気まぐれ天使


俺は風俗行っても、指名はしない。ポリシーなのである。

従業員の説明があり、それではごたいめ〜ん、のカーテンが開く瞬間・・・
「あっ。今日はラッキー。」とか
「今日ははずしたな・・・」という無常観が好きなのである。

今思えば、それができるのも、新宿や池袋など、
風俗のメッカともいえる、日本でも屈指の優良風俗街であったからなのだろう・・・

1998年 群馬県 高崎・・・
その土地に
「気まぐれ天使」は確実に存在していた。





「ケンちゃん」・・・俺が知りうるエロの中で、5本の指に入るほどのプリンスである。
幸か不幸かこのケンちゃんとは、
社会人の新人として最初に配属された高崎の同期であった。
その上品なフェイスからは想像もつかぬほどのエロぶりに
同期の人間はいつも舌を巻いていた次第である。

そのケンちゃんが・・・

「昨日”気まぐれ天使”に行ったら、スゴかったよお。」という。



なにが?



「出てきた女の子が、
リングの貞子が15年前の聖子チャンヘアーの
かつらをかぶったような
モンスターでさあ。」



サービス業とはナンなのか、わかってないよね。その店。



「だからリベンジでもう一度行こうと思ってさ。これ以下はないっしょ。」

・・・どうしてそんなにプラス思考なの?君は。


・・・

何がどうしたというのだろう。

・・・俺は「気まぐれ天使」の前にたたずんでいた。ケンちゃんとともに。







しかし俺も嫌いではない。初めて訪れる地方の風俗(なんと本番可だという)に
少なからず期待をしていたのも事実である。

「今日はどんな女の子が出てくるのかな?」と考えるアンニュイなひと時・・・





50前後のデブなオヴァあちゃんが入ってきたときも、まだその余韻は続いていた。
冗談抜きで「掃除のオバさん」が間違えて入ってきたと思ったからだ。

「よろしくおねがいしま〜す。」と声を掛けられてから20秒後、
初めて自分の置かれている状況を把握した・・・

「今日はどうします?」なんて言ってきやがる・・・







「とりあえず味噌汁でも作ってくれ・・・」







一人暮らしが続く寂しさで、お袋の味を思い出しても仕方ない。
そこに年配の女性が鎮座しているのだから。

「やだ、お兄さん。おもしろ〜い。」
ババア!!貴様に「お兄さん」呼ばわりされるいわれはないっ!










しかし俺は考えた。”漢”の先人たちはもっとつらい試練を乗り越え、
”漢”としての自分を確立してきたのだろう。
所詮は目の前のオヴァあちゃんも、数ある女の一人でしかない。
今まで見かけだけでフラれ続けたあの屈辱を忘れたか?
もし俺が見かけだけで判断したら、あの女どもと同じではないか・・・

もう、開き直っていた。
「じゃあ、はじめようか・・・」
・・・その瞬間、そのオヴァあちゃんの顔は「女」の顔になっていた。







オッパイを舐めるとぬか味噌の味がする・・・
気にスンナ!そんなこと。



アソコをいじくると

コーホー

っとウオーズマンの様に喘ぐ。



だから気にスンナよ!俺!
これは藤原紀香の30年後の姿だ!
そんなわけないよお。
ああ、だんだん壊れてきた・・・
このオバサンを満足させるといくらもらえるんだったけな・・・
あれっ。そういえばさっき俺が金を払っていたような・・・




完全な酩酊状態に陥っていた。
もしこの状態で殺人を犯しても、精神鑑定の結果、無罪となるに違いない。



薄れ行く記憶の中で、隣の部屋からケンちゃんの


「イクよ!イクよお!」


という絶叫が聞こえてきた。


良かったな、ケンちゃん。
今日は”当たり”だったんだね・・・




結局、俺はダメだった・・・
イカなかった・・・
ビタイチ酒など飲んでいないのに、「いやあ、飲みすぎちゃって」なんて言い訳してる。
なさけねえ。まだ漢と書いてオトコの道は程遠い・・・

隣からケンちゃんが「今日はありがとう」なんて言ってるのが聞こえる。
「また来てね。」そうか、隣はもう終わったのか・・・
帰れるんだ・・・俺は思った。一刻も早くこの場を離れたかった・・・

逃げるようにして、部屋を後にした。
店の外でケンちゃんと合流した。
ケンちゃんは遠くを見ている・・・







「どうだった?」無邪気に感想を聞いてくるケンちゃん。
素直な感想を述べるほど、俺の精神は回復してなかった。
なんとか同じ質問を聞き返すのが精一杯だった。







「どうだった?」











「ああ、この間と同じ女だったよ・・」




アンタ、オトコだよ。ケンちゃん・・・

(2001/6/18)


俺、もうダメだ・・・