A Happy New Century
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新年を数時間後に控えた大晦日の街。
新世紀という特別の年を迎える夜のせいか、いつもの年よりも街行く人の顔は活気に溢れ、その足取りも
浮き足立っているように見える。
「不思議なものだな…」
「は?今何かおっしゃいましたか?」
「…いや、なにも」
ゆっくりと流れていく窓の景色を眺めながら、無意識のうちに呟いた言葉を耳にした運転役の刑事がミラ
ー越しに問い掛けてくるのを軽く流しながら、再び窓の外に目をやる。
新年の夜を二人で過ごそうと言うのか、恋人同士らしい若い男女が肩を組んで歩いていく。
何かのパーティーの帰りなのか、着飾った数名の男女が賑やかな声を上げて歩いている。
大晦日だというのに仕事だったのか、背広姿のサラリーマンが家路を急ぎ、ふるさとで正月を迎える家族
連れが仲良く歩いていく…。
そのどれもが、どこか特別に見えて。
いつもの年と変わらない風景のはずなのに、新世紀というだけでどこか違って見える街。
不思議な風景。
今、自分を含め、この街にいる殆どの人間は100年に一度という世紀の変わり目を初めて経験する。
ほんの数時間後には、自分たちの生きる世界は21世紀という今までとは違う世紀に変わる。
ほんの数時間で。
20という数字が21に変わるだけで。
今までと違う世界に変わる。
いや、変わって欲しいと望んでいる。
暗いニュースが殆どを占めた世紀末。
混迷のまま走りつづけた時代。
増える犯罪。
今までの犯罪を越えた犯罪者たち。
不安の時代。
そんな時代を一刻も早く忘れ、新しい希望に満ちた時代を望んでいる。…だが。
望むだけでは何も変わらない。
数字が変わっても人の心がそのままならば、今日が昨日に変わり、明日が今日になるだけである。
何も、変わらない。
誰かが…いや、皆が変えようとしない限りは…。
――頑張りましょう。俺達の理想叶える為に…。
ふと、トレードマークのコートを靡かせ駆けて行く彼の姿が脳裏に浮ぶ。
規制に捕らわれず、柔軟に鮮やかに壁を乗り越え、周りを変えて行く彼。
彼なら、来るべき新世紀を々生きていくのだろうか?
――青島俊作。
頑なだった自分を変えてくれた人。誰よりも自分の近くにいる人間。
この世の誰よりも大事な、愛しい存在。
出会いは巷に正月気分が抜けきれない1月の初め。3年前のあの日。
たった3ヶ月間のことだった。
顔を合わせたことも、交わす会話も僅かだったはずなのに、自分の中に一生消えない輝きを焼き付けた。
彼に会ってから自分は変わった。
自分だけではない。彼に関わった全ての人も。
今、彼はなにをしているのだろう。青島の事だから、この寒空の下でも元気よく走りまわっているのだろう。
あの、グリーンのコートを翼のようにはためかせながら。
彼の笑顔を思い浮かべ、自然と自分の顔にも笑顔が浮ぶ。
彼ならば旧世紀も新世紀も関係なく時代を乗り越えながら生きて行く事が出来るのだろう。
「止めてくれ」
「えっ?」
急な申し出に、運転中にも関わらず、思わず振り向いてしまった若い刑事の顔が見えた。
「ここからは歩いて行くよ」
「歩いて…ですか?しかしここから警視庁まではまだ…」
「距離はあるが歩いて帰れない距離じゃない。それに今夜は急ぐ仕事はもうないし。たまにはゆっくり歩いて
みたいんだ」
「…しかし」
車を道路の端に止めたものの、いまだに如何して良いのか戸惑っている所轄の刑事に笑いかける。
「そうしたい気分なんだ」
「はぁ…」
「君も今日はもう上がりなんだろ?ここからは君の署も近いし、大晦日ぐらい…といってももうすぐ新年に
なるが、早く帰ったって構わないさ」
「そ、そうですか?」
困った様に頭を掻いているものの、やはり何処か嬉しそうな彼の様子に思わず笑いが毀れる。
新婚だといっていた若い刑事。もしかしたら頭の中では、愛しい妻の事でも考えているのかもしれない。
「良いから早く帰り給え。奥さんが待ってるんだろ?」
「えっ!!あの、その自分はですね…!」
一瞬の内に、顔を真っ赤に染めた若い刑事をミラー越しに見ながら車を降りる。
ドアを閉じ、歩き始めた自分と、動き始めた車の中で、嬉しそうに会釈する彼と目が合う。
笑顔で去って行く彼に訪れる新世紀が、素晴らしい世紀である事を望む。
くだらない壁のない、キャリアもノンキャリアもない誰もが信念を持って働けるそんな警察機構になるよう
に…。
ゆっくりと歩き始めた街に新世紀を告げるカウントダウンが何処からか聞えてくる。
時計を見れば、あと数分で20世紀が終わりを告げるころ。
歩きを止めて、同じように歩みを止めた見ず知らずの人たちと新年を迎えるカウントダウンを共に聞く。
来るべき21世紀。それは…。
「むろいさん?」
「……え?」
突然聞こえてきた声に振り向けば…。
「あ、やっぱり室井さんだ!でもどうしたんですかこんな所で?」
「き、君こそ…どうして」
年末年始は泊まり込みで仕事だといっていた青島。その彼がどうしてこんな所にいるのだろうか?
「俺は裏付捜査の応援に借り出されちゃって」
「…そうか」
「最初は嫌だったんですけどね。でも、そのおかげで室井さんに会えたから…良かったのかな?」
照れたように笑う青島に冷えた体も心も温かくなっていく。
彼はいつもそうやって、自分を助けてくれる。
「そうだな。おかげで俺もお前に会えた」
そう言って青島の体を抱き寄せる。
「むむむむ、むろいさん!?」
当然の事ながら、周囲は真夜中とは思えないほどの人集りである。
突然の室井の行動に戸惑う青島の肩を更に強く抱きしめながら、耳元にそっと囁く。
「新年明けましておめでとう」
「…え、あっ!!」
思わず体を離した青島の耳に飛び込んでくる街の喧騒。
カウントゼロの声と共に、聞える新世紀を祝う声。
「この瞬間に、君に会えて良かった」
「…俺もです」
喧騒の中にも関わらず、小さく呟いたお互いの声はしっかりと相手に届き…。
見ているものまで幸せにするような笑顔で微笑む青島をもう一度抱き寄せ、掠めるようなキスを交わす。
そっと、触れるか触れないかのキス。
青島が笑う。
室井も微笑む。
誰かが見ていようが見ていまいが構わないと思う。
この一瞬は一度だけ。
100年に一度の特別な瞬間なのだから。
「改めて、おめでとうございます!」
「ああ、おめでとう」
今年がどんな年になるかわからないけれど、新世紀がどんな世界になるのかなんて誰も知らないけれど。
「…A Happy New Century」
この笑顔が、永遠である事を…。
A Happy New Year!
ども!新年明けましておめでとうございます!!
正月早々、ラブラブほのぼのな二人でございます。
思わず砂糖はきそうになるほど甘いものを書いてしまいましたが、
正月くらいはいいっすよね?
さて!昨年は自分にとって、良いことも悪い事も
いろいろあった年でございましたが、
今年はどんな年になる事やら。
願わくば、皆様にとっても今年が素晴らしい年であります様に!!