遺伝性疾患  HEREDITARY DISEASE  2006年7月6日更新

新庄動物病院  院長 今本成樹
PennHIP認定医
JAHD(日本遺伝病ネットワーク)賛助会員
獣医臨床医伝研究会会員

院長の今本です。私は、動物病院をやっていますが、その傍ら遺伝病を無くすために様々な活動をいっていこうと考えています。このページでは、遺伝病のことが、どこまで判ってどこまでが判らないのか?最新の情報は?などを含めまして、なるべく皆様にわかりやすく情報提供をやっていけたらと考えています。ただ、私は、街の一獣医師です。研究の実績も、ずば抜けた臨床医としての能力もありません。その中で、少しでもこの分野に貢献できるようにかき集めた情報をうまく凝縮して、皆様にお届けできたらと考えています。それでは、少しずつ解説をしていきたいと思います。

1、遺伝病とは?

親から子供に対して、何らかの遺伝情報が伝えられてその中に通常とは違う形態(形態学的異常)、性質を持って誕生すること(生理学的異常)を言うと考えてもらっていいと思います。犬の遺伝子の検査は、まだまだ未成熟な発展期にあります。2004年に犬のゲノム配列の解読が完了し、今後のさらなる医学的発展が期待されています。猫に関しては、現在進行中で、日進月歩の分野でもありますので、数年を待たずして解読が完成することであると思います。犬のゲノム配列は、NCBI(National Center Biotechnology Information)のサイトから、誰でも閲覧できます。しかし、それだけを見ても研究者の先生以外には多分暗号文と同じで、全くわからないことでしょう。私にもわかりません。しかし、その暗号の中に、病気の情報が隠されているのであれば、見つけていかなくてはなりません。

遺伝病というのは、遺伝子の中に刻まれた情報。それらを親からもらい受けると、その情報には、人間を含めた生物ほぼ全般は、忠実にその情報を再生します。デジタルオーディオプレイヤーに、デジタル化された情報を刻み込むのと同じです。中には、劣性遺伝という形式を取るものでは、再生情報が不足してその情報が再生されない場合もありますが、それでも、病気を発症してしまう遺伝子の片割れの情報を持つという意味では、その子を交配に用いることは病気の橋渡しをさせてしまうということになります。

近年のペットブームでは、この子の子供が見たい!などという事が、よく聞かれます。私の病院でもそういう話があります。その気持ちは、私も多くの犬や猫と生活してきているので、理解できます。しかし、遺伝病という話は近年になって盛んになってきたので、まだまだ情報が行き届いていないところがあります。普通の飼い主さんが繁殖をさせ、遺伝病を蔓延させてしまう。無知なブリーダーが何でもかんでも繁殖をさせてしまった。情報の伝達が進んだ時代なので、知らないではすませられない現状があります。

遺伝子に刻まれた情報には、生き物はかなり素直にその情報を実演します。例えば、ダックスが胴が長いのも、ブルドッグの顔だって全部決まっているんです。遺伝子には逆らえないのが今の現状です。では、その逆らえないものの中に病気が必ず出てくるという情報があれば?皆様いかがでしょうか?

しかし、遺伝子の中にそういう病気の不都合な情報が色濃く入ると、その病気を必ず、そしてしかもかなり濃厚に発症するということになります。

発症した子においては、その異常が重篤であれば誕生することなく死産となる事もあるし、出生後に死亡することもあります。その異常が重篤でなければ、出生後も一定期間は健康体とほぼ同様に生活できることも少なくありません。そして、その異常は遺伝病として一定の確率のもとで確実に子孫へと遺伝していくのです。子孫へ病気を残さない為に、我々は何をすべきでしょうか?遺伝子情報的に不利な人、不利な犬に対した差別的発言、差別的思想はあってはならないと考えています。遺伝医学とは、優性思想があってはならないものです。

特に産業動物では優秀な固体を残すために近親交配が積極的に行われてきたために、遺伝情報の中に潜んでいた病気が現れる事が多かった。小動物などと比較しても圧倒的な数の繁殖が行われている。当然、遺伝疾患の割合も多いのが現状です。

近年小動物の世界では、ペットブームの波に乗って、各国のチャンピオンのオスを(メスの場合もあるが、メスの場合には無茶な繁殖はできないので、あまり大きな問題とならないように思います)繁殖サイドが積極的に導入するために、血統書を見たときに、三代上で同じおじぃちゃんがいたとかいうこともよく見られる。近親交配は、たしかに能力が高い子を作るのには優秀なこともあるが、そのぶん遺伝子の中に潜む危険因子の情報が表舞台へ出る機会を与えるチャンスでもあるのです。近親交配や、インブリードなどは、その先祖の特徴を色濃く出せますがそんな輝いた子ばかりが生まれてくるのではありません。その影で、抹消されていった命の数は数知れません。目をそむけるのは簡単です。しかし、少しだけ考えていただけたらと思います。ペットブームの闇で、どのようなことがあるのか?皆様が想像されたことが、きっとほとんどが正解であると思います。無知なる繁殖は、大きなリスクがあります。

世の中に望まれない命はないはずです。

 

2、遺伝しない為には、、、

動物(ほぼ全ての生物)においては、当然の話ですが、オスとメスが交配して次の世代が作られます。どのようなオスメスが交配するかによって、次世代が決定します。次世代が決定するというよりも、次世代の遺伝子が決定します。世の中にはいろんな交配の方法があります。本能にしたがって交配を行う場合には、ランダム交配。まさにランダムです。出会った貴方がパートナーといった感じです。ランダムに交配を繰り返させるなら、絶対数が多い方が、近親交配のリスクは減少します。10頭くらいでランダムに交配を行うと、当然、数世代後には近親交配となるのです。

A, インブリーディング(Inbreeding)

近親交配。競走馬の世界でもよく耳にする言葉です。。遺伝的に類縁の濃いオス、メスを使います。わかりやすく言い換えると、近い世代に共通の優秀な個体がくるような個体を選抜して繁殖を行うのです。当然遺伝情報の発言は色濃く出る確率が増加します。遺伝なんて、シンプルに言えば、抽選のようなものです。両親からの情報を、おいしいところを選ぶようにどんどん子供が選んでくるのです。だから、当然血が濃いほど似たような優秀な遺伝子がたくさんあるので、優秀な遺伝子への当選確率がアップします。メリットは、そんなところです。でも、そのメリットは非常に大きいです。なんせあまり優秀じゃない個体が出てくる確率が減るのですから。。。次にデメリット。似たような遺伝子ばかりを掛け合わせると、有害な遺伝子がホモの形(人で言うならオスとオスが愛し合うことをホモって言いますけど、それに似たようなものです)になることがあります。通常は、有害な遺伝子は、片方からやってきてもに対になったもう一方の発現抑制のモノによって抑えられます。しかし、病気の素因を持った両親からそれが運悪く選ばれてしまうと、当然抑制側には、何もないのですから、病気は発現します。遺伝病の完成です。その情報には、生命は忠実に従うしかありません。

B,交雑(Outcrossing)

異なる集団、異なる系統を交配することです。全く血縁関係のないから、当然似通った遺伝子が重なるホモ状態は可能性は薄く、また、優性遺伝を引き出すことができるために自然と交雑を繰り返すことで強い個体群が生み出されます。雑種強盛ともいいます。雑種犬は強い、そういう街の中での伝説は、嘘ではないのです。

C, Selection(セレクション)について・・・。

目的形質に関与するような遺伝子をもつ個体を選び、その個体よりに対してより多くの子孫を残させるという方法です。例えばアメリカチャンピオンのお父さんの子供が異常に世の中に出回っているという現象は、まさにこのセレクションの結果です。自然と優秀な子を求める結果として、ブリードの世界ではこれが行われています。その中からは当然、将来的にチャンピオンとなる有望な子は多く、その中から数世代後に近親交配へとつながるということも考えておかなければいけないと思います。血統書をみてください。やたらとチャンピオンが入っていることが多くないですか?チャンピオンが健康という意味ではありません。血統書は健康証明書ではなく、家系図です。チャンピオンが、素晴らしい性格であるかといえばそうでもないのです。あなたが選んだ、あなたのもとに望んでやってきたその子自体が最良のパートナーであるはずです。

D, 淘汰。。。。。

目的とする遺伝子をもった個体を、繁殖に用いないことで、後の世代にその遺伝子を残させないことをいいます。例えば、遺伝性疾患を持つ個体を全く繁殖に用いないことで、そういったものは絶滅に一歩近くなるのです。いくら可愛いからといって、自分のわがままでどんどん増やして、無計画な繁殖を行うことは、遺伝性疾患を無差別にばら撒くことにつながりかねません。将来的に、追跡調査が難しい世界ですので、兄弟が遺伝性疾患を発症してるかなどとは後に調査は厳しい状況ですので、疑いのある場合には獣医師の判断を仰ぎ、遺伝性疾患の疑いがあれば繁殖には用いないようにすることはマナーとして確立していくべきことだと考えます。また、血統書などにもその記載をするように何らかの規則整理が行われることを望みます。実際問題なかなか厳しいのではないでしょうか?「淘汰する」というのは、あまり響きのいいものではないので、なかなかその浸透は難しいと思います。

現在、様々な犬種の遺伝情報を研究しています。その中で、やはり同一犬舎から病気がばら撒かれているという現状もあります。
これは、全てがブリーダーさんが悪いわけではないのです。そのような情報を、知ろうとしないことも悪いのですけど、情報を広げていけない、研究が進んでいない。そういった面でも、悪い部分はあります。ただ、特定の犬種をやっておられるブリーダーさんは、時には獣医師よりもマニアックな知識があります。そういった方が増えていってくださればいいと考えています。

既に、遺伝病などの情報が世に出ている疾患につきましては、遺伝病を広げてしまったことは、「知らなかった。勉強不足だ。」などという発言ではすまされません。私は、それを「無知の罪」と、呼んでいます。これを読まれている飼い主さんでも、ご自分の愛犬に子供を作って、それらが遺伝病だったら?どう責任を取れますか?生まれてきた命に対してあなたが何ができますか?命のことを少しだけ考えてみてください。

E、ちょっと話の矛先を変えて・・・

実験動物の世界では、遺伝性疾患などによる疾患モデル動物というものが存在しています。マウスや、ラットに限らず、古いデータですけど、昭和58年のデータを探してみれば(データ古い!)犬や猫でも遺伝的に起こるものから、それらによる交配を行うことでその疾患個体を維持し研究に使われるということもあります。どの遺伝子上にその情報が乗っかっているかという話になりますけど、そこまで詳しくはわかりませんので、それはパスします。今後の研究で、遺伝子解析を行うことでもっと明らかになることでしょう。ある意味疾患モデルの動物を大量に探し出すのは難しいので、これらの疾患の素因を持つ動物をクローズドなコロニーで飼育するのは、特定の病気に対しての研究を飛躍的にスピードアップさせると思います。ただ、倫理観の問題というのでその見解は様々でしょうけど。。。。

ブリードを行う際には、やはり最低限、「遺伝学」・新生児のケア・初歩の獣医学などの知識を備えていないといけないような気がします。ブリーダーさんから一度言われた言葉は、「うちは出荷したら、あとはなにがあっても文句は来ない。だから、出してしまったらそれで終わり。」なんて言ってるブリーダーがいました。今まで全てがこういう方であったわけではないのですけど、やはり遺伝病などを話する際には、こういった一部の黒幕が関与していることがほとんどです。ちゃんとしてる人がほとんどでも、一部の知識のないブリーダーによって、こういった病因の素因を持った遺伝子が無差別にばら撒かれるのです。結局最後に損をするのは、それを一生面倒を見ていくことになる飼い主さんです。

「犬に罪はない」のです。知ってか知らずか、そんな繁殖を強制的に行ってしまう人間が悪だと思います。

股関節疾患でも、膝関節、肘関節の不調を訴えるのも、精巣が一つしかないのも、アレルギー体質なのも、、、全ては遺伝の可能性があります。可能性と書いたのは、それらの病気を持つ親からは、同様の病気を引き継ぐことはあっても、中には引き継がないこともあるので、100%遺伝するということはないからです。人間では、家族性の腫瘍などというのもあります。それらの発症リスクを、事前に検査できます。しかし、これもあくまでのリスクであり、その発症スイッチはどのようにコントロールされているのか?それまではわかっていません。

まずは、「この子の子供が見たい。」という安易な繁殖をすることから見直さなくてはなりません。まずは、健康個体。これが基本です。
しかし、遺伝や繁殖の分野に、選民思想というものは持ち込むべきではありません。「優れて選ばれた子」ではなく、やはり、動物の世界にも好みはありますので、強制的な交配はあまりおすすめできません。また、最近では、人間が完全に犬という本能を剥ぎ取る育て方をして、分離不安症などで子育てをしない(育児放棄)とか、難産となることもあります。犬本人に、産んで育てる体力があるかなども十分考えてあげなくてはいけない要素です。

さて、本格的に遺伝病の話に入っていきます。具体的な病気の話です。

 

関節疾患

特に大型犬とともに生活されている飼い主さんが私の病院では多いようですので、よく関節に関しての質問はうけます。股関節の形成不全。それにともなって、股関節の部分で頻繁に亜脱臼がおき、そして炎症が過剰に発生して痛みを伴って跛行(びっこ)となります。通常では、筋肉や腱などに支えられているので、さほど関節自体に負荷はかかりません。したがって、結論から書いていきますと、股関節形成不全があっても、症状を現さない子がいるのです。重度の関節疾患があっても、20%程度の子には症状がないというデータがあります。外見上の大丈夫は、非常に過ちを犯すリスクが高いと考えています。また、小さい頃に一度レントゲンで股関節の検査をした。そういう事もあると思いますが、PennHIPのような方法以外では定期的に観察をする必要がある場合もあります。本当に関節疾患の評価は難しいのが現状です。症状がない間に、病状が進行していることも珍しくはありません。また、いったんおかしくなり始めると決定的な治療法は手術しかなく、維持療法というのがせいぜいです。進行を遅らせることはできますが、ゆっくりでも進行していくのがほとんどです。

これらの関節の特徴は遺伝してしまうことが多いので、交配前には必ず検査をお勧めしています。

 A,検査について

最近では、OFAや、JAHD(日本遺伝病ネットワーク)、PennHIPなど様々な検査方法が確立されてきています。OFAは、昔からある現段階を評価するうえでは、非常に優れた方法であると思います。JAHDも、海外の方法(主にヨーロッパ方式かな?)のエッセンスをいうまく取り入れ、非常にいい方法であると思います。股関節検査だけでなく、前肢の特に肘関節においての検査を行うには非常に優れた方法で検査が可能です。大型犬を繁殖させる際には、この検査(股関節と肘関節)を、やってあげてほしいと思います。小型犬では、股関節の検査も重要ですが、膝の方の検査(膝蓋骨の検査)をやってあげてもらいたいと思います。世の中に関節の悪い子を蔓延させるのは、無知な飼い主さんです。飼い主さんにもぜひ知ってもらえたらと考えています。

実際の症例です。

1歳で跛行を主訴に来院されました。当然触ったり関節の検査をするだけで、半狂乱状態となりますので、きちっと関節の評価をする為に、血液検査や健康診断の後に鎮静をかけて、レントゲンを撮影しました。それで撮れてきたのがこの写真です。右側の股関節が明らかに外れているのは誰の目で見ても明らかだと思います。鎮静、鎮痛の状態ですので、半ば無理矢理はめ込むということも可能ですが、この子の場合には、無理でした。関節の溝の部分が浅くなってるので、うまくはまってもすぐに抜けてしまう状態でした。

簡単な経過を書きます。

鎮痛剤の治療と、リハビリ療法により、現在では、このままの関節ですけど、歩行は可能です。外見上歩行に、異常はありません。現在でもこのままです。それでも歩けます。その理由は、ちょっとズレた場所に「偽関節」と呼ばれる、偽物の関節が完成してしまったからです。
こういった場合のリハビリは、まずはゆっくり歩かせて、痛みが出たりしないようにしながら適度な運動をさせていきます。そして徐々に体や関節を慣れさせていくことで、症状の改善を見ることがあります。しかし、中には、症状が進行する場合もありますので、やはり定期的なレントゲンによる関節の観察が必要になります。

まず何が言いたいのか?ということから言いますと、現在この子は走れます。何かの手術をしたというわけでもなく、「単なる内科療法とリハビリで」です。単なる内科療法?リハビリ?手術をするのではなく、飼い主さんが選択されたのは、切らないで治すことです。それで、症状が消失しました。くり返しになりますけど、現在では、走れます。それでは、そういう犬を見極めるのは、どうしたらいいのでしょうか?隠れ形成不全状態の犬に対しては、外部からでは見極めることは日常の診察で可能なのか?そういう事です。結局、レントゲンとって、どの程度の形成不全なのか?それを専門の機関に評価を依頼するのも悪くない方法だと思います。かかりつけの獣医さんでも全然構いませんので、一度遺伝病について、繁殖をされる際には相談をしてみるのもいいと思います。

股関節疾患は、内科的な治療で満足が得られるのは70%外科的な処置を行った際の満足度は80%だそうです。手術の方法も人により異なります。いまだに獣医の学会では、このような整形外科症例に対して、どの手術方法が、どういう理由で優れているのだとかそういうディスカッションが繰り返されています。私は、慣れた方法が一番いいのではないか?と思いますけど、それぞれの先生により考えは様々です。何より、一番正しく診断できて、治療法を決定できるのは、診察した獣医師です。メールや電話での相談だけでは、きちんとした回答を、正しい回答を飼い主さんにすることは困難です。

内科的に満足するのは70%なら、切るか切らないの前に、まず内科を試すことも重要と思います。すぐにオペ。すぐにオペ。これでは体にやさしくないし、動物本位ではないでしょう。それより先にできることもあるのです。ただしかし、手術以外に方法がない場合だってないわけではありません。それは定期的に検査をおこなってレントゲンを見れば判断がつきます。

遺伝病と思われるのなら、遺伝させないで、撲滅させてあげる。大切に遺伝疾患を抱えた子を世話してあげるのではなく、遺伝疾患がなくなるように考えていく。それからが本当のスタートだと思います。股関節疾患は、70%が遺伝的な要因から来ると言われています。30%は環境的な要因です。全てが遺伝する疾患ではないのが、困ったところです。

 

水頭症

水頭症とは、脳室や、クモ膜下腔においての脳脊髄液の過剰の貯留のことを言います。過剰に貯留されるのは、脳脊髄液が大量に作り出される。または、通常なら排泄されるべき脳脊髄液が排泄される量が少ない(脳脊髄液は、髄膜において吸収されていきます、その量の減少によっても生じます。)通常は脳を保護していくべき液体であるはずのものが、増えすぎてしまうと脳を物理的に圧迫してしまいます。脳を圧迫していくとどうなるかと言いますと、脳が押されて小さくなります。すると、脳の機能が規模縮小されたような形になります。症状などの詳細は後で書くことにしていきます。

まず、テーマとなっている遺伝性疾患の話です。実際特定の犬種では水頭症の素因があります。トイ犬種、短頭犬種などでは比較的よくみかけてきました。生まれた時からこのような状態が認められることもあります。これは先天的な形成不全によるものです。当然何かをしてあげないと長くは生きられません。しかし、その程度が軽度だと、症状をあらわさないこともあります。実際、死後に大学病院などで剖検(死後の解剖)を行った際に発見されることもあるくらいです。健康診断を兼ねてMRIを撮るなんてことはしないし、犬が軽度の頭痛を訴えているとかいうことを判断するのも難しいので一生軽度の水頭症を抱えたままの子も実際には、いるようです。

水頭症の臨床症状・・・・。来院される中で多いのが、何らかの神経学的な異常、視覚異常、運動障害などです。中にはいきなり激しい痙攣を引き起こすとかいうこともありました。たいていの水頭症の患者さんはうつ状態です。(飼い主さんじゃなくて、来院される動物のほうです。)神経学的な検査を入念におこなっていくと、様々な異常が発見されます。神経学的な検査をすればするほど、どんどん異常が明らかになります。重度の水頭症になると、歩様がおかしく引きずったようになります。盲目状態は、水頭症の重度ではかなりの確率で見られます。ただ、瞳孔の反射は正常であることもあるので、実際に診療室を歩いてもらって、障害物などを置くことでそれにぶつかるかどうかで判断できます。

水頭症の外見的な特徴では、

目が離れているような感じ。斜視といわれるようなものがあります。見た目的にそれは判断つくと思います。これは、水頭症によって頭部の、頭蓋骨の中の圧力があがることで、目を納める部分の変形が起きているためだと考えられています。ただ、眼球の運動は正常に行われます。

顔面神経、聴覚神経、知覚神経など様々な神経に異常をきたすこともありますが、どの異常が出てくるかということは決まったものではありません。最後に一応、教科書的に症状をまとめて載せておくことにします。

よく眠るようになる  活動性の低下   発作   痴呆(若いのに?そう、若いけど痴呆様の症状が出ます)   行動異常

不全麻痺    斜視   眼球の振るえ   筋肉の硬直   視力障害   など

治療についてです。

水頭症は、脳脊髄液の過剰な貯留ですので、その原因を取り除くことが一言で言えば治療法となります。後天的な要因で腫瘍などからの分泌が過剰となる場合には、その切除が当然第一選択となりますが、先天的な場合には、どこに先天的な異常があるかが問題となります。通常は、内科的な治療法が中心となります。ステロイド剤、利尿剤などは、内科的な治療ではメインとなります。しかし、水頭症の多くの症例では、最終的には内科的療法でも破綻をきたしてしまうことになります。そして外科的矯正を行うことが必要となります。外科的に脳内の圧力を下げてあげることが必要となりますが、この手術には多大なリスクを伴いますし、手術室の滅菌状況、器具の問題などから非常に限られた設備でしか行えないものです。現在、水頭症の手術の症例の発表は、盛んに学会でもおこなわれています。実際、私も2005年の獣医学雑誌に私の友人と、大きな病院の先生とで共同で手術をした症例を発表します。すぐ手の届くところに、このような手術が可能な病院があることも忘れないでください。

先天性症候群・・・・脳空洞症・内水頭症(出生前の外傷や感染症)などでは、臨床症状は新生児の水頭症と同じです。

実際の症例から・・・水頭症(MRIによる検査

黒い部分が水の溜まっている部分です。黒い部分のまわりが、圧迫されて小さくなっている脳みそです。

明らかに脳が圧迫されています。脳が周辺に押されています。
なるべく脳疾患がある場合には、検査と同時に手術を行うことがすすめられます。なるべく麻酔頻度を少なくするためです。
手術は高額で、大きな病院でないとなかなかできません。脳内をいじるには、特殊な経験を積んだ獣医師の力が必要となります。

ひじょうにシンプルな説明ですけど、遺伝病は山ほどあるので、、、精巣が一個しかないようなものも遺伝します。体内に一個ある場合には、精巣の腫瘍となるリスクがかなり高いです。わざわざそういった子を世に送り出してしまうような繁殖を行う必要があるのでしょうか?何らかの痛みや苦しみを抱える子を、世に送り出す。こういったことが人のエゴであってはならないと思います。

現在何犬種かで、遺伝子検査が可能な病気もあります。
それらの研究もおこなっております。また、遺伝性疾患に対しての飼い主さんへのケアもおこなっております。ただ、莫大な数の遺伝性疾患があることと、犬種毎にその特徴が異なる疾患もあること、病状に変化があることなどを考えると、全てに対処するのは厳しい状況ではありますが可能な限り微力ではありますが、この分野に興味を持つ物として協力ができたらと考えています。

遺伝性疾患につきましては、獣医師の先生からの相談にお答えしております。一般の飼い主さんも、主治医の先生を通して質問をしていただけたらと思います。病院へ一度行ってからの質問の方が望ましいです。一度も何の診断も受けないままで、「○○ですけど、大丈夫でしょうか?」という相談が非常に多くありますが、それらに対しては回答ができません。返事がない場合でも気を悪くしないで下さい。無責任な回答をすることは嫌なので、そういったスタンスを取らせて頂いております。
遺伝病の質問への回答は、時には重大な選択を迫られる時もあるので、神経を使います。飼い主さんからの質問へは、よほど詳しく質問を書いて頂かない限り、いい回答ができる自信はありませんので、ご了承ください。色々と書きましたが、少しでもお役に立てればと考えています。これがきっと私のライフワークだと信じています。

shinjo_ah@yahoo.co.jp

上記のメールアドレスで、質問を受けさせていただいております。
病院への電話でのお問い合わせは、ご遠慮ください。
ボーダーコリーのCL症の検査につきましては、飼い主さんからの質問も随時受け付けております。現在無料検査は終了いたしました。2006年の秋から、有料で、誰でも簡単に検体を採取できるキットを用いての検査がスタートします。これらのシステムの整備を今すすめているところですので、詳細の決定がありましたら、アナウンスしたいと思います。

     2006年7月更新