今日は有給休暇。
いいじゃねーか。このところ土日出勤やなんやらで、
結構時給は稼いでんだよっつ!
・・・とムリヤリ仕事放棄してドロップアウトしているわけではなく
ホントのところはウチの弟が家族を温泉旅行に招待してやる、と
なんとまあ珍しい提案を投げかけたところから、
2週間ぐらい前に課長に
「あの〜申し訳ありませんが、できましたらお休みを頂けませんでしょうか?」
・・・と慇懃にお願いして取得したお休みである。
別にパチスロとかで時間を浪費したわけではない。
「へえ。いい弟さんじゃない。ドコいくの?」
そんな風に問われたところで、「さあ」としか言えないのがツラいところ。
まったくもってミステリーツアーだったのだ。実際問題。
弟の言うことといえば
「いいから金曜日は休んどけ」 それだけ。
なんてことはない。到着してみればヤツの会社の保養所である。
富士五湖は山中湖に面する、確かに落ち着いたいい保養所ではあった。
しかし、落ち着きすぎ。
「月末の金曜日に会社を休むなんて、俺ぐらいなもんだよナハハ!」
弟はいい気になって豪語している。
確かに大手カーディーラーの新人であるウチの弟が
ノルマに追われるはずの月末の最終金曜日と土曜日のかき入れ時に
したり顔で保養所の利用申請と休暇要請を出した時の
ヤツの上司の苦虫を噛み潰したような表情が目に浮かぶ。
そんな経緯があったに違いないのは
私たちご一行さま意外に、客がいないのだ。
まあ、家族を招待しようという、粋な心意気は確かに嬉しくもあり、
素直に「悪いな、ありがとう」の言葉を投げかけたわけである。
ところが、だ。
私でさえ、神妙に礼を投げかけるこの弟の変貌振りに
私を除くウチの家族は鬼のように舞い上がってしまっている。
その保養所のオジサンが腕によりをかけて作ったコース料理が
この一夜のメインイベントだったのだが、
まずウチの母親が
「このワインはおいくらなのかしら?」と猛烈に気取って尋ねた際、
200円、という想像より遥かに安い(保養所だからね)金額に気を許し、
冗談抜きに2リットルほどのワインを胃の中に流し込む。
「焼きたてのパンでございます」といって出てきたホカホカのパンに
ワインを浸して口にする傍若無人なアル中ぶり。
「粋なフランス人はみんなこうすんだよっつ!」と
ドコでかじったかわからん知識を披露して皆を煙に巻く。
デザートが出てくる頃には、完全に出来上がっているご様子。
「この果物は何のお酒につけていらっしゃるのかしら?」
・・・
「いえ、何にもつけておりませんが・・・」シェフの回答が虚しくこだまする。
哀れなウチの母親は、
己の舌がワイン漬けになってるだけ、ということには気づかない。
次の瞬間には、ウチのババアが
何処から持ってきたかわからないのし袋に2,000円ほど包んでシェフに渡し、
「本日は誠にありがとうございました。突然申し訳ありませんですが
明日の朝はどうか一つ、和食でお願いできないでしょうか?」と
かなりトンチンカンな問答を繰り広げる。
ジジイは80を超えているのにサウナから1時間も上がって来ないで
私と弟を爆裂に心配させ、
挙句の果てにはジジイとババアと母とで、
貸切状態になっているカラオケ機で1ヶ月早い紅白歌合戦を繰り広げる。
「おいっつ!凡作も歌ええええい!」
完全にトラと貸した母親がマイクを持ったまま部屋にあがりこんできたが、
なんだか寂しい気分に一杯だったので、丁寧にお断りする。
そのカラオケ大会は朝まで生テレビが始まったても終わる気配がなく・・・
2時当たりに”浪花節だよ人生は”を子守歌にムリヤリ眠りについたのだが、
ま、全然休まらない。
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