第5回触る研究会・触文化研究会報告
日時: 2004年4月17日(土) 午後1時半〜4時
場所: 盲人情報文化センター小会議室、靫(ウツボ)公園
テーマ: 植物の観察
参加者: 13名
*今回は参加者からの感想のメールを中心に編集しました。
◆概要
午後1時半まで、来られた方に順次展示品を見てもらいました。
1時半より、簡単な自己紹介ののち、SGさんより、今回のメインテーマである靫公園での植物観察について、手短にガイダンスしていただきました。
(SGさんは、大阪自然環境保全協会の「大阪自然大学」に参加したこともあり、今回植物観察の指導をお願いしました。)
1時40分に情文を出発、10分ほどで現地に到着、見えない人と見える人がペアになり3時くらいまで植物観察をしました。
その後情文に戻り、展示品の説明や次回の予定などについて話し合い、4時前に解散。
◆内容
1 展示品
今回は、動物の模型と、いろいろな形を作るためのパーツを紹介しました。
●動物の模型
@ラ シェール(http://www.lachere.co.jp/)が販売している「動物の立体パズル」
1個400円くらいと安価で、私はこれまで50、60点くらい購入し、それを組立てて今回展示しました。
出来上がりの大きさは、7、8cm〜20cmくらいで、触って観察するのに適しています。
実際の形や姿をとてもよく再現しているようで、触ってだけでもそのリアルな形に感心することが多いです。
哺乳類に限らず、鳥類、爬虫類、魚類、昆虫など、多様です。
以下、当日持参した動物たちです(括弧内はピース数)
・ワイルドアニマルパズル: ゾウ(34)、ライオン(28)、サイ(32)、トラ(24)
・ワイルドアニマルパズル2: チーター(23)、キリン(29)、カバ(35)、シマウマ(24)
・ワイルドアニマルパズル3: パンダ(25)、スノーレオパード(24)、ジャイアントエランド(27)、ゴリラ(26)
・キュートアニマルパズル:コアラ(21)、リス(22)、イタチ(18)、
・コーラルフィッシュパズル: カウフィッシュ(20)、バタフライフィッシュ(14)、トマトフィッシュ(11)、ボールフィッシュ(23)
・レプタイルパズル: クロコダイル(25)、ゾウガメ(27)、カメレオン(19)、キングコブラ(20)
・アメリカンアニマルパズル: ヘラジカ(21)、クマ(22)、オオカミ(21)、ワシ(20)
・シーアニマルパズル: イルカ(8)、ザトウクジラ(8)、ホオジロザメ(8)、シャチ(9)
・ビートルパズル: テントウムシ(19)、クワガタ(19)、カナブン(19)、オオツノカブトムシ(20)
・デザートアニマルパズル: トゲトカゲ(23)、ヘビ(23)、クモ(23)、サソリ(20)
・ポーラーアニマルパズル: ペンギン(18)、セイウチ(23)、北極グマ(24)
・アイスエイジアニマル: ケナガマンモス(30)
・ドッグパズル: ゴールデンレトリバー(23)、ダルメシアン(21)、グレイトデーン(24)、ジャーマンシェパード(24)
たいへん数が多く、時間も限られていて、皆さんあまり触ることができなかったようです。
なお、情文2階のグッズサロンで、ドッグパズルなど、上に紹介したようなラ シェールの動物の立体パズルの取扱をはじめています。ゆっくり触って、パズルにも挑戦してみてください。(組立過程を通して、完成品を触っただけでは分かりにくいような特徴もよく分かることがあります。)
Aやまね工房の動物のぬいぐるみたち
やまね工房(http://yamanekobo.com/)は、北海道網走市にあるぬいぐるみの店で、北海道に野生する動物を中心に一般にはあまり知られていないようなものも多数作っています。やまね工房のぬいぐるみは、形や色や大きさ(ときには重さまで)本物に近いということで、博物館などから注目され、剥製などの代りにやまね工房のぬいぐるみを展示している所もあるそうです。
今回は、やまね、ももんが、しじゅうからの3点を展示しました。
やまねはねずみの種類に属するそうで、尾をふくめても10cm余の小さな動物。
ももんがはりすの種類に属するそうですが、むささびなどのように木から木へと滑空できるとのこと。尾をふくめても20cm足らずで、4肢を広げて飛んでいるような形になっています。
しじゅうからは羽を広げた状態で、幅は20cm余。羽はぬいぐるみとは思えないほどしっかりしていて、横や縦の筋のようなのもよく観察できます。細い紐がついていて、上からつり下げると飛んでいるような感じになります。
これら数多くの動物たちをゆっくり触っていただく時間はなかったのですが、そんななか、OSさんが次のような感想のメールを寄せてくれました。
「情文で初めて見る生き物が多かったので楽しかったです。
ぼこぼこしたボールフィッシュ、想像と一致した蠍、大きな蜘蛛(私は昔住んでいた伊豆にはあれ位大きな蜘蛛がいたようです)、ほんとに牛を思わせるカウフィッシュ、小さなヤマネ、羽の筋が印象的なシジュウカラなどが印象的でした。
もっと早く行ってゆっくり触りたかった」
●形を作るパーツ
@マジキャップ
工房ながおか(http://www.magiqup.com/index2.html)の製品
1辺が10cmの、三角形、四角形、五角形、六角形の4種の正多角形を自在に組み合せて、極めて簡単にいろいろな平面や立体を作ることができます。
軽くて丈夫な発泡スチロール製のプレートで、各辺には協力な磁石が組み込まれており、次々と手早く他のプレートとつなぎ合せていくことができます。
とくに優れていると思うのは、ジョボブロックなど類似の他の製品と異なり、1辺を3個以上のプレートで共有できること。
マジキャップは、1辺70円(例えば三角形なら210円)と、高額の製品ではあるが、見えない人が、自分で楽しみながら、平面や立体、空間概念を養うのにとても適したものだと思います。
Aジョボブロック
デンマークのジョボインターナショナル社製。
1辺が4cmの、正三角形、正四角形、正五角形のプラスチック製の板を組み合せて、いろいろな形の平面や立体を作ることができます。
私は、ジョボブロック・300(三角形 180枚、四角形 96枚、五角形24枚)を、「ボーネルンド 本店」(住所:渋谷区神宮前1-3-12-1F、電話:03-5411-8022)より購入。
ピースの組み合せは、互いの各辺に刻まれたみぞをぱちっとはめ合せる形式。組み合せて出来る平面・立体はとてもしっかりした形になっていて、普通に触ったのではまったく壊れる心配はない。教師や教材を作る側の使用にはとても適している。
ただ、見えない生徒が使う場合を考えると、いくらか小さめということと、はめ込みがかなり堅くて組み立てに時間もかかるのが問題なように思います。
Bマグネット スティック アンド ボール
タカラの製品で、私はラ シェールより購入。(日本点字図書館用具事業部でも取扱っている。)
2種類の長さの棒(3cmと6cm)とパチンコ玉のような球(直径1cm)を組合せてかなり自在に立体を作ることができます。
棒の両端が磁石になっていて、棒と球、棒と棒をくっつけて立体を作ります。スケルトン風で、オブジェにもなります。
ただ、出来上がった立体は形が不安定なことが多く、触って観察するのが少し難しいこともあります。
これら3つの形を作るパーツの中では、なんと言ってもマジキャップが手軽で、TKさんやTDさんがいろいろな形の、かなり大きな立体を組立てていました。
*太田さんが、スチレンボードで作った前方後円墳とログハウスの模型を持って来られました。とくにログハウスは、屋根などがはずせて、中の部屋割りや階段などまで触ることのできる優れ物です。このような、取り外し可能で内部まで触察できる模型については、別の回に詳しく検討したいと思っています。
2 植物観察
まず、4月13日、靫公園で実際にどんな植物を触って観察できるか、SGさんと2人で下見に行ってきました。10種くらいは十分観察できることが分かりました。その中の以下に示す7種の樹木について、SGさんが『樹木 1』『樹木 2』(尼川大録、長田武正共著、保育社)と『針葉樹』(中川重年著、保育社)中の解説をコピーし、当日配布用の資料を作ってくださいました。
私はその資料から専門に過ぎる部分などを省いて簡単にまとめて、点字版の資料を作りました。また、点字版の資料の最後に、触察の参考になればと、葉のつき方、および常緑樹と落葉樹の葉の違いについての説明を加えました。以下に、点字版の資料を引用します。
(引用始め)
メタセコイア(アケボノスギ)
1945年に中国四川省でみつかり、生きている化石として有名。
樹の形はきれいな円錐形で、高さ20m、直径50cmほど。
樹皮は赤褐色で、縦に粗くはがれ落ちる。
葉は2、3cmの細い線形で、対生。
球果(実)は、直径1.5cmほどのやや長い球形。
タイサンボク(モクレン科)
北アメリカ原産の高木。
葉の下面は、綿毛が密生。葉柄のつけ根に枝をとりまく輪がある。
葉は大きな楕円形、厚い革質、上面は濃緑色で光沢がある。下面は羽状の脈がもり上がる。葉柄は棉毛をかぶる。頂芽は円錐状で大きく、外側は2枚の接合する鱗片(托葉)ですっぽりつつまれ、その表面は短毛をかぶっている。枝をとりまく鉢巻状の輪は、この鱗片の落ちた痕である。
ソメイヨシノ(バラ科)
葉は花のあとに開く。
若枝・葉の下面・葉柄に毛が散生する
葉は倒卵形(卵を逆さにした形)、重きょ歯(のこぎりのようなぎざぎざの切れ込み)は鋭い。
樹皮は灰色で横にさける。
オオシマザクラとエドヒガンの雑種といわれる。
ウバメガシ(ブナ科)
常緑の高木。
葉は厚くだ円形で両端はまるく、きょ歯がややまばらにある。
実はドングリ状で、食べられる。
ケヤキ(ニレ科)
落葉の高木。
葉は先がとがっていて、大きめのきょ歯になっている。
葉の下面は、ことに脈上に毛が多い。
幹や枝は何回もふた又に分かれ、ほうきを逆さに立てたような樹形になる。
サンゴジュ(スイカズラ科)
常緑の高木。
葉は長楕円形で、厚く光沢がある。
赤い実が一面につくことからサンゴジュと呼ぶ。
ソテツ(ソテツ科)
高さ2〜4m。
樹皮は暗褐色で、葉が落ちたあとがらせん状にはっきりと残り、鱗状になる。心皮は細かく分裂し、全体にビロード状の密毛がつく。
葉は、幹の頂に輪生状につき、羽状で硬く、触れると痛い。長さ50cmから大きいもので2mほどにもなり、小羽片は長さ10m、幅5mmほどで、中肋部がはっきりしている。表面は濃い緑色で光沢があり、裏面は淡緑色。新しい葉は古い葉の中央部から輪生状に出て、若い状態ではシダの葉を思わせる。
利用: 沖縄や奄美地方では、古くは幹にデンプンが含まれるところから、飢饉の時にはこれを砕き、水にさらして有毒成分を洗い流したのち非常食にした。
その他観察できそうなもの
イチョウ、サザンカ、ツツジ(ヒラド)、サツキ、ハラン、ヤツデ、ヒイラギナンテン
*葉のつき方には、互生、輪生、対生がある。
互生: 葉が一つの節に一枚ずつ生じ、互いに方向を異にしていること。
輪生: 葉が一つの節に三枚以上つく。
対生: 葉が一つの節に一対つく。
*常緑樹と落葉樹の葉の違い
常緑樹では、葉は小さめで硬く、表面がまるでコーティングされているようにつるつるしている。
落葉樹では、葉は(できるだけ日光を受けられるように)大きく平らにひろがり、軟らかめ。
(引用終わり)
当日はまず小会議室でこれらの資料を配布し、SGさんより靫公園でどんな樹木が見られるか、また葉のつき方や鋸歯について簡単に説明してもらいました。葉のつき方では、互生・輪生・対生のほか束生などについても紹介してくださいました。(束生は、互生のひとつで上下の葉の間がつまってひとところから葉が群れてでる場合を言うそうです。今回の例では、さつき、つつじがこれに当たるとのことです。)
次に、当日現地で実際に種類を確認できた樹木等を列挙します。分類はSGさんにしてもらいました。(*印はSGさんの説明)
針葉樹: ヒマラヤスギ、メタセコイア、ソテツ、シュロ
*メタセコイアの木の下にはまつかさ状の小さな実がたくさん落ちていた。メタセコイアは落葉針葉樹で、落葉の際(赤褐色に紅葉)、葉といっしょに細い枝もいっしょに落とす。自分の樹形(きれいな円錐形)を保つ為でしょうか。扁平な線状のやわらかな若葉が見られた。ヒマラヤスギはスギ科ではなくマツ科。そして松かさ(球果)をつけるのですが、成熟した球果はバラの花のような形をしていて、シダーローズと呼ばれるそうです。日本には1879年にもたらされたとか。
常緑広葉樹: さざんか、さんごじゅ、うばめがし、くぬぎ、たいさんぼく、やつで、つつじ(ひらど)、さつき、ひいらぎなんてん
*常緑広葉樹は、新芽が出る前後に古い葉が落ちるものが多いようです(古い葉が全部1度に落ちるのではなく、順番にですが)
落葉広葉樹: けやき、そめいよしの、枝垂桜、とうかえで、はなみずき
*このうち、はなみずきの花のように開いているのは、花弁ではなく、萼のようなもの(総包片)。
その他: はらん
花: ポピー、チューリップ
これだけたくさんの種類の植物たちをわずか1時間余で見て回ったのですから、私もふくめ皆さん新鮮なおどろきは多く体験しながらもしっかりした記憶には残りにくかったことと思います。自然観察、とくに触察中心の観察では、とにかく時間をかけなければならないことを痛感しました。
以下、皆さんからのメールによる感想を転載します。(一部省略などした箇所があります。※付きの文章は、私の返信メールからの文章です。)
●SG
とうかえでが街中の公園に実生ではえていたのにはおどろきました。きっと種子が、風にのってとんできたのでしょう。
私がいままでいった観察会といえば、ルーペ片手にカメラをぶらさげてといったものだったのですが、きょうはほんとうに手のひらでさわり、においをかぎ、五感での観察会でとても新鮮に感じられました。
●TH
これまで植物の幹・茎・葉・花を、意識して、手のひらや指先で触ったことはありませんでした。形状・色を声に出して表現することも初めてでした。
チューリップのつぼみを、「まだ硬い赤ちゃん」「少しふっくらした幼児」「先が少し開きかけた児童」「花が覗いている生徒」の順に触りました。
触れて、声にだすと、木や花がいっそういとおしく感じられました。太い幹から直接でている若葉に触れると、生命を実感しました。
目で見て愛でるだけでは、やり過ごしていることが多いものだと気づきました。
「触れる・声にだす」ということは、自分が何を見、何を感じているかを確認する作業なんだと思いました。
※「「触れる・声にだす」ということは、自分が何を見、何を感じているかを確認する作業なんだと思いました。」
という文章は名言です。「声にだす・言葉にする」というのは、だれにとっても自分がどこまで理解しているのかをはっきりさせてくれることになると思います。
触れる体験は見える・見えないにかかわらずだれにとっても大切なわけですが、それをどのように言葉にできるか、これはなかなか難しいです。見える色についてはたぶん何百種も言葉がありますし、複雑な形については言葉で難しいと思えば図にするとか写真に撮るとかできて、なんとか相手に伝えることができます。触った感触については、それを表言する言葉は軟らかいとか硬いとか、あまり言葉は多くありません。だれにでも共通に理解できるように細かく細分された言葉が発達していないように思います。それで、THさんのしたような比喩的な表言のほうがうまく伝わることも多いと思います。比喩的な表言ではいろいろな性質について、THさんの比喩的な文にもありましたように、いわば一挙に表言できることもあります。ただやはり、比喩的に表言できる能力、またそれを受け取る側の受け取り方が問題にはなります。
●OT
ふだんなにげなく見ているだけで、実はしっかりと見ていないことがよくわかりました。
公園ではそれぞれの木々の樹皮や葉のようす、新芽のようすを触れてみて確認する、これまでにはあまりやったことのない体験でした。
メタセコイアの可愛らしい実も初めて見ました。
このような体験を視覚障害をもった方に説明する難しさも痛感しました。豊富な表現の力が欲しいものだとつくづく思います。
●OC
メタセコイアの実がかわいかった。スギ科ということだが、葉は、スギとはちょっと違うので、意外だった。
ウバメガシのことを、私はずっとどんぐりの木と思っていたけど、名前がわかってよかった。
タイサンボクの葉は、手にとって見るとかなり大きい。
見ているときは、ふーんと思ってみるけど、どんどん忘れてしまうので、また、公園などで確かめてみたいと思います。
●NS
今まで結構見慣れていた木々ですが、とても新鮮でした。
その中で特に印象が深かったのは次の二つです。
メタセコイアは見たことがありましたが、木に触ったのははじめてで、実を見たのもはじめてで、あんなにかわいい実をつけているのはまったく知りませんでした。オジギソウににた葉というのは知っていましたがそれだけで知っているつもりになっていたようです。
トウカエデは葉のではじめからだんだんと、葉の向きが変わっていき、しっかりした葉になるころには、光を十分に受けられる向きになっているのに気が付きました。
これまで理科の教科書を点訳していて、光合成のために、葉に十分光が当たるようにしているとは、頭ではよく知っていましたが、体験ははじめてでした。
それぞれの木々の茎の感触の違い、葉の感触の違い、新芽と古い葉の感触の違い、どの木の感触がどうだったとは思い出せませんが、いい気持ちでした。
こういう木々の楽しみ方もあるのだと、自分の小さな家の庭を大切にしようと思いました。
●SK(全盲)
最近はアスファルトの舗装された道ばかりなので、土の道を歩いた感じは本当に気持ち良くぜんぜん足が疲れませんでした。
苔を触った感じが絨毯のようで、すごくきれいでした。
一番印象にのこっているのは、ポピーです。ふわふわの毛の生えた茎とつぼみがすごくかわいかったです。
つぼみの時は下をむいているのに、花が咲くと上をむいていました。
またつぼみの時はあった毛も花が咲くとなくなっていました。
そめいよしのは切られた枝からこぶができて、そこから葉が出ているのには感動しました。植物もちゃんと自分で手当てをするんですね。
何の木か忘れましたが、新しく出はじめた葉は柔らかくしなやかなかんじで、成長した葉はつるつるで堅いかんじでした。
ひいらぎなんてんだったと思いますが、葉っぱはぎざぎざなのに、新しく葉が出かかっているところが綿のような毛に覆われているのは、おもしろかったです。
※苔があったのですね。私は触りませんでした。苔は、石の上に生えているときなど、ほんと触りごこちがいいですねえ。
ポピーはかわいかったですね。私はその他、つぼみの状態と花が咲き終わった状態とでは、形は似ているのですが、硬さが違うことにも気が付きました(もちろんつぼみのほうが軟らかい)
ひとつの木でも、新芽、若葉、成長した葉、落ちそうになっている葉など、触ってみるとそれぞれはっきり違いが分かりますね。もっと時間をかけて丁寧に触っておけばよかったと私も思っています。
軟らかい葉の形などは触って分かりにくかったですけど、触って分かることもたくさんあるように思いました。
●TD(全盲、中学生)
この間の植物を触る体験は非常に勉強になりましたよ。
日頃そんなに植物にも触れることもないし細かいところまではほとんど見ません。
ひとつ思ったのが、うつぼ広遠までに歩いた道路の横に柊の木がありましたよね。
それがなぜか雨も降ったところなのに元気がありませんでした。
そこで僕は「植物はよく二酸化炭素を吸収していると言うけど、ありすぎるとやっぱり植物も枯れるのかな」と思いました。
まあ人間が自由に動けるぐらいですからそんなことはないと思いましたけど、、、。
公園にはたくさんの木がありましたが僕が凄く気に入ったのがソテツでした。
ソテツは日常ほとんど触ることもなく本や話でしか知りませんでした。
なんかソテツは恐竜のいた時代からあるらしいですね。
僕が気に入った理由は葉の並びが鳥の羽毛のような並び方でしかもすべてつるつるしていたから。
それと枝が落ちた後のあの幹のうろこのような跡がなんともいえませんでした。
食べれたら食べてみたいです。まあ毒があるらしいですけど。沖縄では食べるらしいですね。
それともうひとつ気に入ったのがメタセコイアです。
これは学校にも植えられていましたけど、こんなに樹皮はつるつるではなかったような気がします。
なんか丸太を3本束ねて周りを樹皮で巻いたような感じがしました。
なぜかというと、ほんとうに3箇所、中に棒が入っているように盛り上がっているところがあったからです。
※
ソテツは私もとても気に入りました。葉の形・カーブの仕方がとてもきれいに感じました。また幹の所はたくさん長いとげのようなのがある間に綿のようなのがたくさん詰まっていて、とても面白く感じました。
メタセコイアの幹の感じの表言の仕方、いいですねえ。よく分かります。
私は植物にも詳しくないのですが、葉の形、付き方、樹皮の剥げ方、幹の溝や筋の方向など、植物を区別するのに役立ちそうな手がかりはいろいろありそうです。TDさんもこれからいろいろ試みてください。
●TK(全盲)
木の葉の付きかたでいろいろと分類されている事を初めて知りました。説明を聞いてから実際に触ると、よくわかりました。
感激したのは、新芽といいますか芽吹いたばかりの葉っぱがとても柔らかくて手に馴染み易かった事です。
古い葉っぱは、固くてツルツル感がありました。
動物が春になると若葉や新芽を好んで食べるとは、聞いていましたが、今更のように納得できました。
あの柔らかな葉は心ウキウキになりました。
もう1つの驚きに似た感激は、葉が枝から出てきたばかりの時は、立っていて、段々広がるように、葉全体に日光が当たるために横になっていることでした。(何の木か、名前を覚えていないのですが、)
あんなにじっくりと木を触ったのは、初めてでした。
●OS(全盲)
強く印象に残ったのはソテツ・シュロ・珊瑚樹・葉蘭です。
ソテツ: 以前から幹にぼこぼこした鱗状の抉れたような跡があるのには気が付いていましたが、葉が剥がれてできた跡だと知って感動です。もしかすると椰子などもそんな風に葉が落ちていくのかなと想像しています。一緒に歩いてくださったTHさんが、幹の上に溜まった他の木の落ち葉と幹の側部から生えている葉を触らせてくださったので、ソテツの全体像が掴めました。
シュロ: これも、成長のしかた(といっていいのか?)が印象的でした。葉が落ちた幹から毛が生えていたこと、葉が大きな扇形をしていたこと、柄の美しいラインなど記憶に残っています。
珊瑚樹: 長楕円形の葉が印象的でした。この葉を触ったとき晴眼者二人、視力障害者二人がいたのですが、初めはなかなか話が噛み合いませんでした。目の見える人は新芽に美しい光沢があると言い、目の見えない人は古い葉の方が光沢があると思ったのです。THさんが目をつぶって触ったら、まるで印象が逆転したと言っていました。新芽には葉の表面に無数の産毛のような毛が生えていて、これに光が乱反射していたのでしょうか。
葉蘭: 長くてすべすべした葉がとても美しかったです。本物の葉蘭を触ったことがなかったので、かなり感動的でした。(帰り道、歩道で「斑入りの葉蘭」を拾ってもらい今我が家にあります。将来お料理が乗る予定です)
その他: ソメイヨシノは改めて見ると木肌はざらざらしていますが、美しい木だと思いました。傷跡がこぶ状になって、そこから新芽が生えていたことがうれしかったです。新芽をよく触ると鋸歯がよくわかりました。(後日、桜餅を食べる時、思わず葉を観察してしまいました。)
欅は幹が太く真っ直ぐ上に伸びているといった印象でした。所々縦に深い切れ込みが入っていたでしょうか?
楓は知っていたつもりですが、改めてみると葉が面白かったです。
ヒイラギナンテンの葉の新芽の柔らかさと古い葉の硬さ・痛さの違いに驚きました。
ツバキの葉は楕円形で鋸歯がなく美しい葉だと思いました。
初めに教えていただいた、互生・対生・輪生、複葉・単葉・束葉などを意識して見たのですが、今覚えているのは、平戸つつじが束葉だったということだけです。
このように葉の印象は強く印象に残ったのですが、幹の印象は私には掴みにくかったです。
最後に触った葉が三つに分かれた楓、名前を忘れてしまいました。
※「葉が三つに分かれた楓」は、唐楓です。私もこの葉は印象に残っています。また、葉蘭の葉が縦に長く細く裂けていったのも、面白かったです。
OSさんの触察能力とともにその記憶力にも感心するばかりです。触察の印象がすぐにイメージ化され、イメージとしての記憶として残っているのかもしれません。
OSさんの感想で一番面白かったのは、見える人と見えない人で、葉についての観察が違っていることです。こういうことは実際はもっといろいろあると思います。互いの理解にとてもいい例だと思いました。
メールによる植物観察の感想は以上です。
いろいろな見方・感じ方を読み取られたことと思います。
私は当日は、回りの状況や時間のことも気にしながらだったので集中して触っていなかったのかもしれませんが、それにしても種類が多くいろいろな印象がぼやけてはっきりした記憶にはなりにくかったです。
最後に、皆さんのメールを読んでの感想、および私個人の感想を2、3書きます。
@見える人たちの文章には新鮮な驚きが感じられます。ふだんあまり経験しないことですから当然なのかもしれませんが、触覚は視覚に比べて直接身体にはたらきかけますので、それだけ印象を強くするのかもしれません。
A植物の種類の違いを見分けるのに参考になればと、葉のつき方などについてあらかじめ説明したのですが、今回の観察では、1本の木における葉の成長過程の変化のほうに皆さんの注意が向けられていました。触察では、形ばかりでなく、硬さや湿り気や弾力などいろいろな性質を一度に感じ取れるため、違いがとくに際立つのだと思います。植物観察ではあまり重視されていなかった視点なのかもしれません。
B見える人たちと見えない人たちの観察結果に一部違いがあったようですが、このような違いは、同じ物にたいする多面的な視点として大切にしたいものです。
C私個人としては、針葉樹に落葉するものがあるのを知って、ちょっと驚きました。針葉樹の葉はふつう細くて硬いので、みな常緑樹なのだと思い込んでいました。
今回は常緑樹が多かったですが、成長した葉で比べると、常緑樹と落葉樹の葉の区別はある程度つくように思いました。
樹皮の剥げ方も参考になりそうです。ウバメガシは縦に分厚く剥がれましたし、ケヤキはいろいろな形に薄く剥がれました。また、ヒマラヤスギやメタセコイアの皮の手触りはやはり杉の皮に似ていました。
樹木では実際に触れる部分はごく一部で、なかなか全体のイメージがつかめません。ときには幹しか触れないこともあります。できれば木の高さや枝がどんな風に広がっているかなどについての説明もほしかったです。盆栽のような、それぞれの樹木のミニチュアのようなのがあってもいいかもしれません。
3 次回の内容について
次回は6月19日土曜日を予定しています。(都合により変更になるかもしれません。)
テーマは、触察による立体物の認知で、手始めとして、実際の立体物とその触図による表現との関係を中心に、具体例を通して検討したいと思います。皆様のご協力をお願いいたします。
次回の詳しい案内はもうしばらくお待ちください。
(2004年5月5日)