Trouble valentine‘s day♪
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チョコを削って湯煎で融かし好みのリキュールなどで味をつけ、好きなフルーツなどを入れ適度に
冷やす。手で丸める程度に固まったら、一口サイズに形を整えナッツやホワイトチョコでコーティング。
再び冷やして固まったら、箱に詰めてラッピング。愛情込めてリボンを結んで、はい!完成。
「うん、いーじゃない」
余ったチョコを一つ味見しながら、完成した小さな箱を手にとってみる。
少々不恰好で形は不揃いだが、味に関しては申し分ない。ラッピングも角に隙間があり包装紙にも
皺が寄っているが、手作りらしくていいだろう。
「初めて作ったにしては上等だよな」
出来に満足しつつ、完成したチョコレートをしまう。
時計を見ると、もうすでに日付は変わっていた。
「よし!」
気合を入れて明日に備える。
目覚めれば。バレンタインデー。
今日は恋する乙女(男)にとって年に一度の決戦日!
「これどうぞ!」
「…有難う」
本日何個めかのチョコレートを受け取り、室井は大きく溜息をついた。
チョコを手渡した婦警達は、すでに、きゃあきゃあと騒ぎながら廊下の遥か向こうに去っていた。
「もてますね」
「…新城」
声のほうを振り向けばいつものように唇の端を上げ、ちょっと嫌味な笑顔を浮かべた新城の姿が
あった。
「全く羨ましいですよ。まぁその分お返しも大変でしょうが」
「……」
手の中にあるカラフルな包装紙を見て、再び溜息が漏れる。
無下に断ることも出来ず受け取ってはいるものの、デスクの上にあるチョコレートとあわせ一体どれ
だけのお返しをしなくてはならないのか。おまけに甘いものは苦手な自分が、あの数のチョコレートを
処理しなくてはならないかと考えると、頭が痛くなってくる。
「義理とはいえ、バレンタインのチョコレート。粗末に扱うわけにはいきませんしね」
こちらの考えを読み取ったかのような新城の言葉に、ますます眉間の皺が深くなる。
「…なんだったら、分けてやってもいいぞ。どうせお前の事だからたいした数は貰っていないん
だろう?」
「失礼ですね。私は貰っていないんじゃなくて、貰わないんです。もともと甘いものは苦手ですし、第一
こういった物は本命以外からは受け取らない様にしてるんです!」
「なんだ、新城?お前、気になるコでもいるのか?」
「…!あ、あなたには関係ないでしょう!」
真っ赤になって反論してくる新城を見て、なんだか可笑しくなってくる。
この男にこんな一面があったとは。
「と、とにかく!せいぜい頑張って無駄に数だけ増やしてください!義理ばかりで肝心の本命から貰い
損ねないように!!」
真っ赤になったまま去って行く新城の捨て台詞を聞きながら、再び憂鬱な気分になっていく。
本命からのチョコレート。できれば自分だって貰いたい。
もし彼から貰うことができたなら。だが、彼は男だ。それに…。
「室井さん!!」
「あ、あおしま?!」
顔を上げると、廊下の向こうからトレードマークのカーキグリーンのコートを着た青島が走ってくる。
たった今思い浮かべていた、愛しい彼。
「…会えて良かった。探してたんです」
「青島。…俺は…」
胸が詰まって言葉にならない
「室井さん。…俺、室井さんにどうしても渡したいものがあって…」
「…え?」
どきりとする。青島が、私に?
「ほら、今日はバレンタインでしょ…?」
左手に持っていた紙袋の中から、きちんとラッピングされた小箱を取り出す青島。
室井の胸が高鳴る。
ほんのりと紅くなった頬がなんとも言えず可愛く見えた。
「…青島」
「あの…。チョコレートなんですけど…貰ってくれますか?」
そう言って手渡された瞬間、室井の心拍数は一気に上昇した。
「こ、これを私に…?」
ドキドキドキドキドキドキ(以下、エンドレス)
「…はい。あの、もし迷惑だったらいいんです!俺…」
赤い顔のまま、上目遣いで室井を見ている。
その顔を見たとたん、室井の心拍数は危険区域を突破した。
「ああああああおしまぁぁぁ!うれしいぞぉぉぉぉぉぉ!!」
青島がチョコレートをくれた。その嬉しさのあまり抱きしめようと彼に手を伸ばす。が。
「じゃあ、これ。すみれさん達からですから♪」
「……へ?」
室井、固まる。
「すみれさん達に本店に書類届けに行くことがばれちゃって、無理矢理頼まれちゃったんですよね。
もし渡せなかったら半殺しの目にあうところでした。ここで室井さんに会えてホントに良かったっす!
…それにしてもここ、あっついですねぇ。暖房の効き過ぎじゃないんですか?」
手を差し出したまま硬直している室井を尻目に無邪気な笑顔でコートを脱ぎ、持っていた書類で
扇いでいる。
「俺、すぐに顔が赤くなるでしょ?署でも子供みたいだってからかわれるんですよね。…って、室井さん
どうしたんですか?」
「…い、いや、別に…」
気力を振り絞りなんとか立ち直る。
「…?なら良いんですけど。あ、そうだ!忘れるとこだった!!」
「な、なんだ?!」
「すみれさんからの伝言です!『お返しは5倍返しよ。宜しくね♪』だそうです」
御丁寧にもすみれの台詞部分を彼女の声で真似て、伝言を告げる青島。完璧に止めを刺された
室井に、もはや立ち直る気力は残っていなかった…。
その後なんとかデスクに戻ったものの、山積みとなっているチョコレートを見ているだけで、ますます
気分は滅入ってくる。頭の中では先程の新城の台詞が延々と(しかもエコー付き)で繰り返されて
いた。
―義理ばかりでぇぇぇ
―肝心の本命からぁぁぁぁ
―貰い損ねない様にぃぃぃぃぃぃぃぃぃ
「やかましぃ―――――っ!!」
「…あ、あの?」
突然の室井の叫び声に、課内に残っていた何人かが怯えた表情を向ける。
「あ、いや、何でもない」
その場を誤魔化すように咳払いを一つつく。
このままではどうしようもないので、気分転換に顔でも洗おうとトイレに向かったときだった。
丁度トイレの前の廊下によく知っている影が二つ。
「新城?…それに青島?」
思わず廊下の角に隠れて様子を覗う。
2人との距離が離れている為、会話の内容までは判らないが、かなり親しそうに話している。
と、青島が新城に何かを渡しているのが見えた。
「…?」
青島が新城に手渡したもの。それは赤いリボンのかかった小箱だった。
遠目にも判るほど不器用なラッピングにロゴの入っていない包装紙。あきらかに手作りのチョコ
レート。
新城はチョコを受け取った後、しばらく不振そうな顔で青島を見ていたが、話が進むにつれその表情
は驚きに変わり、やがて感激したような笑顔で青島の手を取った。
「……!!」
青島が新城にチョコレートを渡し、新城がそれを受け取った。あの新城が!!
再び新城の台詞が蘇る。
―私は本命以外からは受け取らないようにしてるんですぅぅぅぅぅぅ(注:エコーつき)
本命以外からは受け取らないといった新城が青島からチョコを受け取った。つまり新城の本命とは
青島という事で、青島もチョコ(しかも手作り)を新城に…。
「……」
もうこれ以上ここにいることは出来なかった。悲しみをこらえて二人に背を向ける。
背中に哀愁を漂わせ、BGMに「昭和枯れすすき」を流しながら立ち去る室井。
セント・バレンタインデー。
その日、警視庁内で一番迷惑を被ったのは室井の部下だったということは言うまでもない。
さて、その夜のこと。
暗い夜道をとぼとぼと(ただし、背筋は伸ばして)歩く。
結局あの後仕事もろくに手につかず、陰鬱と1日を過ごしたのだった。
―青島が、新城に…。
トイレの前での光景が頭から離れない。
だが、それは仕方がないことなのかもしれない。何故なら自分は青島に愛想をつかされるだけのこと
をしたのだから。
あれは数日前のこと。
珍しく非番が重なった日。たまには一緒に飲もうと2人で出かけたのは良かったが、数日後に控えた
バレンタインデーをめぐって大喧嘩になった。
今となっては、何故あそこまで大喧嘩に発展したのかよく覚えていないが、酒の勢いも手伝って言わ
なくてもいい事まで言ってしまった。
―ガキのお前に言われたくない!
―偉そうなこと言うな!
―だったら他の奴とでも付合えば良いだろう!!
…最悪だった。ほんの一寸のことにむきになって。全くどちらがガキなのか判らない。
別れた後で、さんざん悔やんだがあとのまつり。謝るきっかけも掴めないまま、結局今日まで過ごし
てしまったのである。
今日もう何度目になるか判らない溜息をつく。
官舎について、自室の鍵を開けようとしたその時だった。
「おかえりなさい」
「青島!?」
突然掛けられた声に驚いて振り向くと、いつものコートを着た青島が立っている。
「な、なんで!?お前がここに?」
「室井さんが帰ってくるの、ずーっと待ってたんですよ。もうすっごく寒かったんですからね!」
「す、済まない…」
「…部屋に入ってもいいですか?」
小首をかしげて室井を見る。勿論室井に異論があろうはずがなかった。
部屋に入って取り敢えずコーヒーを入れ、2人でリビングのソファーに向かい合って座る。
御互い何も喋らずコーヒーを飲む。気まずい沈黙が部屋を包む。
そんな沈黙を破ったのは青島の方だった。
「室井さん、この前は済みませんでした。俺、ガキみたいにむきになって突っかかったりして、本当
自分でも情けなくって…。室井さんに愛想つかされてもしかたないですよね」
そう言って深く項垂れてしまう。
「待ってくれ!この前のことは俺も悪かったんだ。些細なことにあんなに意地になって。俺のほうこそ、
お前に愛想をつかされても仕方のないことをしたんだ」
「室井さん…」
「許してくれ。俺が悪かったんだ」
「…ホントにそう思ってます?」
「ああ!本当にそう思ってる!!」
「じゃあ…これ貰ってくれますか?」
そう言って青島が取り出したものは、青い包装紙と水色のリボンのかかった小箱。
「こ、これは…?」
「…バレンタインのチョコレートです。渡すかどうか、今日1日ずっと悩んでたんです。…室井さんの
迷惑になったらどうしようかって」
「迷惑なんかじゃない!…有難う。喜んでも戴こう!」
差し出されたチョコレートを受け取ってもらい、青島の顔もほころぶ。
「よかった!…要らないって言われたらどうしようかって思ってたんです」
青島の笑顔を見ているだけで、室井も幸せな気分になってくる。が、ふと、今日の出来事を思い出し
てしまった。
「…だが、本当に俺が貰っても良いのか?お前は…その…新城と…」
「はい〜?」
「…今日見たんだ。お前が、新城にチョコレートを渡しているところを…」
「……ああ!あれ!!」
最初、室井の台詞に怪訝な表情をしていたが、やがて何かに思い当たった様で笑いながら
応える。
「な、何がおかしいんだ?」
「だってあれは、夏美ちゃんからの預かり物ですから」
「…夏美ちゃんって、交通課の篠原夏美君のことか?」
「はい!」
配属そうそう殺人犯とチキンレースを繰り広げ『女青島』の異名を持つ彼女のことは、本店でも知ら
ないものはいない。
「ホントはね、自分で渡したかったらしいんですけど、一斉取締りがあってどうしても仕事抜けられない
からって俺に頼んだんです」
「じゃあ、新城の気になるコというのは…」
「もう、可笑しかったですよ。夏美ちゃんからのチョコレートだって言ったら、感激しちゃって俺の手握り
締めちゃうんですよ!あの新城さんが!」
青島の言葉を聞きながら、室井は全身の力が抜けて行くのを感じていた。
「室井さん?」
顔を上げると青島が、首を傾げ不思議そうに室井を見ている。
結局、あれは自分の勘違いだったのだ。あんまり馬鹿馬鹿しくて笑いがこみ上げてくる。
「なんでもない。…ところで、これ開けてもいいか?」
「あ、はい。初めて作ったんで味の方がちょっと心配なんですけど…」
「お前が作ったものなら、何でも美味しいぞ」
ラッピングを解き箱を開けると、少々歪なチョコレートが現れた。昨夜青島がどんな顔でこれを作って
いたのか考えると、自然と笑みがこぼれてくる。
「ね、一つ食べてみてください」
「ああ」
子供みたいに期待に目を輝かせる青島を見ながらチョコレートを一つ食べる。
細かく刻んだアーモンドをまぶした、ちょっと歪なトリュフチョコ。
「……………あ、あおしま?」
「はい、なんでしょう?」
にこにこにこにこにこ。
「こ、このチョコレートなんだが…」
にこにこにこにこにこにこにこ。
凶悪なまでに笑顔全開の青島。室井の顔に汗が一筋浮ぶ。
「…室井さん、この前『チョコレートなんてあんな甘ったるいもん食えるか!!』とか言ってました
でしょ?」
言った。確かに言った。
「あと、『バレンタインなんてあんな物贈る奴の気がしれん!』とも言ってましたよね?」
言った。言いましたとも!…しかし。
「だから俺、甘いものが苦手な室井さんにも食べれる様に一生懸命作ったんです。…この唐辛子入り
のチョコレート♪」
「ぐはぁっ!!」
思わず仰け反る室井。
「あ。他にもねタバスコ入りと、ワサビ入りと、カラシ入りと…あ!塩辛入りっていうのも有りますから、
ぜ―んぶ食べてくださいね♪」
に―――――っこりと、天使のような悪魔の笑顔を浮べる青島。
この笑顔に室井が逆らえるはずが、ない。
地上最強の笑顔の青島と、次々と取り出される色とりどりの箱を見ながら、二度とこいつに逆らう
まい!と心密かに決意する、室井慎次(36)のバレンタインデーであった…。
終ろう…(汗)
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え〜、さとみ様の2345Getリク「小悪魔な青島君」だったんですが…。
こりゃ「小悪魔」というより、「悪戯小僧」という感じですね。
おまけに室井さんが情けない(爆)
室井さんファンの方々!済みませ〜ん;;
リクネタにバレンタインネタをプラスして
ほんのちょっとだけ新×夏入れてみました♪
さて、こんなもんで如何でしょう?(~_~;)