第9回 立体物模型の製作(1) (太田) (2004年2月3日)
*太田さんは、一般の小学校に通っている全盲児の社会科の教材作製を担当しておられます。教科書に出てくる地図などをそのまま点図化したりするのではなく、触ってもっとも分かりやすいと思われる形で教材を提供しようと、ボランティアの立場で様々の工夫をしています。 点字教科書と触地図フォーラムのホームページに掲載した作品を中心に、紹介します。
触地図フォーラムのHPのアドレス http://tenjitext.hp.infoseek.co.jp/
◆教材補助用具としての触地図製作例
教科書上の地図をそのまま点図化しただけでは、日本全体の姿や地球上の国々の位置関係などのイメージを掴むことは難しい。例えば、日本の全体図では、沖縄が九州の東にあったり、北海道が日本海に位置していたりする。また、世界地図では、ヨーロッパに比べてアフリカの縮尺が非常に大きくなっている。
殊に初めて接する日本地図や世界地図は、正確な位置関係を示した、できるだけ大きな触地図が望ましい。
(縮尺の異なった部分的な地図は、全体像を把握できてから使用するべき)
@A1サイズの日本全体の触地図
・北海道や沖縄の位置を正しい位置に配置する。
・朝鮮半島、樺太、国後島との位置関係も判るように書き入れる。
●作品の説明
・パネル製作用のベニヤ板を準備。
補強枠や板の周辺の角を取っておく(面取り)。
・陸地と海洋部分の素材
ベニヤ板への接着性を考慮し、表面全体にエンボス加工したアルミ製の壁紙を貼り、この面を海とした。
島や陸地の部分は、4mm厚のスチレンボードから形取りして張り付ける。
(カッターナイフで切り出した切り口は鋭いので、面取りを忘れずに!)
・文字を入れず、4mm厚のスポンジ板から切り出した山脈と、製図用の線引きテープで代表的な川を取り付けた。
※面取りは、触知の安全のためだけでなく、製作品を傷めずに長く持たせるためにも有効。
A直径65cmの地球の大きさを体感できるサイズの触地球儀
・縮尺2000万分の1(北極から赤道までの長さ:50cm)
・児童が両手いっぱい広げて、地球の大きさを体感できるサイズです。
・日本(距離約2000km)は、10cm強の手のひらサイズに相当しますから、手の平を基準に、世界の広さを体感することができます。
●試作例
・ベースになる球体は、数社から販売されているシェイプアップ運動用のボールを使っています。
・地図の型紙は、下記ホームページから舟底型地形図を拡大コピーしました。
HP:世界地図を作ろう http://homepage1.nifty.com/ptolemy/index.htm
・大陸や島は、フェルト生地を型紙にあわせて切り取り、ゴム剤の両面テープで貼り付けています。
詳しい作り方は、下記太田のホームページ(ボランティア)に掲載しています。
・触地球儀の作り方 http://www.asahi-net.or.jp/~fh7h-oot/Volun/vol2a/vol2a.html
B簡単に作れる、立体化補助教材
桜前線や紅葉前線の移動を説明した図や、航空写真のリアス式海岸や扇状地など、点図で伝えるのが困難な場合があります。立体化した簡単な補助教材を作ることによって解決できる場合があります。
●試作例
・厚紙とスチレンペーパーで、扇状地形図を立体化。
・見本は地形を忠実に表現したものですが、触知教材の場合は複雑な部分を単純化する方が判りよいでしょう。(HP:触地図フォーラム)
※山梨県韮崎の扇状地。1900m〜500m部分は、等高線の間隔200mでスチレンペーパーを重ね、500m〜300m部分(扇状地)部分では、等高線の間隔20mで紙を重ねている。山部分と扇状地部分の違いが、スチレンペーパーと紙の触感の違いで、とても分かりやすい。山部分では2つの深い谷のような地形を確認でき、扇状地部分では細かく波打つようにカーブしている扇形の等高線を観察できる。
◆その他、挑戦した立体模型の紹介
@折り紙建築
「世界の名建築をつくる」(彰国社 茶谷正洋、木原隆明共著)から下記2点を作ってみました。
・国会議事堂
・ホワイトハウス
本の型紙図を160%拡大し、B4サイズのケント紙にコピーして切り出す。
空洞部をスチロール材で補強すれば、触れても多少変形しにくくすることができます。
(簡略化されているので、これを触ってイメージが得られるか調査中です。)
※国会議事堂のほうはよく出来ていた。スチロールを入れて固定したのが良い。
※集文社から出ている「ペーパーモデルミニ」という紙模型のシリーズも紹介。この中の「姫路城大天守」を3倍に拡大した作品を見てもらいました。
A実際の建築模型を入手してみて
・建築事務所に譲り受けを依頼しても、製作された模型は施工主に納入されたり、コンテストに出品されたりするので、入手できるチャンスは少ない。
・あちらこちらの事務所にお願いすれば、壊れかけたものや、施工主が破棄される情報などから、入手できる場合があります。
・実際の建築模型は、角が鋭いので不用意に触れるとケガの恐れがあるため、面取りなどの安全対策の処理を行なう必要があるでしょう。
※太田さんが 100円ショップで西洋の教会と城の小さな模型を手に入れてくれました。とても参考になりました。各地の土産物店などで、地元の有名な建物などの模型を入手できるかもしれません。
B海底地形図
小原さんのご要望に応えるために作ったものです。
日本海溝全体とその深度を記入した地図を探したのですが、意外に見つかりませんでした。古本屋でやっと見つけたのが下記地図帳です。
・小学館 総合大地図 昭和59年11月20日(非売品)
範囲: 東経132度(与那国島)〜148度(択捉島)、北緯 50度(樺太) 〜 20度(沖の鳥島)
1000mごとの等高線を1本ずつスチレンボードに写し取って、各深度の外形を切り出す。
・海底深度データも描く世界地図作成ソフトから型紙を作成することにも挑戦
HP:世界地図を作ろう http://homepage1.nifty.com/ptolemy/index.htm
これら型紙データは、触地図フォーラムのホームページからダウンロードできます。
C浮き彫り彫刻の印象採得(立体魚拓のようなもの)
・立体物は水にぬらしてもかまわないものであること。
・糊を溶かした水に浸した和紙を、浮き彫り表面に重ねて貼り付ける。
乾いてから慎重に剥がせば、浮き彫り彫刻の型取りが完成。
※印象採得: 主に歯科で義歯作製などのために型を取ること。
太田さんはこの方法で人物の横顔のレリーフの型を取りました。おおよそ触って分かりました。お金はかかりますが、シリコンなどを使えばもっと良い物ができるでしょう。
D教材に使えそうな、幾何学的な立体物を、低コストで作成。
・具体的な動植物ではなく、正8面体、正12面体、正20面体などの幾何的な立体を、スチレンボードや折り紙で作成。
・外形の簡単な、小物入れのBOXなど。
EDNA分子構造模型
小原さんが購入された小さなDNA模型の組み立てキットからヒントを得て、先日作ったものです。
・ 100円ショップで見つけた立体パズル組立用のブロック(円柱・円盤・球・立方体の4種の形がある)を使って、AとT、GとCのDNA分子の結合を表現(高さ40cm、
8対)。らせん状のリボンは、犬の散歩用のリードを使用。
・ 4種類の50個のブロックの入ったセット、いろんな用途に使えそう。
※二重螺旋構造は点図で描いてもほとんど分かりませんし、また言葉での説明だけでは頭の中ではっきりとイメージするのはかなり難しい。このような立体模型はとても役立つ。
※これら太田さんの作った全盲児のための教材は、見える子どもたちにも人気で、各教室を回っているとか。見えない人のための立体的な触知教材は、実は見える人たちのためにも優れた教材だと言えそうです。
◆参考ホームページ一覧
(すべて無料で利用できます。)
・地形図閲覧システム
http://mapbrowse.gsi.go.jp/mapsearch.html
日本全国のどこでも、2万5千分の1の地形図を表示します。
・世界地図を作ろう
http://homepage1.nifty.com/ptolemy/index.htm
各種図法で世界地図を描きます。拡大地図。海底深度データもあり。
・カシミール3D
http://www.kashmir3d.com/
等高線地形図を元に、任意の位置および高度から3次元の立体地図を描きます。
・3DカードメーカーPRO
http://www.page.sannet.ne.jp/jun_m/card3dpro/index.html
折り紙建築を自作するソフト。サンプルデータを表示し、コピーして使えます。
・点字教科書と触地図フォーラム
http://tenjitext.hp.infoseek.co.jp/
・資料室(触る研究会)
http://www5c.biglobe.ne.jp/~obara/sawaru_shiryou.htm