湾岸豆まき注意報!!


 

せつぶん【節分】

  @季節の移り変わる時。立春、立夏、立秋、立冬の前日。

  A特に、立春の前日。この日に豆まきを行う。

せつぶん【拙文】

  @まずい文章。

  A自分の作った文章の謙称。

せっぷん【接吻】

  相手の唇・手などに自分の唇を……。

 

……もういいって。

 

 

「というわけで!ただいまより毎年恒例となりました『湾岸署大豆まき大会』を開催いたしま―す!!」

 どういうわけだか…というツッコミはあえて無視し、沸きあがる歓声と拍手の嵐。

 一所轄署とは思えないほど広くて綺麗な玄関ホールは、異様な熱気に包まれていた。

 警視庁湾岸警察署。「空き地署」の別名で知られる、おそらくは東京都内でもっとも有名であろう

所轄署である。

 普段はその別名に相応しい呑気な署が、なぜか本日に限り熱く燃えていた。

「さて!今年の『鬼』は公正なる審査の結果、刑事課強行犯係の青島巡査部長に決定致しまし

た―っ!!」

「…公正な審査って、あのクジ引きが?」

「なんかいった?」

「いえ!なんでもないっす!!」

 ポツリと不満げに呟いたのはクジで鬼に選ばれた青島で。 

 青島を一言で黙らせたのが、そのクジを作った本日の司会進行役の恩田すみれ巡査部長だったり

する。

 確かにクジ引きそのものは公平かつ、公正なものであるが、クジを作ったのがすみれとくれば、青島

でなくとも疑問の1つや2つ浮んでくるだろう。

「先輩。いい加減覚悟決めてくださいよ」

「…真下はいいよ。俺今日1日、ここにいる全員に追い掛け回されて、乱暴されて襲われるんだよ!

捕まったら何されるかわかんないし…」

 両手を握り締めて力説する青島。

「……先輩が言うとかなり危なく聞こえるんですけど…」

「なにが?」

 両手を握り締めたまま首をかしげる。その成年男子とは思えない可愛らしさに本気で襲っちゃおうか

なと思いつつ、取り敢えず別の事を口にする。

「と、とにかく今日1日無事に逃げ切れば、豪華賞品が手に入るんだからいいじゃありませんか!」

「そりゃそうだけど…」

 ぐるりと見まわして溜息をひとつ。

 同じ刑事課の署員をはじめ、警務課・交通課・会計課・生活安全課・地域課の全員が集まっている。

これだけの人数を敵に回し、はたして逃げ切る事が出来るのか?

「それでは、青島君が署内に隠れてから5分後に豆まきをはじめます。青島君、準備いい?」

「…おぃ〜〜っす」

 半ばやけくそで鬼の面を頭につける。

「それではスタート!!」

 異様な熱気と殺気に包まれたホールを後にする。

「…ったく、誰が考えたんだよこんなルール」

 人気のない署内を必死で逃げる青島の呟きを聞くものはいない。

 

 

 さて。本日2月3日は節分である。節分といえば豆まきである。

 で、お祭り好きな湾岸署のこと、勿論この行事ははずせない。

 という訳で、毎年この日に署員一同が豆まきをするのだが、何ゆえこんなにも燃えるのか?

 そもそもの始まりは、ただ豆をまくだけではつまらない、という署員の申し出に、

『じゃあ鬼に選ばれた者を犯人役にしたてて、犯人確保の実地訓練もついでにやろう!』

 と、誰かがと言い出したのが始まり。

 訓練だけじゃいやだというので最初に確保した者に、豪華賞品『有給1週間+湾岸食堂食事券

1ヶ月分』をつけるといったところ、これが予想以上に署員のやる気に火をつけた。

 たがが有給。されど有給。

 日曜祝日関係なしの警察官。彼等にとって1週間の有給は年末ドリームジャンボ三億円当りクジに

匹敵するものであった。

 それに加えて1ヶ月の食事券。

 薄給の地方公務員。普段より粗食に耐える彼等にとって食事券は、赤坂の高級料亭の懐石料理

よりも価値があるものであった。

 という訳で。

「見つかった?!」

「こっちにはいません!!」

 普段一体何処に、これだけのやる気を隠しているのか。まるで犯人を追う刑事のように、(…刑事な

んだが)真剣に『鬼』の青島を追う署員達。

「ああ!もう豆が無い!!」

「こっちもだ!」

 

―湾岸署大豆まき大会基本ルール其の一。鬼を確保する前に必ず豆まきをする。なお、手持ちの豆

(一人一升)が無くなった時点で失格となる。

 

「どうします、すみれさん?」

「むやみに探し回っても時間が無駄に過ぎるだけよ。もう一度作戦の立て直しよ!」

 

―基本ルール其のニ。豆まきは10:00〜17:00の間とし、17:00まで逃げ切れば鬼の勝ちとする。

 

「それにしても先輩、一体何処に隠れてるんでしょうか」

「署内にいるのは間違いないんですけど…」

―基本ルール其の三。鬼の逃亡範囲は署内のみとする。

 しかしこのルールが曲者だった。

 なにしろ無意味に広い湾岸署。月に一人は行方不明者が出て半年に一度は大捜索隊が組織され、

噂では異次元に通じる扉があり、誰かの机の引出にはタイムマシーンが収納されているという。

 その署内より、たった一人の捜査員を探し出すのはかなり難しいといえた。

「…おびき出すしかないわね」

「どーやって?」

「事件の通報があったって放送すれば一発よ!」

「そんなに簡単に引っ掛かるでしょうか?」

 とにかく他に名案が無い以上、少々の不安を残しつつ作戦を実行する。

『警視庁から各局。テレポート駅にて傷害事件発生。繰り返します…』

「…やっぱり無理なんじゃないでしょうか」

「そうですよ。いくら単純な先輩でも…」

『玄関ホールにて、青島巡査部長発見!!』

「……」

「…先輩。単純すぎ…」

 何はともあれ。作戦成功…。

「ふふふふ。もう逃がさないわよ。青島君、覚悟しなさい!!」

 

 

 玄関ホール、入り口近くに追い詰められ絶体絶命の青島。外に出ればその場で負けになるので、

何とかそれだけは避けたい。

 しかし背後の自動扉以外、すべてを署員達に囲まれもはや逃げ場は無かった。

「さあ、覚悟はいい?有給1週間+食事券1ヶ月分の為、おとなしく捕まりなさい!」

「…これまでか!」 

 青島の呟きに、一斉に豆まき体勢に入る署員達。

 ホールは緊迫した空気に包まれた。そして。

「鬼は―そと―――っ!!」

「きゃ―――っ!!」

「ぐあっ!」

「なんだっ!?」

「…え?」

 署員全員の豆まきの一斉砲火に思わずしゃがみこんだ青島の背後で何処かで聞いたような二つの

悲鳴が上がった。

 恐る恐る顔を上げると、眉間にくっきり浮んだ皺とこめかみにはっきり浮んだ青筋に、それぞれ豆を

はさんだ室井と新城の姿があった。

「む、室井さん?…それに新城さん…?」

「…あーおーしーまぁー」

「ひ、ひえええええ」

 背後におどろ線を背負った新城がゆっくりと歩いてくる。口元に浮んだ微笑みに背筋が凍る。

「これは一体なんの騒ぎだっ!!」

「なにって…あの…豆まき、です」

「豆まきだとぉ?」

 青島の返答に周りを見渡してみれば、署員達の一人一人は手に升を持ち、青島の頭には鬼の面。

 確かに今日は2月3日。世間では豆まきの日と決まっているのだが…。

「…だからといって、署内で豆まき大会をするやつがあるか――っ!!」

 もっともである。

「まぁ落ち着け、新城」

 怒りで震える新城の肩を叩くのは、ようやく眉間にはさまった豆を取り除いた室井だった。

「室井さん、なに呑気な事を!だいたい警察官ともあろう者が、署内で豆まきなんて非常識だと思わな

いんですか!」

「…でもここは、湾岸署だからな」

「…う」

 そう。ここは湾岸署。これ以上説得力のある言葉は他に無い。

 さすが、新城より湾岸署と付合いの長い室井。もはやこの程度の事でうろたえたりはしない。

「…あ、あの。ところで二人とも、今日はなんの用で来たんですか?」

 新城が落ち着いた所で声をかける青島。笑顔で問い掛けながら、頭の中では二人を利用して、

ここから逃げる手立てを必死で考えていたりする。

「私は…」

「近くに寄ったついで、ですね」

「私は」

「裏付捜査に託けて先輩にちょっかいだしに来た、ってとこでしょう」

「パターンね」

 雪乃・真下・すみれの三人につっこみ入れられ、固まる二人。

 反論しようにも図星なのが情けない。

「ねぇ。二人とも暇だっていうなら、いっしょに豆まきやらない?」

「…なに?」

 悪戯を思いついた顔で二人に提案するすみれ。その表情になにか不吉なものを感じ、逃げ腰になる

青島。

「…ルールは今話したとおり。勿論、賞品もつけるわよ。そうね…。有給の代わりに1週間青島君貸出

っていうのはどう?」

「ち、ちょっとすみれさん?!」

「貸出中は何をやってもOK。捜査に使ってもよし。プライベートで使うのもよし」

「…本当に何をやってもいいのか?」

「ええ。手足の様に腰つかって…じゃ無くて、こき使ちゃって構わないから」

「な、何言ってんですか!あ、あのね。二人とも冗談ですから。じょーだん…」

 汗を浮かべ引き攣った笑顔で振り向いた青島が見たものは。

「私だ。至急SATの出動を要請する。場所は湾岸署だ」

「そうだ、今すぐ一課の捜査員を湾岸署に集めろ!所轄ごときに遅れをとるな!」

 同時に携帯でどこかに連絡を取る二人。その目は真剣そのものだった。

「あ、あのー…」

「…そういう訳だ」

「貴様はこの私が確保する」

「は、はははは…」

 汗を一筋流し強張った笑顔を浮かべながら、青島は己の不運を密かに嘆いた。

 そして…。

「本部長より捜査員各位!青島の身柄確保が最優先。周囲の警戒を怠るな!これは演習ではない。

繰り返す。これは演習ではない!」

「3係、4係は2Fの各課を中心に捜査。その他は地下を捜索。いいか、必ず見つけ出せ!!」 

 本店支店の捜査員が入り乱れ、修羅場と化した湾岸署。

「節分なんて、大っっキライだ――――っ!!」

 青島の悲鳴が空しく響いた。

 

 

「今年の豆まきは賑やかだねぇ」

「はい、皆張切ってましたから」

「…ところで署長。先程から何を?」

「…33・34・35…何って節分には年の数ほど豆を食べるって言うじゃない36・37…」

「ああ!で、署長はいくつになられたんですか?」

「38・39…僕?今年で61」

「もうそんなになられるんですか?!」

「そうなんだよ…62・63・64……あれ?」

 

 湾岸署は、今日も平和だ。


U‐MI様の2000Getリク

「ある節分の日の湾岸署」でした。

御免なさ―い!!

2月3日にちょーっと間に合いませんでした;;;

それにしても、これはホントに節分ネタなのか?!

ホントにこんな豆まきあったらかなり怖いぞ。

…あるわけないって。

相変わらず暴走気味のでんでんむしでした♪

あ。「バレンタインデーネタ」

…多分書きます(^^;)