先天性、遺伝性?

その1 心臓の話
2006年7月更新

 

今回は、心臓の話を書きます。通常の病気の話は、そこらじゅうにあふれているので、私は、自分の趣味な範囲で書かせていただきます。趣味な範囲と言うと、「先天性疾患・遺伝性疾患」です。

心臓は、血液を全身に送り出すポンプの役目をしています。その機能が乱れると、大変なことになります。どう大変かって?
例えば、止まってしまうと、死にます。なんせ、全身に活力の源の血液が届かないのですから、心臓停止から5分もたてば、細胞はガンガンしんでいきます。脳細胞が、やがて死が訪れます。心停止をして、全く何の処置もしないと、10〜15分あれば十分死ねます。蘇生しても、後遺症が残ります。それだけ大切な臓器なわけです。

しかし、そんな心臓ですが、けっこう犬ではそこに異常を抱えてしまう子が多いのが現実です。特に小型犬では、高齢になると、心臓の中で、血液の流れを制御している「僧帽弁」という部分が、うまく働かなくなり、血液の循環が悪くなったりします。また、フィラリア症では、血液の流れる血管に、フィラリアの虫が詰まったり、心臓の中で、おかしく絡まることで、様々な心臓への障害が出ますし、血液の循環も悪くなります。

そういった心臓疾患に対しては、症状を抑えたり、弱った心臓をアシストしてあげるといった対症療法的な医療が今まではメインでした。症状が消えたからと言って、治癒したのではなく、症状を無くして楽にしてあげているという風に考えてください。心臓の病気で、内科的に治癒することは稀だと考えてください。最近では、心臓外科手術も動物領域で可能となってきましたが、術後の管理や、手術の負担などを考えると、無症状な動物で、もしくは、内科的に管理できる動物では、あまりお勧めではないかもしれません。しかし、内科的に管理ができるとか、できないとかそう言う問題以前に、手術した方がいい心臓病もあります。それが先天性心疾患です。生まれながらに心臓に異常があるというものです。先天性心疾患では、多くが生後間もなくから症状をあらわし始めます。早いものでは、生後二週間程度で兆候が見られるものもあります。

最初に、動物が家に来たときには、まずは主治医さん探しから・・・。
そして診察台に乗って、体重を測定して、体を見て、おかしな臭いがないかチェックして、そしてそこからはじめて、医療器具に頼ります。聴診器の登場です。その際に、「ドックンドックン」聞こえているはずの心臓の音がおかしい!となれば心臓疾患の可能性があります。先天的な心疾患は、確率的には、1/1000です。しかし、その他にも雑音が聞こえることがあります。正常であっても仔犬では、心臓の音で雑音が聞こえることがあります。機能性心雑音とか、そういう言い方されます。その雑音は、生後半年程度で消滅します。全く寿命に変化をもたらさないと言ってしまっても大丈夫な雑音もあります。

あまりこういった普通の話ばかりを書いていると、面白くもないので、本題を書きはじめたいと思います。
独り言の様に、自分の知識の整理もかねながら、書いていきますので、文章としては完成度が高いものではありません。いつも本や雑誌に書いている時には、編集者の先生の力が大きいのです。私の文章は幼稚ですけど、まぁ、しばらくお付き合いください。

犬では、いくつかの先天性心疾患が知られています。有名なものでは、動脈管開存症・大動脈狭窄症・肺動脈狭窄症があげられます。これらに対しては、いくつかの手術方法があり、手術による症状改善が必要となることが多いです。しかし、生後間もない個体での手術は非常にリスクを伴うことが多く、手術も複数の経験ある獣医師で行う必要があるために、小さな町の病院では、技術があっても人数が足りないとか、手術は可能だけど、機材がないとか、、、そういったことで、すぐに手術ということに対処できない場合もあります。

 

1) 動脈管開存症

動脈管というのは、大動脈と肺動脈をつないでいる部分で、肺呼吸の必要のない胎児の時代には正常にあって当然なものです。生後二日目までには、これは自然と閉じてしまうのですが、そのまま閉じないで残ってしまう状態が動脈管開存症です。聴診器で聞くと、ザーザーという連続したおかしな音が聞き取れます。このような症状から、この疾患が疑われたらすぐに心臓専門の先生に紹介したい気持ちになります。この疾患を治療しないと、2歳までにほとんどの犬が何らかの症状を示すんだそうです。ちなみに、猫ではほとんどないそうです。この病気の特徴としては、メスの方がオスよりも多く、犬種でもよく見られる犬種があります。それを挙げておきます。

ボーダー・コリー  
ジャーマン・シェパード  
ラブラドール・レトリーバー  
シェットランド・シープドッグ
ポメラニアン  
ビションフリーゼ

ということみたいです。私は、ポメラニアンでしか見たことがありません。経験不足なので詳しいコメントはしませんが、心臓の雑音のある子は、獣医の中でもさほど珍しくはありません。毎日心臓の音を聞いていると、心地よい一定のリズムで、快適なサウンドを奏でております。それが乱れている時が、心臓疾患のサインです。たまに「ん?」って感じになりますけど、その際には、専門医を紹介するか、必死で超音波検査をしていくくらいです。そして、原因がわかれば、症状の軽減に努めますけど、元からおかしな形をした心臓では、症状を抑えてもなかなか快適な生活を送らせてあげることは困難です。多くの場合、心臓の手術をお勧めすることになりますけど、私にはできません。「耐えて忍ぶ」。。。そういった手術です。細かい作業の連続で心臓の手術が成り立ってます。耐えているのは、何も執刀医だけではありません。病気の子はもっと苦しいはずです。そして、「忍ぶ」 そーっと、そーっと、心臓のご機嫌を崩さないような手術だそうです。私の恩師が現在心臓手術をやっておりますけど、大変そうです。うまく漢字ってできていますね。心に、刃を入れる。そうすることで、「忍ぶ」。となるのです。余計なことを書いてしまっていますけど、動脈管開存症の話に戻ります。

この疾患への治療方法は、外科的処置です。つながったまま閉じてくれない血管を縛っちゃいます。ただ、一期に縛ると血液の流れ方が突然変わるので、一機に縛る手術をすると時に死亡することだってあります。あまりに細い場合には、一気に縛ることもあるのかもしれません。そのへんは、私は執刀したことがないのでわかりません。

そして、この手術が成功した場合には、動物は正常な人生(犬生?)を送ることが可能です。ただし、手術が遅れて心臓への負担があって、心臓の異常が認められる場合には、この限りではありません。

なにより、私が言いたいのは、これらの異常があった子は繁殖には用いないでください。また再び同じような苦しみをもった子を、世に出すことは避けてもらえたらと思います。

 

2) 大動脈狭窄症

犬の先天性心臓疾患の1/3を占めると言われています。大動脈の弁の領域が狭くなるという病気です。シンプルに書くとこうなるのですけど、これだけでは十分誤解を招きます。この病気でも聴診をすることで、心臓のおかしな音に気がつきます。大動脈ということですので、大動脈あたりに聴診器を当てての聴診となりますが、この狭い部分を通っていく血液の流れや弁の閉鎖不全など、様々な原因により、これらの音は作り出されています。一筋縄ではいかないのが聴診です。でも、毎回欠かすことの出来ない検査です。何より厄介なのが、この心臓の異常が、生後半年くらいの間にどんどん悪くなるということなのです。小さい時に診察した先生が発見できなかった!などと怒ることはないのです。経過を追って、同じ獣医師が心臓に聴診器をあてれば判断がつくと思います。しかし、一発で診断ができないのが、本当にこの病気は嫌です。聴診だけだと、大動脈弁狭窄と、肺動脈弁狭窄の違いを診断できません。

この疾患では、狭窄、狭くなっている部分の程度により症状がわかります。本当に、ちょっとだけしか異常がない場合には、生涯ほぼ無症状なんてことがあります。この大動脈へ行く部分の狭さ加減がひどくなっていると、運動をした時に疲れやすいとか、突然倒れて失神するとか不整脈が起きるとか様々な症状が出てきます。不整脈をある程度制御する内服薬(飲み薬)はありますけど、根本的に治療しないと、やはり症状の改善は望めません。

調査によりますと、イギリスでのボクサーのこの病気の罹患率(罹っている割合)は、60%程度と言われています。イギリスでボクサーを見かけても、「大動脈狭窄症ですね。」などと気軽に声をかけないことが望ましいと思います。もしかしたら、頭突きを喰らうほど怒られるかもしれません。

その他の好発犬種は

ニューファンドランド
ゴールデン・レトリーバー

とされています。

遺伝性の疾患であると考えられていますが、ただ単純に一つの遺伝子のみが関係して病気を起こすのではなく、2つ以上の遺伝子が関係してこの病気が作られるという少々複雑な成り立ちです。

なにより、私が言いたいのは、これらの異常があった子は繁殖には用いないでください。また再び同じような苦しみをもった子を、世に出すことは避けてもらえたらと思います。

 

3) 肺動脈狭窄症

これもほぼ先ほどの大動脈弁狭窄症と似たようなものですけど、場所が違うので、治療法があります。重症な場合には、狭くなった部分にバルーンと呼ばれる膨らます装置を、手術にて挿入して、そこで膨らませることで、狭くなった部分を広げる処置ができます。頚静脈からその部分まで進入をさせるのは、きっと大変なのでしょうね。かなりの専門的な知識と技術がいると思います。当然ですけど、異常が見つかってからすぐの処置の方がいいです。早期発見早期治療です。そして、専門医の先生の助けが必要となる病気です。

好発犬種としては、

テリア系の犬種   (ヨークシャ・テリアといった後ろにテリアがつく犬)
ボクサー (また登場!)
ラブラドール・レトリーバー

とされています。

なにより、私が言いたいのは、これらの異常があった子は繁殖には用いないでください。また再び同じような苦しみをもった子を、世に出すことは避けてもらえたらと思います。

 

4)房室弁形成不全症 

心臓の中で、血液の流れを制御している「弁」というものが、正常と違う形になるものです。この病気も聴診で雑音が聞こえます。心臓の弁が正常ではない形となってしまうものです。心臓の弁は、心臓の中の血液の流れを制御しています。そして、心臓の中を一方通行で流れることで、心臓に最小限の負担で、最大限の血液を全身や肺に送り出すことが可能なのです。しかし、その流れを制御する心臓弁がいったん機能障害になると、今まで一方通行だった血液が逆走してきます。そうすることで、従来送るべき血液の他に逆流してきた血液も送り出さないといけません。そうすることで、心臓の負担が高まったり、もしくは、心臓の機能が、追いつかなくなることで症状を現します。心臓の弁膜を痛めやすい犬種としては、キャバリア・キングチャールズ・スパニエルが有名です。この犬種は、必ず、心臓の弁をいためる種類の犬です。しかし、その症状が出る年齢の遅い個体ばかりの交配を行うと、生まれた子供の発症年齢も遅れるんだという報告があります。猫では、僧帽弁の形成不全が先天性心疾患ではもっとも多いとされています。

どこがどのようにおかしいのかは、超音波検査である程度わかってきます。しかし、やはり慣れた先生に検査してもらうのが一番ではないでしょうか?

最近では、心臓の中の弁の異常では、手術が可能なものもあります。動物医療の技術もかなり進んだと思います。
我々のような街医者さんでは、なかなかその技術を習得することは困難ですけど、専門的に研究しておられる先生が近所にできることをどの地区の先生も願っているのではないでしょうか?

なにより、私が言いたいのは、これらの異常があった子は繁殖には用いないでください。また再び同じような苦しみをもった子を、世に出すことは避けてもらえたらと思います。

 

5) 心室中隔欠損 心房中隔欠損

心臓の中の部屋に穴が開いていたりする病気です。二つ合わせると、心臓の先天性疾患の7%を占める病気です。実際当院でも投薬を行って症状の軽減につとめている子がいます。心臓には四つの部屋がありますけど、その部屋の壁に穴が開いている状態です。穴の開いている程度で、血液の逆流の頻度が変わってきますので、症状もバラバラです。これは、心疾患としては必ず抑えておくべきですけど、遺伝性のものかどうかはよくわかりません。

 

6) その他

じつは、その他の疾患もあるのです。先ほどから紹介しているいくつかの疾患が重なって出てくる病気(ファロー四徴症:これでも先天性心疾患の4%を占めるというデータもあります。肺動脈弁狭窄・心室中隔欠損・大動脈の右方変位(騎乗)・二次性の右心室肥大の四つが複合したもの)などがあります。実際、これらの病気は、私も診断した経験があります。たまには、珍しい病気がこんなところにも来る。それだけで日々ドキドキです。もっともっと素晴らしい超音波診断装置を買っていかないといつか見落とすような気がします。でも、そんな腕があるかも疑問です。大学病院の先生の超音波の映像って本当に素晴らしいんですよね。チワワの心臓が大きく見えます。でも、いつの日か、習得したいものです。

拡張型心筋症も、少なからず遺伝性、家族性であるとも言われている。その根拠としては、純血種では、0.65%の罹患率であるのにたいして、雑種犬では、0.16%にすぎないからだ。これは明らかに純血種に何らかの要因があると考えざるおえない。

 

思いつくままによくありそうなものを書いてしまいました。
あくまで思いつくままで、書き漏らしや、最新の情報に更新されてしまうものもあると思います。医学の進歩に伴いこの情報が古く、そして患者さんにとって都合のいいように変化を遂げていく事を祈ります。

このページを紹介したり、直にリンクをしないでください。一方的な情報が、流出して、それにより多くの先生に迷惑をかけたり、古い情報だけが一人歩きしたりすることは、望ましいことではありません。あくまで一つの情報として、頭の片隅に入れておいて頂ければと思います。

 

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奈良県葛城市葛木104-1 新庄動物病院 今本成樹