タカ類の目について

 車を運転しながらドライバーがキョロキョロとあたりを見回している。唐突に「あそこにキリンがいる」とドライバーがいった。僕はドライバーが指さした方向をじっと見つめた。ここはケニアのサバンナ。はるか地平線まで見渡せる。でも地平線にいたるまで何も動物はみえない。
「キリン?どこにいるの?」
「ほら、あそこ」
ドライバーは同じ方角を指差し続けている。僕は目を凝らしてその方角を食い入るようにジーーーッと見つめた。確かに、はるかはるーか遠くに点状になにかが動いていた。食い入るように見つめて、ようやくそれがキリンだということがわかった。
 「だいたいやねえ」と誰かの物まねで突っ込みたくなる。キリンってのは大きい生き物なんですよ!点状のキリンなんて誰が想像しますか!
 まあ、これはケニアでサファリをしていたときに実際に経験したことだし、これに類することは何度も経験している。僕は人間離れした視力に恐れ入った。そして野生で生きている動物たち、特に狩りをする動物たちの視力のすごさについて憧れみたいなものを持ち続けている。


 仕事に行く前にNHKのニュースを見るのが日課だが、その日(今から2、3か月くらい前だったと思う)タカ類の背中にビデオカメラをつけた鳥目線の動画を紹介していた。
 あまりにも素晴らしい映像であったので、仕事が終わって帰って来てからyoutubeで検索してみたら目的の映像に辿りついた。NHKでは、動画を撮影した人とコンタクトを取って、sony製の60gのビデオカメラをタカ類の背中に搭載していたとかいっていた。おそらくSONYの「HDR-AZ1」だろう。製品紹介をみてみると63gでこれが最も軽量である。大型のタカ類で使う分には、かつ過酷な渡りで使わない限りならそれほど負担にならないだろう。実際、映像のタカ類もそれほど気にしていないように見える。

 とりあえず、その映像をはじめに紹介しておきます。


ヨーロッパアルプスの素敵なトレッキングルート上を飛んでいます。




映像の紹介から「Aiguille du Midi / エギュイ・デュ・ ミディ」北壁のあたりを飛んでいるようです。
※ここはロープウェイで簡単に頂上3800m付近まで到達できるし、ここからスキー滑降する人もけっこういるようです。開始0:22秒あたりで、画面右上にも登山者が映っていますし、撮影者自身が山スキーが趣味の鷹匠さんのようです。




エッフェル塔から無事鷹匠の腕に戻るまで。


 撮影場所をみるとフランスがメインになっていることから、撮影者はフランスの鷹匠なのだろう。フランスの鷹狩り事情については、パラパラと鷹匠の書物を見ていたら下記の記載があった。


 フランスにも伝統的な鷹狩りがあった。それが、フランス革命によって一旦ほろんだ。百年間、禁止されていたという。今では、フランスは鷹狩りの盛んな国のひとつに数えられる。禁止が解かれてから、イギリスの技術を導入して、復活させたのだという。
                       (「鷹狩りへの招待」 波多野鷹、筑摩書房)


 タカ類の目がとても良いことは誰もが知っている。網膜には形を把握する桿状体(かんじょうたい)と、色を識別する錐状体(すいじょうたい)がある。夜行性の鳥は桿状体が多く、昼行性の鳥は錐状体が多くなる特長がある。
 もっとも視力のよい部分を中心窩(ちゅうおうか)と呼ぶが、ほとんどの錐体は中心窩に存在しており、桿状体は中心窩になく、その周辺に存在する。ノスリでは、錐状体が1平方あたり約100万個ある。人間は約16万個なので、ざっと人間の約6.25倍の視力をもっていることになる。もっと分かりやすい例では、よく紹介されている例えとして「人が100m先でようやく確認できる物については、ノスリは3.5km先でも確認できる」とされている。


ノスリ(管理人撮影)


 鷹匠が書いた書物でも、タカ類の目のよさに触れている部分がある。たとえば


五位鷺という鳥は、夜、餌かぜぎをして、昼間は杉山とか森に、皆おとなしくとまっております。普通の人間が見たら、五位鷺がいるかどうかなんて分からないんですが、鷹を据えて歩いていると、鷹が木の上で休んでいる五位鷺を見つけて、ちゃあんとそっちを見ているんですよ。
                       (「天皇の鷹匠」 花見薫、草思社)
※(管理人注)五位鷺はゴイサギと呼びます。夜行性の鳥で、夜に餌を食べて昼には寝ている鳥です。
ゴイサギの説明はこちら


 人はR(赤)、G(緑)、B(青)を見る錐状体があるが、鳥のいくつかの種は紫外線を見ることができる錐状体も持っている。その代表はチョウゲンボウである。チョウゲンボウの餌となるネズミなどを狩るときにこの紫外線を見分けている。ネズミは縄張りや性的な意思表示の目的で、自分の通り道に尿でマーキングするが、チョウゲンボウはその尿を色でみることができるため、ネズミの通り道がありありとわかる。これによって狩の成功率をグッとアップさせることができるわけだ。


チョウゲンボウ(管理人撮影)

 先ほどエッフェル塔を飛び立ったタカ類だが、映像を見るかぎり僕ら人間にはどこに主の鷹匠がいるかわからない。しかしそれを当然のごとく見分けてその腕に止まるのは、彼らにとっては当然のことなのかもしれない。



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