Puppy Panics !
エピローグ 〜室井さんと青島君〜
「もしもーし、私の声が聞こえますかぁ?」
あー、なんだか凄く聞きなれた声が聞こえるよ。
「聞えてたら返事してくださーい。返事が無いようでしたら、死人扱いにしちゃいますよ〜」
死人扱い〜?なに言ってんだよ。
「もしもーし、………返事が無い。判りました。青島俊作さん本日付けで死亡…」
うわーうわーうわーっ!何書いてんだよお前はっ!
「何ってあなたの死亡届出書ですが?」
書くな、そんなもん!俺はまだ生きてるよっ!
「な〜んて、実は冗談ですよ」
お前の冗談は、笑えないって…。でも、今本当に何を書いていたんだ?
「これですか?これはあなたの運命の再請求用紙です」
運命の再請求って…じゃあ、俺、生き返ることが出来るんだな!
「はい!本日ようやく手続きが全て終りました」
ホントか!?やった―――っ!これで、やっともとの身体に戻れるんだな!
「喜んで頂けて私も嬉しいですよ。…でも、あなたの『運命干渉力』は最強ですね」
なんだよ、急に。
「まさか閻魔様の決めた運命を本当に変えてしまうなんて思いませんでした」
一人じゃなかったからな。あんたも協力してくれたし。
「おかげで、上から三ヶ月の減俸食らっちゃいましたけどね」
そりゃ悪かったね。でも。
本当に色々ありがとう。心から感謝してるよ。
「いえいえ、これもサービスの一つですから。それに弾丸を止めたのは私の力じゃありませんよ」
どういうこと?
「弾丸を止めたのは、あなたの力です」
え?でも、俺…。
「室井さんを助けたいっていうあなたの強い思いが、弾の『運命』に『干渉』したんですよ。私はその
お手伝いを、ほんのちょっとしただけ」
俺の想い…?
室井さんへの…俺の…。
「その気持ち、大切にしてくださいね…。あ、そうだ運命の再請求なんですけどね、何処からやり直すか、
自分で決めれるそうです。」
え?それホント?
「ええ、あなたのお好きな所で。…如何します?」
……。
もし何処でも良い、て言うなら、俺は今この瞬間がいいな。
「それで良いんですか?自分の人生好きな時からやりなおせるんですよ?」
でも、その場合は遡った時から今までの記憶が消えるって事だろ?俺はそんなのは嫌だ。自分が経験
してきた事は少しでも覚えておきたいんだ。それがどんな記憶でも…ね。
「判りました。ではそのように致しましょう」
そう言いながら、死神は笑って書類に何かを書きこんでいく。
あ、そうだ!あの子犬はどうなったんだ?
「あの子なら大丈夫です。処置が早かったので命は取りとめました。身体もほぼ完全に元に戻ってますよ。」
良かった。ずっと気になってたんだ。
生まれて間もない小さな命。
あいつの未来は、これから始るんだもんな。
「それじゃ、そろそろ行きましょうか」
うん。これで、あんたともお別れだね。
「そうですね。でも、きっとまた会えますよ」
え!また会うの?
「…なんですか、その嫌そうな顔は…。あ〜傷付いちゃうな〜」
あああ、悪かったって。でも、本当にまた会えるのか?
「会えますよ。たぶん今度はもっと先、60年か70年後ぐらいでしょうけどね」
あれ?俺ってそんなに長生きするの?
「さぁ?あなたの場合は良く判りませんね。なんていっても、運命を変えてしまう人なんですから」
そうでした。
「じゃあ、今度こそ…」
ああ…。
「私、あなたに会えて良かったですよ」
俺もだよ。
「ああ、そうだ!もしかしたら余計なお世話かもしれませんが、私からあなたへプレゼントを一つさせて
いただきました」
プレゼント?
「はい。目が覚めた時、あなたが一人で寂しく無い様に…」
なんだよそれ?
「それじゃ、お元気で!」
あ!こらっ!プレゼントってなんだよ!
「では!しー・ゆー・あげぃ〜〜ん」
お―――いっ!
死神の姿が消える。
相変わらず唐突な奴。
…また会えるよな。今度は俺が爺になった時に。
必ず迎えにこいよな。
約束だぞ!
白一色だった世界が真っ黒に変わる。
黒い闇の中で俺は夢を見てた。
目覚めた時、この夢の事は忘れてしまったけど、とても不思議な夢だった。
不思議で、楽しい夢だった。
そして俺は。
瞳を。
開ける。
新しい人生を始める為に。
…あれ?ここは何処だろう?
白い天井に、消毒の匂い?
ああ、そうか。ここは俺が入院してる病院なんだ。
色々な管がついている右手をゆっくりと上げてみる。
五本の指。人間の手だ。俺…生き返ったんだ!
戻ったばかりで、どこかぎこちない手をゆっくりと動かして見る。と、その手が別の誰かの手に握られた。
「青島!気が付いたのか!?」
「…むろ…い…さん?」
両手でしっかりと俺の手を握り締めていたのは、室井さんだった。
「室井さん…如何してここに?」
「それは…俺にも良くわからない。ただ、あの時抱いていたはずのしゅんさくが消えて…お前の姿が見え
て…。それから声が聞こえたんだ。お前が帰ってくるって…それで」
あやふやな答えとは裏腹に、室井さんの手はしっかりと俺の手を握って離さない。
室井さんが聞いた声。…それってもしかして?
『目が覚めた時、あなたが一人で寂しく無い様に…』
死神の奴、ヘンな気を回してくれてさ。
…ホント最後まで変なやつ。
「…青島」
「はい?」
「もう…何処にも行くな」
…え?
「一人で何処にも行くな…」
「如何したんです…?」
室井さんってば、急にどうしたんだろう?
「俺は…本当はとても弱い人間なんだ。今まではずっと我慢してきたが、本当は誰かの支えが無ければ
一歩も前に進む事が出来ない…」
「……」
「もう、限界なんだ。…一人で生きていくのが辛いんだ。一度お前を手酷く傷付けた俺が、今更何を言っ
ているんだと怒ってくれても構わない。殴りたければ殴ってくれて構わない。…それでも、俺はお前に傍に
いて欲しいんだ。…お前が必要なんだ。」
「…室井さん」
まるで懺悔をする様に、ベッドに俺の手を肘をついて俺の手を握り締めている室井さん。
ホント勝手だよね。散々酷いこと言ったくせにさ。
俺が元気だったら、一発殴ってるところだよ。
でも殴った後で、あなたに言う言葉は結局同じ。
俺が室井さんに言う言葉はどっちにしても、たった一つしかないんだからね。
「…愛してるよ、室井さん」
俺もあんたと同じ。誰かが傍に付いててくれないと、一歩も前に進めない。俺にもあんたが必要なんだよ。
「…青島」
「俺は、あんたじゃなきゃ駄目なんだ。あんた以外の誰も要らない。…でも、あんたは俺で良いの?こん
な、弱くて卑怯な人間でもいいの?」
「俺も同じだ。青島以外の誰も要らない。お前でなければ俺は前に進めない」
「…なんだか責任重大だね。俺」
「そうだな。…愛してる。この世の誰よりも、どんな人間よりもお前だけを愛してる」
「俺もだよ…」
両手を握り締めていた手が外され、代わりに俺の頬を包みこむ。暖かいね。その温もりをもっと知りた
くて、室井さんの手に俺の手を添えた。
「お前の手は暖かいな」
そう言って笑った室井さんの顔は、今まで見たどんな笑顔より素敵だった。
室井さんが瞳を閉じる。俺も瞳を閉じる。
両頬に室井さんの熱を感じながら、唇に降りてきた別の熱を受けとめた。
角度を変えて、浅く深く何度も受けとめる。
アイシテル。その唇がそう言ってるみたいで。
アイシテル。俺の唇で受けとめる。
「くぅ〜〜〜〜ん」
彼の足元で、子犬の声が聞こえてる。
ごめんな。もう少しだけ待っててよ。
もう少しだけ…。
あと少し…。
熱は冷める事無く続いてる。
いつまでもずっと…。
二人の魂が消えるまで。
Fin・
ここまでお付き合いくださいました皆々様
ありがとうございました♪
一度本にした話の再録でしたが、おまけに付けていた
その後の二人+一匹の話は載せませんでした。
あれは、購入してくださった方々の「おまけ」と言うことで。
すみません(^_^;)
HP用のおまけは、そのうち気が向いたら書くかも。
ネタは有るんですよ。ネタはね…。