愛の賛歌



俺はどちらかというと、「愛」を与える側の人間である。



人が喜ぶ姿、感動する姿を見ると、無性に嬉しくなる。

そんなハートウォーミングな人間であると自負している。



偽りの愛が蔓延する「恋愛国家」ニッポン。

俺のような「愛の伝道師」が、その愛の受け入れ先すらなく

夜の帳を徘徊すること自体、日本という国が愛に対しての「飽食国家」になりつつある証拠であろう。



そんな高尚な思想を考えるでもなく、

池袋のソープに足を運んだのは、まあいつものことだが、

あれはそう・・・ミレニアムの幕開けとなった2000年度の初めであったような気がする。



当然のように、一人だった。



行き場のない「愛」が出口を求めていて、

とても同好の士に声をかけている余裕は無かった。



いつもの通り待合室で数分過ごし、男性の店員の案内を受けて初めてご対面したその女性は、

確かに第一印象で何かを俺に訴えるような、特異な存在ではなかった。



・・・



つつがなくプレイが進行し、


さあ今宵の楽しいひと時ももうすぐ終わり・・・


と感慨に耽っていた時に、ふいに発せられた彼女の言葉から、愛の物語が始まる。





「こんなこというのも、なんなんですけどぉ。」

「ん?どうしたの?」

「いえ、やっぱいいです・・・」

「気になるじゃない。言ってよ。」

「え〜っとぉ・・・」



どう考えても年下の女の子がもじもじする姿。意外とかわいい。




「どうしたの?」


「え〜っとね。恥ずかしいんですけど・・・」

「何?」

「私・・・
エッチでイったことがないんですよぉ。



意外と意外だ。
でもそういう女の子も多いんだろうなあ。



「へえ。そうなんだ。じゃあ、大変でしょ。こういう仕事。」

「仕事は慣れてるから大丈夫なんですけど・・・」




疑問。なぜこんな話を俺にするのか?





「でも何で俺にこんな話をするの?」



はにかむような表情の彼女。



「エッチでイったことはないんですけどぉ・・・
今日ね。お兄さんとのプレイで
もう少しって感じだったんで・・・











俄然ヤル気!!

モードに入る俺。









「何かコツがあるのかなあ?って思って。」



お嬢ちゃん。コツなんてないよ。



君のエッチに今まで足りなかったものは、




そう・・・








愛だ!!



俺の全身からあふれる「愛」。それが君にヒットしたのさ・・・





「へえ。そうだったんだ。」

平静を装う俺。




「うん。いつもお客さんって自分のペースだから・・・」

それはそうだろう。しかし俺は違う。



いつだって「どっちが金もらっているかわからないほどの責め」
モットーとする俺のような客のほうが珍しいだろう。





「大丈夫だよ。きっとイくようになるよ。」

「そうかなあ?ちょっと心配。」


・・てな会話が終了して、本日はタイムアップ。



大丈夫さ・・・。「愛の伝道師」この俺様が君を絶頂に導いてあげるよ・・・

そう決意して、店を後にした。






・・・





作戦。

女性をエクスタシーに導くのは、チ●ポのサイズでも、テクニックでもない。

当然それらも必要だが、二次的要素でしかない。これは科学的に立証済みの話。



では何だ?

「愛!」

正解だが、もっと具体的にはムードや優しさ、シュチエーションとかが重要なのである。

女の子はロマンチスト。相手のことを考えることが重要である。








さて、決行。

電話でその女の子の出勤を確認すると、指名予約をして店に向かう。

男性店員に案内され、ご対面の時には「また来てくれたんだあ」という明るい表情。

部屋に入る。他愛ない会話の途中で、



「はい、これ。おなかがすいたら食べな。」

と、コージーコーナーのケーキとプリンのプレゼント。




「わああ。ホントに?嬉しい〜。」

そう。この気配りが重要。




見返りを期待しているのではない。君の喜ぶ顔が見たいのだ。

ちょっとした「愛」。








さて、本番。

諸君のように「自らのペース」でコトを進めてはいけない。

諸君は単気筒SOHCエンジンのような単調なピストン運動しかしないだろう。

ダメ。女の子の反応を見ながら、優しく、かつ適宜にコトを進めなくてはいかんのだ。

かなり時間をかけて慎重に・・・







時間が足りなくなるかも?当然延長。








「三浅一深法」・・・知ってる?

「3回軽く突いて、1回深く突く」というピストン運動のクラシック。

それすらも俺に言わせれば工夫が足りない。



そこで、大技の登場。「尻文字」!

文字を書くように腰を使うのである。



初心者は「A・B・C」ぐらいの単純な文字でいいが、

俺のような達人は「いろはにほへと」である。








っ(縦の動きに注意し・・・)

っ(押し出すところは力強く・・・)

っ(そして全体的に優しく・・・)

っ(引く部分でスナップを効かせて・・・)

っ(っとここは小さな動きで・・・)

っ(ここは逆から書くように・・・)

っ(とここも逆から書くように突き上げて・・・)





文字を書くように腰を使い・・・




「どう?」

「うん。もう少しかも・・・」


どうやらゴールは近い様子。






そこで、愛のメッセージを腰文字で伝える・・・




(応用編)


あ・・・


い・・・


し・・・


て・・・


るっ!


・・・


終了!

かなりの好感触である。充実感に満ち溢れる。



「もしかしたら・・・イったかも・・・」



オジサン。その一言を聞きたかった!





・・・数十秒、彼女は動かない。

しばしの沈黙。



そして彼女はうっすら笑顔を浮かべて、



「・・・ありがとう。」



う〜ん。この瞬間のために生きてるね。俺。



愛の伝道師、俺。君の笑顔を見れるのなら、お安いご用さ・・・


例え、指名したって、延長したって、ケーキ買ったって・・・







「でもね・・・」

でも、何?








次も指名してくれたら、もっと私気持ちよくなれるかも・・・」













ハッ!




もしかして・・・

もしかしてだけどね・・・










また騙されてた?俺?








・ ・ ・



もし、俺が彼女の手のひらで踊ってるだけだったとしたら、

ええ、多分そうなんでしょうけど。

・・・泣いていいですか?誰にも迷惑はかけませんから・・・

(2001/7/24)


2週間後には彼女、店を辞めてました・・・