Cold Call Night


  

 訳も無く会いたくなるときって、あるじゃない?

 別に用があるわけじゃない。

 話したい事がわけでもない。

 ただ訳もなく会いたくなることが、偶にある。

 

 例えば。雪の散らつく寒い夜。

 疲れた身体を引き摺って、暗い玄関を通って冷たい部屋に入るとき。

 例えば。月の綺麗な静かな夜。

 点けっ放しのテレビをぼんやり見詰めながら、一人飯を食べるとき。

 何となく淋しくて。人恋しくなる夜。

 そんな時が偶にある。

 

 そんなときはどうするかって?

 そうだね・・・。

 お気に入りのCD聞きながら、好きな酒で気を紛らわすも良し。

 お人好しの後輩呼び出して、適当な女の子引っ掛けて騒ぐのも良いかもしんない。

 でも。

 でも、きっとその後やってくるものは、今感じている以上の淋しさのわけで・・・。

 結局、どんなに誤魔化したって、誤魔化しきれないんだよね。

 切ない夜。

 だって本当に会いたいのはあの人だけなんだから。

 

 頑固で、口下手で、愛想がなくて。

 気の利いた言葉なんか語ってくれない朴念仁。

 おまけに、同じ男。

 全く、なんで惚れちゃったんだろう?

 ホント、人の心なんて不可解そのもの。

 何で?如何して?

 答なんて解らない。

 解っているのは、あの人のことが好だって事だけだ。

 

 恋人よりも仕事が優先。

 デートの約束なんて、今まで何度すっぽかされたか数えるのも馬鹿馬鹿しい。

 同じ都内に住みながら、会えるのは数ヶ月に一度。

 声すら聞けないときもあったりして。

 近くにいるはずなのに、やってることは超遠距離恋愛そのもので。

 こういうのって、遠近両用恋愛って言うのかな?

 ・・・って、言わないか。メガネじゃないんだから。

 どっちにしても俺が女の子だったら、きっとこんなワーカーホリックな男なんてさっさと別れてるね。

 ・・・だけど。

 あの人が頑張っているのは、夢と理想の為だって知っているから。

 二人で交わした約束の為だって知っているから。

 だから・・・。

 

 会えなくて、淋しいのは本当の気持ち。

 いつだって、傍にいたいと思う気持ちも本物。

 だけど。

 あの人が頑張るのは自分の為だけでも俺の為だけでもなく、二人で交わした約束の為だから。

 だから、俺も頑張れる。

 辛い事だって理不尽な事だって、笑って乗り越えられる。

 あの人が一緒に頑張っているって知ってるから。

 同じ心の人がいるって解ってるから。

 

 でも、これって考えてみれば凄くない?

 自分と同じ夢と理想を持った人が、同じ仕事で頑張ってるなんて。

 そりゃ、二人の立場も階級も天と地ほども違うけど。

 それでも目指すものは同じ。

 歩く道も同じ。

 そんな人が傍にいる。

 一緒に同じ道を、手を繋いで歩ける人が傍にいる。

 その人と一緒に恋してる。

 大好きだっていう心だけじゃない、それ以上に大きな心が傍にある。

 これって、最高の贅沢だって思わない?

 そりゃ、社会的に認められる関係じゃないけど、そんなことなんて些細な事だって

思っちゃうほどこの恋に嵌ってる。

 これから先、何が起こるのか。何時まで一緒にいられるのかなんて解らないけど。

 あの人と一緒なら、そんな事だって乗り越えられそうな気がする。

 いや、きっと乗り越えられる。

 うん、必ずね。

 

 

 沈黙したままの電話を目の前に、あの人の事を考える。

 ・・・今ごろ何をしているのかな?

 まだ仕事、頑張っているんだろうか?

 声・・・聞きたいな。

 でも、仕事だったら邪魔しちゃうかな?

 それに、もし疲れて眠っていたら・・・。

 いろいろな思いが頭の中で踊ってる。

 

 いつも後先考えずに行動して、怒られてばかりの俺からは想像つかないこの姿。

 恋する乙女は臆病って、あれホントだね。

 ・・・って、俺は乙女じゃないけどさ。

 電話一つ掛けるのに、俺がこんなに悩んでるって知ったら、あの人はなんて思うかな?

 呆れるのかな、それとも馬鹿な奴だって笑うのかな?

 

 あの人の色々な顔が頭に浮ぶ。

 笑ってる顔。

 怒ってる顔。

 俺が無茶をして怪我をする度、呆れたような怒ったような。それでいてホンの少し

泣きだしそうな顔。

 俺に始めてスキダって言った時の、真っ直ぐな瞳と、その後すぐに浮んだ照れた顔。

 始めて抱かれた時に見た…顔。

 不器用で無愛想な顔の下に隠れていた色々なあの人。

 誰も知らない、俺だけ知ってるあの人の顔。

 ささやかな優越感。

 …会いたいな。

 声だけでも良いから…聴きたいな。

 

 相変わらず沈黙したままの電話の前で、大きく息を吸って気合を入れる。

 忙しかったら…眠っていたら悪いから、3回コールして出なかったら電話を切ろう。

 でも、3回だけ…は短いか。

 …やっぱり5回にしよう。

 

 なーんて事を考えながら受話器を取ったその瞬間。

 あれ?今変な音しなかった?

 ナンバーを押す時に聞える軽い音とも、非通話音の規則正しい音とも違うヘンな音。

 オマケに変な音がした後、受話器の向こうからは何の音も聞えなくなって…。

 おかしいな。

 不審に思って、受話器を耳に押し付ける。

 もしも故障してたら大変だ。

 そう思って、受話器の向こうの音を必死で拾っていた時だった。

『…もしもし?』

 …え?

 受話器の向こうから突然聞えてきたのは。

『青島か?』

 何で?如何して?

 俺、電話番号押してないのに。

 今一番聞きたいと思っていた人の声が、電話の向こうから聞えてくる。

 少し愕きをふくんだ笑い声。

 呼び出し音が一度も鳴らないうちにつながった電話に驚いてる室井さん。

 それ以上に驚いてる俺。

 だって、電話しようと思って受話器を取った瞬間にあんたの声が…って、もしかして…。

 …これって、二人同時に電話したってこと?

 つまり…。

『考えていたことは一緒だったってことか。俺のほうがほんの少し早かったけどな』

 何処か悪戯が成功した子供みたいに得意そうな室井さんの声。

 …なんだか悔しいぞ。

 早かったって言ったって、タッチの差じゃないですか!俺はそのずっとずっと前から

あんたの事考えって…って。

 あれ?俺何を今口走って…。

 受話器の向こうに流れる沈黙。

 …もしもーし。あ、あのね…だから、その…。

 なんて言って良いのか言葉が見つからない。

 熱くなってる頬は自分じゃ見えないけど、きっと真っ赤になってるはずで。

 受話器を押し付けてる耳も熱いから、きっと耳まで赤くなってるかも…。

 寒いはずの部屋で、一人で汗を掻いてる俺。

 受話器の向こうから聞えてきたのは、優しい笑い声とそれから…。

『これからそっちに行っても良いか?』

 

 もちろん俺に異存はない。

 だけどね。

 やっぱり駄目だよ。

『如何してだ?』

 怪訝そうな声。でもこれだけは譲れない。

 だって。

 ただ、じっと待ってるだけなんて出来そうにないもん。

 だから、俺のほうから会いに行く。

 良いでしょ?

 受話器の向こうから笑い声が聞える。しょうがない奴だと笑ってる。

 それから仕方がなさそうに、溜息混じりの声が聞こえた。

『待ってるから早く来い』

 …ってね。

 

 受話器を投げ捨て、コートも着ずに外に飛び出す。

 少しでも早く会いたくて。

 1秒でも長く傍にいたくて。

 雪の散らつく夜だったけど。

 なぜか心は暖かくて。

 良い年した大人の男が何やってるんだって笑われそうだけど。

 …現に後で室井さんに笑われたけど。

 でも、偶には良いよね?

 

 訳も無く会いたくなるときって、あるじゃない?

 別に用があるわけじゃない。

 話したい事がわけでもない。

 ただ訳もなく貴方に会いたくなった夜。

 そんな夜は、貴方に甘えても良い…よね?

 

 

 弾む息を整える暇も惜しんでチャイムを鳴らす。

 開いたドアの向こうに見えたあの人の顔。

 え〜っと…。その、こ、こんばんは。

 「…良いから早く中に入れ」

 そう言って笑った室井さんの笑顔は、とっても暖かった。

 

 

 聞こえない声で貴方を呼んだ夜。

 聞こえない声が貴方に届いた夜。

 

 それは。

 天気予報でこの冬で一番寒いと言っていた、

 一番暖かいある夜の出来事。

 


相変わらずのらぶらぶ甘甘のふたりでございます(笑)

ほんとに、いい年こいた大人が何やってんだ状態(大笑)

青島君は思いっきり『恋する乙女モード』だし(汗)

あ〜やれやれ。

それにしても、今日は本気で寒いです〜。

そとは大雪。

部屋の中は…吐く息が白い…(本気)。

トイレの水道・・・・・・完全凍結(大泣)。