専門点訳講習会「理数コース(高校用)」

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 この資料は、昨年9月から10月にかけて全5回で行われた、専門点訳講習会「理数コース(高校用)」で受講者の皆さんに配布した墨字資料を一部加筆・修正したものです。(墨字資料とともに、実際の点訳例も多数入れた墨点資料も配布しました。)
 『点字数学記号解説 暫定改訂版』(日本点字委員会、2000年、2刷 2005年)と『点字理科記号解説 暫定改訂版』(日本点字委員会、2001年)に基づき、それに現在出版されている高校の点字教科書の表記も参考にしてまとめたものです。
 講習会では、この配布資料とともに、点訳課題として、数学・物理・化学・生物・地学の大学入試問題などを用意しました。受講者の皆さんにそれらを実際に点訳してもらい、それらに私が個々にコメントを付けて返しました。
 以下に、配布した墨字資料を示します。
 なお、この簡易な墨字資料に、墨点資料の詳しい点訳例、さらに私が講習会で話した内容の一部を加えた資料を、受講者の中のお二人がワードで作成してくださいました。ワードの資料のダウンロードはこちらです。また、このワードの資料には墨点字のフォントが使用されていて、墨点字フォントがパソコンに入っていないとうまく表示されません。墨点字フォントを導入したい方は、日本ライトハウスが墨点字フォントを無償提供していますので、こちらからダウンロードしてください。
 
1 理科・数学に共通の事項
1. 数式指示符
 数式指示符: 56の点
 数式の初めに前置する。
 (数式: アルファベット・数字・記号類が1個以上並んだもの)
 ただし、数式が数符または言葉を囲む括弧で始まっている場合には、数式指示符は省略。
 
●数式の前後のマス空け
 数式の前は 1マス空け。ただし、言葉を囲む括弧で始まる式の前は 2マス空け。
 数式の後は、関係式(イコールなどをふくむ式)やマス空けをふくむ式(座標や集合・順列など)の場合は 2マス空け、それ以外は 1マス空け。
 
●数式の後の句読点
 数式の直後の句読点(文章記号としてのピリオドやコンマをふくむ)は原則として原本通り付ける。
 ただし、次のような場合は句読点を省略する。(読点やコンマ等を省略したとき、 1マス空けの場合と 2マス空けの場合がある。)
@下がり数字の後の句読点
A数列や方程式の解の途中にあるコンマ(読点)
 【注意】座標や集合など、数式中にあるコンマは一般には省略しない。
B前の語句がその直後の並列した数式にかかる場合、あるいは後の語句や単位がその直前の並列した数式にかかる場合
 
2. 分数囲み記号
 分数囲み記号: 12356の点 23456の点
 分数囲み記号は、原則として中学以降で用いる。 (ただし、実際には小学校の算数でも使用されている。)
 
3. 単位括弧
 単位括弧: 5、2356の点 2356、2の点
 単位括弧は、現在は、高校以上の数学・理科系の教科で用いられている。
 【参考】2006年4月から使用されている盲学校中学部の理科の教科書では、ごく一部で単位括弧を使っている。情報文化センターが点訳している中学理科の教科書では、組立て単位が出てくるセクションで単位括弧を使っている。
 
 単位括弧内は数式表記とする。ただし、数式指示符は用いない。また、単位が分数形式になっていても、分数囲み記号は使わず、スラッシュは 34の点で示す。
【注意】
  1. ℃と%の点字記号は、記号それ自体の初めに56の点が含まれているので、単位括弧の中でも56の点は付けたままにする。
 2. 墨字では単位を大括弧 [ ]に入れて表している場合のほか、丸括弧( )に入れたり、括弧類に入れずにそのまま表記していることがある。点字ではそのいずれの場合も、単位括弧を使う。
 3. リットルの記号は L (大文字)で表記されることが多いが、盲学校高等部の教科書では従来通り [l]と表記している。
 
 単位括弧の後に仮名が続く場合は、マス空けする。
 単位の中に漢字や仮名がふくまれている時は、その部分を括弧 2356の点 2356の点に入れる。
 
【注意】単位がアルファベット表記の時は立体(正体)で示されているので、斜体で示されている変数などと区別できる。例えば、 2N(斜体、変数)と 2N(立体、単位)の違いに注意。
【補足1】角度の単位°は単位括弧に入れても間違いではないが、普通は分を表わす′や秒を表わす″と同様単位括弧に入れない。
【補足2】単位が漢字や仮名だけで、アルファベットや記号類がまったくふくまれていない場合は、単位括弧は使わない。このとき、単純な数に続く単位はマス空けせず続けて書くが、その他は 1マス空ける。
 
【注意】
 盲学校用の教科書では、図や表の中では(マス数節約のため)数式指示符や単位括弧は用いていない。(アルファベットの小文字にだけ 56の点を付けている。)
 (ただし、図や表の(注)の文章中では数式指示符や単位括弧を用いている。)
 また、分数囲み記号も、 1/2 など簡単な分数の場合には用いていない。
 
4. その他
 (化学分野では異なる場合が多い。)
●括弧類
 小括弧: 236の点 356の点 (化学では 126の点 345の点)
 中括弧: 6、126の点 345、3の点
 大括弧: 6、12356の点 23456、3の点 (化学では 12346の点 13456の点)
 ブロック化括弧(添え字の範囲、ルートの範囲などを示すために点字表記で使われる括弧): 236の点 356の点
 
●添え字
 右肩添え字: 45の点
 右下添え字: 56の点
 (右下添え字が 0〜9の時は、 6の点の後に数符無しの下がり数字を使って良い。ただし、積分の記号 ∫ や [ ]に続く下の添え字は、簡易な方法ではなく、かならず本来の書き方をする。)
 【補足】指数が 2乗、 3乗、 -1乗のとき、それぞれ 126の点、146の点、156の点を用いて良い。
 
●行末のつなぎ符
 数式などが1行に入り切らないときは、イコールなどの関係記号やプラス・マイナスなどの演算記号の前など、できるだけ大きな区切り目で区切り、行末につなぎ符 6の点を書き、次の行を関係記号や演算記号などから始めるようにする。
 【注意】マス空けを含む数式において、そのマス空けの所で行を替えなければならない時は、行末のマス空けの後につなぎ符を入れる。ただし、コンマの後や集合の縦線の後など、数式が続くことが明らかな記号の後ではつなぎ符は必要ない。
 
●式番号
 式番号は、 ( ) に入れて示す。
 式番号の書き方には次の2つがある。
 @式の後、2マス空けて点線を書き、その後1マス空けて式番号を書く (点字教科書での方法)
 式番号は行末にそろえて書くようにする (前にさかのぼって検索するのに便利な方法
 
 
2 数学分野
 *点訳例として、高校の数学に出てくる多くの数式をモーラした「公式集」も配布しました。
 
1. 二重大文字符
 二重大文字符 6、6の点は、図形を表す大文字列にのみ使用する。
 
2. lim, Σ, ∫等、2段ないし3段に書かれている数式
 lim 56の点 下の添字 1マス空け 基準線上の式
  *下の添字中の矢印は省略し、1マス空け
 Σ 56の点 下の添字 1マス空け 上の添字 1マス空け 基準線上の式
  *下の添字中のイコール =は 25の点で示す。
 ∫ 56の点 下の添字 1マス空け 上の添字 1マス空け 基準線上の式
  *いずれの場合も、基準線の下あるいは上に書かれている式が2要素以上からなっている場合も、ブロック化括弧は必要ない。
 【参考】下や上の添え字のない不定積分は、∫の記号に続けて式を書く。
 
3. ベクトル
 ベクトルであることを示す矢印(上付きの矢印): 4、25、135の点
 
4. 行列
 行列の書き方として「暫定改訂版」には 2通りが掲載されているが、できるだけ@の作図による方法で書いたほうがよい。(公式集参照)
 
5. 点字特有の区切り記号
 次のような場合に、誤読を避けるため、点字特有の区切り記号 3の点を置く。
 @連続した大文字のアルファベットに続く sin や cos 等の直前。
 A角度の単位 d の後に sin や cos 等が続く場合
 
6. その他の記号
 比例 ∝: 5、25、2の点
 自然対数: ln
 太字など字体の異なるアルファベット:ベクトルを示す太字など、字体の違いをどうしても示す必要がある時は、点訳者注で断ったうえで、ドイツ文字を使用しても良い。(小文字は 5の点、大文字は 456の点を前置。)
 
 
3 物理分野
1. アルファベットの字体の区別
 斜体文字: 変数や定数などの物理量
 立体(正体)文字: 物体名称や位置など
 立体文字の場合は、数式指示符の次に立体指示符 5の点を付ける。
【注意】立体指示符の効力の及ぶ範囲は直後の 1文字だけである。線分など図形記号で立体文字が続く時は、立体指示符を使わず、通常の表記とする。
 
【参考】
 @立体指示符の使用は高等学校の物理分野に限る。小・中学校の理科、あるいは数学など他の教科では用いない。なお、数学の問題集で物理分野の問題(速度や加速度・距離などを求める問題)が出てきたときも、立体指示符は使わない。
 A単位や元素記号なども立体だが、立体指示符は使わない。
 B盲学校用の点字教科書では、図や表中では立体指示符は、数式指示符等と同様省いている。(ただし、図や表の(注)の文章中では、数式指示符等と同様立体指示符も使っている。)
 
2. 括弧類など
 平均を示す〈 〉: 246の点 135の点
【参考】平均は多くの場合上付きのバー 4、14の点で示されている。なおバーはこのほかに、光の経路などを示す線分の表記や反粒子の表記に使われる。
 
●ハイフンについて
 点字の数学・理科記号ではハイフン(マイナスと同形)に対応する記号は定義されていない。墨字でハイフンが使われている時、点字では、省略される場合と、便宜上 36の点を用いる場合がある。
 
3. 電気・磁気分野における触図記号
 ほぼ原図通り表すが、触って簡単に区別できるように、しばしば単純化したり強調したりすることがある。
・紙面の裏から表えの方向の指示: 円の中心にやや大きめの丸い点
・紙面の表から裏への方向の指示: 円の中に×印
・回路図の配線の交差部の接続: 交点に大きな点(目立つように描く)
・回路図の配線の交差部の非接続: 小さな半円で交差させるか、一方を交差の両側で 1点分ずつほど途切れさせる
・電池のプラス・マイナスの区別: 長さがあまり違わないとコンデンサーと誤解する
・スイッチが開いているか閉じているかをはっきり表す
 
●コイルの巻き方向
 @見えている手前側だけを線で表す
 A手前側を線で表し、見えていない向こう側は点線で表す
 Bテキスト(「点字理科記号解説 暫定改訂版」 2-4-4 A)に示されているように、巻き方向だけを取り出して描いても良い。 (線の交差のさせかたに注意。)
 C装置図などではただの四角でも良い。
 
 
4 化学分野
 *参考資料として、「化学物質名などの切れ続き・表記について」も配布しました。
1. 化学式・化学反応式
●化学式の始まり、および元素記号・化学式などのの表記
 化学式または化学反応式の最初には、化学式の指示符 56の点(数式指示符と同じ)を付ける。(ただし、最初が数符で始まるときは付けない。)
 元素記号には、化学式指示符の直後および計数の直後では大文字符が必要だが、その他の場合は大文字符は不要。
 化学式中の原子数(右下添え字)は、元素記号の後に数符無しの下がり数字で示す。(化学式中の原子数がアルファベットで示されているときは、下付き添え字扱いとし 56の点を前置する。)
 計数がアルファベットの場合は、計数に 56の点は不必要で、その直後の元素記号には大文字符を付ける。
 化学反応式などが 1行に入り切らない時は、できるだけ大きな区切り目で区切り、前行の行末につなぎ符 6の点を(マス空けなしで)添える。
 
【注意】
 1. 化学反応式や熱化学方程式中の矢印やイコール、プラスやマイナスの前後は 1マス空け。
 2. 矢印の上下などに「発熱」や「吸熱」、「加水分解」などの語区が添えられているときは、矢印を図で表し、矢印の上・下にその語区を(しばしば括弧書きで)記す。(テキストの 3-3-3 Cの例2参照)
 
【問題点】
 このような化学式の表記の仕方では、例えば 一酸化炭素 CO とコバルト Co は点字表記では同じになってしまう。(多くの場合前後の文脈で区別できる。問題集の選択肢などで紛らわしい場合は点訳者注が必要。)
 
【補足】有機化学では炭化水素基などの基(radical)を R で示している。 R は元素記号ではないので、化学式中などでもかならず大文字符は付ける。
 
●イオン
 イオンを示す価数は、右肩添え字としては扱わず、 3価までは元素記号に続けて 3の点を書きその後にプラスまたはマイナスを必要数書く。 4価以上は、3の点の後に(墨字表記通り) 4+ 6- のように書く。また価数が文字で示されているときは、3の点の後に n+ のように書く。
   (墨字では 3価は 3+ 3- のように書くが、点字ではプラス記号またはマイナス記号を3つ書く。)
 なお、価数がローマ数字で示されているときは、一般のローマ数字の表記通りに書く。
 
●化学式中の括弧、ドット
 小括弧 ( ): 126の点 345の点
 角括弧 [ ]: 12346の点 13456の点 (錯イオン、イオンなどの濃度)
 化学式中の区切りのドット: 5の点
 
●原子番号・質量数の書き方
 原子番号(左下の数字)は下がり数字、質量数(左上の数字)は普通の数字で示す。
 原子番号・質量数がアルファベットで示されているときは、それぞれ下付き添え字・上付き添え字として扱う。
 
●素粒子記号の書き方
 素粒子記号は、核反応式中であってもつねに外字符 56の点を付ける。
 
●その他
@日本語文中の化学式の前後は 1マス空け、化学反応式(熱化学方程式や核反応式もふくむ)の場合は、直前は 1マス空け、直後は 2マス空け。(化学反応式はできるだけ改行して書いたほうが良い。)
 
A熱化学方程式中の物質の状態を示す固体・液体・気体などは、化学式の後 1マス空けて( )に入れて示す。(墨字でも括弧に入っていることがある。)
 また、「水」を示す aq が化学式に添えられているときは、化学式の後 1マス空けて(aq)とする。
 【注意】熱化学方程式では計数がしばしば分数になるが、単純な分数なので分数囲み記号は使う必要はない。
 
B化学反応式中の物質名が日本語でも書かれている場合、その部分を括弧で囲んで化学式の後に 1マス空けて書く。
 【補足】化学式とその物質名がうまく対応するように点訳できる場合は、まず化学式だけの反応式を書き、その下の行に物質名だけの反応式を書く。
 
C発生と沈澱
 気体発生を示す上向き矢印: 3456の点
 沈澱を示す下向き矢印: 1456の点
 【注意】上記の上向き矢印や下向き矢印の点字記号を使用する際は、その意味を点訳者注で示したほうが良い。
 
2. 構造式・示性式
@構造式・示性式が、縦や斜めの位置に価標が無く横一列で描かれている場合は、次のような価標記号を使って点字化する。
 単結合 4の点
 二重結合 45の点
 三重結合 456の点
 単結合 2つ 46の点
 なお、構造式や示性式の書き方の基本は化学式と同じ。
 
A縦や斜めの価標をふくむ構造式は、ほぼ墨字通り触図化する。(図として扱われ、化学式指示符 56の点やその直後の大文字符 6の点は省かれる。)
 
3. その他
 水素結合: 4、4の点
 化学式中の特定の原子に付けられた標式(ゴシックやアスタリスクで示される。トレーサーの放射性同位元素や光学異性体の不斉炭素原子を表す): 126の点 345の点で囲む。
 
●電池・電気分解
 電極と電解質の界面 |: 456の点
 電解質同士の界面(塩橋) ‖: 456、123の点
 各物質にはそれぞれ大文字符を付ける。
 
●電子式
 図で表す。電子を表す点と点字の点がしっかり区別できるように、電子の位置は大の点で描く。
 
 
5 生物・地学分野
1. 生物分野
●遺伝
 優性遺伝子を表す大文字: 6の点
 劣性遺伝子を表す小文字: 56の点
  *各遺伝子にはそれぞれ大文字符・小文字符を付ける
 表現型を示す括弧: 236の点 356の点
 
●その他の表記
 ♂ m
 ♀ f
 生殖能力のない♀ f-
 第1世代 F1
 第2世代F2
 高エネルギーリン酸結合 ADP_(P)
 ビタミンB2 テキストでは下がり数字を使っているが、化学の教科書などでも普通の数字を使っている。ビタミンB12などもあるので、下がり数字は使わなくて良い。
 伝令(メッセンジャー)RNA mRNA
 リボソームRNA rRNA
 アセチルCoA (Acetyl coenzyme A、アセチル補酵素A の略)
 NADH (NAD は nicotinamide adenine dinucleotideの略。NADH は NAD と水素H が結び付いたもの)
 
2. 地学分野
●緯度、経度、方角(地層の走向・傾斜)
 
●地質図
 簡略化し、特徴を強調する。
 とくに、各地層・岩石の区別、貫入層、断層の種類や方向が分かるように。
 岩石の区別は略称を使って。
 
●天気図
 
●ケッペンの気候型
 大文字にはそれぞれ 6の点を前置。
 
●雨温図
 1年間の月平均気温の変化を折れ線グラフで、月総降水量の変化を棒グラフで示したもの。
 エーデルの点図では、棒グラフの部分は中点の二重線で示すのが良い(図全体が小さければ、大点の実線でもよい)。棒グラフと折れ線グラフが重なる部分では、折れ線グラフのほうを優先し、棒グラフは切る。
 
(2015年2月19日)