実のところ、私は小心者である。
…ん〜、厳密にいうと小心者というのは違うかも知れないが、
言ってみれば、こういうことである。
例えば、前に、自分の人生を振り返って、少し泣いてみよう、と思い
栃木県は塩原温泉「ホテルニュー塩原」に向かった日のこと。
このホテルは「素泊まり3,500円」という破格の宿泊料金で、
当然、夜メシも朝メシもついていないのだが、私は人生を振り返って
少し泣きに来ているのである。別にそんなことは構わない。
温泉で「スタンド・バイ・ミー」と一昨年の合コンを思い出して少し泣き、
部屋に帰ったら、告白の前に振られたアノ娘を思い出して号泣しようと
浴衣姿で廊下を闊歩していた時、ちょっと薄暗い廊下には
ホテルに常駐していると思われるマッサージのおじさんが、
ひっそりと椅子に座っていた。
サングラスをして、うつむいているおじさんは、多分、目が不自由なのだ。
見たところ客もまばらな、その時期のホテルでは、
控え室で電話を待ってるなんて悠長なことが出来ないのではないか?
漫画はエロ週刊誌でも読んで待っていてくれれば、まだいいものの
多分、目が不自由なのである。お客さんに不快感を与えないよう、
きっちりと整髪された頭をうなだれて、じっと待っているようなのである。
(ああ。誰かマッサージを頼めばいいのに・・・)
じゃあお前が頼めよ!という声も聞こえそうだが、
このストレス無しのお気楽な人生を送っている私なので、今まで
肩こりやそのようなものを感じたことすらなく、
ただ私にできることは、30分に1度程度、こっそりと部屋から廊下を
覗いて、(ああ、まだ座って待ってるよ・・・)と確認することぐらいだった。
そして、22時ぐらいに確認したら、
ようやくそのおじさんの姿は消え、多分、疲れた宿泊客に呼ばれて
張り切ってマッサージをしているところなのだろう。
(よかったね、おじさん!)
先日、友人にこの話をしたところ
「さっぱり意味がわからない」と言い切られ
ああ、こういう人はいいなあ、と思った次第なのである。
「なんとなく、わかるね」と思った人は、私と同じ、小心者なのかも。
ここまで読んで、意味のわかる人と、わからない人がいると思うが
気にしないで先に進めよう。
よく表現できないが、私にはこういうところがあって、
これまた先日、久しぶりに家の前をチャルメラが鳴っていたので、
バアさんとババア(祖母と母)を連れ立ち、家の前でチャルメラの
おじさんを呼び止める。
「ラーメン3つ。ひとつは大盛りね。」
しわくちゃの手をしたおじさんに、こう注文すると、
まだ秋になったばかりで、客入りも少ないのだろう。
大量に仕込みをしていたと思われるゆで卵を取り出し
「サービスしますから」と、メニューに50円、と書いてある卵を
ひとつにひとつの割合で、入れてくれたりした。
「あ、すいません」 と、礼を言い終わるな否や
ババア 「アラやだ。お兄さん、本当にありがとうねえ」
バアさま 「また今度通ってくれた時にも、また頼まないとねえ」
ババア 「そうねえ、私たちってラーメンが好きだしねえ」
バアさま 「前にチャルメラが来てた時には、3日と空けずに食べたねえ」
ババア 「お兄さん。この辺を通る時には、大きく鳴らしてね。」
バアさま 「そうね。気づいたらまた呼ぶから。ゆっくり通ってね。」
と、不意にゆで卵をサービスされた嬉しさか、まくしたてるように
ラーメン屋のおじさんに話かけた。
嬉しそうに顔をほころばすおじさん。
自分のラーメンを待つ人がいれば、それは当然嬉しいのだろう。
「ありがとうございましたあ!」と
私たちが食べ終わり、意気揚々と次に向かうおじさんを尻目に
ババア 「ま、あんまりおいしくなかったわね」
バアさま 「まあ、角のそば屋さんでいいわね」
…と、超冷めた感じで部屋へ帰っていった。
で、どうしたって?
それが毎晩のように、そのチャルメラのおじさんが家の近くに来ると
張り切ってチャルメラを吹くのよ。
そして家の近くの滞在時間が、明らかに長いのよ。
家族の者が、調子コイた手前、ほとんど毎回、
外に出て、私の分だけラーメンを頼むことになりやす。
ババア 「あんたね、食べてばっかいるから豚になるのよ!」
…誰のおかげだと思っているんだ?
と、いうことで、今日の話。感じがわかるかなあ?
わかった人は、小心者、というより秋を愛する心清き人、だね。
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