企業内診断士活性化研究会
第65回研究会資料            報告日:平成13年4月11日
                       報告者:佐藤晋治
       題目:IT革命と中小製造業−その光と影−

0. 報告書の骨子
1) IT革命は百年に一度あるかないかの一大変革である。
2) 工業の時代が終わり情報産業の時代が始まる。
3) IT革命の本質はディジタル革命である
・ 簡単,使いやすい,遠隔,多数の人へ送ることができる
・ 簡単に複製が出来る.安価
・ ためて加工ができる
・ 分析ができる
・ 検索が容易である
4) IT革命がもたらすであろう変化は
・ オープン(情報コストの劇的低下)
・ 完全マーケットの可能性(情報格差の解消)
・ 個人対組織の力関係の変化
・ 組織(企業)の持つ意味の変化(ヴァーチャル・コーポレート)
・ 政治の変化
・ 哲学の必要性

5) IT革命がもたらすであろう社会経済への影響は
・ 世界同時化・同一体験の時代
・ ボーダレス・バーチャルコミュニティーの時代
・ IT革命の波は、ビット型産業から次第に製造,運輸といったアトム型産業へと波及
・ 垂直統合のタテ型から自立分散の横型へ

6) IT革命のわが国中小製造業への影響は
・ 多品種少量生産への移行
・ 顧客企業の海外生産比率増大
・ 下請け取引における顧客企業の価格重視の姿勢強化
加えて化短納期保証力,技術開発・提案能力,企画提案能力といった点を重視し始めている
・ 下請け取引の流動化・大企業における系列の解消の動き
・ アウトソーシングの進展
・ オープンな取引関係
・ 世界的な競争(中国、台湾、韓国などの海外製造業者との競争)
・ 大企業からの中高年の流入
・ 独立志向の若者の増加
7)IT革命が及ぼす光と影 (光の部分) ・ 取引の広域化による新規参入の機会増大 ・ 有効なマーケッティングツールの入手 ・ 中小企業の連携による大企業並みの総合力発揮の可能性 ・ ニッチの深堀(世界中から集めれば量が稼げる) ・ 新規ビジネスの可能性   (影の部分) ・ ITの活用が図れないと競争の有力なツールを失う ・ パイの減少から淘汰が進む。 ・ 海外との競争にさらされる(競争の土俵が異なる 例 中国の低賃金) ・ 取引の広域化による同業者間の競争激化 ・ 特徴のない企業(顧客から見て魅力のない企業)は生き残れない
1. IT革命の本質  IT革命は100年に一度あるかないかの一大変革である。それは世界を変え、地球規模で起こり、 個人、一人一人が地球規模でお互いに関係しあう道具を手に入れたことである。IT革命は、助走期 間を終えて今立ち上がりつつある。  工業の時代が終わり情報産業の時代が始まる。第3次産業革命という人もいる。 1) IT革命の定義  情報化社会を象徴する言葉、情報化社会とは情報が物質やエネルギーと同等あるいはそれ以上に 重要な資源となり,その価値を中心に社会・経済が発展していく社会を云う。 ・・・中略・・・これらの情報技術(エレクトロニクス・通信技術・ネットワーク技術)の進歩は情報伝達に劇的な 変化をもたらし,産業界をはじめ地球規模での社会を大きく変えつつあることから,18世紀の産業革命 にならい、情報技術(IT)革命と呼ぶ。(注1) 2) IT発達の歴史 @ C&Cの発達 コンピュータ,コミュニケーション,電子デバイスが発展しIT革命の苗床となった。 A PCの高機能化 PCの高機能化はコンピュータの大衆化をもたらし、誰もが高度な情報処理の恩恵を受けることが可能となった。 B OSの発達 PC用のOS(Windows)によりコンピュータに不慣れな人も,容易に操作できるようになった。 C ネットワークの発達 点から線、線から面、面から立体へと拡大し、これによりネットワーク参加者が受ける効用は飛躍的に増大した。 D インターネットの発達   普及発達は世界の人々が共通の情報交換の場をもたらした E そしてこれらを支える半導体及び光デバイスの発達 半導体は過去何年間にもわたって3年で4倍の集積度,コストは横ばいという性能向上を続けてきた。 今後も当分このトレンドは維持できると思われる 3) IT革命の本質  IT革命の基盤を構成する半導体デバイス,光ファイバ−はともにシリコンを素材としており地球上に最も 豊富な資源である。  また半導体の製造技術はフォトマスク技術であり、大量に生産、習熟曲線によりコストの低下と機能の 向上が限りなく図られる。  さらにハードの上を走るソフトはコストゼロで複製可能である。 このことはIT革命のインフラの構成要素が、本質的に限りなく機能の進化とコストの低下を実現できることを 意味する。このようなインフラで装備された時代を硅石器時代という人もいる(注7) IT革命は今始まったところである。そしてこれから先数十年は続く。 通信速度は飛躍的に早くなり、人間の使い勝手は飛躍的に向上し、使用コストは限りなくやすくなり、水や 空気と同じように生活・ビジネスに不可欠なものとなる。 @ IT革命の本質 IT革命では無くディジタル革命なのだ。(注2) ・ 簡単,使いやすい,遠隔,多数の人へ送ることができる ・ 簡単に複製が出来る.安価 ・ ためて加工ができる ・ 分析ができる ・ 検索が容易である                 人間の知識とか知恵が従来は、個別に紙とかテープとしてローカルに蓄えられその利用は距離とか 在り処がわからず十分に活用されていなかった。ITによりこれらの情報はディジタル化され世界の どこからでも安価に,瞬時に殆ど同時に、簡単に引き出され活用できるようになった。 IT革命において ・ 情報は繰り返して使用できる(図面など引き出して使える) ・ 情報は夜も眠らない(24時間フルで稼動させることが可能である) ・ 分身を持つ(自分の代わりをコンピュータにやらせる)   IT革命がもたらすであろう変化は(注3) ・ オープン(情報コストの劇的低下) ・ 完全マーケットの可能性(情報格差の解消) ・ 個人対組織の力関係の変化 ・ 組織(企業)の持つ意味の変化(ヴァーチャル・コーポレート) ・ 政治の変化 ・ 哲学の必要性       これがもたらすビジネスチャンスは    大型コンピュータを一人一人が持てる時代って想像できる?    例)MPUのロードマップ、スパコンよりも高性能

2. IT革命が及ぼす影響   1) 社会・文化 @ 世界同時化・同一体験の時代 古くは湾岸戦争にみる A 世界共通言語の時代(とりあえず英語が世界共通語となる時代) ・ インターネット普及率10%以上の国で英語を主要語とする国(注4) カナダ,米国、オーストラリア、英国、ニュージランド       ・インターネット人口の49.5%は米国・カナダ B 記憶力から分析判断力の時代 ・ 情報は記憶するものではなく各種メディア・引き出す時代 ・ 引き出した情報を分析し・活用する能力が重要となる C リアルとは別にバーチャルな世界が出現 ・個人、法人とは別に空人
2) 政治・経済 @ 国の役割減少,地方の時代(政治の中抜現象) 国は国際・防衛、共通ルール作り A ボーダレス・バーチャルコミュニティーの時代:国とか地域という地理的な囲いから、同じ目的,価値観、 とかいう別のカテゴリーでコミュニティ−を形成する 例)NPO,NGO活動の活発化:経済的合理性が発揮できない分野かつ政府の役割の減退、ITによる コミュニティー形成の容易性から 例)20世紀と21世紀の経済活動の大きな違いを「プレースからスペースへ」というキーワードで示したいと 思います。(注5) B 政治・経済が世界同時一体化して反応する時代:超高速リアクションの時代 ・経済のグローバル化 ・
景気変動に機敏に反応 グリーンスパン米連邦準備理事会議長が13日に行った議会証言で「米経済は昨年末に失速状態になった」 と発言。IT革命は生産性を向上させ米景気拡大に寄与したが,景気後退時には減速のピッチを 早める方向に作用する二面性に言及した。高度に情報化された社会では,景気減速時に企業や消費者の 心理の悪化を増幅し,強いブレーキ役にもなる
3) 地球環境 @ IT革命は持続可能な成長社会を実現する上で重要な要素となる ・移動と云う制約からの解放 A 反面,経済をリードし消費拡大による資源浪費を助長する存在
4) ビジネス環境 @ アトム型産業とビット型産業(注6)  IT革命の波は銀行,メディアといったビット型産業から次第に製造,運輸といったアトム型産業へと波及して ゆく。当初の「情報がビジネスそのもの」である銀行・証券業から「情報を活用してもの作りを行う」といった ような製造業へと波及してゆく   A 垂直統合のタテ型から自立分散のヨコ型へ(注7)  自立分散した比較的小さな規模の集団が,情報ネットワークを介して水平に結びつき,協力したり競争した りしながら活動する――――これが私の考える[情報産業時代]の産業・社会のイメージである  B  完全マーケットにより競争は限りなく激化し、生産性向上の果実はそっくり消費者に還元され企業の 収益には直結しなくなるのではないか?

3. IT革命と中小製造業   多分IT革命が成就するのはずっと先おそらくは数十年後のことと思われる。此処では今立ち上がり期に ある数年先(2005年頃)について見てみる。 1) 事業環境の変化(我が国における) @ 政治・経済・産業・文化の変化(注8、注9) ・ 産業構造が2次から3次へ・モノからサービスへのながれ ・ グローバリゼーションの進展 ・ アジアが日本の工場に、日本は開発拠点に A 顧客の変化(注8) ・ 多品種少量生産への移行 ・ 顧客企業の海外生産比率増大 ・ 下請け取引における顧客企業の価格重視の姿勢強化 加えて化短納期保証力,技術開発・提案能力,企画提案能力といった点を重視し始めている ・ 下請け取引の流動化・大企業における系列の解消の動き ・ アウトソーシングの進展 B 供給業者の変化 ・オープンな取引関係 C 競合関係の変化 ・ 世界的な競争(中国、台湾、韓国などの海外製造業者との競争) ・ D 雇用環境の変化(年功制の崩壊) ・ 大企業からの中高年の流入 ・ 独立志向の若者の増加 ・ 成果主義の浸透 E
2) IT技術環境の変化 @ 情報インフラの高度化 ・
国のIT基本戦略 A ソリューションの高度化 ・小林電子の試み(ASPプロバイダ−として地域協業型ネットワーク提供) B インターネットによる遠隔制御の進展 ・ バーチャルからリアルワールドヘ ・ Ipv6の可能性 C FAとERPの統合 ・オープンCNC 3) 内部環境(我が国中小製造業者の) @ 若年労働者不足、熟練労働者の高齢化 A 中小企業経営者(高齢化の進展,後継者難) B 資金不足 C IT人材難・経営者のIT知識不足 4. IT革命が及ぼす光と影  今から50年前車の運転は非常に重要な技術だった.いまや車社会,皆運転できる。ITまだ少ない。IT、 ITと騒がれているが,50年前の車の運転と同じ。ITを活用することは大事であるが、ITが出来ないことを やらないと生き残れない。逆にITを活用できないというのは、「高速道路を自転車で走っているような もの」で、自転車では勝てない(注2)    ネットが便利になればなるほど顧客囲い込みが困難になり純粋ネット企業は利益をあげにくくなる(注11) 1) 中小製造業のIT化の現状 @ 中小企業白書によると ・ 中小製造業のパソコン導入割合は約55%である。事業規模5人未満では20%である。 ・ パッケージソフトの導入状況は経理(79%)、人事給与(50%)で高く製造(30%)、顧客管理(27%)と低く なっている ・ CAD/CAMの導入企業の割合は13%と大企業の57%に比してかなり低い ・ 情報化の人材が不足してない企業は27%で特に情報企画、システム開発人材で不足し手いる ・ インターネットを利用する企業間ネットワークの導入割合は25%前後である ・ コンピュータネットワークの使用目的は受発注に利用(43%)、情報収集(26%)である ・ コンピュータネットワークを利用した新規ビジネスへの参入状況は予定を含めて約20%である ・ 電子商取引に対する意欲は大企業の期待(62%)に比して期待(37%)と低い ・ 新しいビジネス参入への問題点はコンピュータを扱える人材不足(34%)、情報化の知識不足(26%)、 コンピュータ機器などの調達資金不足(23%)となっている 2) ITを先取りした中小製造業の事業モデル @ 製造業のIT活用事例 ・ 中小企業 大企業・中堅企業     A 中小製造業のIT化の現状とあるべき姿       当面及び数年後の到達レベルは B IT化の留意点 ・ ITは道具である。ITを導入したからといってそれで成功が保証されるわけではない。他社にない独自の 能力(コアコンピタンス)を持っていること ・ 道具を活かすも殺すも本人次第。自社のビジネスモデル(儲かる仕組み)を明確にし,どのようにITを 活用するかを明確にする ・ 道具はフルに活用せよ。道具に使われるな。道具は所詮道具。身の丈にあった使いかた。馴染んだ使い 方をせよ。親企業のEDIに付き合わされて99%使わないシステムを購入されている例を散見する。 ・ 環境に合った道具の選択,使い分けをせよ。事業環境は時々刻々変わり顧客のニーズも変わる。一度 選んだら永久に使うといったものではなく必要に応じて変更改善を加えてゆかねばならない 3) IT革命が及ぼす光と影 @ 光 ・ 取引の広域化による新規参入の機会増大 ・ 有効なマーケッティングツールの入手。小さな企業でも大企業と同じように世界中を相手にマーケッティン グ活動ができる ・ 中小企業の連携による大企業並みの総合力発揮の可能性 ・ ニッチの深堀(世界中から集めれば量が稼げる) ・ 新規ビジネスの可能性(ネットワークロボティクス 注12) A影 ・ ITの活用が図れないと競争の有力なツールをもたないことになる ・ 産業構造の変化・製造業の海外展開によりパイの減少から淘汰が進む。海外との競争にさらされる(競争 の土俵が異なる 例 中国の低賃金) ・ 取引の広域化による同業者間の競争激化 オンリ−ワンが成り立たなくなる?・・・今までは地域的な障壁,情報の障壁(あまり遠くまでは伝わらない) によりニッチな範囲でオンリーワンになり得た) ・ 特徴のない企業(顧客から見て魅力のない企業)は生き残れない。単に量産型の企業は生き残れない (参考資料) 注1 知恵蔵2000年版の説明の抜粋と一部加筆 注2 ITフェア2001 東大経済学部 伊藤元重教授 注3 出典TBS MediaParade2000 NEC西垣社長講演より 注4 出典 平成12年版 通信白書   注5 3月25日日経「21世紀ビジネスコミュニケーションシンポジューム 全面広告 宮崎緑」) 注6 覇者の未来 デビッド・C・モシェラ 佐々木浩二訳 注7 情報産業論 西村吉雄放送大学客員教授 NHK放送大学講座 注8 H10年中小企業白書 注9 H11年中小企業白書 注10 2000年中小企業白書 注11 日経新聞に載っていた「ネットの逆説 マイケル・ポ−タ教授」の記事 注12 計測と制御 2001年1月号 電子技術総合研究所 比留川 博久