ネットワークの世界はいまだ謎に包まれている。マスコミや通常の会話であれば、外から容易に見て取れることが、ネットワークの世界では“見えない”からだ。この本は、回線を通じて情報が伝達されるゆえに「傍観できない世界」であるネットワークの世界を、誕生時から追跡し、人間関係から読み解いていこうという意欲的な試みである。
本書ではまずネットワーク誕生時の「歴史的文献」から取り上げる。1980年代当時のネットワークに関する参考文献の引用は、まさに世界創造の瞬間を思わせ、なかなか興味深い。その後はコミュニケーション理論を応用した送り手・受け手の変容の話題に移り、現代という「受け手不在・送り手過剰」の世界を概観していく。
このモデルを基礎として、筆者は電子掲示板から雑誌投稿・深夜のラジオ番組・アマチュア無線・ダイヤルQ2・トイレの落書きまで引用し、人々の相互コミュニケーションの事情を浮き彫りにする。さらに、現時点でのネットワークの特徴である「匿名性」をキーワードとして、自身の抱えている感情が拡大再生産されていく事例をあげ、映画でも話題となった「ネット恋愛」「フレイミング」の実像を取り上げる。
結論として筆者は、ネットワークは都市化の一形態であると論じ、その中で生きるためには自立的な相互依存関係こそ必用であり、人間関係は量的な側面に移行して、今後の世界では、広く浅く友人を募る形式の「薄口の人間関係」が基本となると主張する。
これまでのネット界に関する限り、議論内容は確かに正しいと思う。しかし疑問に思うのは、得られた結論はあくまで現時点でのハードを基本としたものに過ぎないことだ。インターネットというと、メール交換のように深夜に自室でテキストデータを閲覧する形式のものが主となっているが、今回得られた結論は、実はこういった「回線速度の遅い」時点でのユーザのライフスタイルの紹介に過ぎないかも知れないのである。
近い将来、ネットワークは無線を通じて大量のコンテンツを配信する形式に移行し、人々はその状態こそを「ネットワーク」と称することになる。ワイヤレスでダウンロード可能なMP3プレイヤーが登場してしまうと、音楽は自宅で聴くものではなくなり、学校の授業中にダウンロードして休み時間に話題にするものとなるのだ。話題になった音楽は次の時間にクラス全員がダウンロードを開始し、まさにポケモン的大ブームとなって、流行現象は瞬時に観察されるものとなる。キン肉マン消しゴムやガンプラ・プリクラ・たまごっち等、真の流行は“外界から観察される”ことにより生じるものなのだ。現時点において、ネットワークに欠けているのはこういった華々しさなのである。
ともあれ、アングラなイメージがつきまとうネットワーク界の姿を他世界との関連も含めて掘り下げた本書はかなりの力作であり、人々のコミュニケーションを知る上で、真に参考になるものであることは間違いない。一読をおすすめしたい。金原克範(かなはら・かつのり シンクタンク経営)
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