実は・・・
このページは『カリン、膿胸から生還!』というタイトルにしたいと思っている。

 2週間前まではこのページが書けないと思っていた。そして今も書いていいのかどうかまだ心配はいくらか残っている。

 11月も最後の土曜日、ちょっと風邪気味なのかカリンは鼻がつまったような息苦しい様子だった。ネコは口で呼吸をしないので見ているこちらの方も息苦しくなる。もしかしたらいい薬でも出してくれるのかもしれないと、軽い気持ちで動物病院に連れて行った。その動物病院には一ヶ月前にも風邪気味で連れて行ったことがあった。以前飼っていたたぬは地元では評判にいい獣医科に連れて行っていたが、その獣医科の前を通るとたぬの最期を思い出すという単純な理由でカリンは他の病院に連れて行ったのだ。

 そこで言われたのは、単に風邪がこじれているだけならいいけれど、胸に膿が溜まる膿胸かもしれないということだった。目やにや鼻水で顔が汚いということもなく、こじれるほどの風邪という感じはなく、ましてやその恐ろしそうな膿胸というのもピンとこなかった。
またエラク大袈裟な話だなと思い、注射をしている間に、念のため膿胸の検査はできないのかと聞いてみた。そうするとレントゲンは高くつくし、それより胸の辺りが白く見えたとしてもそれが膿胸かどうかという検査は全身麻酔が必要で、こんな重体で全身麻酔をするとアッというまに死んでしまうと言われた。重体?何だか腑に落ちなくてまたまた畳み掛けるように質問した。「抗生物質か何かで落ち着かせて、2.3日してもよくならなかったら検査をするのですか?」と。すると、そうだとは言われたが、月曜に様子を見せに来るようにとの指示もなく3日分の薬をもらって帰って来た。前回の風邪の時はこちらが帰るタイミングに苦労するくらい話し好きな獣医だという印象だったのが、今度はいやにあっさり帰してくれたのが妙に気になった。
 
 ここ何年は何かと言うとすぐネットで調べる私としてはもちろん帰ってすぐ検索して調べてはみたが、どれにもネコが口で息をしていたら膿胸の可能性があり、一刻を争うのですぐ病院に連れて行くようにと書いている。
カリンは
口で息をしているわけでもなく、それに何より病院に連れて行っている。そしてそれが治療かどうか分からないが注射もし薬ももらってきている。
膿胸ではないように感じた。

 ところが翌日の日曜はご飯も食べず、カリンも息苦しいのかじっと同じ姿勢でいられず、体全体で息をして、暗い冷たいところでうずくまってはまたその場で立ち上がる。ホットカーペットの上に置いてやろうと抱き上げると何ともいえない声を発する。そして皆が見ている前、よたよたとその場を離れる。ネコの最期は体温が低下し、誰の目にも触れないところを求めて外に出て行きたがる。うちでも4年前のたぬの最期はとにかく暗い冷たいところに行きたがり、その様子は家族の涙を誘っていたが、まるでその時と同じようで気になって気になって・・・
肛門あたりに手をあてて体温をみたが熱はむしろあるみたいでちょっとホッとした。でも、
いかにも息苦しそうで、私たちもカリンもまともに寝られず、月曜の朝起きたらもしかしたら死んでいるのではないかと思った程だった。
 
 調べたネットの情報だが、まず獣医科サイドのHPには膿胸の病状、治療方法、予後、治療実例について書かれたものがほとんどである。次に飼い主サイドのHPにはどちらかと言えば気がついて大急ぎで連れて行ったがダメだったとか、獣医がちゃんと対応してくれなかったというものが多い。また獣医科の学生のHPでは動物病院でのバイトを日記にしていて、これは日記なので、昨夜運ばれてきてダメかと思ったが手術により一命を取り留めてホッとしたというその日の様子だけが書かれたものだ。

 分かったことは、レントゲンで胸の様子を見た後、息ができないくらい肺を圧迫している胸水が何かというものを調べる為には全身麻酔が必要で、何しろ息絶え絶えなのだから、酸素を吸入させながら検査するにしてもかなりリスクがありそうだということである。治療方法は注射針でその膿を抜くのだが、抜いても抜いてもまた溜まるので何回か繰り返す。状態によっては開胸してチューブで抜くと書いてあり、早い処置だと予後がいいとあった。あるサイトには生存率2,3割という数値もありドキッとした。カリンは気になって最初の病院に連れて行ったのが土曜日、そして翌日が日曜日だったので、この2日間のロスは遅い処置ということになるのだろうか。
どうもダメだった症例は最初の段階で亡くなっているようだが、手当てをして治っているケースも何例も書いてあった。膿胸の原因はケンカで噛まれた場合もあるが、たいていは理由が分からないという。
 
 12月1日月曜朝一番にたぬがお世話になっていた地元で有名な獣医科に連れて行くとたくさんの患者が順番を待っていたが、受付で、「他の獣医科で、膿胸の可能性もあるが検査をしていたら途中に死んでしまうと言われたんです。インターネットで調べたら、もし膿胸ならどちらにしても膿を抜かないと治らないと書いてあったので、結果がどうなったとしても抜いて欲しい」と言った。
 
 こちらの慌しい説明が聞こえたのか、すぐ先生が様子を見に出てきてくれた。ぐったりした様子と他の病院で言われた膿胸という病名でカリンはひとまず酸素室に入れてもらい、ここで最悪の3つの病気の疑いを聞かされ、昼休みに検査をするということでカリンを置いて帰ってきた。迎えの時間を尋ねると夜に来るようにとのこと。ただし何かあったら電話をするということだった。もちろん、検査中に万一の可能性があるからと同意書は書かされていた。午後からの診療時間がきても電話がなかったので検査中に何かあったという心配は消されたが、問題は検査結果である。夕方結果を聞きに行くと、3つの疑いの中では唯一治る可能性のある膿胸で一晩入院することになった。注射針で200ccもの膿がとれたらしい。前日までは恐れていた膿胸という病名なのに、もっと恐ろしい病気の疑いを聞かされていただけに何やらホッとした。
 
 夜、次女が会社の帰りに念のため獣医科に行ってみると、ブラインドは下りていたが、カリンの様子を見せてもらってきた。娘はカリンが普通に息をしていたのに感動し、長女にもメールで報告をし皆ホッとした。

翌日家に連れて帰ると、その日は一日中ぐっすり寝ていたので、やっぱり家は安心できるんだなと話をしていた。膿胸は取っても取ってもすぐ溜まるので何度も根気よく抜かないといけないらしいがまずはひと安心、私もしばらくは頑張って病院に連れて行こうと思っていた。

 ところがホッとして喜んだのはその日だけだった。家に帰ったので安心して寝ていると思っていたのだが結局のところは元気がなかっただけのことだった。その後も食欲は一向に回復せず、私が餌の入った食器を持ってカリンの鼻先に持って行っては無理やりに食べさせるのだが、情けない表情で拒否する。普通の量の3割がいいところでもちろん自分からは食べようとはしない。最初
先生から何日毎というのではなく、調子が悪そうだったらすぐ来るようにと言われていたが、結局一日置きに連れて行った。先生が言われるには治るネコは何回か膿をぬくにしても、間隔が徐々にあくらしい。カリンは、膿を抜いた日に私が洗濯ものを干しに二階のベランダに出るとついてきたこともあったが、でもほとんどは元気なくじっと例の箱すわりをしていた。息苦しいのか普段寝ているような横腹を下にして丸くなって寝ることはできないようだった。そして何しろ食べないので見る見る間に痩せていった。4回注射針で抜いてはみたが、最初が200cc、次が100cc、そして次からは30ccが続いたがどうもカリンの場合は膿がねばっこくて針が詰まって溜まっていたものが全部取れているわけではなかった。後は手術しかないと言われた。
 
 手術に関しては私もインターネットで知っていたが、それは獣医科のある大学や大都市の大きな動物病院でやっていることで、普通の街の病院ではやってないのかと思っていた。膿がドロドロして針が詰まり膿が抜けないのを聞かされ、このままじっと悪くなるのを見てないといけないのかと気分が重くなっていたので手術をしてくれると知ってホッとした。

 12月12日、念のためもう一度注射針で膿を抜き、12月13日胸を切開してチューブを設置し、一気に膿を抜き洗浄することになった。どのくらいの量の膿が出たのかわざわざ聞かなかったが、前夜注射針で抜いたと言うのに、チューブでさえ詰まるくらいのドロドロの膿がいっぱい取れたということだった。翌日の朝(土曜)様子を見に行くと見違えるほど元気になっていて、一晩明けたその様子から想像するに、最初200cc取った翌日あまり元気がなかったのは、細い注射針ではドロドロ部分は取れてなかったのかもしれない。カリンは元気そうで、私たちの顔を見ると、ゲージの穴に手をかけて私たちめがけて這い上がろうとした。昨日までとは大違いだった。
あまりの嬉しさに「わぁカリちゃん元気になって、よかった、よかった」と喜ぶと、先生からまた「今のところは元気なんだけど・・・。何回も繰り返し繰り返し抜いて洗浄してみたんだけど膿がドロドロだから・・・。これはちょっと難しいなぁ。設置したチューブを外す折り合いをどこでつけるかが問題だなぁ」と言われた。実は私も素人考えでそれが気になっていた。膿が出続けたらどこでそのチューブを外す決断をするのか。『折り合い』という言葉に重いものを感じた。何しろ最後の手段だっただけにちょっとした言葉で急に気落ちして、その日は長女も帰省したというのに食事を作る気にもならず、持ち帰り寿司で済ませた。

 翌々日の月曜にいつも家で食べている餌を持って行くと、日曜日も休診だというのにまた麻酔をかけて処置してくれたということだった。HPにはカリンと同じような症例が出ていて1週間で膿が出なくなり11日目に退院したというケースがあったが、カリンは餌をよく食べるようになり元気になったらしいが、1週間近く経っても膿は濃くて、いつかは設置したチューブを外さないといけないわけで、外してしまうと元の木阿弥、ここまできたけれど、諦めないといけないかなと思っていた。私が様子を見に行かなかったら一日でも長くチューブを設置しておいてくれるかもしれないからしばらく行かないようにしようと思った。ところがそう思った翌日電話があって、迎えに来てくれとの事。覚悟して獣医科に行くと、退院後もチューブを設置したまま、毎日通院でチューブから注射器で膿を抜く方針を取ってくれた。

 カリンは家に帰ると早速餌がおいている場所にまっしぐら。あれほど苦労して食べさせていたのが、何故だかどんなキャットフードもガツガツ食べるようになり、元気よくはしゃぎまわりビックリ!ところがそうなると今度は別の心配事が出てきた。翌日からの毎日の通院はいいとし、問題は設置しているチューブを外さないよう見張りが要るのである。でも諦めないといけないのかと思っていただけに嬉しい悲鳴だった。カリンは毎日通院して設置しているチューブから膿を抜いてもらったが、最初は何日か同量の膿か続いた。先生も「抜いても抜いても同じ量だけ出ていたちごっこみたいだ」と言われた。そのうち年末には少しずつ減ってきた。

 体から出ているチューブの先端部分にガーゼを貼り保護し、その上にネットのサポーターを巻き、筒状のワンピースに見えるものを着せ、それをまたサポーターで固定するのだが、何しろ私は連日カリンとこのガーゼを相手にバトルを繰り返してるので、ことカリンのガーゼ貼りに関しては私の方が先生より上手くなってしまった。

 夜は今まで通り娘が自分のベッドに連れて行ったが、すぐ横で設置しているチューブを食いちぎろうとするので気になって寝られないと言う。結局チューブを設置している間は私が居間のホットカーペットにかけ布団だけ持って下ろしてそこでカリンと一緒に寝ることになった。周りに餌やトイレや気を紛らすものがある方がいいようだった。

 日曜も、大晦日も、お正月もチューブから膿を抜いてもらい、ガリガリになっていたカリンも以前より太ってきた。そして何回かの争奪戦でチューブを縫い付けている糸がついに1本になってしまった頃、そのチューブを外した。
先生はたった1本で繋がっていた糸をプツンと切り、チューブを一気に外し、「頼むぞ。体力もついたんだからガンバレよ」とカリンに声をかけてくれた。
ここまで来ると後はカリン自身の自然治癒力が頼りである。

また膿が溜まるようなことがあっても、今度は膿もサラッとしているので抜きやすいということだった。あともう一息だ。

そして今、私もやっと久しぶりに自分の寝室のベッドで寝ている。
 
 私が時々読ませてもらっているサイトでは、20歳から30年近く心を病んだ兄のことについて書かれたページがある。この時代、人が学んで得た倫理観では人間は存在そのものが尊いとされているが、そのページからは私などが本で得た倫理観をふりかざせないものを感じた。

 ところが・・・
動物であれ人間であれ命の重みに違いはないのだが、家で飼われている犬やネコは、ある意味、正直に、単純に、飼い主(家族)にとって何としてでも生きていて欲しいかどうかが治療にとっても基準になっているところがある。保険があるわけでなくお金がかかる、それに毎日通院するとなると車がないと行けない、2,3時間は治療のために時間を費やす。今回のようにチューブを体内に設置したままだと家族の行動にも制約がある。獣医師も医学的判断だけで治療方法を決定できない。治療するかどうかはその動物が飼い主にとって価値があるかどうかである。

今回も最初に行った動物病院では、病名は分かっていただろうからこの状態で何万もお金をかけて検査しても途中で死んでしまう可能性も高く、無駄な治療をする必要もないかもしれないと判断したのかもしれない。でもそれを獣医師が決めていいのか。確かにあのままだと2,3日であの世に逝っていた筈である。

今お世話になっている獣医科でも何度も「○○さん、これはちょっと難しい
なぁ」と言われた。もしかしたらであるが、私たちの意志を確認しようとされたのかもしれない。その都度、「ついつい気になってネットで調べて見るんですが、1ヶ月も膿が出続けたのに治った例が出てたので長丁場は覚悟してます」とか、素人が手術に関して言うわけにもいかないので「いっそ、バキュームみたいなのでビューンと抜けたらいいのですが・・・」などと言うと、カリンに向けて「やっぱり後は手術しかないなぁ。おい、もうちょっとガンバレよ!頼みまっせ!」などと冗談めかして声をかけ治療に時間を割いてくれた。日曜も大晦日もお正月もである。
動物の病気の治療について考えさせられた一ヵ月半だった。
そしてこの先生にお世話になってよかったと思った。


後記: 
私がネットで情報を得たように、もしかしてどなたかのお役にたつかもしれないと思い、ここに記しておきます。

この写真はお正月中のもので、服を着せているのではなく胸にチューブを設置している時の姿です。
                                    (2004年1月吉日)

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