障害の概念、介護の位置付け
障害・障害者という言葉(本来の用字は障碍・障碍者)には、否定的・後ろ向きな意味合いを感じる人が多いと思います。とくに「健常者」という語と対比して使われる時、「障害者」のマイナス・イメージが強調されます。
《障害者に代わる語: チャレンジド》
プロップ・ステーション(障害者がコンピュータ・ネットワークを活用することで社会参加・就労するのを支援するボランティア組織、1991年設立。代表:竹中ナミ。現在は社会福祉法人)では、障害者を「チャレンジド」と呼んでいます。この呼び方は今、福祉、医療、教育、コンピュータ関係者の間でも少しずつひろまっています。
もともと、 "The challenged"という言葉は、アメリカでは「神からチャレンジすべき課題や才能を与えられた人という意味に使っている」そうですが、「神から」というイメージのない日本では「挑戦者精神を失わない人」というような意味合いで使われているようです。そしてプロップ・ステーションでは、「チャレンジドを納税者に」をスローガンにしています。
*英語では障害者を ‘disabled persons’などと表しているが、この ‘disabled’も否定的な語である。最近では、障害児を‘children with special health (care) needs’などと表記するようになってきている。
《WHO の「障害」の概念》
1980年にWHOは障害の概念をめぐって、以下の3つのレベルの障害を示した(障害の医療モデル)。
a) 機能障害(Impairment):心身の形態または機能が何らかの形で損なわれている状態
b) 能力障害(Disability):機能障害の結果として生ずる活動能力の制限または欠如
c) 社会的不利(Handicap):機能障害または能力障害によってもたらされる社会的な不利益
この内、機能障害の観点からみると、近年高齢化の進行とも相俟って、障害の重度化・重複化が一段と進んでいる。しかし、この事はけっして障害のある人が生活の質を向上することが困難となっているという状況を示している訳ではない。
例えば、事故などで片足を失うという機能障害(impairment)を被った人が、車椅子を利用することにより、歩行困難という1つの活動能力の制限(disability)を取り除くことができるし、また、車椅子が利用できる環境を整備することにより、外出困難といった1つの社会的な不利益(handicap)を克服することもできる。
このように、障害のある人の生活の質の向上を図るためには、機能障害を原因とする能力障害や社会的不利をいかに除去または軽減し、個々人が自由な選択に基づき活動できるようにするかが重要なポイントとなる。
* WHOは、2001年、上で説明したような、それまでの「国際障害分類」(ICIDH)に代えて、「国際生活機能分類−国際障害分類改訂版−」(ICF)を採択。ICFは、主に人間の生活機能の観点から障害を位置付けるもので、アルファベットと数字を組み合わせた方式で分類リストが作られている。人間の生活機能と障害について、「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つの次元及び「環境因子」等の影響を及ぼす因子で構成され、各構成要素間のダイナミックな相互作用の中で障害がとらえられている。
《障害学(disability studies)》
1980年代から、ディスアビリティの概念に基づいて、イギリスやアメリカを中心に「障害学」が提唱された。
障害学とは、障害・障害者を社会・文化の視点からとらえ直し、従来の医療・リハビリテーション・特殊教育・社会福祉といった「制度的な枠」から障害・障害者を解放しようとする試みである。
障害学の視点からの、これまでの社会・文化・歴史の見方の問い直しも始まっている(障害者の果たしてきた、あるいは果たすであろう積極的な役割をも含めて)。
《自立の意味》
●狭い意味 (主にインペアメントの概念に基づく)
既存の社会に適応するための能力・態度を身に付け、自活する(職業的・経済的自立)。これは、リハビリテーション的な福祉政策が目指したもの。
この意味での自立は、重度の障害者にはきわめて難しい。
●広い意味 (主にディスアビリティの概念に基づく)
障害者自身の意志に基づいて、その人のニーズに合せて支援体制を整え、「その人らしい自立」を目指す。
この典型的な例が、 1970年代から始まった「自立生活運動」で、施設や家族の保護(抑圧)を離れて、地域で自己の責任で生活する(その意味で、しばしば自律という語も使われる)。
1980年代後半からは、このような自立を支えるために、各地に自立生活センターが設立されはじめた。
《自立生活センターとは》
●全国自立生活センター協議会(JIL)の正会員となる要件
1. 意思決定機関の責任者および実施期間の責任者が障害者であること。
2. 意思決定機関の構成員の過半数が障害者であること。
3. 権利擁護と情報提供を基本サービスとし、且つ次の四つのサービスのうち二つ以上を不特定多数に提供していること。
・介助サービス
・ピア・カウンセリング
・自立生活プログラム
・住宅サービス(住宅情報の提供)
4. 会費の納入が可能なこと。
5. 障害種別を問わずサービスを提供していること。
《介護》
介護は、「尊厳ある個人としての、その人らしい自立」を支える専門的な活動である。
そのためには、各障害に応じた専門的な介護技術を身に付けることはもちろんだが、なによりもまず、どんな障害があろうとも、人間(=同じ仲間)としての尊厳・人権を十分認め、人間を理解し、共感する能力を磨くことが大切である。
《文献》
石川准・長瀬修編『障害学への招待──社会、文化、ディスアビリティ』明石書店、1999年3月、2800円
《URL》
●プロップ・ステーション
http://www.prop.or.jp/
●「人が誇らしく生きるためのIT革命」(竹中ナミ)
http://www.prop.or.jp/clip/2001_6/200104toshiseisaku.html
●「障害学カフェ」 (倉本智明)
http://www.akashi.co.jp/menue/rensai/cafe_00.htm
●「国際生活機能分類−国際障害分類改訂版−」(日本語版)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html
●全国自立生活センター協議会
http://www.j-il.jp/
●身体障害者一つの挑戦! (藤田健一)
http://www16.big.or.jp/~tryman/
(2000年6月5日、2002年9月11日、2006年4月15日改訂)