このキモチを言わない

 

 久し振りに、あの人と車に乗る。

 でも僕が運転手で、あの人は後部座席、ナンだけどね。

 行く先だっていつも通りの警察庁。

 そりゃそうさ、仕事中だもの。

 けど、この帰りは、特別だった。

 

「ご婚約おめでとうございますっ」

「・・ああ」

「まさか、すみれさんと結婚するなんて。ま、様子からして初めっからバレバレでしたけどねー」

「青島っ」

「照れない、照れない」

 

 僕は照れた顔を隠し切れていない室井さんに向け微笑む、本当の心をずっと奥に固く隠し

仕舞い込んで、自分を徹底的に誤魔化して。

 

 誰にも言わない、室井さんが好きだなんて。

 言えるはずも無いよ、男が男を好きになったなんて。

 でも、ホントなんだ。

 友情とか尊敬とかと、勘違いしていないかって?

 じゃあ、姿を見てつい背中を見つめてしまったり、ときめいたり胸が高鳴るのは?

 辛そうな表情に胸が強く締めつけられそうになるのは?

 ソレをあの人でそうなっちゃったのだから、間違っていない、このキモチは。

 けれど、ソレが世間が認めない恋愛なのも、理解していた。

 あの人だって、僕の気持ちを理解してくれるなんて思ってもいない。

 だから、僕は言わずにいた、ずっと。

 

「けどあのすみれさんだからどんな家庭になるやら。あ、尻に引かれないで下さいよ、未来の

警視総監様が」

「・・・」

「あ、でも、室井さん、凄く古そうな人だから亭主関白になるかな? さだまさしの歌みたいに。

『飯は先に〜』とか」

「・・・」

「・・煩いっすか?」

「・・イヤ」

 上目遣いでそっとバックミラー越しに映るあの人を見たら、ほんのりと顔を赤くしていた。

 

 あの人とは友人のままで、同志としていようと決めて、ずっとそうしてきた。

 ある時、打ち明けられたあの人の想い、彼女への。

 室井さんの部屋で2人して飲んでいて、あの人が酔った勢いで話してくれた。

 でも、僕は知っていた。

 ずっと前から分かっていたんだ。

 あの人の視線も、彼女の視線も、時折絡んではふっと照れたように逸らしていたのを。

 寡黙なあの人も、強気な調子で喋る彼女も、瞳だけは、雄弁で、素直で。

 こっちが困ってしまうくらいに。

 だからあんまりにも予想通りの展開に、独りになってから思いきり笑ってやった、自分を。

 笑っているうちにぽろぽろ溢れ出したものにも気付かず。

 声が枯れるまで、それが枯れるまで、僕は独り立ち尽くしてそうしていた。

 翌日は僕の顔を見るなり周りに突っ込まれたけど、誤魔化しておいた。

 素直に「振られた」なんて言えないから。

 況して室井さんになんて、ね。

 頃合を見計らって僕はこっそりすみれさんを連れ出し室井さんの気持ちを伝えた。

 そしたらもう驚いたり泣いたりして、宥めるのが大変だった。

 そんな彼女の様子から、2人の恋は大丈夫だと確信した。

 僕が、何も、言わなければ。

 

 この日、僕の勧めであの人は仕事にかこつけて湾岸署に現れた。

 彼女にも無理言って課に居てもらっていた。

 そして、応接室にあの人に連れられ入っていった。

 程なく出てきた2人は、幸福な空気に包まれていた。

 途端、課内は祝福の拍手に包まれた。

 誰もがそうした。

 僕も、した。

 

「これから大変ですねー、上の人達から嫌味散々言わてれるでしょ? 只でさえあちらの方々が

勧めてきた見合いを散々蹴っての婚約だから」

「・・ああ」

「負けないで下さいね。すみれさんを絶対離さないで、ちゃんと幸せにして下さいよ」

「分かっている」

 

 そして、あんたも幸せでいて。

 胸の奥でそっと呟く、心からの祈りを込めて。

 

 車は無事、場所に着いて、あの人は僕に「又、飲もう。連絡する」と告げると何処か足取り軽く

中へと去っていった。あの人の澱み無いまっすぐな背中を見ていたら、又何かが込み上げてきて、

僕は慌てて出る前に車の中に逃げ込みエンジンをかけた。振り向く様子も無いまま、姿は消えた。

「あーっ、もうっ」

 頭を振っても自分に怒鳴っても、涙も哀しみも胸の痛みも振り払えなかった。車を動かして

警察庁から離れても、未練からあの人への想いからは離れられなかった。

 多分、ずっと。

 それでも。

 僕はこのキモチを、2人を傷付けるだけのこのキモチを絶対言わない、彼女にも、あの人にも。

 傷付くのは、僕独りで良いんだ…。

 

 目の前の視界が、揺らぐ、醜く。

 

 車を路肩に止め、座席で膝を抱え顔を埋め嗚咽し、ただ女々しく泣き続けるしかない僕は

心の中で繰り返し祈る。

 

 どうか、幸せでいて。

 僕は見守っているから。

 ずっと見ているから。

 

 好きでした、室井さん…。

 

END

本人様よりのコメント!

世間様に逆らってひたすらに片思いな話を。

つうか相手のことを思い引く愛というのを

書きたかったのですが青島君が乙女モード…。

 

地下室で大変お世話になっている

ゆうたろうさんよりの頂きもの!

…というより、管理人が半ば強奪してきたシロモノです。

いつもホントに済みませんm(__)m

人のことばかり考えて身を引いてしまう青島君が

切ないっすよ;;;

さて!無事に(??)表デビューを果たされた

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