気づくとテレビ番組は派手な改編の特番を放送し、
近くの公園の桜は既に葉桜になっている。
今年も春を迎え、その美しい時期はもうそろそろ終わろうとしている時
ようやく私は、ああ、もう4月になってだいぶ経つなあ、と気づくのである。
季節は春なのだが、私を取り巻く漢の世界はむしろ晩秋を迎えたのでは?と
こんな話を始めようとする私に対して寂しい想いをする御仁は多分一握り。
人気絶頂のままに伝説となったジェームス・ディーンやグレース・ケリーを
望むべくはなくとも、人知れず回転を衰えていく古時計のような役どころを
この春から担うことになるのだろう、と、そう思ったのはつい最近の出来事だ。
久しぶりに、本当に久しぶりに、この漢のメンバーであった(過去形が寂しい)
翼くん氏、兄い氏、そしてヌケル君と4人で食事をした。
金曜日の業務終了後。いわば漢の活動が一番盛んな時間帯であったのだが
我々が久々の再開に選んだのは、神田にあるもんじゃ屋であった。
漢の世界を卒業します。とばかりに所帯をもった彼ら3人である。
敢えていうなれば、
一番結婚式が近かった兄い氏は某メガバンク系証券会社で辣腕を振るい、
写真でしか拝見していないが美しい奥さんとともに新婚生活を歩んでおり、
翼くん氏は、死ぬまで死ぬ心配しかしないでいい、強烈に強い組合を持つ
公務員的職業…つまり最強のサラリーマンともいえる、昔は国営だった通信
企業の社員さまであり、ここも美しい妻と順風な生活を送っている。
ヌケル君は私と同じ年齢でありながら、勢いある成長を続けるコンサル会社の
若き営業統括として辣腕を振るい、かわいい奥さんと、そしてなお
他にめくるめく官能の世界を求めて冒険する探検家である。
この世の底辺で、かような方々の食べ残しを頂戴して生きている私からすれば
未だに接点を設けてくれている諸氏の優しさは、それはもう嬉しいのだけども
もんじゃを掬いながら、一様に「昔はこんな楽しい金曜日だったよなあ」と
遠い目をする彼らの表情を見るに付け、こう思うのである。
「俺たちの時代は終わった、な」と。
「ウチの小遣いは、月5万円だからさあ」と、一人がボヤきをはじめれば、
それを羨ましそうな目で見つめる彼もいる。
失礼ながら私からすれば、それはアラジンで天井に届くか届かないかの金額で
一度もボーナスが引けないかもしれない程度の金額で、一ヶ月生活をしなければ
いけない状況を余儀なくされている元・漢メンバー。
美しい妻、
かわいい妻、
安定した生活、
不安のない将来、
充実した仕事、
勝った負けたでいうと、それこそ大勝ちの人生において、
アラジンで1回のREGにもお目にかかれない可能性があるのである。
食事を終え、外に出た我々が、このまま宴が終わるのを惜しむように
神田の街を徘徊した時に出た案は、こんな案である。
「一人1,000円ずつ出して、パチスロで軍資金を捻出しよう」
本当にみんなで1,000円を出し合って、神田のゴールドの北斗に座り、
3,000円目に翼くん氏が7を揃えた時には、狂喜乱舞した。
「これで投資金額を回収し、一人頭2,000円ほど勝ちました」
と私が言うと、それじゃあ足りない、と
再度北斗に着席するも、すべての金額と追加した4,000円が溶け、
そのまま駅前のコーヒーショップに向かったものである。
悪いが1,000円2,000円で当たるほど、パチスロが甘いものでないと思っている。
よしんば当たったとしても、正直、こういう状況でツキを使いたくないな、と思った。
当然夜の帳に繰り出すと思っていた私は、財布に7万円ほど用意していた。
それでも、彼らは、北斗で大爆裂させて繰り出そうと目論んでいた。
…僕たちの夜の帳は、低設定に違いない、22:00以降の北斗に委ねられていた。
こういう書き方をすると、冒頭で言った「漢の晩秋」というのが、
このHPの初期を彩ったこの3人の漢たちの没落、というか
全うな社会人になっててしまったことによる悲哀という印象を受けるかも知れない。
いやいや、違うのである。
本当のところは、私自身なのだ、その原因は。
年齢を省みず、ゲーム感覚の1,000円交代の北斗を楽しむことをしなかった私。
「やっぱり俺はおっぱいを揉みたいんじゃ〜!」と叫んだ兄いと、
「じゃ、終電間際まで、・・・いきますか?」と煽ったヌケル君に対し
「それじゃいくらなんでも・・・」と、残り30分程度の時間に躊躇した私。
そして、
本当に30分勝負で地下に潜っていった二人を見送ってしまった、
なにを隠そう、この私だ。
こんなアグレッシブな漢たちが結婚をしてしまい、
堂々と開催される合コンがほぼ無くなってしまった昨今の中で
2次元以外で年頃の女性と話していない、今の私の置かれた環境を鑑み
弱気になっている、この私自身なのだ。
春の匂いを残す、日の変わる部屋の向こうの夜空を見上げて
「もうちょっと… 漢を続けててもいいですか?」と、誰にとも知れず呟いた。
い・い・よ
と、どこからか声が聞こえた気がしたので、4月からも日記は続きます。
…というか、このどこからかの声の主さま。
頼むから合コンを開いてほしい。
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