<hikkiの森>宇多田ヒカルの世界

* FINAL DISTANCE  - 2 -


 「FINAL DISTANCE」の歌詞は、セカンドアルバム収録の「For You」と関連が深いと、私は思っている。

 今の社会で、人が「個」として自分を保って生きることは、思っているよりずっと難しい。ただでさえストレスの多い毎日、他者とぶつかることはかなりのエネルギーを要する。価値観が定まらない時代の転換期ゆえ、他者との違いを、単純に「個性」と言って肯定的に考えられるほどの余裕もない。人との違いを認めることは、まずは、「ひとり」になる、ということなのだ。
 人と正面からぶつかる面倒を避けて、「よい子」を演じて済ませてしまうこともある。「ひとり」になるのが怖くて、いつも誰かと会話を交わして、つながっていなくてはいられない人も多い。その結果、「自分が何者であるか」が、分からなくなっていってしまう。

 宇多田ヒカルは、あえてそこに正面から挑んでいるのだ。
 なんという覚悟だろう。

 孤独を知ることで、自分を知る・・・。
 自分と他者の違いを認めながら、心を通わせ、一緒に生きていく・・・。

 それが困難なことは、世界中で、いまだに戦争や悲惨な事件が絶えないことから見てもよくわかる。しかし、そこから少しでもよりよい世界にしていきたい、と願うのは、人間としての自然な思いではないか?
 「FINAL DISTANCE」のCDケースには、「守りたいものすべてへ」という、彼女のメッセージが入っている。これは、彼女自身のテーマから導き出された、心からの願いにちがいない。



□ 2001年08月24日
(矢島瞳)