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「嘘つきSeptember」完結から数ヶ月、冬休みのひとコマ

   

『すぐに来い、馬鹿猫の手でもないよりはマシだ』
 ―― また、呼び出し。
 せっかく冬休みになって、これでしばらくは「閻魔」の呪縛から逃れられると思っていたのに。何が悲しくて木枯らしが吹きすさぶ寒空の中、見たくもない顔を拝みに行かなくちゃならないのっ!
  しかもっ、人にものを頼む態度とは思えないわよ。「馬鹿」とは何? 「馬鹿」とは。そりゃ、今学期も赤点スレスレでどうにか切り抜けたって感じではあったけど……それにしてもね、あり得ないから。
 だから、即返信してやった。怒りはエベレストよりも高く突き抜けていたけど、ここは努めて冷静に。
『謹んでお断り申し上げます、突然言われてもこちらにも都合というものがありますから』
 もちろん、絵文字なんて絶対に使わないわ。そもそも、あんな化け物に茶目っ気なんてもったいない。ばばばっと打ち込んで、あっという間に送信して。それでもって、その勢いで電源も落としちゃおうと思ったの。
  そうしたら、タッチの差でそれよりも早くメールが戻ってくる。何なのーっ、あの男って両手両足に加えて髪の先も使って打ち込んでいるんじゃないでしょうねっ!
『安心しろ、今日は楓も一緒だ』
 やっぱり、どこか間違っている。何で楓さまが一緒だと「安心」なの? あの人って学園では才色兼備で通っている美少女だけど、実際のところは性別・男。ってことは、ふたりの男が待ちかまえている密室にうら若き乙女を呼び出すって言うの!? それって……、それって絶対にヤバいと思うっ。
 ―― とは言うものの。
 ここでゴネ続けると、今度は家電にかけてきちゃうかも。そうしたら色々と厄介だもんね……、ウチのお祖母ちゃんズとママは大王の本性を少しも分かってないどころか全面的に信用しきっている。
「せっかくのお休みなのに、莉子ちゃんのために勉強会を開いてくれるに違いないわ!」
 とか勘違いしまくって、山のような差し入れに加えて二泊三日のお泊まりセットまで付けられてしまうかも知れない。だいたいねーっ、大事な大事な一人娘をよだれを垂らしたオオカミの家に泊まらせても構わないって言う思考回路が理解できないよ。
  大荷物を持たされて大変な思いをするくらいだったら、その隙にぱぱっと用事とやらを済ませてしまう方が得策ってものよ。
『今から支度して出ます』
 あーっ、何ていい子なのかしら、あたし。それなのに、またすぐに返信が戻ってくる。
『10分だけ待ってやる』
 ……ちょっと待て。あたしに空を飛んでこいって言うんじゃないでしょうね……っ!?

「こーんにちはーっ!」
 ピンポーンを3回鳴らしたものの返事がないから、今度は直接声をかけてみる。そんなことをしても、分厚いマンション扉が私の声を部屋の中まで響かせてくれるかどうかは疑問だけど。でも、仕方ないでしょ? ここを開けてもらわなくちゃ、中には入れないわ。
「やあ、莉子ちゃん! いらっしゃい、さあどうぞ中に入って」
 そして、さらに待つこと30秒。ようやく内側から開けられたドアの向こうに立っていたのはここの部屋の住人の……従兄弟である楓さまの方。でもっ、その格好って……一体っ!?
「……ええと、あの?」
 何なの、このコスプレ。今日は胸もぺったんこで「男」に戻っている楓さまなんだけど、その……着ている服が今街角ではちょくちょく見かけるサンタの衣装。だぼだぼな服にとんがり帽子も被って、さらに白いおひげまで付けている念の入れよう。
「あ〜っ、もしかして見とれてくれた? いやあ、参ったなあ。莉子ちゃんに褒めてもらえると、本当に嬉しいよ!」
 ……って、そんなことはあたし、ひとことも言ってないし!
 そりゃあさ、今日は「クリスマス・イヴ」、またの名を「恋人たちの祭典」。分かってはいたんだけど、わざと忘れた振りをしていたわけ。だって絶対に嫌だもの、そんな素敵な日に化け物連中に呼び出されるなんて。
「ほらほら、莉子ちゃん! 早くこっちにおいでよ」
 玄関を入るとすぐにダイニングキッチンへの扉。楓さまはすっごく嬉しそうにその中へと私を招き入れる。そしてまた、私は次の瞬間に腰を抜かさんばかりに驚いていた。
「……なっ、なななっ……何っ!?」
 ここって、結構ゆったりした造りになっているわけ。高校生のひとり住まいにしては贅沢すぎるって思うほど。それが……その場所が、今はものすごいことになっている。所狭しと並べられた大小様々な白い物体。その向こうに見え隠れしている黒いものは……もしかして、大王の頭っ!? あの馬鹿でっかい男が、ほとんど見えないくらいなんですけどっ。
  どうも奴の方はサンタ・コスプレしてないみたい。ああ、良かった。これ以上、恐ろしいものを見せられたら、あたしのか弱い心臓が破裂しちゃうわ。
「ふふ、すごいでしょう。これって、ウチの一族の恒例なんだ。ここ数年、クリスマスには衛の手作りケーキを親戚中に配ることになってるんだよ。奴もここしばらくは半徹夜状態で頑張っていたしな」
 そうなの!! 白い物体は雪だるまではなくてケーキ。全体に白いクリームを塗られて、その上から飾りの絞り出しを施されている最中。すごっ、……知らなかったよ、大王にこんな特技があったなんて。それにしても、どうしてこんなに大量に―― 。
「じゃあ、莉子ちゃん。早速で悪いけど、そっちの出来上がった分から箱に詰めるのを手伝って。カートに乗せたらあとはエレベータでどんどん下まで下ろしていくから。さあ、急がないと間に合わなくなってしまうよ……!」
 何でこんなに嬉しそうなのかしら、サンタの楓さま。でもって、職人・大王はどうしてひとことも口をきかないのっ!? わざわざ人が手伝いに来てやったのに「すまないな」くらい言ったらどうなのよっ。
 
 ……とは言いつつも。
 とにかく本当に何十個ってレベルだったから、ぶつくさ言ってる暇はない。どうして人手がこれだけなのかも疑問だけど、ここはもう口を動かすよりも手を動かせってこと?
  クリームの甘い香り、真っ赤なイチゴにサンタやもみの木の飾りまでくっついたケーキたちを次々に箱詰め、それを楓様に渡していく。
「ああ、やっぱり莉子ちゃんだ。手際が良くて助かるよ〜っ!」
 何よ、楓さまっ。取って付けたみたいに褒めたって、何も出ませんからねーって。そんなこんなでホイホイ頑張ってたら、思っていたよりもずいぶん早く仕事が片付いてしまった。
 
「―― さ。これで良し、と」
 残るケーキはあとふたつ、すっかり片付いた部屋の中を満足げに見渡した楓さまは両手をぱんぱんとはたいた。
「なあ、衛。残りのふたつはお前のと莉子ちゃんちだろ? じゃあ、あとはいいかな。じゃ、配達は任せとけって」
 あれ? ……あれれ? 帰っちゃうんですか、楓さま。
「じ、じゃあ……あたしもそろそろ……」
 ケーキひとつもらっていいの? うわ〜嬉しいな。大王の手作りって言うのがちょっと引っかかるけど、まあいいか。どっちかとくに美味しそうに見える方を選んでいい?
 お持ち帰り用のケーキの箱を手に、右と左のふたつを見比べる。よーしこれだ! と選んで箱に詰めたら準備オッケー。さてさて、そんじゃ戻ろうかな……。
「―― 待て」
 がちゃがちゃと音を立てて洗い物を続けていた男が、急に呼び止める。え〜っ、絶対に気づかれていないと思ったんだけどっ。
「誰が帰っていいと言った、勝手な行動をするんじゃない」
 ……って、また命令してるし! それって、手伝ってもらった人間への言葉じゃないと思うよ?
「でっ、でもっ! もう、すっかりと片付きましたよ? 今日はクリスマス・イヴですし、早く寝ないとサンタが来なくなっちゃいますから―― 」
「何だと?」
 うわぁっ、人の話に割り込んでくるしっ。しかも休日なのに、やっぱり学ラン姿だしっ! その上からフリフリエプロンつけてるしっ。この人って……やっぱ変だよう……!
「正直、俺もかなり眠い。だから、もう少し付き合え」
 話の前後が繋がってません、もしかして疲れすぎておかしくなってる? え〜っ、だったらやっぱり今日は帰るっ! 何だかっ、すごく悪い予感が――
「……なっ……!」
 瞬く間に洗い物完了。水切りカゴには大量のボールや泡立て器、その他もろもろがあるけど、しばらくそのまま乾かすのかな。そして多少目が据わっている感のある魔物が、つかつかと私の目の前まで歩いてきた。
「それはもう少し、お預けだ」
 そして、あたしがしっかり抱えていたケーキの箱はいとも簡単に撤収。え〜っ、そんなあと思っているうちに、今度はあたし自身が運ばれていく。行き着く先はやっぱり……その通りだ。
「そっ、そのっ! 残念ながら、あたしは昨日もた〜っぷり10時間も寝ちゃいましたしっ。だから全然眠くないですから、そのっ、……寝たいなら、ひとりでどうぞって―― 」
 うわあっ、楓さまの裏切り者っ! こうなることが分かっていてあたしを置き去りにするなんて、ひどすぎる。同じことならケーキ配りに付き合う方が百倍良かったよっ、そうに決まってるでしょう……!
「いや、実は疲れすぎてすぐには眠れなそうな気がする。だから付き合えと言っている」
 そう言えば、男の人ってそういうことがあるとかないとか。クラスの女子が、そんな話をしていたような気がする。でもっ、だからといって、どうしてあたしがっ! でも、あーっという間に服を脱がされちゃって。
「クリスマスだからな、特別の趣向を考えてみた」
 ……? 何ですかっ、その手にあるものは!? ええと……その、クリームの絞り出し袋だったりするっ? 何でっ、何でそんなものっ! ……ちょっとっ、待ってって―― 。
「たまにはお前も飾ってやろう。これは最高級のクリームだからな、きっと効果あるぞ」
 ええ〜っ、嘘っ! 胸の辺りに一瞬冷たい金属の感触があったと思ったら、次の瞬間に「にゅるっ」って。ち、ちょっとぉっ! 駄目だったら……っ!
「嫌ぁっ〜、止めてよっ! このっ、変態っ……!?」
 うぐっ、もっとたくさん叫んでやろうと思ったのに、口の中にイチゴを押し込まれてしまう。何よぉっ、これじゃあ飲み込むまで口がきけないじゃないの! ……うわっ、うわあああっ、そんなことをしているうちに、あっという間にあたし、ケーキみたいになってる! とんでもないところにトッピングのチョコレートまで付いてるけど、これって突っ込むところでしょうかっ。
「―― さて、と」
 何、舌なめずりなんてしているのよ、この化け物っ! ちっ、ちょっとっ! 駄目っ、そんなことをしたら駄目だったら……!
「……っんぎゃあああああっ……、駄目っ、止めてぇ〜っ!」
 両手両脚、がっちり押さえつけられて、身体が動かない。クリームを塗りたくられた上に仰向けに固定されたあたしは、クリームごと大王に舐めまくられている。ちょっと、こんなのないよ、ヤバイから。なんかいつもと違うっ、すごい気色悪くて……その上どんどんいろんなところがぬとぬとになるし、……駄目っ!
「ずいぶん元気のいいケーキもあったものだ。全く、どうしたらおとなしくなるのやら」
 ひいいっ、抱きつかないで。そんなことしたら、さらにふたりでぬるぬるだよ? やだぁ、もうっ! あああっ、入ってこないで! いつもよりも堅いっ、これって本当に大王のモノ……!?
「うぎゃっ、……ひゃんっ、ああっ、ああん〜っ!」
 なんて言うのかな、あたしも大王もそのどっちともがクリームの甘い香りになっちゃって、しかもすごいぬるぬるして、とっても変な感じがする。ずんずんと打ち抜かれて、そのたびにベッドに深く沈み込んで、反動で浮き上がるともっとすごいのがきて。
「もうっ……、いやぁ……っ!」
 今年はもうケーキいらない、一口でも食べたら猛烈に胸焼けして大晦日まで寝込んじゃいそう。そりゃ、イチゴのショートケーキはホールで行けちゃうくらい大好きだけどっ、まさか自分がケーキになるとは思ってなかったよ……!
「何を言う、せっかくのクリスマスだ。もう少し、おまけしてやろう」
 くるんと体勢が入れ替わって、今度はあたしが大王の上に乗っかる格好。これって、下から直に衝撃が来るから、ものすごいことになる。すでに自分の身体を支えるすべもないあたしを大王はがっちりと押さえ込んで、どんどん突き上げてくる。
「……ひっ、ひゃあああっん……!」
 いつもよりも念入りにマッサージされた胸が心なしか大きくなった気がする。てっぺんのつぼみは小粒のイチゴみたいに膨らんで、大きく揺れるたびにじんじん痛む。
 こんなこと、しちゃっていいのかなといつも思う。でも、始まっちゃうと決まって気持ちよさの方が勝っちゃって、駄目。本当はクリスマスとか、お正月とか、そういうのってただのこじつけなんだよね。結局のところ、みんなぱーっと盛り上がりたいだけ。……それぞれの方法で。
 
 最後に滅茶苦茶気持ちいいのが来て、ごーんとどこかに打ち付けられたら気が遠くなる。クリームまみれのまま、しばし休憩。そのときはきっと、真っ白な夢を見るよ。
 ……もちろん、あま〜い香りのおまけ付きでね。

 

ひとまず、おしまい♪ (091222)
>> ちょこっと、あとがき


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