Bird Migration〜渡り鳥1

 生物は「正しい時期に正しい場所にいること」が生きるうえで重要となってくる。そのために時期によって移動するという方法を確立してきた生物たちがいる。いくつか例をあげる。
 ・クジラ類の回遊(ヒゲクジラに特にその傾向が強い)
 ・シャケ類の遡河(そか:生まれた川に産卵のために帰ってくること)
 ・ある種のウナギ類に見られる産卵のために海への大回遊
 ・鳥類の渡り
 ・ヌーのマイグレーション
 ・アメリカ大陸で3000キロを大移動する蝶・オオカバマダラ
など。
 大移動の前から何も食べなくなり、産卵の後に体力が尽きて死んでしまうシャケやウナギなどは別として、ほとんどは繁殖期に子どもを養うのに十分な量の餌がまかなえる場所に移動して繁殖し、その地域が寒くなったりして生命に支障が出るようになる前に、あるいはヌーの場合のように乾季になるなどの理由で餌不足となる前に移動する行動をする。これはまだまだほとんど解明されていない生物の神秘的な能力の中でも最もすばらしいものの一つである。ここでは鳥の渡りを扱おう。
 冒頭で「正しい時期に正しい場所にいること」と書いたが、これは移動する生き物にとってはとても重要なことになる。タイミングを間違うと死んでしまうからだ。そもそも鳥の渡りは豊富な食糧を求めての旅(移動)から進化してきただろうということは容易に想像できる。それは季節の変化による食糧事情への対応といっても同義である。つまり年中餌が豊富であれば鳥は移動する必要がない。地球温暖化、あるいは人間の給餌にともなってヨーロッパなどで冬になると本来渡りをする鳥なのに一年中定住する種がいくつか出てきていることや、大陸のタンチョウヅルは渡りをするが、冬に給餌される北海道のタンチョウヅルは渡りをしないことなどもそれを物語っている。
 渡りの進化を促した原因は、はっきりとわかっていないがおそらく過去200万年間に起こった数度の氷河期によって、北方の氷床が低緯度帯に大きくせり出してきたり、高緯度地域へと縮小されていく運動のなかで生息地を進出・後退を柔軟に行ってきた結果であろうと言われている。ほとんどの渡り鳥が南北方向へと移動を繰り返していることもこれに起因しているのかもしれない。

 レーダーが開発されたとき最初のスクリーンに現れた物体は鳥だった。鳥が大移動するときレーダー画面に編隊が映しだされる。ただし鳥の種類までわからないが、もし今飛んでいる鳥が何の鳥なのかあらかじめわかっているのなら非常に有益な情報をもたらしてくれる。鳥の高度、速度、大小などだ。1980年後半から鳥に送信機をつけ、人工衛星で追跡する方法が研究されている。送信機は最初はハクチョウなどの大型の鳥たちにしか適用できなかったが、送信機の小型軽量化に伴ってだんだんとより小さな渡り鳥たちへ応用がなされているようだ。これにより渡り鳥たちは実に想像以上の能力をもっていることもわかってきた。特に記録を読んでいて震えたのが、同じ個体で往復の渡りを追跡することに成功したとき、なんと何丁目何番地何号までピタリとピンポイントで帰ってくることだった(とりあえずサシバとハチクマ)。同一個体で往復の渡りを追跡することもまだ困難だが、仮にいろいろな種で追跡が成功すれば多くの種でピンポイントで帰ってくることが確かめれるかもしれない。何故そんなにすごいことが可能なのだろうか?昔から多くの人を魅了してきた鳥の渡りであるが、残念ながら今でもほとんどわかっていない。鳥の能力ははるかに現代科学を超越しているためだ。それでも長年の研究によって少しずつ確かなこともわかってきている。それは自然のあらゆる情報、すなわち天体・太陽光の偏差・気象・地磁気・匂い・地形などを総合的に分析するナビゲーション能力である。おそらく、あらゆる生命の中でもっとも優れた完成された能力をもっている。

 渡りには多くのドラマを伴う。ハクチョウやツルたちは繁殖地で子供を産み、親とともに越冬地へ渡りをする。やがて春の息吹を感じて再び繁殖地に帰っていく。この旅の途中で親子はだんだんと別のルートを選び、あるいは遅くても繁殖地についてからそれぞれ遠くに離れだしそれぞれの生きる道を選んでいく。再び会えないかもしれないし、越冬地で再開するかもしれない。
 シギたちは途中の中継地から一気に大洋を横切っていくノンストップ飛行をすることもわかった。その超絶的な超ロング飛行を可能にするため、シギたちは渡りの前に燃料の脂肪をたくさんつけ体重の2倍近くにまでなるものすらいる。
 タカ類は帆翔という上昇気流を利用してこれをつなげて飛ぶため、天候を巧みに読んで大海越えを果たす。夜になっても中継地を見つけることが出来なければ、力尽きて海上に落ちて死ぬだけだ。
 小鳥たちはわずかな体重にもかかわらずエネルギーとなる体の脂肪を燃焼させて大海を越えていく。多くは体の体温が上昇し、水分が奪われるのを嫌い夜間飛行をする。群れとして密集して飛ぶことのできない夜間では一定の距離をおいて、地鳴きを使って仲間と鳴き合って連絡をとりながらはぐれないようにルートをとっていく。よい風を捕らえるために高低をかえながら飛ぶこともわかっている。そのコミュニケーションがどんなものか人間には理解できないものだ。

 成長した個体ですら困難な海上の渡りでは、老鳥など体力のないものは力尽きて海上に落ちていく。水鳥でない鳥たちは海に落ちれば確実に死ぬ。それはなんだか弱い生き物はふるいにかけられて、生きる権利を奪われていくかのような自然の残酷な仕組みなのかもしれない。

(あなたはよく生きた。でも自然で生きる力がないからもう生きる必要はないんだよ)

 当事者でない人間にとって渡りはすばらしく美しい。しかしその美しさはどことなく無常な響きもする。ささやかながら鳥の渡りについて学び、そこから生命の神秘について感動してみたい。


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