伊豆の踊り子
意外と最近の話である。
俺の大学時代の友人は仲が良く、
「久しぶりに旅行にでも行こうか?」となるのは、それなりに良くある話。
その時の旅行先は、熱海の温泉という企画で話が進んだわけです。
そもそも俺は伊豆半島が好きで良く行くのだが、
今回は社会生活にそれなりに疲れた同級生が、よく遊びにきた伊豆に
「昔を思い出す」的な感慨深い趣旨も含めて、遊びに行こうという企画だったわけで。
学生時代のように男子4人、女子3人をいう構成で熱海に向かう週末。
さすがに大学時代のように男女で一部屋というわけにはいかないが、
かえって高級なホテルの部屋に通され、お茶をすすりだした時には、
「青春くん」と呼ばれた俺の青春時代がまざまざと思い出されたものだ。
日中には、秘宝館という何もツッこむ気も起きないチンポ博物館訪問やら、磯料理やら、
ぎりぎり旅行らしいことをしていたのだが、
やはりそれらを凌駕するような出来事は、夜に起こるものである。
・・・
男子の部屋と女子の部屋は別れているのだか、
せっかく一緒にきたのだから、といって、上げ膳据え膳の夕食は同じ部屋でいただく。
しかしその後、青春の1ページについて語り合うのかといえば、そうではない。
まるで、オウチにいるのと同じように、
当然のように「テレビ」をご覧になられている女性陣。
一人で「UNO」のカードを切っている自分がかなりむなしくなる状況である。
それにしても、女性はブラウン管を通さないと感動できない人種であるらしい。
恋愛ドラマもしかり、ドキュメンタリーもしかり。
ちょうどその時テレビで、なんだか中国とか韓国とかの若者が日本にやってきて、
孤立奮闘しつつも自分の夢に向かって頑張っている、というドキュメンタリーを放送していた。
どうやら女性はこういう話には弱いようで、
「ハンディを抱えながらも、夢に向かって頑張ってるなんてえらいよね。」
なんていって、目を赤くしている。
しかしこの女性たち。
学生時代から目の前にいる、
「顔が不自由」というハンディを抱えながらも恋に向かって頑張っている男に対し、
まるで路傍のクソ虫を見るような視線を投げかけるドライさも持ち合わせている。
・・・わからん。
まあ、いい。
せっかくの夜を何とかして楽しみたい、と考えているのは俺だけではないらしく、
男子4人が結託して「熱海の夜の帳へ繰り出そう」という結論に達するのには
さほど時間はかからなかった。
「買出しに行ってくるよ。」と見え透いた言葉を投げかける男子4人。
疑うとかのレベルではなく、そもそも何の興味もなさそうな女性陣。
我ら四人を止めるものは、もう何も無い。
・・・言うまでもなく、この四人は”漢”会のエリート。
この四人がチームを組んで行動するのである。その行動力はいわずもかな。
まずチームリーダーK氏がフロントで、こう切り出す。
「熱海のことを”知ってる”タクシーの手配を頼む・・・」
フロントの初老の男性はすべてを把握した様子で、軽く微笑み
「はい。かしこまりました。」と答える。
簡潔であるが、これ以上ない意思の疎通である。さすがだ、リーダー!
・・・
タクシー到着。意気揚揚と乗り込む四人。
そしてチームの行動派S君が、運転手にこう尋ねる。
「熱海にはストリップとか、ソープはチャンとあるの?」
運転手は即座に「すべて御座いますよ。」と答える。
チームの戦略コーディネーターのT君が提案を述べる。
「まずストリップで盛り上げてから、ヘルスで一発がいいなあ。」
否定する理由は、当然何もない。
運転手に「熱海で一番強烈なストリップ劇場へ」と行き先を告げ、
ファンタスティックな熱海の夜を思い描く四人の漢達。
そして、到着したるは「銀座劇場」とあるストリップ劇場。
これから先は「切り込み隊長」である自分の仕事だ。
妖しい光をその隙間からもらすカーテンを開け、中をうかがう。
痛っ。
皆さん。どう思いますか?
正直に伝えるべきなんでしょうか?
「おばあさんがいる」って・・・
正直にキャミソール姿のばあさんが股開いて漫談をしてるって、
伝えるべきなんでしょうか?
「早くしろよ」と3人。俺は決意した。
「もう・・・知らない」と。
当然の反応。3人とも絶句。
地蔵のように固まるような4人に気づいたように、おばあちゃんは、
「あら。新しいお客さんね。さて次のショーでもはじめましょうかねえ。」
と、傍のラジカセの再生ボタンをオン。
ピイ、ピイ、ピイ〜ィ
と長渕剛の「とんぼ」のテーマが流れる。
そしておばあさんはバナナを手に取り、
「ワタシャはねえ、最近果物屋に行ってバナナを見るとねえ。
美味しそうとかそうでないとか思う前に、
やわらかいのか、そうでないのかって思うのよ。
やンなっちゃうねえ、全く。」
俺は今後の展開は予想できた。そしてその予想が外れることを切に願った。
しかしその願いは天には通じず、
生誕60周年をとうに迎えたであろう観音様がバナナを食べるところ
を目の当たりにしてしまった。
その次の瞬間には、見事に3等分されたバナナが排出されるさままで見せつけられてしまった。
・ ・ ・
沈黙を破ったのは、S君の泣きながら話す悲痛の叫びだった。
「俺・・・もう吐きそうだよ・・・」
「絶対、カアチャンより年上だよ・・・」
「絶対俺、今日寝れないよお・・・」
「うなされるよお・・・」
・・・多分、四人とも同じ心境だよ。S君。
トラウマになる前に、早く出よう・・・
こうして、この劇場を5分で後にしたのである。
・・・
呆然して、潮風に吹かれながら立ちつくす四人。
多分、あのままいたら
「アソコに挟んだ筆で”愛”という字を書く書道」や
「アソコにさした吹矢で風船を割るイリュージョン」が
展開されたはずだが、
インポになっても誰に文句が言えるわけではない。
多分、即座に退出という行為は大正解だったのだろう。
・・・そもそも行った事自体が、大失敗だったのだが。
立ち尽くす四人に軽々しく近づくソープのポン引き。
「若い子いるよ。」だって。
精一杯の皮肉で、俺は言った。
「若いって40歳ぐらい?」
・・・
沈黙するポン引き。
図星かよッ!!(怒)
これが熱海の夜の実態なのだ。廃れても仕方が無い。
四人は、女の子に嘘をついてまで外出し、こんな思いをしているのにガッカリしている。
もしかしたら、女の子達は「何してるんだろう?」って帰りが遅い俺達を心配してるかもしれない。
何が起こったかは、絶対に口が裂けても言えない。
言えはしないが、俺は帰ったら女の子に謝ろうとおもった。
素直に「ごめんなさい」と・・・
・・・
宿に着く。女性陣は何に気にかける様子もなく、
一心不乱に「ビバリーヒルズ青春白書」を見ていた・・・
・ ・ ・
何しに来たんだろう、俺達・・・
(2001/6/15)