触る研究会・触文化研究会第6回報告
触る研究会・触文化研究会第6回報告
日時: 2004年6月26日(土) 13:30〜15:30
場所: 盲人情報文化センター 9階ホール
参加者: 15名
◆展示品
今回は木彫品を用意しました。
●珊瑚礁
5月初め、近鉄百貨店上本町店で行われていた「第21回「職人の技」展」で、沖縄の「アトリエ木輪」より購入。仲程正信さんの作。
(仲程さんの作品については、拙文ですが「彫刻のたのしみ――ひとつの出会いから」
で紹介しています。)
大きさはおおよそ高さ30cm×幅30cm×奥行20cmくらい。カカワティという、フィリピン産のとても堅い木の台に乗せられている(この台は上面はつるつる、回りはざらざらで、触った感じは一見堅い岩を思わせる)。
熱帯の海中を小さな魚たちが泳いでいる様子。イタジイ製の切り立った岩場、多種の本物の珊瑚や貝が背景となり、海底付近から海面近くまで、いろいろな形や姿勢の8匹の魚が配されている。魚はクスノキ製。いろいろな形や大きさ・姿勢の魚を観察できるほか、木の枝を思わせる本物の珊瑚などにも触れられる。
●クマのマスク
5月初め、近鉄百貨店京都店で行われていた「初夏の北海道大物産展」で、工藤工芸舎より購入。
材料はエンジュというとても堅い木。直径12cmくらい、高さ10cm弱の円錐形に近い形(工藤工芸舎の作品の多くは、エンジュの丸太をそのまま利用していた)。切り出した面や線が直線的で、特徴が触って分かりやすい。とくに大きく開いた口は、中の舌や歯の細かい様子まで触って観察できる(私は動物園で触った動物の頭蓋骨を思い出した)。鼻や目、耳も分かりやすい。
その他、私の作ったカニ(クスノキ製)やペンギン(ホオノキ製)も持参しました。
◆テーマ1: 立体物と触図との関係 (1)
いろいろな立体物をどのように触図かするのか、また、その触図から見えない人たちがどのようにしてどのような立体物をイメージするのか、これは大きな課題です。今回はマジキャップを使って、簡単な実験を試みてみました。
盲学校用の数学や理科の点字教科書では、立体を、斜めから見た原図のままでなく、上から見た図と正面から見た図(平面図と立面図)のように2つ以上の図に分けて示しています。点訳ボランティアの中にも、このような方法を採用している方が多いようです。
まず、私が次のような3種の立体をマジキャップを使って作りました。
(マジキャップ: 1辺が10cmの、正三角形、正方形、正五角形、正六角形のプレート。各辺には協力な磁石が組み込まれていて、プレート同士を次々とつなげていって、手早くいろいろな立体を組立てることができる。マジキャップの詳しい説明や作品例は、
http://www.magiqup.com/index2.htmlを見てください)
@立方体の左側面に正四角錐、右側面に三角柱がくっついた形。
A上面が1辺10cmの正三角形、底面が1辺10cmの正六角形で、上面の三角形の各辺と底面の六角形の1つ置きの各辺を正方形でつなぎ、残った隙間を正三角形で閉じた形。
B正方形6個と正三角形8個でできる立方8面体(立方体から、その立方体の各頂点を頂点とし、立方体の各辺の中点を結んだ面を底面とする三角錐を切取った形)
これら3つの立体を、NSさんにエーデルで(言葉による説明はできるだけ入れないという条件で)触図化してもらいました。
NSさんは、次のように上から見た図と正面から見た図のセットで、それぞれの立体を表しました。(以下、各触図を、私なりに文章で説明します。)
@上から見た図: 中央に正方形、左に三角形、右に四角形
正面から見た図: 中央に正方形、両側に三角形
(エーデルの図: 図1.edl)
A上から見た図: 中央に正三角形、その各辺に長方形が付き、それら長方形の間の隙間に細長い二等辺3角形が配されている。全体は正六角形。
正面から見た図: 中央に正方形、両側に直角三角形。全体は等脚台形。
(エーデルの図: 図2.edl)
B上から見た図: 中央に正方形、その各4辺に二等辺三角形が付いている。(全体は、45度傾いた正方形)
正面から見た図: 中央で、頂点を下にした正三角形と頂点を上にした正三角形が接し、その両側にやや縦長の菱形が付いている形。(全体は正六角形)
(エーデルの図: 図3.edl)
当日、主に見えない参加者(GTさん: 弱視、ADさん: 全盲、TKさん: 全盲)に、これらの触図を触りながら、その触図が表しているであろう立体をマジキャップを使って作ってもらいました。またその作る過程を皆さんで観察しました。
以下、その時の記録です。
@GT: 図から立体の全体の形がイメージできたので、楽に組立てられた。
AD: このような上から見た図と正面から見た図に分けて立体を表す仕方には慣れていない。原図に近い見取り図のようなのでこれまで立体も学習していた。でも、図のように四角形や三角形を配置していったらできた。
TK: 図に描かれた平面は、四角と三角を組立ててなんとかできた。でも2面しかできない。あとの面はどうなっているのか?向こうから見た図と下から見た図を加えて4面について描いてくれれば分かりやすかった。
AGT: 全体の形を想像することができなくて、難しかった。底面が6角形であることに気付いて、うまく行った。
AD: どんな約束事で図を描いているのか、どんなルールでゆがめているのか、その仕方が分からない。底面を四角にしたらできなかった。正面から見た図を組立てながら、上から見た図を解読して行って、何とか作った。
TK: 三角形にも正三角形のほか、細長の二等辺三角形や直角三角形があり、正方形のほかにも長方形があって、混乱させられた。上が六角形だと思ってやってみたが、うまく行かない。真中に三角形を置いて、その周りに四角形・三角形を置いていって、何とかできた。
B全体の形が想像できないので、図のままに正方形や三角形を置いていって、なんとかできた。全体の形が分からないと、作れない。
AD: どうしていいか分からない状態。あれこれ試行錯誤してようやくできた。
TK: 図の描き方、マジキャップの性質・組合せのパターンが分かってきて、簡単にできた。上の図中の下の三角形と下の図中の上の三角形とが共通であることが分かるようにすれば、なおさら良い。
以下、当日の皆さんの発言やその後のメールによる感想を参考にしつつ、私なりにまとめてみます。
1.見える人たちの触図の理解について
私がまず驚いたのは、見える人たちの中に、上から見た図と正面から見た図のような触図の描き方では、実際の立体をなかなか想像できない方が少なくとも数人はおられたことです。
この触図を作製したNSさん自身、次のように書いています。
「立体をあのように点図化しただけでは、晴眼者の方が立体を想像出来ないということにびっくりしました。私は立体があってあの図を描いたのであって、自分としてはあのようにしか描けない、結構よく描けているのではなどと思っていました。もし図だけしか見なければ、元の立体を知らなければ、想像が出来ないなどとは思ってもみませんでした。……これまで私自身見取り図ではない2方向の平面図だけから、その立体を想像したことがないのも事実です。」
また、OTさんは、
「上からと正面からの平面図を見て、立体を想像するのは、視覚に障害がない者でも初めは難しかったです。頭で考えるより、図にあるとおりにマジキャップを配置してみる方が速くできると思いました。」
と書いておられます。
点訳ボランティアの中には、触図化の方法として、上から見た図と正面から見た図に分けて描く方法をいわば鵜呑みにしている方がおられるのかもしれません。なぜこの方法が触図化の方法として適しているのか、またこのような触図からどのようにして見えない人たちが実際の立体をイメージできているのだろうかというようなことについても考えてほしいものです。
上からと正面からの2方法からの図(平面図と立面図)に分ける方法が推奨されるのは、主要な面に対して垂直な方向からの平行光線による投影法だと、図に描かれている平面と、実際に立体を触った時の面がほぼ同じ形になる場合が多いからだと思います。そして、このような2つに分けられた図から1つの立体をイメージするには、(見える・見えないにかかわらず)頭の中で平面図と立面図を合成して1つの立体を組上げる作業が必要です。一挙に立体をとらえるという訳にはいきません。図から立体を構成する訓練・教育が必要です。このようなことを、多くのボランティアに知ってほしいです。
2.図法について
今回実験に参加していただいた3人は、いずれも、上からと正面からの2方向に分ける図の描き方には不慣れだったようです。
GTさんは、9歳で弱視となり、中学校から盲学校で教育を受けました。読み書きは主に点字だそうですが、日常生活ではほとんど視覚に頼っているとのことです。視覚的な、斜めから見た図が普通で、今回のような2つに分けた触図はまったく初めてのようでした。
ADさんは全盲ですが、色などについての視覚経験はしっかりあります。ずっと統合教育で、教科書などの図は、ほぼ原図のままの、斜めから見た図をそのまま触図化したもので理解していたようです。そして、そのような触図の約束事(まず底面を描く、見えない線は点線で描くなど)で立体をイメージしていたようです。
TKさんは全盲で、盲学校で教育を受けました。しかし、上からと正面からの2つに分けて立体を示したような図についての記憶はないとのことです。(展開図などの記憶はしっかりあります。)
私の推測では、このような2方向に分けて触図化する方法が盲学校の教科書などに取り入れられたのは、1970年代のことではないかと思います。
私の中学・高校時代は1960年代後半です。その当時の盲学校の理科や数学の教科書では、まず立体の図はかなり少なく、直方体や円錐などの展開図や、わずかですが、円柱や立方体を斜めから見た図を触った記憶があります。私は斜めから見た図で、円がなぜ楕円のように示されているのか、長方形がなぜ平行四辺形になっているのか、いろいろ考えをめぐらせたものです。
私が点字教科書の製作に加わり出した1980年代前半には、すでに上から見た図と正面(横)から見た図に分ける触図化の方法が確立されていました。
一般に立体を平面の図に描く方法としては、
・平行光線で斜めから投影した図(奥行きも示せる)
・点光源から透視図法で描いた図(近くの面ほど広くなる→円近法)
・触図でも採用されている平面図と立面図の組合せで示す方法(建築などの設計ではかなり使われていると思います)
・展開図で示す方法(その1つに、今回太田さんがAの立体と関連して紹介してくださった「起こし絵」もある)
などがあります。
このうち、斜めからの投影図や点光源からの透視図は、奥行きもふくめ視覚的に立体をいわば「一挙」に示すことができるという利点があります。これにたいし、平面図と立面図に分ける方法や展開図は、立体を構成する各面の形や広さをより正確に示せるという利点はありますが、立体全体の形は図に示された各面を頭の中で組立てて想像するしかありません。
さらに、投影図や透視図は、離れた所からの視覚的な表言であって、直接部分部分に触れて全体の形を構成していく触覚による認知とはかなり異質なところがあります。触図化に当たっては、やはり平面図と立面図に分けて示す方法や展開図が有効だと言えます。
しかし、このような触図化の方法にも問題があります。
平面図や立面図では、投影する方向と垂直な面はほぼ正確に表言できますが、斜めになっている面はその形や面積が変化してしまいます(このような斜めの面が多いほど、立体全体の理解が難しくなると言えます)。また、上面と下面、正面と向こう側の面の形や大きさが異なっている場合には、それら2つの面をはっきり区別できるようにしなければなりません。さらに、平面図と立面図から立体全体を構成する作業を助けるためには、それらの図に共通する面や線・点の対応がよく分かるようにすることも大切です。
展開図の場合は、立方体など簡単な立体については理解しやすいですが、 正12面体など少し複雑な立体になると、展開図だけではほとんど立体全体の形は想像できず、実際に切り取って組立ててみるしかありません。また、簡単な直方体などの展開図でも、1つの立体にたいして多種の展開図が可能で、同じ立体でも展開図の形の違いによってしばしば混乱させられたりします。
さらに、今回の実験でも明らかなように、特定の見えない人にたいしてどんな図法が適切かは、その人の視覚経験の程度、どんな図法に慣れているか、触覚的印象からの構成力などによって大きく左右されることは確かです。
OOさんの「現在の見えない度合い、過去に見えた経験、受けてこられた訓練(教育)の違いによってどのようなものが最も理解しやすいのかが一様ではないという事が印象に残りました」という指摘は、まったくその通りだと言えます。
ただ、今回の実験で注目したいのは、TKさんがBの立体を短時間に簡単に組立てたことです。TKさんは上から見た図と正面から見た図に分けて示す図法は初めてで、@やAの立体ではかなり試行錯誤をしておられましたが、Bでは、マジキャップの使い方に慣れてきたこともありますが、このような図法の特徴をよく理解し、触覚的印象から次々と短時間に組立てることができました。このことは、上からと正面からの2方向に分けて触図化する方法が、部分をつなげて全体を構成していく触覚的な認知パターンに合っていることを示唆しているのかもしれません。
3. 練習と教材
以上からもある程度明らかなように、立体の触図化の方法として実際にどんな図法が望ましいかには、いろいろな要因が係わってきます。各図法の良い点・悪い点、実際にその図を触って理解する人たちの特性、さらに触図製作上の技術的な制限が、複雑に交錯しています。
斜めからの投影図や点光源からの透視図では、1つの図で立体全体を示せるという利点はありますが、例えば四角形が平行四辺形や台形に、円が楕円などに変形して、直接の触覚的印象とは大きく異なります。また、しばしば上面と下面などを示す線が交わることになり、各面をはっきり区別するのがたいへんなことも多いです(とくにエーデルでは、はっきり識別できる線の種類が少ないため、なおさらです)。しかし、たとえ視覚経験がなくても、投影図や透視図について論理的に理解することは可能ですし、それらの図法の約束事に慣れれば、簡単な立体についてはこれらの図法による触図でもどんな立体を表言しているのかは十分見分けられます。ごく簡単な立体では、これらの図法のほうが時間的に速く理解できることもあるでしょう。
平面図と立面図に分ける方法や展開図のほうが、直接の触覚的印象に合っている場合が多いですし、線の種類も少なくて済みます。しかしこれらの図法は立体そのもののイメージを写しているものではなく、あくまでも頭の中での構成作業が必要で、そのための訓練・教育は欠かせません。また、螺旋や斜めにねじれた立体などはこれらの図法で示すのはなかなか難しいです。
いずれの図法にしろ、図を触るための練習、図から立体を構成する訓練は必要です。基本は平面図と立面図に分けて示す方法や展開図だとは思いますが、同じ立体を投影図や透視図ではどのように表言するのかについても、教材を提供し、その原理や約束事について教育・訓練するのも有益なことだと思っています。
◆テーマ2: 組立て過程を通しての建物などの理解 (1)
駅など、大きな建物の構造や中の配置を理解し、またその中での自分の位置を想像するのは、かなり難しいことです。
今回は手始めとして、太田さん製作の組み立て式ログハウスを、 太田さんの指導で実際に作ってみました。
(以下、太田さんの文章です)
「スチレンボード製の、組み立て式ログハウス」
ログハウスは犬小屋とよく似ていて、構造が単純であることと、少しは自分でレイアウトできる楽しみがあるという理由から、選びました。
こんな簡単な構造のログハウスでも、壁の組み方、屋根の形、ロフト、バルコニー、長い梁、大黒柱、2階のフロアと階段、間仕切り壁、窓、ドアー、床、デッキなど、部材の数も沢山あって、建物の構造を知るには、ちょうどいい見本になるでしょう。
以下、この模型の家の構造を簡単に説明します。
・1階部分の広さは、縦横6mの大きさで、1階には4つの部屋があります。
・屋根は、2枚の板を直角に合わせた形で、正面からみれば三角形をした切妻式という屋根です。
・2階への階段は、1階の入り口から見て奥の部屋の左隅にあり、踊り場付きになっています。
・2階の半分は吹き抜けになっていて、2階は半分だけが部屋(ロフトといいます)です。その部屋の1.2mの低い壁からは、1階を見下ろせるようになっています。
・また、1階の入り口の真上に、バルコニーがあって、2階からそこに出るドアーの開口部があります。
試作した模型は、50分の1の縮尺で作っています。 実寸6m×6m、高さ6mが模型では、12cm×12cm、高さ12cm の大きさです。
例えば、1m幅の家具なら、2cmm幅の模型部品の大きさで作ることができますので、部品を作って楽しんで頂くこともできます。
事前に組み立てた状態で触ってもらい、まず全体の構造を確認してもらう予定でしたが、5セット分を準備したために事前に組み立てる時間の余裕がなく、直接組み立て作業から行なって頂きました。 触知体験の手順がまずかったと反省しています。
なお、この組み立てキットの図面と説明書は、触地図フォーラムのホームページからダウンロードできるようになっていますので、ボランティアの皆さんに、ぜひ作って頂きたいと思います。
触地図フォーラムのURL: http://tenjitext.hp.infoseek.co.jp/
(太田さんの文章終り)
とても精巧な組み立てセットでした。皆さんとても感心していました。見える人と見えない人が組になって作ってみました。
まず、ADさんの感想です。
「家はあまりにも大きすぎて、手で触って全体を見ることはとてもできません。
だから、知らない部分がいっぱ〜いあります。というより、知らない部分がいっぱ〜いあるということを、初めて知りました。
以前、友達が「ろくでなし」の語源を説明してくれたことがありました。家のつくりの一部分で「ろく」と言うところがあるそうで、そこから来ているのだそうです。でも、家自体のつくりを知らなかったわたしは、説明を聞いても何のことだかさっぱりでした。」
また、TKさんは
「家作りは、つみきと違って紙を組あわせることで、屋根以外は安定していて後から触っても壊れないところが気にいりました。」
と書いています。
私は、当日はとにかく概形を作ることに熱中して(ということは、各パーツの切れ込みなどにばかり注意していて)、中の細かい構造まではあまり観察せずにいました。上の太田さんの文章を読みながら改めて当日作ったログハウスを思い出しつつ「ああそうだったのか」と納得しています。また、以前実際にログハウスに入ったときの感覚も思い出しています(とくにロフトから下の様子を感じ取っていたときの印象が思い出されます)。
今回はログハウスでしたが、できれば高層建築物や駅の構造などについても、このような組立てセットや模型を使った体験をしてみたいものです。
●物体の外形を写し取る道具
また、太田さんは立体物の断面を知ることのできる2次元「ピンディスプレイ」を試作しています。今回この装置の使い方について、実際に顔などに当てたりしながら、太田さんに説明してもらいました。
(以下、この装置についての太田さんの説明文です)
考古学者や鋳物職人が使っているという、外形や輪郭を手軽に認知できる道具を試作しました。
大きさは、縦30cm、横25cmくらいで、髪の毛をすく大きなクシのようなものです。
クシの歯のように真っ直ぐ1列に並んだピンに、物体を当てて押しつけると、触れた部分のピンが軸方向に動くようになっています。
使い方として、例えば、人の顔の鼻筋に沿って押しつけたあと、そのクシを横方向から見ると、クシの歯の並びが、横を向いた顔の輪郭を写し取って曲線状に並びます。
このクシの歯の曲線状態を手で触れることによって、横からみた対象物体の輪郭を認識して頂けるのではないか、と思っています。
(太田さんの説明文終わり)
まず皆さんは、このような装置を作る太田さんの工夫の才と出来映えに感心していました。
実は、立体物を触って、そのある点での断面の形を正確に知るのは意外に難しいことです。実際に触っているのは立体物の表面の曲面だけです。円柱や円錐などごく単純な立体の断面は想像しやすいですが、普通の複雑な曲面の物体の断面を正確に知るためには、テープや紐などを使って同じ高さの所をたどれるようにするなどの工夫が必要です。
この装置を使えば、簡単にいろいろな方向の断面の形を正確に知ることができます。また、直接には触りにくいような物についても、この装置を介していわば間接的にその形を知ることができるでしょう。触ることのできる物についても、その中にたとえば指の届かないような深い空洞などがあったときにも、これでその形を知ることができるかもしれません。
この装置の使い方について、THさんは「エーデルで作図した横顔・ボトルの輪郭線を理解してもらうのに役立ちそうです。」と書いています。
また、TKさんは、「触ったらすぐ壊れてしまうような物にそっと当てて凹凸を楽しむことができそうでした。」と書き、さらに「あの装置が何組もあったら、左右と中央から形をとって何をモデルにしたかを当てるゲームもしてみたいです。」と楽しい提案もされています。
なお、この装置の詳しい説明は、太田さんの「点字教科書と触地図フォーラム」 に掲載されています。
●次回の予定
第7回研究会は、9月11日土曜日、「言葉による触った感触の表言」をテーマに開催する予定です。
視覚による情景などの文章による説明は、ちょっと小説などを読めば明らかなように、とても豊かです。これに比べると、触った感触の言葉による表言法はかなり貧弱なように思います。できるだけ実際の事物に触りながら、その感触をどのように表言できるか、様々に検討してみます。
各参加者には、「この感触はどのように表言されるのだろうか」と思うような物を持参していただければと思います。よろしくお願いいたします。
(2004年7月13日)