ぷれぜんと
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1999年末にあれほど騒がれたY2Kも特に大きな問題もなく、なんとか無事に明けた西暦2000年。
浮かれる世間とは正反対の弛れた空気に包まれているここ、警視庁湾岸警察署。
上からの号令により、年末年始を不眠不休で働いていた署員達の疲労はピークに達しており、予想された
混乱もまったくなかったことも加わって、彼等の士気はもはやどん底。動物園のナマケモノ並に役立たずという
状態である。いや、動物園の営業に一役買っている彼等のほうがまだましかもしれない。
そんな中にあって、たった一人真剣な顔でデスクに向かっている人物が一人。言わずと知れた彼、青島俊作
巡査部長である。
もっともデスク向かっているといっても、別に仕事をしているわけでなく、ただ一心不乱に何かを考え続けてい
る。両手を組み眉間にしわを寄せたその姿は、まるで今ここに居ない誰かのようだった。
「おい、一体どうしたんだ青島の奴ぁ?」
「さぁ?さっきからずっとあの調子ですよ」
盗犯係の手伝いから帰ってきた和久が、休憩中の魚住に声をかけた。
「仕事のしすぎで、とうとうおかしくなっちゃったとか?」
「いやぁねぇ。真下君じゃあるまいし」
「すみれさぁぁぁん」
「こりゃ失敬」
退屈だったのか二人の話に加わってくる。
「でも一体どうしたのかしらね、青島君」
「何か悩み事でもあるんじゃねぇか?」
「悩み?!先輩に?」
「…真下く〜ん、青島君だって一応人間なんだから」
「一応って、魚住さんそれフォローになってない」
本人が聞いていないことをいいことに、好き放題に言う4人。
「やっぱり、働き過ぎじゃないんですか?」
「う〜ん、ここんとこ、忙しかったからねぇ」
「そうですよ!僕なんか30日からずっと家に帰ってないんですから!」
「おめぇはまだマシだ。課長なんかクリスマスからこっち家に帰ってねぇんだぞ」
「あれ?課長のお嬢さんもう受験生じゃないですよね?」
2年前に似たようななことがあったのを思い出す真下。
「課長以外の家族そろって海外旅行。しかも初日の出見にフィジー行きだって」
帰ったところで家は留守。仕方がないのでこの十日間署に泊まり込んでいるらしい。
「うわっ、かわいそー」
「そうなのよーっ…て、私達一体なんの話してたんだっけ?」
「……あれ?」
そろって腕を組み考え込む一同。徹夜明けで頭がボケているのは、どうやら皆同じだったらしい。と、そこへ
考えるのに飽きたのか青島がコーヒーを淹れにやってきた。
「…なにやってんの?」
「あーっ!そうだ先輩のことですよ!!」
「そうそう!青島君のことよ!」
「な、何?!一体なんなの?」
二人に詰め寄られ、訳も解からずにうろたえる。
「おめぇがな、柄にもなく悩んでやがるからだよ」
「…へ?」
和久の言葉に理解不能と言った感じでで首を傾げる青島。
「青島君、僕達で良かったら相談に乗るよ。何でも話してよね」
魚住にまで詰め寄られ、ますます訳が解からなくなる。
「ちょ、ちょっと待ってよ。俺別に何も……あ、もしかしてさっきのこと?」
どうやら先程まで考え事をしていたことをいっているらしい。しかしあれは…。
「あれは、だから、そんな大した事じゃないんだから。だからね…」
「そんな事ないでしょ!さっきまであんなに真剣な顔してたくせに」
「すみれさんの言うとおりです!それとも僕達じゃ頼りにならないとでも言うんですか?!」
すみれはともかく真下のいつにない迫力に思わず逃げ腰になる。
「皆、青島君の事が心配なんだよ。あんまり大した力になれないかもしれないけど話を聞くぐらいなら出来る
から。ね?」
優しく諭すような魚住の言葉に心が揺れる。確かにさっきまで悩んでいた事には間違いはないのだ。
「えっと…。その、本当に相談に乗ってくれる?」
手にしているカップを弄びながら、上目遣いに一同を見る。
「もちろん!先輩の為なら!」
「じゃあね。…あのね、……の事なんだけど…」
「はい?」
俯き加減で、しかも小さな声で話す青島の言葉は非常に聞き取りにくい。
「だから、プ・レ・ゼ・ン・ト!!」
「ぷれぜんとぉ?!」
一瞬何を言っているのかわからない一同。
「…だから、明日の1月3日は室井さんの誕生日なんだけど、一体何をプレゼントしたらいいか…」
「あ、私、報告書まだだったんだ」
「僕も、今日中に提出する書類が…」
話の途中でくるりと背を向けるすみれと真下。
「ちょ、ちょっとまってよ!相談に乗ってくれるって言ったじゃない!…ああっ!魚住さんまでっ!」
半泣きになりながらすみれにしがみ付く青島。
「だって、一体何を悩んでいるかと思ったら、そんなくだらない事で…」
「くだらないって事はないでしょ?!大体相談しろって言ったのはそっちじゃない!」
「そりゃ、そうは言ったけど……うっ」
反論しかけたすみれだが、捨てられた大型犬みたいに目を潤ませる青島になにも言えなくなってしまった。
なんだか動物虐待か幼児虐待をしている気分にすらなってくる。
「ああ!もうわかったわよ!おねーさんが話聞いてあげるっ!!」
とたんに全快の笑顔を浮かべる青島。それを見て溜息をつくが、もともとこの笑顔に敵うわけはないのだ。
なんとなく悔しくて、いつものとおり今度奢らせる約束を取り付けてやる。
「で、室井さんへのプレゼントがどうしたって?」
「だから、一体どんなものをプレゼントしたらいいかわかんなくて。すみれさんはどう思う?」
「そうねぇ…」
ありきたりの物で言えばネクタイか万年筆など。後はハンカチとかそう言った定番商品だが。
「な〜んか、どれもピンと来ないわよねぇ」
「やっぱり相手が今一番欲しいものじゃないですか?」
「いや、心がこもっていればなんでも良いんだよ」
「それが一番難しいんじゃねぇか」
真下、魚住、和久の三人もいつのまにか話しに加わっている。なんだかんだといいつつ、結局皆退屈らしい。
「でも好きな人から貰うプレゼントって、たとえどんなものでも嬉しいもんですよねぇ。僕もアンジェラからはじめて
プレゼント貰った時はもう、嬉しくて嬉しくて夜も眠れませんでした」
当時の思い出に浸る魚住はほっといて話を続ける。
「すみれさんだったらどうだい?」
「う〜ん、やっぱり本当に好きな人から貰うものだったらどんなものでも嬉しいわ。後、銀座の一流料亭のコース
料理なんか奢ってくれたら文句なし!って感じよね」
「……すみれさん」
「なに?真下君」
「なんでもありませ〜〜ん」
「…だめだこりゃ」
気を取り直して、今度は青島に聞いてみる。
「室井さんになにが欲しいか聞いてみた事はねえのか?」
「それとなく聞いてみた事はあるけど、別になんにもないって…」
「そうか。困ったなぁ」
どうも良い案が出てこない。
「ねぇねぇ。青島君は誕生日なに貰ったの?」
「え、俺?俺は別になにも…」
「またまたぁ。絶対何か貰ったでしょう?」
今年室井から貰ったプレゼント。今まで沢山の人から貰ったどんなプレゼントより大切なもの。それは、シンプ
ルな銀の指輪だった。
さすがに指にはめる訳にはいかないが、今でも片時も離さず身につけている。でもこれは二人の秘密の…。
「確か、指輪でしたよね。今年のプレゼント」
「…は?」
なんで真下がそんな事知ってるんだ?誰にも話した事ないのに。
「そうなの?」
「ええ、公安部のHPに載ってましたから」
「ああ、あれか。だったら間違いねぇな」
和久さんまで。間違いないってどういうことだ?HPって一体何?!
固まってしまった青島を無視して3人はHPの事で盛り上がっていた。
「なんせ、本庁の公安部とプロファイリングチームが合同で開設したHPですからね。
他の先輩のファンサイトとは情報量が違います!」
「うん。本人に聞くよりHP見たほうが速いくらいだもんね」
「開設してから1年でカウンター5万件超えたって話じゃないか」
「凄いわよねー」
「凄いですよ〜。あれ?先輩どうしたんですか?」
青島は固まったまま気絶していた。
「皆さん、そろって何やってるんですか?」
「雪乃さん!」
「お帰り〜。ごくろうさま」
交通課の手伝いで借り出されていた雪乃が、話し込んでいた一同に声をかけてくる。
「丁度良かった。今ね室井さんの誕生日プレゼントの事で話してたの。雪乃さん何かいいアイディアない?」
「それはやっぱり、室井さんが一番好きなものでしょうね」
すみれの質問に対して即答する雪乃。しかし好きなものといっても一体何を送れば良いのか。
「やっぱ、日本酒とか?」
「きりたんぽ鍋のセットは?」
いろいろ案は出るがどうもまとまらない。で、もう一度雪乃に聞いてみると彼女は迷わずこう言った。
「室井さんが一番好きなものっていったら決まってます」
そしてニコニコと笑顔を浮かべ、今だ気絶したままの青島のほうを見る。
その瞬間、プレゼントは決定した。
翌朝、なんとか有給をもぎ取った室井のもとに赤いリボンの掛かった大きな荷物が一つ届けられた。
送り主は湾岸署刑事課一同。荷物に添えられたバースディカードには「誕生日おめでとう!」の定番の言葉
と、「煮ても焼いてもお好きにどうぞ」の一言が添えられていた。
室井がそのプレゼントを「お好きに」したかどうかは不明だが、後日丁寧な御礼状が湾岸署に届けられたと
いう事である。
ちなみに1月3日と4日湾岸署において青島の姿を見たものは。
誰も、いない―。
えんど!!
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室井さん誕生日記念といいながら、
室井さんほとんど出番なし(爆)
どこが誕生日記念なんでしょう?
それにしても
私が書く雪乃さんは無敵だな(大笑)