片足がないタンチョウヅル
 遠くから「コォー コォー」という鳴き声が聞こえる。それに応えるように給餌場にいる鶴たちから応える「コォー コォー」という声があがる。ここ北海道・釧路にある伊藤サンクチュアリや鶴居村でよく見られる光景だ。2007年12月31日、僕は伊藤サンクチュアリで撮影をしていた。給餌場で鳴きあう鶴たちや飛翔している鶴たちを撮るのが好きだ。それよりもただ見ているだけで楽しい。
 いつものように飛翔してきた鶴の群れを撮っていた。あるとき、着地がへんな仕方をする鶴がいたことに気づいた。なんというかバランス感覚が備わっていない鳥のように不器用に着地し、さらに着地してからも羽をバタバタさせている。「なんだろう」と思って、デジスコのスコープで確認してみたところ、片足がなかった。


写真を撮っているときは気づかなかったが、右側の鶴は片足がないことがわかる


片足がない鶴


 その姿は痛々しくてこの鳥に神経が集中してしまう。いままでダンスとかを狙っていた撮影も中断して、この鳥をカメラで追いかけた。集団が群れているところに降りたったが、だんだん突かれて追い出されて、群れから外れたところまででてきた。鶴も弱者にたいして優しく出来ていないらしい。
 「タンチョウの里」(井口萬喜男著・吉備人出版)のなかに「飛べないタンチョウ」の話がある。平成12年の話だから今は生きていないと思われるが、鶴見台に飛べないメスのタンチョウがやってきていた。夕方、ねぐらの雪裡川(せつりがわ)に帰るときにも彼女は歩いていく。夕方、ねぐらに帰るタンチョウを撮るために多くのカメラマンが陣取っている場所がある。ちょうどこの場所に「コォー コォー」と仲間を求める声を出しながら飛べないタンチョウがやってきた。すると、約1キロも離れた場所から「コォー コォー」と呼び返しながら7羽のタンチョウがやってきた。飛べないタンチョウを囲み、7羽のタンチョウは人間たちに向かって警戒音を出す。人間たちは場所をあける。
 4羽のタンチョウが飛び立ち、ねぐらの手前で降りて再び「コォー コォー」と呼びかける。残された4羽が同じように鳴き返す。そしてねぐらの近くに歩いてきたとき、飛べないタンチョウに付いていた3羽もねぐらの手前に飛んでいき、「コォー コォー」と鳴く。飛べない鳥も「コォー コォー」と鳴きながら赤い夕日をあびながら仲間たちがいるねぐらへと入っていく話である。
 正直、この話で紹介されているような優しさを見ることはなかった。以前の静内でケガをして飛べないオオハクチョウをみたときのように、給餌場にやってくるときは仲間とともに仲良くやってくるようであるが、給餌場ではいたわらないような気がする。タンチョウもハクチョウも弱いものは仲間達から蹴散らされて、外れのほうまで追い出されていく。
 たとえば、下の写真にあるように右目が化膿して目が見えなくなっているタンチョウは駐車場の手前まで追い出されてきて、我々の手前の10mほどで餌を食べていた。伊藤サンクチュアリや鶴見台に行かれた方はわかると思うが、タンチョウはいくら給餌場でもこんなに近くまでやってこない。観光客が倍率のひくいコンパクトカメラや、携帯カメラで撮ろうとしているが、いずれも「遠〜い」などといっているように、普通は人間と距離を保って生活する。目の前までやってくるハクチョウやカモ類とは違い、人間とは一線を置いて生きているのだ。


右目が化膿して潰れているタンチョウ(この姿になってから2年目の冬を迎えた)

 給餌場の端よりも内部にいるほうが安全であるので、タンチョウたちにとってもできるだけ密集している中のほうを選ぶのだろう。実際、この12月31日にも珍事が起こった。撮影をしていると急にタンチョウたちが一斉に飛び立ち始めたのだ。何事が起きたのかすぐにはわからなかったが、あまりの綺麗さに最初は撮影しまくっていた。すぐあとで原因がわかったが、野良犬が伊藤サンクチュアリに紛れ込んできたのだ。


野良犬が紛れ込んできてタンチョウたちが一斉に飛び上がる(中央右側に白い野良犬がいる)

こうした事実をみても、やはり群れの外はリスクが大きいので、弱いタンチョウたちが群れの外で食べている事実もなっとくできる。


野良犬が消えた後も、勇敢な4羽が消えた場所にやってきて10分ほど警戒に当たる。「カララ、カララ」と大きな警戒音を絶えず発している。


 1月3日にウトナイ湖にいったが、ここでもケガをして飛ぶことができず、結果的には人間を恐れないオオヒシクイたちがいた。そもそもあれほど警戒心が強いオオヒシクイたちが、目の前で観光客から餌を貰っている姿をみると涙がでてきた。野生のもつ気品がなかった。そして羽が大きく変形してしまっている2羽のオオハクチョウもいた。これらも飛ぶことができないので人間に頼って生きているようだ。そういえば、釧路でタクシーに乗っていたときに、釧路だけでも年に数十羽もハクチョウが電線などにぶつかって怪我をするらしい。鶴居村でも電線にぶつかってケガをするタンチョウがいるので、黄色いカバーが付けられてタンチョウたちがわかるようにしている。ヨーロッパのように日本でも電線、電柱の地中化が進んでもよいと思う。


ケガをしているオオヒシクイ(人を恐れないようになっていた)


羽が大きく変形しているオオハクチョウたち



鳥のページトップ     ホームへ