今回は、近年の我が国の教育現場にみられる英語コミュニケーション(のみの)重視傾向に関して批判的報告を行う。
1996年7月19日に提出された第15期中央教育審議会答申では「国際化と教育」に関して提言が行われ、学生の留学・教員の海外研修・外国語指導助手の招致・留学生の活用等が具体策として提案されるなど、近年の我が国では、教育現場への英語コミュニケーションの導入が盛んに取りあげられている。
しかし、1976年にドーアが『学歴社会・新しい文明病』(Ronald P. Dore "THE DIPLOMA DISEASE" 1976)で取り上げているところでは、スリランカ・ケニア等では旧宗主国の言語が学校指導において多用されていたにも関わらず、教育的効果をあげることはできなかった。ドーアはこの分析において、仮説として後発諸国が先進国の情報を単純に模倣することを採点の基準とする“学歴中心主義”に陥っていることを、教育効果減衰の最大の原因としてあげている(後発効果)。
日本が世界に向けて提唱したライフサイエンス部門の共同研究推進プロジェクト=ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)では、事業開始年度の1990年度では日本人プロジェクトリーダーは3割存在していたのに対し、本年度1999年度では0(ゼロ)割にまで減少するなど、近年の我が国の科学研究の生産性は有意に低下している。
各国ごとに、プロジェクト・リーダー産出と海外留学生の産出とを比較してみると、両者には負の相関が存在している。留学生を多く派遣する国では、プロジェクト・リーダーの産出はごくわずかであり、プロジェクト・リーダーを多く輩出する国では、海外への留学生派遣はわずかである(HFSP助成事業において、各国ごとに、グラント助成研究者中に占めるプロジェクト・リーダー比率と、海外へのフェローシップ助成件数とを比較したところ、回帰直線 y = - 38.347x +26.572 : R= 0.68937 が得られた。両者は負の相関を示しており、相関係数はR=0.69である)。
以上の現象はドーアの仮説を裏付けるものであり、近年の我が国にみられる英語重視傾向と、相反する科学研究の生産性の低下は、我が国において後発効果が見られることを示しており、報告者は両者の相関から、我が国の教育環境が近年急速に第三世界的教育環境に近づいていることを結論する。
[ open topframe | back | mail ]