DPRK(北朝鮮)の偵察衛星打ち上げ 2023/12/14
日本時間の2023年11月21日に北朝鮮(DPRK)が、偵察衛星を打ち上げたそうです。
北朝鮮からは打ち上げ時の写真等が公開されており、NHKのニュースに掲載された写真を上に示します。 アメリカの様に静止衛星軌道上にデータ中継衛星が配備されていれば別ですが、画像データのダウンロード、撮影コマンドや軌道変更 コマンドを送るのさえ、タイムリーには困難で、偵察衛星の追加するのは当然として...。 打ち上げの飛行計画ですが、公開されたのが落下物による危険範囲だけで海上保安庁からの データ(すいません。最初の発射の時のものです。)は 何が落下してくるのか記述されていません(2016年の打ち上げでは、 北朝鮮は何が落ちるか連絡していた様です。)のでどういうコースなのか自分で推定しないといけません。 射点から近い方の2ヶ所は軌道傾斜角95度程度へ南へ向けて発射した経路。それに対してルソン島の方は同じ軌道傾斜角の軌道へ北向きに 発射した場合の経度に見えます。(つまりルソン島の方は南極の方をグルっと回って北上する経路を地球の裏がわに回って見た場合) 但し、地表がこの配置に来るまでは半日待たないといけませんが。 これを図示すると 台湾の上空を通過する事をどう考えるかですが、(おそらくJAXAでは認められないでしょう)ロシア/ソ連はバイコヌールからの太陽同期軌道投入では マダガスカル上空を通過させていた様ですし、ムスダンリからテポドンでの衛星打ち上げは日本(岩手)上空を飛ばしていたので、北朝鮮は躊躇しないと 思われます。 打ち上げ機の最終段ですが、ペイロードを衛星軌道に投入した時点で自身も軌道にのるので、ペイロード分離方法にもよりますが(アメリカのICBMでは 分離するペイロードの弾着精度確保の為、ロックを解除した後、逆噴射で離れるので、ペイロードより遅い速度・・・別軌道、減速レベルによっては、落下 軌道に入る)多くの場合、デブリとして衛星軌道に残ります。 デブリ増加を防ぐ為、最近ではペイロードを分離した後、推進剤の余裕を使って減速し、制御した落下をさせる事が行われ始めています。参考までにJAXA のH−3の試験飛行計画の図を示します。(検索で"JAXA H-3 飛行計画"とすれば入手できると思います。) この計画では、衛星分離後、地球を1周したぐらいで減速して東経90度辺りのインド洋に落下させる様になっていましたが、さらに5周ぐらいさせて南極大陸の 縁の辺りで減速させ、フィリピン東に落下させて、その状況を観察するという事も考えられるわけです。 では、何故、最終段(デブリ)58401は軌道に乗ったままなのか?そもそも、そんなに長く地球を周回させて落下させるのか? 追記 2024/1/11 技術的 純粋にデブリ発生を抑制する事を目的にした場合、ペイロードが軌道に投入され、打ち上げ機の最終段から分離された後は、すみやかに最終段は軌道離脱を行う ようにするだろう。(減速の為のロケット噴射が、分離後の衛星に悪影響を及ぼさない様、十分に離れた後) すなわち、最終段と衛星の位置関係を地上の管制側から確認した後、(射点付近まで回帰した時点で)最終段に軌道離脱コマンドを送り、インド洋等へ落下させる。 特に、ヒドラジン系の常温液体燃料と硝酸系の常温酸化剤を使用するロケットは極低温対策を行っていないので、長期間宇宙空間を飛行させる事は機能維持の観点で 好ましくないと考えられる。 本当に1日後に軌道離脱させようとした場合、故障で失敗する可能性は高いと想像できる。 軍事的なニーズ なぜ、このようなリスクを許容してまで、このような事を行うか。 (1)ICBM級の弾頭の再突入能力の誇示 平面の地表で物を発射した場合、射角45度で最大射程になり弾着時の射入角も45度になる。 実際の地球は、球なので水平速度を大きくすると(円運動の)遠心力で重力が見かけ上、小さくなる。従って、射程を伸ばす場合、射角は小さくして発射速度の水平速度成分を 大きくする方が遠くに飛ぶようになる。(最小エネルギの弾道は射程が大きくなるに従って、水平発射にちかずく。) これは2つの問題を引き起こす。 ひとつは、最近の再突入体(RV)の様に鋭角的な頂角の円錐形状の場合、(姿勢制御の誤差、大気上層の風等)わずかな誤差で揚力が働き、宇宙空間へハジキ返される。 もう一つは、再突入で大気圏内を長距離(長時間)に渡り飛行する事で熱防護が破綻する。 世間では、熱防護について「耐熱」ばかり問題にするが「断熱」も重要で、早い話、核弾頭の起爆用の火薬の安定性等から表面は数千度でも内部は常温に保たないといけない。 従って、断熱材の必要厚さが足りなくなる。又、厚い耐熱、断熱材は製造時、内部に気泡が発生する可能性が増加し、加熱で膨張、破裂をもたらす。 又、敵の迎撃を困難にする為、高速のまま大気圏下層まで降りてくるRVは、高度20km付近での大気密度増加で衝突に匹敵する減速Gの増加を生じ、構造的な強度維持も 問題となる。 これらの問題を解決して、ICBM級射程での再突入をさせるには ・最小エネルギ軌道では無く、ロフト軌道に入れて射入角をある程度大きくする。 この場合、ロケットは衛星軌道投入程度の能力を持つ必要がある。 ・試験確認としては、実際の飛行速度、射入角で行う。 単に最高高度を大きくするのは、速度条件(最高温度)は合わせられても加熱時間は短時間で確認にはならない。 つまり、北朝鮮が行っている数千km高度への打ち上げは、ICBM射程の実証試験にはなっていない。 だからと言って、ハワイのさらに先まで観測船を派遣して試験をする訳にもいかないのでデブリ回避の名目で軌道離脱からの再突入を行う。 (2)FOBS(部分軌道爆撃)能力の誇示 FOBS(部分軌道爆撃)は、深宇宙条約で大量破壊兵器を軌道上に上げてはいけない事になった際に、 軌道に上げる=地球を1周以上する という解釈で、一周する前に弾着させる様にした物である。実際の所は周回軌道に一度入れて、1集前に軌道離脱させる様にする。 先程の弾道でわかる事だが、地球を半周する弾道は周回軌道そのもので、最小エネルギで考えた場合、半周以上の射程と周回軌道は道義になる。 但し、弾道軌道で半周以上の射程を飛ばす場合は、実際に飛行する弾道の残りの部分で、地中に入るデュプレス弾道を考え、それを逆向きに飛ばす様にする。 従って、一見するとロフト軌道に見えるが、実際はデュプレス弾道になる。 米ソ間では、SALT2条約で海上配備のINFと併せて、禁止の対象となったが条約自体が批准されなかったので、紳士協定として2国間で配備をやめた経緯がある。 (配備をやめたのはソ連のみで、アメリカは配備を最初から行わなかった。) FOBSのメリットは、地球の裏側を回って行くので、早期警戒レーダーを回避した奇襲が可能になる事だったが、早期警戒衛星で発射そのものを探知する事になり メリットは大幅に減少している。 日本の様に北朝鮮方向にのみレーダーを配備している場合は、潜水艦発射(SLBM)と共に問題になる。 |