意味を把握することはもちろん、それでもよく分からない場合はできるだけ参考書などで調べて意味のはっきりした触図にして欲しい。
地図では、描き込まれている多くの要素の中から本文との関係で必要と思われる物だけを記したり、複雑な海岸線などを単純化して示したほうが良い場合がある。また逆に、視覚では例えば全体的な配置や海岸線を見ただけですぐにそれがどの地域なのか分かるが、触覚では分かるまでに時間がかかることが多いので、手掛りとなるような地名(海洋・大陸・国名など)を入れたほうが良い場合がある。
※地図は場合によって様々な図法で描かれ、同じ地域の輪郭も図法によって異なってくる。触図では東西南北が直行する描き方(メルカトル図法)がもっとも分かりやすいとされているので、可能ならばこのような図法に直して描いたほうが良い。また、例えば日本列島などは図版へのおさまりの関係からしばしば上下と南北方向がずれた向きで描かれているが、触図では北を示す矢印を入れたり、とくに低学年の場合は大きな図版にして上下と南北方向を一致させるといった配慮が必要である。
【参考】視覚的な図では、1つの図的表現から同時にいくつかの解釈が可能な場合(多義的だとも曖昧だとも言える)も多いようだ。触図を読み取る場合は、触って行く順序などの影響が強いためだと思うが、どれか1つの解釈に固定され、他の解釈にはなかなかたどり着きにくいことがある。
2.11 点、線、面などの種類は少なく
技術的には可能であっても、点、線(実線と点線)、面、その他の図記号の種類をできるだけ減らす。
・点の種類(点の高さや大きさの違いによって表現される)は、 5種類くらいまで
・線の種類は、実線・点線それぞれにつき、 2、3種類 (その他、エンボス製版では破線や点破線も使える)
・面記号としては 5、6種類くらい使い分けることはできるが、狭い範囲の場合は識別が困難になるので注意。
点図の場合、異なる面記号が直接接することはできるだけ避け、異なる面記号間には境界線を引き、その境界線をはっきりさせるため境界線から面記号をわずかに離して描くと良い。(立体コピーやサーモフォームでは境界線は無くても良い。)
(面記号の例: 縦線、横線、右上がり斜線、右下がり斜線、密な点、粗な点)
※面が広い場合には、境界線だけを示し、各面に言葉による説明を入れても良い。また、面記号の代わりに、面の意味を示す1文字の略記を並べても良い。
※点・線・面記号いずれの場合でも、同種の記号を使ってもそれに具体的な言葉を付けることで違いを表すことができる。言葉による表示のほうが確実な場合が多い。
2.12 グラフ
●グラフの軸
多くの場合(グラフの左右の縦軸および上下の横軸がそれぞれ同じ意味の時)、グラフの縦軸は左側だけ、横軸は下側だけとし、右側と上側の軸は省略して良い。
【補足】雨温図などのように左の軸と右の軸が異なっている場合は、もちろん左右の軸を入れる。また、HR図のように図全体の中での相対的な位置が重要な場合は、右や上の軸も入れたほうが相対的な位置が分かりやすくなる。
[雨温図: 左の軸に降水量を、右の軸に気温をとり、各月の降水量を棒グラフで、各月の平均気温を折れ線グラフで示したもの。
HR図: 縦軸に恒星の明るさを、横軸に表面温度をとって、個々の恒星がその図表上でどの位置にくるかをプロットしたもの。]
グラフの縦軸・横軸の目盛は、軸の外側に付ける。(縦軸の各目盛に付ける数値などは、最後のマスを揃えるようにする。)
●2本以上の線が交差して分かりにくい時
@線の種類を変える
A交差する所で、どちらかの線を空白にする
B線の両端にその線を示す言葉を入れる
(各線が交差しない時は、同じ線種を使っても良い。)
●グラフの線が多い時
グラフの線の数が多い時は、2枚以上の図に分けても良い。
(ただし、本文の理解を妨げないように、また問題集では問題を解くのに支障がないように、その分け方には十分注意する)。
●2本以上の線が部分的にほとんど重なり合っている時
@縦または横に拡大(1.5倍くらいまで)して、各線を触覚で区別できるようにする
Aどれか1つの線を優先し、必要があれば点訳者注でどの線がどの範囲で重なっているかを説明する
2.13 立体図
斜めから見た投影図や見取図はできるだけ避け、上から見た図、横から見た図、断面図、展開図、またはそれらの組み合わせで示すようにする。
数学では平面図と立面図で示すのが良い(この場合、平面図と立面図で対応する点を補助線で結ぶとより分かりやすくなる)。また、理科では横断面と縦断面で示すと分かりやすい場合がある。
【参考】
1. 直接触った感じにもっとも近いのは展開図的な表現である。低学年ではできるだけ展開図も示し、実際にいろいろな展開図から立体を組み立てる経験を積むのが望ましい。
2. 立体的に描かれている図を、横から見た図と上から見た図などのセットで理解できるようになるためには、頭の中で空間的に図を組み立てイメージする力が必要になる。このような方法で立体物を理解できるようになるのは、少なくとも小学高学年以上。具体的な物を触図化する場合は、その物の特徴がもっともよく現われる方向から見田図(例えば、昆虫ならば真上から見た図、四足動物なら真横から見た図)として描くと良い。
3. 見取図を触って分かりやすく表現するには、見取図で示されている各面(例えば直方体では上面・手前の面・右の面の3面)を平面に広げた展開図として示すと良い。(そうすることで、角度や長さの割合が実物と違わなくなり、とても理解しやすい。)
※一般には、触図では斜めから見た投影図や透視図のままではほとんど分からないとされている。ただし、投影図法・透視図法の意味をよく理解し、また触経験を積むことにより、簡単な図では投影図・透視図のままでも分かるようになる。(見取り図などについても同様のことが言える。)
2.14 その他
@原図ではしばしば図の領域全体が枠囲みなどになっていることがあるが、触図では、その枠などに特別な意味がないかぎり、枠全体(あるいは一部)を省略したほうが良い。
A教科書や問題集など、点字の本の中に図もいっしょに綴じられる場合は、横書きの図は必要最小限にしたほうが良い。
原図で2つ以上の図が横長に配置されている時、意味上とくに問題がなければ、触図では方向を変えて縦に配置しても良い。
B歩行用触地図などルートマップでは、道を凸の線で示す方法と、道の両側を凸にし道そのものは凹で示す方法がある。
C見開きの利用: 図の注や説明文がほぼ1ページ、図本体が1ページの場合は、文章を左ページ、図を右ページにすると、とても使いやすい。また、対になった2つの図を見開きに配置すると比較が容易になる。
例7図: 「プレートの境目で地震が起こる仕組み」 (左ページに図全体の注と@ABの図の説明文、右ページにそれに対応する各図を示す)
*触図がどの程度見えない人たちに分かるのかを判断するのは、触読者の側の経験や能力も関係し、なかなか難しいことです。触図製作者としては、最低限、原図を見ずに触図だけを見て図をイメージし、それがどの程度原図が伝えたい内容と一致するのかを確認してみてほしいです(他の点訳者に依頼してもいいでしょう)。
エーデルを使った作図法の目安―点種と点間隔を中心に―
エーデルでは、横480ドット×縦684ドットの組み合わせで指定される位置に点が打ち出されることで図が描かれる。(Ver.5 からはA4判の用紙にも印刷できるようになり、その場合は600×745ドット)
1ドットは約0.33mmで、1cmはほぼ30ドット分に当たる。
※エーデルの機能や使い方については、「麦のページ」が参考になる(簡単なマニュアルもダウンロードできる)。
1 点の種類と点間隔
点の種類は、小、中、大の3種。各点の大きさ(基部の直径)は、小が 0.7mm、中が 1.5mm、大が 1.7mm。(中の点と大の点の違いは僅か)
【補足】エーデルで打ち出される点字は中の点を使っていて、 1の点と 4の点の中心間の距離は 6ドット、初めのマスの 4の点と次のマスの 1の点の距離は 9ドット。点字 1マス分は15ドットで、点字 2マス分で30ドット=1cmとなる。
【参考】エーデルの点と点字教科書で使われている点の比較
東京点字出版所から出ている中学理科の教科書で使われている点の大きさは、@ 0.8mm A 1.2mm B 1.5mm C 1.8mm D 2.7mmの5種。エーデルの小・中・大の点は、ほぼ@ B Cに相当する。エーデルでは、図中での特定の位置を示すのに効果的なDと、グラフの軸などを示すのに有効なAが無い。
また、点の高さは、点字教科書では点の大きさが大きくなるとともに高くなっているが、エーデルではほとんどプリンタ任せになってしまう。そのため、例えば小点が中点と同様ないしそれ以上の触刺激になってしまうこともある。
(最大点については、現在市販されていないが、それ用の加点器がある。また、エーデルの大点を手作業で最大点のようにすることもできる。)
点の間隔は、小が3〜20、中が4〜21、大が5〜22で、各点につき18通り。 (初期設定は、小点が6、中点が 7、大点が 8。適宜変更して使わなければならない。)
【補足】(このほかに、「補」という点種(点間隔は 6〜23)が用意されている。これは画面にだけ現われ、印刷はされない。実際の点図を描く時の補助的な線として使ったり、回転や移動・複写などを行うさいの基準点・基準線として使うなど、有効に活用してほしい。
厚い用紙を使って打ち出したほうが、小・中・大の点の区別がしやすいことが多い。
【注意】以下に示す〈目安〉は、エーデルの特徴と、私がこれまでエーデルもふくめいろいろな種類の多くの点図を触ってきた経験とを考え合せて提案するものです。私の触経験についてはある程度一般化できる部分もあるでしょうが、やはり個人的な好みや私自身の触知の特徴もかなり反映しているはずです。ですから、この目安はあくまでも参考程度のものとして活用していただければと思います。
2 実線
●小点
縦・横の直線、斜め線、滑らかな曲線: 点間隔 5
カーブのはげしい曲線や折れ線: 点間隔 4
(入り組んだ海岸線、生物体の複雑な部分などには、点間隔 3を使っても良い。)
引出線・グラフの格子線: 点間隔 7、または 3
【注意】
1.小点の点間隔 7だと、各点がシャープに打ち出され全体としてやや強めの触刺激になる。小点の点間隔 3だと、(プリンタの状態にもよるが)打ち出された時に密に連なった各点が互いに干渉し合い全体としてやや弱めの触刺激になることがある。
2. グラフの格子線は、数学の座標平面を示す方眼などを除き、ふつうはグラフ上の特定の点の数値を読み取るために必要な特定の限られた線だけにしたほうが良い。また、小点で格子点だけを示す方法でも良い。
3. グラフの数本の線とともに、数値の読み取りのために格子線をすべて入れたほうが良い場合は、格子線を裏に出した点(中点で点間隔 7)で示すのが良い。それが難しい場合は、点間隔 3または 7の格子線を使っても良い(グラフの線が目立つように格子線を点筆の背などで軽く消して弱めると、触知しやすくなる)。
●中点
縦・横の直線、斜め線、滑らかな曲線: 点間隔 6
カーブのはげしい曲線や折れ線:点間隔 5
【補足】
1. 主要な輪郭線には、中点の実線がもっとも普通。ただし、図中で数種の線種が使われている場合、図中での重要度や触覚による判別のしやすさなどを考慮して、小点(ときには大点)を使ったほうが良い場合もある。
2. グラフの縦・横軸は、普通は中点(点間隔 7)の実線を使う。ただし、中点の実線をふくめグラフの線が数本あるような図では、グラフの軸を小点(点間隔 6)の実線にしたほうが良いこともある(とくに中点の実線がグラフの軸とほとんど平行で区別しにくいような場合)。
3.グラフの軸に付ける目盛は軸の外側にする。グラフの軸が小点の時も、目盛点は中点にしたほうが良い。
4. グラフの格子線などを裏に出した線で示す場合は、中点の実線(点間隔7)を使う。
●大点
縦・横の直線: 点間隔 8 (棒グラフの棒に使っても良い)
斜め線・滑らかな曲線: 点間隔 7
【注意】カーブのはげしい曲線や折れ線に大点の実線や点線を多用するのは避けたほうが良い。
【補足】
1. 入り組んだ海岸線や音の波形などのように、細かく激しい変化をより正確に表すには、点の大きさ・点間隔ともにより小さくしたほうが良い(例: 小点の点間隔 3)。また、例えば同じ海岸線を描く場合でも、中点を使うなら2、3mmくらいの細かい変化は省略して滑らかに描き、小点で描くならばある程度細かい部分まで描いても良い、といった配慮が必要である。
2. タブレットを使って曲線を描く場合は、小点では点間隔 4、中点では点間隔 5が良い。
【注意】実線の点間隔が非常に狭いと(小の 3、中の 4、大の 5、6)、(プリンタの状態にもよるが)隣り合う点が緩衝し合って全体として触刺激の弱い線になることが多い。この現象はとくに大点の場合に顕著である。
3 点線
●小点
縦・横の直線: 点間隔 11
斜め線・滑らかな曲線: 点間隔 10
はげしく変化する曲線・折れ線: 点間隔 9
●中点
縦・横の直線: 点間隔 12
斜め線・滑らかな曲線: 点間隔 11
はげしく変化する曲線・折れ線: 点間隔 10
●大点
縦・横の直線: 点間隔 14
斜め線・滑らかな曲線: 点間隔 12
【注意】
1. 点線中の急激に変化する部分は、点間が大きく空くことがあるので、フリーハンドで点を補うなどして、きれいに点線をたどれるようにしたほうが良い。
2. 点線の場合、始点と終点の距離が短くなるほど、同じ点間隔を指定しても、実際の点間がしばしば広くなることがある。(VER.5では、このような点間の乱れはだいぶ改善されている。)
図の凡例で点線を示す時は、点線の長さが短いと実際の図中での点線での点間隔とずれてしまうことがあるので、凡例中での点線は 2cmくらいの長さがあったほうが良い。
【補足】立体的に図を表す時、見えている部分は実線で、見えていない部分は点線で示している。また、小点の点線は図中の補助的な線にも使っている。
【注意】
線の種類をしっかり区別する必要がある場合、
@小点の実線と中点の実線
A中点の実線と大点の実線
B小点の点線と中点の点線
C中点の点線と大点の点線
の組み合せはしばしば分かりにくいことがある(とくにAとCの場合。また線の長さが短い時も区別しにくくなりやすい)。
そのような場合は、実線と点線、小点と大点の組み合せを考えてみる。
(なお、AとCの場合、点間隔の差を 2以上にするとやや判別しやすくなるようだ。)
4 破線
(2点おきに 1点消す。)
小点: 点間隔 5
中点: 点間隔 6
【注意】破線の使用は、グラフの複数の線をどうしても識別しなければならない時などに限る。なお、小点の破線は図中の補助的な線に使っても良い。
5 二重線(太線)
小点: 点間隔 5、幅 5
中点: 点間隔 6、幅 6
【注意】幅をこれ以下にすると、画面上ではきれいな二重線として描かれていても、打ち出されると二重線になっていないことがよくある。
【補足】
1. 構造式中の二重結合には、小点の二重線を使う。
2. 中点の二重線は、棒グラフの棒に使っても良い。
3. 川や道を平行な2本線で表す時は、幅を12〜20くらいにすると良い。
6 矢印
矢印の先の3角部分は、矢印の線が実線・点線いずれの場合も、実線にする。そして、矢印の先端の頂点をふくめ、両側に最低 3点は必要。矢印先端の頂点の角度は90度が望ましい。
また、矢印の先端の頂点の手前は 1点分空白にする。線の途中に矢印が入り込んでいる場合は、矢印の頂点の前後をそれぞれ 1点分ずつ空白にする。
矢印の線が小点の実線または点線の時、矢印の先の3角部分だけを中点に変えると、矢印がより見やすくなる。
7 面記号
面記号にはふつう小点を使う。
面の違いを示すために、エーデルでは領域を塗りつぶすペイントの記号として15種が用意されている。この内、範囲がある程度広い領域(縦・横とも1〜2cm以上)には、次の5種を優先して使うと良い。
べた塗り(粗)
縦線(粗)
横線(粗)
右上がり斜線(粗)
右下がり斜線(粗)
また面記号として、正方格子を点間隔を変えて(例えば、 6、12、18の3種など)使っても良い。(触読上は、各種のペイントを使うより正方格子のほうが見やすくなることも多い。)
海など広い領域については、裏に出した点(中点)を用いても良い。
面の範囲が狭い場合には、べた塗り(密)を用いると良い。
地層などのように、幅が数ミリくらいの細長い部分には、(ペイントではなく)中点や大点を適宜並べても良い。
●面記号と境界線
複数の面記号が直接接していると、各面の輪郭をたどりにくいことが多い。そのような場合は、面の境界線を中点(ときには大点)の実線にし、境界線と面記号をわずかに離すと、触読しやすい図になる。
●面記号を使わない方法
面が広い場合には、面記号を使わず、各面の示す内容を言葉で書き入れても良い。また、地層の分布や作物の分布などの図では、それぞれ該当する言葉の頭文字を1字採ってその文字を複数個並べても良い。(触読上は、面記号による区別よりも、直接言葉を書き入れたほうが便利なことが多い。)
【注意】ある面記号で示された広い領域の中に別のごく小さな面記号が散在しているような場合、そのまま触図化してもほとんど読み取れないことが多い。そのような場合は、散在している小さな面記号は省略し、点訳者注で説明しても良い。
8 文字と図記号の距離
文字と図の線や点などとの間は、ふつう中点 2点分くらいスペースを置く。(最低でも中点 1点分のスペースは必要である。とくに、 5、6マス以上の文字列と図の線が平行になっている時は、最低でも中点 1点半分以上のスペースを置くようにする。)
枠の中に文字を入れる時は、上下左右とも最低中点 1点半以上スペースを入れるようにする。また枠線としては中点よりも小点を使ったほうが、中の文字が読みやすくなる。
【補足】原図で枠囲みなどで強調されている言葉を、枠を使わず、「 」等の中に入れて示す方法もある。
9 線の交差のさせ方
実線どうしの交差によって線がたどりにくくなりそうな場合は、どちらかの線を優先し(ふつうは、小点よりも中点、中点よりも大点を優先、あるいは、変化のより激しいほうの線を優先)、もう一方の線を 3点ないし 4点分(20〜30ドットくらい)切って、その空白部を通すようにする。2本の線が鋭角に交わるほど、空白部を広くしたほうが良い。
線種が異なっており、交差部を越えて各線をなめらかにたどり得る場合は、とくに空白部をもうけなくても良い。
点線と点線、または点線と実線が交差する時は、できるだけ交点を共通にすると見やすい図になる(交点を各線の始点または終点にすれば良い)。
【補足】 1点で数本の線が交わったり、 1点に数本の線が集中している時は、その点の回りの密集している点を適宜間引いたほうが良い。
10 裏面用のデータの作り方
エーデルで裏に出した線や点を使うには、表面用のデータと裏面用のデータを作らなければならない。打ち出す時は、裏面用のデータから始めたほうが良い。
@表面用のデータを作製する。
A表面用のデータに、裏に出す線や点を補線・補点としていれる。(表面用のデータのグラフや文字と重なる部分は、消しておく。)
B裏に出す補線・補点以外を消して、それを左右対称移動させる。
C補線・補点の点種を変える(中点など)。そしてそれを裏面用データとして保存する。
※裏面用のデータを、表面用のデータと重ならずずれないようにうまく打ち出すには、プリンターまたはデータファイルの調節が必要
プリンターであわせる時: 用紙のとめ位置をかえる。
データファイルであわせる時: 左右対称移動させる時に中心位置をプリンターに合わせて変える。
11 グラフに均等な格子線・格子点を入れる方法
格子線には小点の点間隔 7(または 3)を使う。
@ツールバーのグリッドのところをグリッド機能ONにする。そしてグリッドの間隔(3〜45)を選ぶ。
(例の図では格子線の点間隔を 7としているので、7の倍数(あるいは倍数より 1くらい大きい値)が良い。例は、グリッド間隔 22と 36。なお、格子線の点間隔を3にした場合はこのような考慮はとくに必要ない。)
A点種を小点、点間隔を 7(または 3)にする。
B枠線をクリックして、縦の行数と横の行数(1〜20)を選ぶ。
格子点だけを描きたいときは、まずグリッド間隔と点間隔を同じにして(例えば 15)格子点だけにし、それを適当な大きさに拡大すると良い。
12 その他
●線上の点
実線・点線の途中にある特定の点は、大点で示す。そしてその大点の前後にそれぞれ1点分ずつくらいの空白をもうける。(最大点用の加点器を使えば、よりはっきりする。)
●1本の連続した線上で点種を変える時
例えば、同じ線上の途上で、中点の実線から小点の実線に変化させたい時は、変化する所で、1点分くらい空白を入れる。
●拡大や点種変更の際の注意
エーデルでは簡単に図を拡大・縮小できるが、点間隔もそのまま拡大・縮小される。拡大・縮小が ±0.1くらいの割合だと点間隔をそのままにしておいて良いが、それ以上だと点間隔を補正したほうが良い。 (拡大・縮小する時に補点に変え、それから元の点種・点間隔で描き直さなければならない。)
また点種の変更も簡単にできるが、それぞれの点種に応じた適切な点間隔に直したほうが良い。(この場合も、いったん補点に代え、それから適切な点間隔でなぞらなければならない。)
【補足】拡大・縮小は、縦・横別々に 0.01倍刻みのスケールで細かくできるので、 B5判に図全体がうまく収まるように調整するのに使うなど、いろいろな活用法が考えられる。
●正確な図を描くために
とくに理科や数学の図では、作画コマンドの中の平行・対称・回転(いずれも複写と移動)機能や、放物線・サインカーブなどの曲線をうまく使うと、正確できれいな図が描ける。
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参考: エーデルの画面説明と主な機能
@エーデルの画面の大まかな説明
画面の最上段に各種のメニューバー、その下にツールバー。
画面の左端に上から下に点種ボタン、点間隔ボタン、各種の作画コマンドなど。
画面の最下段にステータスバー。
その他の画面の大部分が、作業領域。
A詳しい説明
メニューバー:ファイル、作画、点字、領域、編集、変形、文章連携、表示、ツール、オプション、ヘルプ
・ファイル:新規作成、EDELファイルを開く、履歴から開く、閉じる、用紙サイズ(B5、A4)の切り替え、B5(A4)サイズで上書き保存、B5(A4)サイズで名前を付けて保存、ファイルの参照、ファイルの合成、現在画面の点字印刷、現在画面の墨字印刷、B5(A4)サイズで上書き保存して終了、終了
・作画:各種の作画コマンド
・点字:任意の位置、定位置(片面タイプ、両面タイプ)
・領域:長方形領域を指定、多角形領域を指定
・編集:領域を指定して削除、全域削除、クリップボードへのコピー、切り取ってクリップボードへ、クリップボードからの貼り付け、部品データの保存、部品データの貼り付け
・変形:各種の移動・複写の操作
・文章連結:BASEで作成した点字データと連携
・表示:全体イメージの表示、非表示、グリッドの機能の表示・OFF、中心線の表示・非表示、「補」点の表示・非表示、異常接近箇所の表示・非表示、片面タイプの点字位置ガイドの表示・非表示、両面タイプの点字位置ガイドの表示・非表示、点字枠の表示・非表示、定位置点字の全面墨訳、書き込み点字の墨訳、指定領域の墨訳、下絵(画像)、下絵(文字)
・ツール:一括点字印刷EBA作成、画像・文字の自動点図化
ツールバー:作業領域切り替えボタン、グリッド選択欄、ファイル名欄
・作業領域切り替えボタン:縦位置、横位置、縦位置1.5倍、横位置1.5倍
・グリッド選択欄:グリッドの表示・非表示、機能の有効・無効、グリッド間隔をプルダウンメニュー(3〜45)で選択
*グリッドはグラフなどの背景の正確な基準点として利用できる。画面上に縦横均等な点間隔(1〜20)で点があらわれる。グリッド機能オン・表示だけ・オフの3通りが選べる。機能をオンにすると、描こうとする点の始点と終点がその点の上しか選べなくなる。始点をそろえたり、等間隔で線を描くのに便利
・ファイル名欄:編集中のファイル名を表示
点種ボタン: 小、中、大、補
*中の点は点字と同じ点種
*補点は、画面上では他の点種(小・中・大)と全く同じように操作でき、図を描けるが、点図には現れない点。下書きにしたり、目安の点にしたりする。他の点種に変換すれば、実際の図になる。
点間隔ボタン:18段階から選べる(小の点3〜20、中の点4〜21、大の点5〜22、補の点6〜23)
作画コマンドなど:自由曲線、斜線、縦・横線、折れ線、弓線、連続曲線、長方形、正方格子、円、楕円、円弧、枠線、放物線、双曲線、無理関数、 sin、 cos、 tan、ペイント、点字、点種変更(変更領域は、対象領域を指定、小領域(1点ずつ)を連続的に変更のいずれかを選べる)、領域を指定して消去、全域消去、平行(複写・移動)、左右・上下対称(複写・移動)、点対称(複写・移動)、その場で回転(複写・移動)、中心を決めて回転(複写・移動)、拡大縮小(すべて補点に変換・そのままの点種で変換、Ctrlで縦横同倍率、別倍率が選べる)、長方形領域を指定、多角形領域を指定、指定点種のみ、全点種、指定点種以外
※正方格子では、完全に等間隔の格子が表せるとは限らない(正確な格子点を得るには、グリッドが良い)。広い範囲の面を特定の粗さの点で埋めるのに便利。
※枠線は、表や方眼などを描く時に便利。描きたい大きさの外枠の中に、縦 1〜20、横 1〜20の範囲で中を当分に分割できる。縦横の線の交差点がずれることなく完全に一致するので、きれいに描ける。枠線とグリッドを組み合わせると、正方形のきれいな方眼が描け、グラフなどに使える。
※ペイントのパターンとしては15種類用意されているが、触察上も記憶のためにも、1つの図で使うのは4、5種以下に限るべき。輪郭線・境界線と塗りつぶしパターンとの間はわずかに空白を置いたほうが良い。
※回転によって得られる図は、回転による点の位置の誤差のためだと思うが、元の図のようにきれいになっていない事があるので、注意。
ステータスバー: コマンドモード(図形の種類など)、操作中の状態を示す諸数値(カーソルの座標(左上が 0,0、右下が 479,683)、円の半径、指定した領域の座標、指定している線の長さ、回転角など)、操作中の状態・ガイド
Bその他の便利な機能
Back Spaceキー: 取り消し
例: 斜線を描いた後に このキーを押すと斜線が消える
右クリック: 確定前のときは、右クリックで直前の操作がキャンセルされ、一つ前の操作手順に戻ってやり直すことができる。
Ctrlキー: 前の操作の始点を始点に指定できる
例: 斜線を描いた後に このキーを押すと斜線の始点から続けて斜線が引ける
Shiftキー: 前の操作の終点を始点に指定できる
例: 斜線を描いた後に このキーを押すと斜線の終点から続けて斜線が引ける)
ファイルの参照
今までに作ったファイルを参照しながら、その中で必要な部分だけを取り込み、現在編集中の画面に貼り付けることができる。
【補足】 Ver5での大きな変更点
A4の用紙にも対応できるようになった
移動・複写・削除などの範囲指定が、これまでの長方形だけでなく、多角形でできるようになった
拡大・縮小が縦横同倍率と別倍率でできるようになった
ファイルの参照ができるようになった: これまでのデータを画面の横に出して使いたい部分をコピーできる。
下絵を使えるようになった: スキャナーで読み取った図やインターネットからダウンした図などを下絵として画面に出しそれをなぞって図が描ける。(ただしタブレットがあれば、タブレットを使ったほうが楽な場合もある。)
始点と終点の距離が短い時の、点間隔が広がる傾向が改善された(縦方向については改善されていないようだ)。
図の注や説明文の作り方
1 図の注の作り方
図の注の作り方については、第2回めの
2.4 図の注について、および
2.5 略記・凡例
を参照してください。
2 図を省略し、文章で説明する場合
2.1 付加的な説明で良い場合
原本の図にその図についてのかなり詳しい説明文があったり、本文中に図で伝えたい内容がほぼ述べられている場合。
図から読み取れる内容でさらに補足したほうが良い事柄について、点訳者注や括弧書きで原本の説明文に挿入・追加する方法。
※教科書の点訳では、このような場合でも図はあまり省略しないほうが良い。(実際の物の形を示した図は、可能なかぎり触図化したほうが良い。また、触図のほうが原本の説明文よりもよりはっきり納得できることもある。)
※原本の説明文とは別に、点訳者が図についての詳しい説明文を作った場合、大部分が重複してしまって読み手にとっては無駄になることがある。また、ときには細かい部分で原本の説明文と点訳者の説明文が違っていて、混乱させられることもある。
2.2 詳しい説明文を作る場合
原本中に、図についての説明文がまったく無かったり、部分的にしか説明されていない場合。
※教科書点訳では、できるだけ触図化したほうが良い。その場合、触図の理解を助けるために、図の概略や見方などについて簡単な説明文を付したほうが良いこともある。
以下に、図の文章化に当たって注意すべき点を記るす。
@初めに図全体が何を表わしているのかを説明する。(できれば点字 3、4行以下、墨字百字くらいまでで、図全体についての簡潔な説明文を作る。)
細部から説明を始めても何についての説明かわからないと理解しにくい。(説明をすべて読み終わってからようやく何についての図なのかがわかることもある。)
A図の形を再現出来るような説明が必要な時もあるが、多くの場合必要なのは図の示す内容、図から読み取れる意味である。
形の説明にこだわって、かえって内容をわかりにくくすることもある。
図を通して著者が特に伝えたいと思われる内容を数個のポイントに要約しておき、そのポイントを中心に説明文を作ると良い。
B説明する時に使う言葉は原本の対象となる読者層を考慮して選ぶ。またできるだけ本文に出てくる言葉を使う。
専門書では、適切な専門用語を使えば説明が簡潔になり、また理解もしやすい。
C地図、配線図、装置の見取り図などでは、本文の理解に特に必要と思われる部分について詳しく説明し、図全体についてはごく簡単に(例えば「○○についての図」というように1文で)概略を示すだけにしたほうが良いこともある。
(図全体についてメリハリなく詳しく説明すると、読者はしばしば本文との関連を見失い、何のための説明だったのか分からなくなることがある。(
D図全体について詳しく説明する必要がある場合、まず図の概略を述べ、次に図全体をいくつかの部分に分け(各部分間の関係の説明も必要)、それぞれの部分について詳しく説明していったほうが良い場合がある。
E専門的な図を説明する時には、本文を熟読すると共に、百科辞典や参考書などを積極的に活用し、図の意味の読み取りに間違いのないように注意する。(知識がないままで、ただ見えたままを述べただけでは、図の伝えようとする内容をほとんど説明していないことになる場合が多い。)
ただし、百科辞典などからの知識が前面に出てしまって説明が原図から離れてしまわないように注意する。
※グラフを説明文で置き換える時
@グラフに数値が詳しく記入されている時
まず「○○と△△の関係について示したグラフ」などと説明(折れ線グラフとか棒グラフとかのグラフの種類もふくめる)してから、できるだけ表形式で点訳する。(表形式にすると実際のグラフよりも変化の様子が把えにくくなるので、あらかじめ大まかな変化の様子を説明しておくのも有効。)
A数値が記入されていない時
読み取り可能なら概数を用い、表形式で示しても良い。(ただし、概数であることを明記すること)。
Bグラフの各線の説明
本文の記述との関連も考慮しながら、大まかな変化の様子・特徴を説明するよう心がける(必要に応じて、各線の位置関係、最大・最小値、およその変化の割合、どこで急激に変化しているか、どの辺でグラフの各線が交差して順番が入れ替わっているかなど)。また、縦・横軸の目盛の取り方にも注意(とくに対数目盛に注意)
【参考】図の説明文の一例
触読者は、独りでは原本の図は見られないので、説明文だけがすべてである。
以下は、できるだけ図で伝えたいであろう意味が分かりやすいように作った文章化の例。
図 フェーン現象
風上側の山麓から山頂を越えて風下側の山麓に向かう空気の流れの図と、その時の空気の温度と高度との関係を示したグラフ。
風上側の山麓(A点)から山腹に沿って上昇しはじめ、凝結高度(B点。山麓と山頂の間の 2/5 くらいの高さ)を通り過ぎてさらに山頂(C点)にいたる間、温度は下がり続ける。B点からC点の間では雲が出来たり雨が降ったりしている。
山頂(C点)からは風下側の山腹に沿って山麓(D点。A点と同じ高さ)まで下降し、その間ずっと温度は上がり続け、A点での温度よりも高くなる。
課題図の検討
以下の課題図はすべて『音訳マニュアル【音訳・調査編】改訂版』および『音訳マニュアル 処理事例集』に掲載されている例。課題図1と2は主に文章化の例、それ以外は触図化の例として使用した。
課題図1 女性の諸タイプの位置づけ
●文章化のポイント
この場合図のタイトルから何についての図かはある程度見当がつくが、まずできるだけ簡潔に図全体の構造と何についての図かを述べることが大切。
●文章化の一例
縦軸に信用できる←→できない、横軸に伝統的←→進歩的をとり、女性のいろいろなタイプを位置づけた図
縦軸は、上が信用できる、下が信用できない。横軸は、左が伝統的、右が進歩的。
女性の諸タイプは大きく三つのグループに分かれている。
どちらかといえば信用できてかなり伝統的(図中の左側の、中央からやや上にかけての部分): 「主婦の鑑」「母性的な人」「まめな女性」「主婦」「安らぎを与える人」「秘書」「うぶな女性」(このグループの右に「社交家」、下に「甘ったれ」)
少し信用できて進歩的(図中の右側の、やや上の部分): 「良き相談相手」」エコロジスト」」ウーマンリブ」「活動家」「インテリ」「キャリアウーマン」「フェミニスト」
かなり信用できなくてどちらかといえば進歩的(図中の下側で、中央からやや右にかけての部分): 「身持ちの悪い女」「魔性の女」「魅惑的な女」(このグループの右上に「いやな女」)
その他に、かなり信用できて少し伝統的な位置に「純朴な人」。
※触図化する場合: この図では女性の諸タイプの相対的な位置が重要なので、長方形の枠は省略しないほうが良い。三つの大きなグループはA,B,Cなどと略記すればよい。
課題図2 イラスト
(タイトルはない。細胞、核、染色体、それから伸びた螺旋構造とその拡大図が示されている。)
●文章化のポイント
タイトルはないが、イラストにはかなり詳しい説明文が付いている。イラストから読み取れる内容でその説明文には欠けているものを補う方法でも良い。(イラストの説明文の後に、各図についての点訳者の簡単な説明を加える方法でも良い。)
●文章化の一例 ([ ]内は点訳者の挿入部分。その他はイラストの説明文のまま)
細胞の中に核があり、そこに染色体がある。染色体は[長い]一本の糸で、よく見ると二重の螺旋構造をして、そこに四つの塩基が結び付いている。[一方の螺旋上に並んでいるA,T,G,Cの塩基と、他方の螺旋上に並んでいるT,A,C,Gの塩基とが、それぞれ結び付いている。]
※触図化する場合: 螺旋構造の拡大図は斜めから見た方向で立体的に描かれているが、触図化する時は真正面から見た方向で描くのが良い。そうすれば、線の数も少なくなりかなりシンプルに描ける。なお、この螺旋構造のように線対称の形になっている図は、触図では問題がなければ左右対称になるような方向(すなわち縦方向)で描くほうがとても理解しやすくなる(とくに両手を使った触知の場合)。
課題図3: 子供の体力・運動能力の推移(1970年を100とする)
●触図化のポイント
この図では、 1点から多数の線が出ていて、互いにかなり接近し交差している線もある。触図化するためには、次のような方法がある。
@縦に 1.5倍近く拡大する。触知力の優れた人は各線をたどり変化の様子の違いを読み取ることができる。
A各線をできるだけたどりやすくするように、2枚に分ける。各線ができるだけ離れ交差しないようにするには、1枚目を体重・身長・50m走・ハンドボール投げ、2枚目を持久走・立ち幅飛び・ソフトボール投げとすればよい。
Bこの図で伝えたいであろう意味ができるだけ損なわれないように、2枚に分ける。この図のタイトルは「子供の体力と運動能力の推移」となっているので、体力と運動能力が比較できるようにする(実際、体重と身長は増化しているが、運動能力はいずれも減少している)。さらに、運動能力について見ると、50m走と持久走は、ソフトボール投げ・立ち幅飛び・ハンドボール投げに比べて減少幅が小さい(横這いないしやや減少)。そこで、1枚目を体重と身長および50m走と持久走、2枚目を体重と身長およびソフトボール投げ・立ち幅飛び・ハンドボール投げとする。
なお、基準となる100の所に裏線を入れると比較がより容易になる。また、立ち幅飛びは1985年から始まっていることを付記しても良い。
課題図4: 福祉サービスの利用制度化の概念図
●触図化のポイント
この図では、多数の矢印が行き来しており、しかも矢印の途中に多くの文字が書かれている。触図では矢印を途中で切って文字を入れたりするようなことは避け、矢印は1本の連続した線で表し、その側に文字を添えるようにする。
この図の触図化では、行き来している矢印の外側に1、2、3、……の番号だけを入れ、各数字の内容については注で説明するようにする。なお、3本の矢印が並行している所では、真中の矢印の横には数字を入れる余裕がないので、やむを得ず矢印の根元に数字を入れておく。
※この図は、触図中心で示すよりも、番号順に流れを文章化したほうが内容がより分かりやすくなる。その場合は、図の概略だけを参考程度に付けても良い。
課題図5: 消費者金融のテレビコマーシャル数と貸出残高の推移
一つのグラフ上に、コマーシャル数を折れ線グラフで、貸出残高を棒グラフで示した図。
●触図化のポイント
触図化の方法として、次の2つがある。
@原図と同様に、折れ線グラフと棒グラフを同じグラフ上に描く。折れ線グラフを小点の実線(点間隔 5)、棒グラフを大点の実線(点間隔 8)で描くとかなりきれいに描ける。また、左の縦軸のコマーシャル数は下3桁が 000になっているので、単位を(千本)とすれば点字3マス分節約でき、グラフがより見やすくなる。
このように同じグラフ上で左の軸で読み取るグラフと右の軸で読み取るグラフを正確に理解できるのはかなり高学年になってからなので、低学年では次のAの方法が望ましい。また、低学年では棒グラフを縦1本線で示すのはできるだけ避け、二重線かそれ以上の幅を持たせるようにしたほうが良い。
A折れ線グラフと棒グラフを別々のグラフとして描く。その場合、両者ができるだけ比較しやすいように、2つのグラフを1ページの上下に配置するか、見開きに配置する。折れ線グラフを上に、棒グラフを下に配置する場合、棒グラフの延長線上に裏線を引くと、棒グラフと折れ線グラフを正確に対応させて理解することができる。
課題図6: 小児科外来に来た子供のうち、心身症の疑いのある子供の割合
●触図化のポイント
棒グラフにはすべて数値が書き込まれているが、数値だけを別に表形式で示す。棒グラフは、男を大点の実線(点間隔 8)、女を小点の実線(点間隔 6)で描くと縦書きに収まる。
なお、凡例で棒グラフの種類を示す場合、線の長さは 2cmくらいはあったほうが良い(線が短いとそれだけ線種の違いの特徴がつかみにくくなる)。
◆おわりに
●触図化の方法は臨機応変に
今回はエーデルを使った触図作製の勉強会だったが、実際の触図化に当たっては、エーデルに限らず立体コピーやBESのグラフィック機能など、使用者にとっての使いやすさ・適切さを考えて臨機応変に使い分けてほしい。また、必要に応じて手作業で線や面や点などを追加しても良い。
●見えない子どもにとって教科書は大切
見える子どもの場合は教科書以外でも各種の参考書があり、また授業では教科書以外の様々な資料や板書が使われる。見えない子どもの場合は、それらの参考書や資料を十分に使うわけには行かないので、それだけ教科書が重要になる。原本では文章による説明が少なく何を意図した図や写真なのかよく分からないこともあるが、他の参考書なども利用して、少しでも内容的に充実した教科書を作っていただきたい。
●触図は見えない子どもたちの触知能力を高める!
見えない子どもは見える子どもたちに比べて図や写真に接する機会は極端に少なく、それだけ図を理解する能力が未発達のままになるのは当然。適切な触図を段階的に多数触ることで、見えない子どもたちの触知能力は伸びる。皆さんの作った触図は見えない子どもたちの触って理解する力を開花させ伸ばす練習教材にもなる。とくに低学年では、できるだけ簡単で特徴がはっきり分かる図、またときには触りながら楽しめるような図も入れてほしい。
(2006年12月19日)