[登校拒否と幼児虐待との世代内相関]
第72回日本社会学会大会一般研究報告/報告者=金原克範
【近年の幼児虐待の特徴】
幼児虐待は近年著しい増加傾向がみられる。全国の児童相談所における幼児虐待処理件数は、集計結果が公開開始された1990年の1101件から1997年では5352件と、7年間で5倍近く増加している。虐待者別に処理件数をみると、1位は実母による虐待であり、2943件(55%)と半数以上を占めている。
経路別処理件数でみると、家族から虐待が報告されたケースは1557件(29%)であり、3割に満たない。また被虐待者の年齢をみると、1位が学齢前年齢であり2405件(45%)、2位が小学生1923件(36%)である。種類別処理件数をみると、1位が身体的暴行2780件(52%)、2位が保護の怠慢ないし拒否1728件(32%)である。
概観すると、近年の幼児虐待では以下の特徴がある。
(1)1990年代に目立って増加してきている。
(2)被虐待者は学齢前年齢のものが多い。
(3)実母による身体的暴行・保護の怠慢ないし拒否が多い。
(4)当該家族から幼児虐待が報告されることは少ない。
これらのことから、近年の幼児虐待の増加は、家庭内において実母が学齢以前の低年齢児を虐待するケースが特に増加したことによるものと判断される。
【虐待者の年齢層】
1994年度の母親の年齢階級別出生率(日本人女子人口1000人当たり)をみると、15〜19歳が4.0、20〜24歳が42.4、25〜29歳が125.0、30〜34歳が98.2、35〜39歳が26.0であり、最も出産件数が多い年齢層は25〜29歳、これに次ぐ年齢層は30〜34歳である。このことから、母親の出産年齢のピークは20歳代後半であると結論される。
子どもの虐待ネットワーク・愛知の報告によると、虐待により18歳未満の子どもが死亡したケースを調査すると、無理心中の加害者は30歳代の母親が多く、保護の怠慢ないし拒否により死亡したケースでは、20歳代の母親が1歳未満の子どもを虐待したものが多い。またせっかんや発作的殺人では4歳以下の幼児が虐待されたケースが多い。
これらのことから、現在の幼児虐待における虐待者の年齢層は、主虐待者が学齢以前の低年齢児を実子にもつ母親であるケースが主流であることから判断すると、30歳代前半の年齢層が主であると推測される。
【子育ての仕方の世代的循環】
幼児虐待の原因については、子育ての仕方の世代的循環という仮説がある。
子育ての仕方の世代的循環に関する早期の報告であるWayne Dennisのレバノンの幼児保護施設に対する調査報告(CHILDREN
OF THE CRECHE 1973)によると、制限された知覚環境のもとで養育されてきた児童においては、その後の知能の発達が著しく制限され、特に2歳まで制限された環境におかれた場合には、知能の遅れは生涯持続することが報告されている。また、制限された知覚環境を構成している養育施設のもとで生育してきた児童においては、施設を離れたあとも学校環境や労働環境に適合できず、当該環境からドロップアウトしていくケースが多いことが報告されている。また心理的観察によれば、これらの児童は無気力・無感動のまま生育する場合が多く、施設を離れたあとの学校環境や労働環境において精神的問題が噴出し、精神科に入院するケースが多くみられ、結局世話人として施設に再度帰属する場合が主であることが報告されている。
レバノンで養子制度が公認されるまで、当該施設において養育されてきた児童は、成長後も世話人として施設内で勤務するケースが主であった。その結果、施設に新しく保護されてきた幼児に対して、現在では虐待と認められる程度の身体的暴行・保護の怠慢ないし拒否を加えるケースが多くあったことが報告されている(「子どもたちは、口に食べ物を入れられると口と鼻をつまんで息ができないようにされ、飲み込まされたのである」)。
この報告では、満2歳までに養子として当該施設を離れていた児童においては、その後の知能の発達障害や精神的問題がみられていないことから、幼児期の知覚環境を豊富なものに保つことが、児童生徒の生育後の環境適合に必要であると結論している。そして、子育ての仕方の世代的循環は、保護者において、幼児期の知覚環境が貧困なものであったことから、成長後自らも保護すべき幼児の知覚環境を貧困に保ってしまうことが原因であると判断している。
この報告を要約すると以下のようになる。
(1)2歳まで制限された知覚環境のもとでの生育してきた場合、影響は生涯持続する。
(2)制限された知覚環境のもとで生育した児童は学校環境や労働環境に適合困難である。
(3)制限された知覚環境のもとで生育した児童は成長後幼児虐待を行うケースがある。
【登校拒否と幼児虐待との世代内相関】
以上のことから、近年の幼児虐待の増加においては、主虐待者である母親が、幼児期に制限された知覚環境のもとで生育してきたケースが増加していることが原因であるとの仮説を組み立てることができる。これは、ある時期、我が国の幼児の生育環境において、知覚環境が大幅に制限されていた事態があったことを仮説の根底として持っている。
この仮説から、出生年度を基準にとり、学校環境への適合状況への指標として登校拒否比率、幼児虐待の指標として全国の児童相談所における幼児虐待処理件数を取り比較した。出生年の推定においては、登校拒否においては中学3年生が最も多いことから、測定年を(出生年+15)とし、幼児虐待においては【虐待者の年齢層】から、測定年を(出生年+30)として推定した。
出生年ごとに比較すると、両指標は極めて高い相関を示している(相関係数
R=0.967)。このことから両者にはWayne Dennis報告にある共通する原因がある可能性が示唆され、このことから報告者は、現在の幼児虐待においては、幼児期の知覚環境を豊かにすることが根本的対策として必要であると推測する。
