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| <hikkiの森>宇多田ヒカルの世界 * Parody セカンドアルバム『Distance』の「Parody」は、2000年の「BOHEMIAN SUMMER 2000」の全国ツアー中に、大阪でレコーディングされたものである。歌詞カードのクレジットを見ると、「recorded at Studio Groove ,Osaka」とあり、ツアーのバンドのメンバーの名前が、ずらりと並んでいる。去年の大晦日に放送されたFMラジオ番組(注1)の中でも、大阪での「Parody」のレコーディングの際、差し入れのたこやきを3日間食べ続けたエピソードを披露していて、宇多田ヒカルにとって、印象深いレコーディングだったにちがいない。 全国ツアーのこの時期は、彼女の体調不良のため8月1日の徳島での公演がキャンセル(後日に振り替え)になるというアクシデントがあったばかりだった。極度の緊張とプレッシャーの、ぎりぎりの精神状態から立ち直って、この曲のレコーディングの時には、その緊張感が、見事に作品へのエネルギーへと姿を変え、完璧と言っていいほど完成度の高いものに仕上がっている。 レコーディングは、あとでいくらか音の調整はしているようだが、ほぼ、生演奏による一回録りである。何重にも機材を使って音を重ねる曲作りの多い宇多田ヒカルの作品には、めずらしい形である。 雑誌のインタビュー(注2)で、生楽器をバックに歌う時のバンドの演奏に導かれる歌のグルーブ感について、彼女はこう語っていた。 「意志があるのがすごくうれしい」「もちろん普通の場合だってアレンジャーの人の意志も私の意志もプロデューサーの意志も入っているんだけど、バンドの一人一人がこだわってやったという意志みたいなものは『Parody』ですごい強く感じられる。歌っている私もそういうサポートがあるみたいな、すごい楽しいグルーブ感がある」「別に最初から生にするつもりはなくて、ちょうどツアー中で気心知れてるバンドがいたから。これで知らないミュージシャンを集めてやっても違うだろうし、こんなにうまくいくことはないかもしれない」 「Parody」が歌われた唯一のライブ「MTVアンプラグド」(注3)では、レゲエ、スカ調にビートを変えたアレンジの歌に仕立てていた。その現場での最もぴったりくる作品の形というものを、こだわりなく求めていく姿勢がうかがわれて、これも興味深い。 「Parody」については、別の雑誌のインタビュー(注4)でこうも言っていた。 「Parory、すごく気に入っているの!ライブ感もあるし、歌詞もすごい素直に書けた。」 歌詞について「素直に書けた」というところは、見方を変えれば、「思ったことをそのまま出せた」ということになるだろうか。もともと歌詞を書く時は、ストーリーを考えて、それになぞって展開を考えていくという。そういう時に、わかりやすさを意識して、誰にでもわかるラブソングにしようとするところがあり、ファーストアルバムの頃は、ラブソングの形のものが多かった。それに比べると、セカンドアルバムでは、ラブソングは少なくなっている。 そのあたりは、この雑誌のインタビューの別のところで、こう語っている。 「今回はもう少し素直に、ムリに恋の話にしないで、いつも普通に考えてるようなことを人間としての話にしてて。」「最近は少し自信が出てきて、“<七階まで急いで(「Parody」)>とかって何?”って思われてもまぁいいやって。わかってくれる人はわかってくれるって。」 「Parody」の歌詞は、彼女が素直に書いた分、聴き手にとっては、もしかしたらわかりにくいものになっているかもしれない。しかし、それは承知のうえで、そういう書き方をしているのである。 よく見ると、その「素直になりたい」という思いこそがこの作品のテーマだったと思わせられる、そんな言葉がいくつか見つかる。 たとえば、「誰もいないから安心 「思いやり」からset me free」「自分の靴しか履けない それで歩けるんだからいい」というあたり。 「Parody」とは、下手な模倣という意味の言葉だが、他人には下手でにせものに見えたとしても、自分には大切な「life story」であり、まぎれもない「true story」、「real story」なのだ。それが「私」「あなた」など視点を入れ替えながら、自分にも言い聞かせるような内容になっているのが印象的だ。 中でも「true story」という言葉は、NHK総合テレビの特番「True Secret Story」(注5)というタイトルにも使われていたし、セカンドアルバムの発売の際、全国レコード店で繰り広げられたキャンペーン(注6)が「True Story」と名づけられていたことからしても、特別な思い入れがある言葉だったのではないかと想像される。 自分にとっての「真実」をそのまま大事にしたいという思いは、やがて、のちの作品「光」をつくりだす方向へと生かされていったのではないだろうか。 注1:2001年12月31日放送、「スーパー・グランド・カウントダウン2001」 (JFN37局フルネット) 注2:「R&R NewsMaker」2001年5月号 注3:DVD『UNPLUGGED』に収録 注4:「WHAT's IN?」2001年4月号 注5:2001年3月24日放送 注6:2001年3月28日〜4月1日に実施された □ 2002年04月04日 (矢島瞳) |
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