ちょっと前にウチの弟と私と、
『休みが一緒だったら、パチスロ打ちに行こうな』と言っていた。
いい歳した男兄弟の割には、私たち兄弟は仲が良い。
というか、私に兄としての威厳が皆無に等しく、弟から見れば
気軽なタッチの地元の友人ぐらいの印象なのに違いない。
ま、それもそれでよい。
友人というのは互いに惹かれあうからこそ成り立つものであり、
彼にとっては、仮にそれが非生産的なことであるとしても、
兄である私が、彼にとって刺激を与える存在には違いないのだろうから。
パチスロ、麻雀、映画、バイク、パソコンなど。
社会に出て役に立つものでなくとも、それはそれの知識である。
いうなれば兄というより、悪い先輩のようなものであった。
とりわけ口や態度で示したわけではないが、
大量に我が部屋から弟の部屋に流失したエロビデオ。
これは弟の人格形成に多大なる影響を及ぼしたに違いない。
実はカワイイ面もある。
こう見えて大学時代はきちんと勉強していたこともあり、
その姿を見てかウチの弟は、私と同じ法学部に行きたいと言い出した。
『何で?』
『兄ちゃんを見てると、楽しそうだから、さ』
自分でいうのもなんだが、その時の私は確かに
誰かにやらされているのではなく、自分で吸収するように知識を求めていた。
そんな姿を、弟は見ていたのだ。
そんな弟も、既に社会人である。
父と私に例を挙げるでもなく、
わが家系はスタートダッシュだけは威勢のいい血筋。
3年か4年にも満たないというのに、既にかなりの年収を約される身分となり
それゆえ休日を問わない勤務に勤しむ弟の姿を見て、
たまには兄弟水入らずで、パチスロでも興じるのも一興、と
先のように声をかけたわけである。
今日はその”お互いの休日”であったのだが、
実のところ、私は本当に眠かった。
榎本で大航海をやったこともあり、昨今の収支は安定し
しゃかりきになって朝から台にしがみつくこともなかろう、と
いつもなら体育すわりで開店を迎える時間になっても惰眠を貪っていた。
そこへ弟からメールが入る。
「兄ちゃん。今日は打たないのか?」
弟は弟で、この兄とのひと時(パチスロではあるが)を
楽しみにしながら勤務に勤しんでいたかと思うと、
いやはや、収支はまあおいといて、眠いなどとぬかすことは出来ない。
「すぐ仕度をするから、隣の台をとっておいて」とメールを返した。
『北斗の拳』で兄弟対決。
願わくはラオウのような兄になりたいとは思うが、
トキとケンシロウのような関係もまた、いいんじゃないかと思う。
ま、私の生き様はジャギみたいなものだが。
取るものもとらず、いつものホールに到着すると、
ホッと安堵したような表情を浮かべるウチの弟。
言っておくが今までみっちり仕込んでいたこともあって、
弟のパチスロレベルは、私と比較しても遜色ない。
目押しが出来ない、なんてとんでもなくて
BBが10連チャンしないと、台をドツくぐらいの実力者でもある。
そんな弟が、私の到着時にそんな表情をしたというのは
とりもなおさず、弟も私とのパチスロを楽しみにしていた、ということだろう。
「じゃ、始めるか」
「おう」
勢いよくコインサンドに1000円札をツッコみ、勝負を開始する。
ペシペシペシ、と、調子よくボタンを叩いて
両方とも3000円使ったころであろうか、
弟は私の方を向いて、笑顔でこういうわけである。
「兄ちゃん。
・・・金貸してくれ」
「は?お前3000円しか持ってきてないの?」
「いやあ、朝来たときにコンビニ寄ったら、CDが停止中でさあ」
…
どうやら弟が求めていたのは、兄との水入らずのひと時ではなく
しがない時給生活者の財布の中身であったようである。
その後、私の渡した2万円をすべて使い切ると
ケッ、と言い残して自宅に帰っていった。
なあ、弟よ。
お兄さんは君に渡した分とあわせて、9万円も投資してしまいました。
お兄さんは誰を呼べばいいのかな?
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