月のピアノが呼ぶ
波のかたちがこたえる
いつかまたきっとひとつになる
「室井さんって、地球みたいですよね」
ある時俺がそう言うと、
「だったらお前は月みたいだな」
彼は笑ってそう言った。
心地よいけだるさのなかで目を覚ます。体に残る痛みもだるさも今はそのすべてを幸せだと感じる。
切ないほど望んで、狂おしいほどに求め合って、ようやく手に入れた―愛しい人。
最初は憧れ。憧れは尊敬へと変わり、やがてそれは―思慕へ。
互いの思いをぶつけ合って、傷付け合って、お互いの真実に気がついた時、自分達はやっと、一つになれ
た。幸せだと感じる。……でも。
でも、この涙はなんだろう…。
月の光が横で眠る彼の顔を照らしている。ベッドの横の窓から差しこむ月光に照らされたその顔は、青白
く、まるでこの世に存在していない者のようだ。自分を抱きしめている腕の温かさがかろうじて、彼がここにい
るということを証明してくれている。
穏やかな顔で眠る彼。昼間いつも刻まれた、すでにトレードマークとなっている眉間の皺は今はない。誰も
知らない彼の顔。自分にだけこんな顔を見せてくれるのだと、小さな優越感が浮ぶ。
やわらかな月の光の中で、何時までもこうしていたいと願う。でもそれは自分の身勝手な願いでしかない―。
「どうして俺が月なんですか?」
「月はいつも地球の傍にいて、その闇を照らしてくれるからな」
自分の心の中の闇を照らし出し、行き先を見失っていた自分に道を示してくれたからだと。
夜の闇の中で道に迷った旅人を助けてくれる、そんな月のようだと彼は言った。
「地球には月が必要なんだ」
そう言ってくれた。
―でも。
月は確かにその光で闇を照らし出す。でも同時にその光で地球を狂わす。
地球の心の波を大きく揺らし、時としてそこに住まう者達をも傷つけてしまう。
夜の闇を照らすなら、星の光があればいい。月がどんなに頑張っても昼間の太陽にはかなわない。
優しい地球を狂わせるぐらいなら、いっそ月など居ない方がいい…。
「…どうした、何を泣いているんだ?」
気がつくと、いつのまにか目を覚ましていた室井さんが優しく髪をなででくれていた。
「…なんでもないです」
「…ならいいけどな」
そう言って強く抱きしめてくれる。
「……室井さんの心臓の音がする」
「そうか」
規則正しい心音を聞きながら、昔聞いた潮騒の音を思い出していた。
生物のすべては海から生まれた。ならばその身体の中に流れる血液は海の名残なのかもしれない。
だから、血は、潮の味がするのだろう。
室井さんは何も言わず、何も聞かず、ただ、優しく俺を抱きしめてくれた。
優しい地球。そんな地球を狂わせる、自分。
何時かは離れなければならない。でも、せめて今だけは傍にいさせてほしい。
地球の引力にとらわれた月のように…。
To be continued on the earth side
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遊佐未森さんの同名曲から。
切ない系を目指して見たのですが、如何でしょう。
彼女の透明感のある独特の雰囲気を
なんとか表現したかったんですけど…。
う〜ん。やっぱりむずかしいわ;;;