Bird Migration〜渡り鳥2

  【渡り鳥〜その飛行の燃料について】

 渡り鳥にかぎらず、多くの生命は生きていくのに脂肪をエネルギーに変換して生存を続ける。鳥は脂肪をエネルギーに変えるために、体に脂肪をたくさん蓄える方法を確立してきた。これは食べ物不足や荒天などでしばらく食べ物をたべなくても乗り切る必要性からうまれたはずだ。たとえばコウテイペンギンのオスは日の出ない南極のブリザードの吹き荒れる厳冬期に、固まって何も食べずに乗り切る。この間、4ヶ月間なにも食べずに少しずつ脂肪をエネルギーにかえて生き続けるのである。
 鳥はきわめて新陳代謝がよく、空腹の状態から餌をたべても早ければ数十分のうちにエネルギーに変換し排泄する。
このようなすぐれた代謝機構をもつために、体内の脂肪をすばやくエネルギーにかえて燃焼させることも可能となった。渡りをする前の体重および距離から、たとえばフタスジアメリカムシクイという鳥では、1gの脂肪を燃焼させることによって約200キロメートル以上も飛ぶことが可能であることがわかっている。大型の鳥ではもちろん、飛翔に伴ってより多くのエネルギーを使うので、1gにつきもっと距離が小さくなる。
 渡り鳥の体重増加はたとえば日照時間の変化に伴うホルモンの分泌に促進されて行われる。鳥が脂肪を蓄えるのに使う場所は、心臓や肝臓などの内臓まわり、あるいは下腹部、鎖骨の間などである。鳥の種類によっても違うが、体重がシギ・チドリ類などでは50〜100パーセント近くまで増えるし、アメリカのメキシコ湾や西大西洋の一部を横切って渡る小鳥類などでは40〜70パーセントも増える。短距離の渡りをする小鳥たちではぐっと減って20〜40パーセントくらいになる。
 鳥たちは脂肪をすばやく蓄えることができるといっても、大型の鳥たちは小鳥たちと違って脂肪を蓄えるのに時間がかかる。したがって、カモ・ガン類、ハクチョウ類などでは渡りの中継地に長くとどまって必要とする貯蓄率を達成するまでに小鳥たちよりも比較的長期にわたってとどまる必要がある。

 鳥はすべてエネルギー源としてすべて脂肪に頼っているわけではない。実は、渡りのごく初期には血液中のブドウ糖を燃焼させる。この間、肝臓に蓄えられていたグリコーゲンがブドウ糖に分解されている。やがてグリコーゲンの蓄えが底をつくと脂肪が燃焼されはじめる。こうした過程は渡り鳥に限ったことではなく、人間にとっても登山や、マラソンなど普通に見ることができる現象だ。しかし蓄えていた脂肪を使い果たすと事態はより緊迫してくる。渡り鳥たちは脂肪を燃焼しつくすと筋肉のたんぱく質を代謝して燃焼させるが、これをすると胸筋が縮小され飛行に支障をきたし、やがて死んでしまう。そのために途中の中継地で羽を休めてエネルギーを補給する必要があるのだ。
 バードウォッチングをする人なら知っていることだけど、普段は何てこともない緑が多い都市公園で渡りの時期になると普段はなかなか目にすることができない鳥たちが数日間羽を休めていることを知っている。繁殖地ではなかなか見ることができない鳥でも、こうした中継地では比較的簡単に見ることができたりするので渡りの時期になるとこうした都市公園に高価なカメラ機材をもったバードウォッチャーが集まるのだ。つまり、水鳥たちが中継地として羽を休める干潟や湖沼に限らず、何てことのない都市公園でも緑が多く、餌となる虫や種子がたくさんあると鳥たちにとっては重要な中継地になっていることが理解できる。これは実際にバードウォッチングなどいろんな自然の活動を直接やってみないとなかなか実感できない部分ではあるが。

 鳥は脂肪をエネルギーに変え、それが消費すると筋肉のたんぱく質を代謝して燃料に変えることを書いたが、これは鷹狩りにおいてタカの訓練の一環に、「詰め」と呼ばれる非常に重要な過程がある。これは1、2週間の絶食期間を設ける過程であり、これによって人間に頼るようになるのだ。この「詰め」において、鷹匠は糞が重要な情報を教えてくれる。1週間ほどの絶食で「油ウチ」と呼ばれる緑色の糞をするようになる。この油ウチから目立って痩せてくるという。鷹匠はさらに詰めて胸の筋肉のやせ加減をみて、人間を頼るようになるかの頃合をはかる。タカが嘴をさげるときは餌をほしがっていることを表現しているが、この下げ具合で鷹匠は餌を与えるか判断するのだ。詳細については鷹狩やその訓練方法について書かれた本に譲る。ここで書きたかったのはタカの訓練において、「詰め」とよばれる過程で極度の絶食を強いることによって、鷹匠たちは脂肪が減って、胸の筋肉(鷹狩り用語では「シシ」という)の減り具合を判断することだ。歴史的に鷹狩りが発明されて4000年、そして日本に伝わってから1600年以上もたつ。鷹狩りの技術のなかで「詰め」の技術がいつ確立したのか不明だが、昔の人たちは数多くの失敗の中から、鳥がもつエネルギー変換システム、そして極度の飢餓状態でも餌を与えることによってすぐれた新陳代謝によってすぐに回復することを理解してきたと思うのだ(ただしあまりシシを下げすぎるとタカはあっという間に死んでしまうので素人は絶対にやらないこと)。



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