…いいかな、と聞かれても。 この期に及んで、まだ、出来ることなら逃げたいとか考えてしまうあたし。だって、そうでしょ? 色々と詰め込まれた知識の生々しさが、脳裏にばしばしとフラッシュバックしてるっ! うわん、どうすりゃいいんだよ〜〜〜っ! 裸ん坊のまんまで呆然と座り込んでいるあたしに背を向けて、岩男くんはごそごそと作業中。ひ〜〜〜、これって準備してますってこと? そうなのっ…そうなんだろうなあ…ああん、どうしようっ! 「…ふう…」 それなのに、ものの30秒もしないうちに岩男くんはあっさりと向き直る。もちろんあたしの視線は照れている彼の表情ではなく、作業を終えたその部分に集中していた。薄皮を付けた見たいに半透明な白い物が被さって、ついでにてっぺんのところが少したるんでいる。 「なっ…菜花ちゃんっ…」 太い腕がにゅっと伸びて、肩を掴まれる。大好きな岩男くんに触れられているのに、びくんとしてしまうあたし。きゅっと目をつぶって、首をふるふると震わせた。 「好きだよ、…菜花ちゃん」 「んっ…、…んんっ…!」 「ああ…、菜花ちゃん…」 何かを必死で我慢して堪えるみたいに。岩男くんの声がかすれる。力が入った足を開かれて、その真ん中に指が這っていく。芋虫が這い上がって行くみたいな不快感が、ある一定の場所まで来ると、いきなり違うものに変わる。 「あぁんっ…、あんっ…!」 「ふうっ…んっ…、やぁんっ…あんっ…!」 でも、そんなのお芝居だと思っていた。実際にはそんなのないって、思っていたんだ。 「やぁっ…、いっ…わおくっん…! やなのっ…!」
こんな風におかしくなるのを見られたくないの。恥ずかしいのっ…、我慢したいのに、出来なくてっ…哀しいよぉ…いつになったら終わるの? まだまだ続くの? これからあたし、どうなっちゃうのっ…!?
「うっ…うぅっ…」
「菜花ちゃん…もう少し、楽にしてくれる? 力を抜いた方がいいと思うんだけど…」 「え…?」 その時、あたしの身体は自分でもどうしていいのか分からないくらい、力が入っていて、肩も腰もガクガクだった。この先、何が起こるのか、おぼろげに分かってくると、その部分にもさらに力がこもる。 怖いよぉ…、やめてくれないかなっ…。続きは今度とか、駄目? あたし、もう限界。どうにかなっちゃうっ。 カタカタとかみ合わない歯、自分の意志に関係なく震える身体。あたしがどんなに怯えているのかはちゃんと岩男くんにも分かるはずだ。岩男くんはあたしのことなら何でも分かってくれた。哀しい時は慰めてくれたし、困った時は助けてくれた。いつもいつもあたしが気持ちいいように、ホッとするようにしてくれたのに。 「…っつ…、うぅ…っ!」 さっきまで岩男くんの指が行き交っていた部分に熱くて堅いものが当たって。少しの間、上下に割れ目を行き来する。たまらずに横を向くと、涙がほろほろとこぼれた。岩男くんの先っぽが、あたしの敏感な部分をつつく。つんつんと呼び覚ますように何度も触れられて、あたしの股がちょっとだけじんとした。 「うっ…くっ…っ!」 でもその次の瞬間にあたしの身体を切り裂く痛みには本当に気が狂いそうになった。 「やんっ…やあっ…! 痛いっ…! きゃあぁっ…! うっ、…くっ…!」 その先は、我を忘れる、と言った感じで。相手が岩男くんなのに、めいっぱい抵抗していた。だって、すごく怖くて、すごくざりざりして。よく言う「気持ちいい」って 言うのとは全然違った。身体を弾ませて嫌がっても、かえってその動きが岩男くんの侵入を助けてしまっているみたいだ。 内側の壁を思い切りこすって傷つけながら、岩男くんがずずずっと中まで入り込む。やがて、もうこれ以上進めない、と言うところまで来て、ずんっと止まった。 「あうっ…んっ…! ふうっ…!」
「菜花…ちゃん…」
「あっ…つっ…!」
「温かいよ、菜花ちゃんっ…。菜花ちゃんの中、すごく温かい…嬉しいよ、これで菜花ちゃんはオレのものだよ。誰が何と言おうと、もう譲らない。菜花ちゃんはオレだけのものなんだ…!」 岩男くんはそう言うと、たまらない感じで、あたしの髪の生え際、うなじ、頬…そこら中にキスする。岩男くんの汗とよだれであたしはもうべちゃべちゃだ。それを繰り返されるうちに、哀しいばかりだったあたしの心に別の想いが湧き始めてきた。 「岩男くんっ…!」 「…うぅっ…!」 「…いいかな? 菜花ちゃん。もうちょっと、我慢してくれる? オレ、やっぱ、菜花ちゃんの中でイキたいっ…!」 …え? …えええええっ!? 答える暇もなかった。岩男くんはあたしを放り出すように布団の上に横たえると、四つんばいになってゆっくりと腰を動かし始めた。 「ううっ…、きゃあっ…!」 「やぁんっ…! はんっ…、うぅ…うんっ…!」
岩男くんなら、許す。岩男くんだから、いいの。
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くったりと身体を横たえて。岩男くんが心配そうにのぞき込んできても、ろくに反応も出来なかった。このままずるずると深いところに入り込んでしまいそうだ。それくらい、身体が重くて、もうなにも考えたくなかった。 「菜花ちゃん…」 「大変だったね、菜花ちゃん…ありがとう」 太い指が静かに髪を梳いてくれる。いつものようにやわらかい存在に戻った岩男くんが、あたしに口づける。それはこんな風になって初めて感じる、深い愛情を伴った恋人同士のものだった。舌先が触れ合うくらいの淡い語らいも、たくさんのものを伝えてくれる。 「…ん…」 短く反応して、身体を震わせると、岩男くんはもう一度きつく抱きしめてくれて、それから、やっと気付いたみたいに、あたしの身体にバスタオルを掛けてくれた。自分の腰にも慌てて巻いてる。さっきまでは裸でも平気だったのに、終わると急に恥ずかしいね。今更ながら、ほっぺがかああああっと熱くなった。
でもっ、次の瞬間に、大変なことに気付く。 …へ? 前もって、お風呂まで沸かしておいてくれたの? そこまで用意して待っていたなんてっ…あたしが来る前に、お風呂を洗ってお水を張って…きゃああああっ! それって、それって、…すごくえっちだよ。
驚くのはそれだけじゃなかった。お風呂場に案内されたら、なんとそこにはまだ封を切ってないボディーシャンプーが置いてある。それはあたしがいつも家で使っているバラの香りのもので…ひえ、メーカーまで同じだっ…まさか、これも。 胸元のバスタオルを押さえながら振り向くと、まるでアダムとイブのアダムのように腰巻きだけを巻いた岩男くんが視線をそらした。 「えっと…違う匂いがしてると、透さんや千夏さんが変に思うかなって…その、売り場に行って、菜花ちゃんのいつもの匂いを探したんだ…恥ずかしかったけど」 ひ〜〜〜〜〜っ! ボディーシャンプーの売り場で? ひとつずつ手にとって、くんくんしたのっ!? それって…ちょっとアブナイお兄さんみたいだよ。お店の人、絶対におかしいと思ったわよっ!?
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暮れかけた風景。5時を少し回ったくらい。多分、パパはまだ戻ってこないけど、でも門限はきちんと守ろう。学校のあるウィークデーでもこうして半日で終わる日は5時半までに戻ってないと、すごく不機嫌なんだ。 岩男くんは何だかすごく緊張してる。ウチのパパとママに会うのが怖いんだって。だから、庭先まででいいよって言った。
こんな風になって、何が変わるというわけでもないのにね。当たり前に当たり前の感じなのに。まあ、そんなに目立つ程じゃないけど、体中に虫さされみたいな痕がたくさん出来ていて。それが首の辺りにもてんてんとあったので、迷わずママの用意してくれた服を着た。
そして、問題の「夜用スーパー」にもちゃんと役目があった。だって、血が…止まらないんだよっ! 生理が始まったのかと思ったけど、色が違うし。だらだらと出るから、これ、何も当てなかったらやばかったわ。
「…じゃ、また明日。朝、迎えに来るから…」 「…ん…」 お家の前の大きな木の陰。家からは死角になるその場所で、いつも通り優しいキスをする。溶けちゃうくらいやわらかくて、幸せになれる。あたしはやっぱり、岩男くんが好き。
…へ? 慌てて、ばばっと離れて。それから、声のした方を振り向く。そこには小さなスーパーの袋を下げたママが立っていた。 「――あ、はいっ!! ただいまっ、ですっ!!」 ひ〜、見られたかなあ、どうなのかなあ。でも、ママの態度はいつもと全然変わらないから。それで安心してしまう。ママは肩の辺りでぷつっと揃えた髪を揺らして、岩男くんを見るとにっこりと微笑んだ。あああ、岩男くん、震えてるよっ。蛇に睨まれたカエルみたいだっ! 「岩男くんっ、いつもありがとう。あのね、上がって。お夕ご飯をご一緒にどうぞっ!」 「――は…?」 ママはにこにことした顔のまま、あたしたちを追い越した。 「岩男くんのおばあちゃま、今日はお夕ご飯を食べていらっしゃるそうよv だから、いいじゃない。今日はご馳走を作ったの、どうぞどうぞ…」
変だ、絶対に、滅茶苦茶に変だっ!! あたしが呼び止めると、ママはくるんと振り返った。 「どうして、ママが…岩男くんのおばあちゃんのことを知ってるのっ…!?」 すると、ママはあたしたちふたりをじ〜っと見て、にーっと笑った。 「さあ…どうして、でしょう?」 そのまま背中を向けて歩いていく姿を、あたしたちは呆然と見守った。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐***‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
5分後、リビングで。あたしと岩男くんはまたまた硬直する羽目になる。
テーブルの真ん中に、ででんと陣取る大皿にてんこ盛りの牡蠣フライ。そして、その脇に何故かオクラ納豆と山芋の酢の物がある。ニンニクとほうれん草の卵スープなんて…どうすんのよっ!? 明日学校があるのよっ! …って言うか、今日は全然勉強出来なかったから、これから寝る暇もなく…!
「オレさ、数学で分からないところがあってさ…姉ちゃんじゃどうにもならないし、困っていたんだよぉ〜。ああ、天の助けっ! それに今日はすげーご馳走だし? もう嬉しいなあ〜」 「…ふうん」 「な〜に、ママ。もしかして、これ、パパにひとがんばりして貰うためのメニュー? やめてよね? …もういい年してさっ!」 「…へ?」 「だってさ、お姉ちゃん。知らないの? 牡蠣もオクラも納豆も山芋も、いわゆる精力増進の食品よ? ニンニクなんて言うまでもないじゃない…まったくなあ〜常春夫婦は何考えてんだか…」 その瞬間、あたしと岩男くんの体温が5度くらい下がって、二人して低温動物になっていた。しかも…ね、ママ、納豆があるのに、どうして、お赤飯なの〜〜〜〜っ!?
「たっだいま〜〜っ! 千夏っ、千夏っ…おいっ、どうしてさっき電話した時に出なかったんだ、心配したんだぞ〜〜〜っ!?」 ――でたっ!! しんがりの登場に、あたしは手のひらにじっとりと汗をかいてるのを感じていた。 「おや〜、岩男くんっ。どうしたんだい…珍しいね。今日はウチで夕食を食べるのかな〜、おっ、それにしてもすごいなあ、ご馳走だっ…」 「あらあら、お帰りなさい」 「ごめんなさい、さっきはごま塩を切らしていたのに気付いて…お赤飯にはないと困るから、ちょっと買いに行っていたの…」 「赤飯?」 うわ、パパ。さすがに岩男くんもいるから人前のちゅーはしないけど、そんなに背後からべたべたとママに触るのは教育上良くないわ。イエローカードものよ? 「へえ〜、何で? 赤飯なんて、樹の入学式以来じゃないか。今日は…ええと…何かあったのか!?」 ママはお取り皿を並べながら、何でもない感じで言った。 「ふふ…、今日はね。特別の、特別の日なの。だから、頑張ってみました。…それはね…」 うぎゃっ! 何っ!? どうして、こっちを見るのよっ!! その意味深な笑いは何っ!? ママっ…一体何を言おうとしているのっ! ちらっと見ると、あたしの隣で岩男くんもでっかい身体を小さくしてカタカタ震えていた。もちろん、冷静な彼のこと、見た目には分からないほどだけど…すんごく緊張してるのが分かる。 「特別…?」 ママが口を開きかけたとき、それを遮るようにパパが言った。そして、何かに気付いたようにポン、と手を叩く。 「そっか〜、水くさいぞっ!! そう言うことは最初に俺に言ってくれなくちゃ…千夏は恥ずかしがり屋なんだからなあ〜〜〜っ!」 「4人目が出来たんだなっ!! いっや〜、それはめでたいっ!! 俺もまだまだ現役だなあ〜〜〜〜っ!!」
何だか、がっちゃんがっちゃんした感じで。全然ロマンチックにはなれないまま。あたしの人生の節目である一日は、こんな風に盛大なご馳走と共に幕を閉じていった。 その後、パパの誤解を解くことに苦労したママ。でも…あのさ、岩男くんのお取り皿にだけ、牡蠣フライを山と盛りつけたのは…食べ盛りだから…だよね? そうだよねっ!?
おしまいです☆(030618)
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