【その5 : いい旅夢気分】
常々思っていることがあり、それは
温泉に行くなら北へ、ということである。
海水浴場の近くに温泉がある、というのが伊豆の売りの一つだと思うが、
残念ながら私は絹のようなすべすべした肌を持っており、それゆえに
日焼けするとひりひりと痛むのである。普通の人よりその傾向は強いだろう。
ひとしきり『ビギニング』を堪能するころには、直射日光で私の肌は焼け、
その後は日光を浴びるだけで痛くて仕方が無い、という
まるでドラキュラ伯爵のような状態になるのだから、
海は海、温泉は温泉、と、二つを一緒に楽しむことなんてできやしない。
とにかく、そういうことである。
かつて、海でビキニちゃんに悶々とし、その場で池袋のソープに予約を入れ
女の子に「水風呂でお願いします」と言った経験のある私である。
何が楽しくて伊豆で高級な温泉旅館に泊まらなくてはならないのだろうか?
ところが、である。
停泊予定のその宿に着き、部屋に入った瞬間に歓声をあげてしまった。
凡作 「お〜おっつ!スゲー眺めだなあ!」
そうなのである。
西伊豆の海に面した岸壁を切り開いて建設しているそのホテルは
島々や海の景観を一望できる、とてつもなく景色の良い部屋なのである。
凡作 「時に仲居さん」
仲居さん「は?」
凡作 「私は魚介類がニガテですが、今日の料理に魚介は出ますか?」
極めてトンチンカンな質問をしているのは重々承知。
やはり、このようなホテルは、新鮮な海の幸を売りにしているに違いなく
そんな私の質問に、仲居さんは悶絶しているようだった。
凡作 「いや、最近は魚介の”ギョ”のほうなら多少はいけるのですが・・・」
もしその仲居さんが、それなりの年頃の、それなりの容姿の女性ならば
「ま、貴女の両足の間の貝なら、願ったりですがね」と、
エッセンスの効いた一言を投げかけるのであるが、残念ながら違ったので
ぐっとその言葉を飲み込んだ。
仲居さん 「あの〜アワビを用意してまして、今なら変更がききますが」
凡作 「助かりました。もしアワビなら、海に返してたところです」
ヤバい客の一行の担当になってしまった・・・ という仲居さんの表情。
それに気づいてか気づかずか、I君がおもむろに仲居さんの手を握り
I君 「少ないですがコレを・・・ よろしく頼ンます」
と、鬼のように気取って千円札を数枚握らせているのが見えた。
・・・なあ、そういうところがオヤジくさい、っていうのよ。
そんなこんなで始まったのであるが、
やはり上げ膳据え膳の宿はいいものである。
7時を少し回る頃には、食事用のスペースの上に、これでもか、と
豪勢な料理が並んだのを見て、3人の喉が鳴った。
社交辞令的に乾杯をした後は、むしゃむしゃと食事にありつく3人。
すると突然、ブラック君が奇声をあげた。
ブラック「やられた〜っつ!」
二人 「どうした?」
ブラック「いや〜このイカのうまいのなんのって。やられた〜」
なあ・・・お前は包丁人味平かよっつ!
うまい料理にありついて”やられた〜”って反応も珍しいと思うぞ。
しかし、そのよくわからないグルメ魂が、I君にも火をつけたようだ。
I君 「いや〜。この蕎麦もいい仕事してるな。」
凡作 「は?」
I君 「う〜む。これはニハチだな。」
凡作 「だから、なんだって」
I君 「そば粉と小麦粉の割合で、蕎麦の種類をわけんだよ」
凡作 「へえ」
I君 「菓子パン喰って喜んでる凡作には、違いはわからんだろうが」
凡作 「お前だって喜んで喰ってんじゃねーかよっつ!違うのかい!」
I君 「ま、どちらかというと俺のような通は、ニハチよりサブロクだが」
凡作 「なあ、お前、それ一つ足りねーぞ・・・」
・・・我々がそんな問答を繰り広げている間、
ブラックは「やられた〜」「やられた〜」と連呼しながら、
目の前の食事にむしゃぼりついていた・・・
テレビ東京さん。こんな私たちでよかったら、旅番組に使ってください。
※見てください。この絶景を。
情報筋の話によると、かつてこの部屋で医者と看護婦ご一行さまが
スカトロ乱交パーティを開催して、壁一面がうんこまみれだったそうである。
いくら金があるからって、こんな景色のいいところで、そんな破廉恥な・・・
・・・・・・俺も医者を目指してればよかった。
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